憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
アイリーンはすぐに病室へと運び込まれた。
症状はなんと寿命というのがわかり、クレイマン一同が騒然とし、理由は急激な生命力消費とのこと。
ヴィオレは薄々気づいていたが、ここまで早くに来るとは流石に思っていなかったようだ。
クレイマンはその生命力消費の原因は進化だと結論を出した。むしろそこ以外に無いというのもあるが。ミュウランとアダルマンがアイリーンをどう助けるのか思案するらしいが、現在あれから一週間経過していた。
「……」
ヴィオレはアイリーンの病室に入り、ベッドで寝ているアイリーンの近くに来た。
「おい、起きてるのわかってるからね」
「バレてましたか」
アイリーンはゆっくりと瞼を開き、ヴィオレに生気が感じられない瞳を向けた。
「すみませんね。もう頭くらいしか動かせる部位無いんですよ。だから貴方と戦うことはできないんです」
「……はっ、世話ないよね。こんなになるまで進化とかするとか、バカみたい、こんなんじゃボクがアイツを殺しに行っても止めることなんてできっこないね」
ヴィオレはいつもの軽口をアイリーンに語る。それをアイリーンは静かに微笑を浮かべていた。
「……ヴィオレ。一つ、頼みを聞いてくれないかしら」
「なに?ここに来て死にたくないとか、クレイマンを殺さないでとか言っちゃう?残念ボクは悪魔、そんな話は――」
「クレイマン様を、支えてやってほしい」
その言葉を聞くと、ヴィオレから表情が消え、青筋が浮き上がる。
「――ふざけるな。ふざけるなよ!」
ヴィオレはアイリーンの入院着を掴み、顔が紙一重の距離で怒鳴った。
「
ヴィオレの言葉に力がなくなり、顔から胸へと頭が下がっていく。
「そんな弱音を君から聞きたくなかったよ……」
そう言い残し、ヴィオレは静かに病室から出ていった。そしてすれ違うようにヴェイロンが姿を見せた。
「お加減は、まぁ悪いでしょうね」
「ヴェイロンさんか。何でしょう、この死体直前のワタクシに何かご用でも?」
「……一つ、感謝を伝えたくきました」
ヴェイロンは頭を下げ、その様子にアイリーンは驚く。その様子は上辺だけのものではない本心からのものだということをアイリーンは感じ取った。
「ワタクシ、ヴェイロンさんには何もしてないとは思うんですが」
「いえ、ヴィオレ様のことです。正直言ってヴィオレ様は同じ原初以外に、それも悪魔でもない貴方にあそこまでご執心になるのは初めてのことなんです。飽き性で気分で人を殺すあの悪魔の中の悪魔のヴィオレ様がです。
本当に変わりましたよ。本質的には変わってはおりませんが、アイリーン様の言葉には従い、対等のような会話をするその姿には……ヴィオレ様に言ったら殺されるとは思いますが、
「……そう、かもね。ワタクシも最初はヴィオレのことはただの残虐な悪魔だと思ってましたよ。最悪刺し違える覚悟でヴィオレと行動することが多かったですね。ですがいつの間にか」
アイリーンは思いに耽るような瞼を閉じ、言葉を続ける。
「食事にうるさい、猫かぶり、気まぐれ、サディスト、いろんなヴィオレを知って、いつの間にか……悪くない気持ちになっていたよ」
「左様ですか。本当にお二人とも、思い合っていますね」
「へぇ、ヴィオレも何か言っていたんですね」
「はい、よくアイリーン様のことをお話してくれましたから、飽きのせずによく」
「そっかぁ。あぁ本当に変わった。だからこそ名残惜しい気持ちでいっぱいですよ」
アイリーンは瞼の裏の目を潤ませ、首を動かし、窓の向こうに目をやる。そこには何かが飛んでいるのが見えた。
「ワタクシもヴィオレも変われたんです。きっと、クレイマン様も変わってくれますよ」
「どうでしょうね。あの男がそう簡単に変わるとは」
「いいえ。変わります……数日前に少しクレイマン様とお話しました。その時のクレイマン様は何か、化けるなってちょっと思いましたので」
アイリーンはクレイマンとヴィオレを思いながら、再び意識が沈んでいく。
「――あぁ、クレイマン様。ワタクシの
○
ヴィオレは一人、クレイマンの元まで歩を進めていた。初めて自分からクレイマンのところにいこうとしている。
それは一つ、クレイマンしかできないアイリーンを助ける方法があったからだ。
「
ヴィオレはクレイマンのいる部屋の扉を開いた。そこには優雅に両手を腰に回したクレイマンが立っている。
「何でしょう、ヴィオレ」
クレイマンは顔をヴィオレに向けずに喋った。普段ならキれるところだが、ヴィオレは冷静に
「クレイマン。今ならアイリーンは助かる。君が真なる魔王となれば、その
ヴィオレは今まで見たことない必死な様子でクレイマンに進言する。それをクレイマンは変わらず窓の外を見て、ヴィオレのほうを向かないでいる。
「……ねぇ、ヴィオレ。私は本当にアイリーンに慕われるべき者なのでしょうか」
「は?何を言ってるんだ」
「答えてください」
ヴィオレは今のクレイマンが何か違うと思いつつ、自分の考えを伝える。
「正直言って駄目だよね。アイリーンに何一つ勝てていないし、アイリーンの忠誠に応えようとしてない。無能上司としか言いようがない」
「そうですか……ヴィオレ、私はクレイマンではないんですよ。クレイマンと似たような異世界から来た人間。私はクレイマンという皮を被ったただの弱い人間」
ヴィオレはクレイマンの弱音に流石にキレ、クレイマンに掴みかかろうとした、その瞬間。
「クレイマン様!」
窓から声が聞こえた。ヴィオレは驚き、足を止めた。クレイマンは窓を開けて、声の主。ピローネを部屋に入れる。
「ご報告いたします。東の平原にて東の帝国がジュラの大森林に侵攻しております」
「数は?」
「一万五千ほどかと」
「なるほど、ありがとうございました、ピローネ」
クレイマンは懐から仮面を取り出す。笑みを浮かべた仮面。
それを被ると、クレイマンは服を脱ぎ捨て背中から六本の義手を生やした。戦闘形態となったクレイマンはヴィオレのほうへと体を向ける。
「もし、私が死ぬようなことはあれば、この国を頼みたい。ヴィオレ」
再び聞く命乞い以外の頼み。今のクレイマンの言葉は今までのとは違うとヴィオレは感じる。善意を鎖にしていない、今までの信用からくる言葉だ。
「……君達おかしいよ。ボクに何を求めているって言うんだ。平気で残虐に、狂気的に殺すボクを何か勘違いしてるんじゃないか?」
今までのヴィオレなら平気で嘘をついて了承し、殺しにいくものだったろう。その言葉は本当に辛そうな表情で紡いでおり、クレイマンはその反応に驚きつつも、嬉しかった。
「……覚醒魔王の条件、一万以上の魂。正直死ぬ可能性しかないが、この手段しかないんだよな」
クレイマンは世界の声に懇願する。覚悟を決めたクレイマンに世界の声は、纏わりつく今まで殺してきた魂を贄に、不完全な覚醒魔王へと至らせてくれた。
「これでも1割にも満たないが、まぁいい。ではヴィオレ、行ってくる」
クレイマンは窓から外に出て、猛スピードで東の平原へと飛んでいった。
「……ばっかじゃないのかな。そんな約束守る馬鹿はいないよ。対価もないのにそんなことを言って。本当に何考えているんだか」
ヴィオレは飛んでいくクレイマンを見ながら、ある決意をしたのであった。
○
俺は
何処にでもいるであろう会社員だった。
俺は子供の頃、人を助けるのが好きだった。皆笑顔となり、心が満たされる感覚が心地よく、世間的には偽善者というものだが、俺はそんな言葉には耳を貸さずにやり続けた。
ある会社に入社した。そこは正直いい職場とは言えなかった。よく人が怒られ、残業も多く、上司はクソ。
そんなところでも俺は成績を残していったが、誰も笑顔にはなっていなかった。
何度も、何度も善行を行い、そんな中、俺に転機が訪れる。
皆を信用していたんだ。よく話しかけてくれて、よくデートした人もいて、かけがえのない友達。
それは一瞬で偽物だと気づく。
今までのことを悪く伝えられ、デートの相手は社長の娘だったらしく、それをネタに降格、話しかけてきたやつは俺の手柄を横取りするためだった。
その時から、俺は人を信用するのは馬鹿だと感じるようになった。今までやってきた善行も無意味に感じるようになり、俺は退職し、別の大手へと転職した。
善行は確実に見返りがあり、自分が幸せになるもののためだと結論し、俺は一人、心の距離を空けて会社で成績を残していった。
近づいてくるやつらは皆俺の手柄、俺の地位に誘われてきた虫。俺はそれを言葉では受け入れるが、内では疑いまくった。
結果はわかりきっていたが、その通りだったさ。皆俺から何も得られないと知ると、勝手に離れていった。
俺は間違っていないことを再確認し、数年で地位を上げていった。
「なぁ、これ面白いぜ?」
ある日、俺はある会社員から一冊の本を貰った。転生したらスライムだった件。異世界ものであり、スライムが主人公の小説だ。
たまに俺はそれを休みに読み進めていき、次第にハマっていった。
その中で俺はある人物が気になっていった。
クレイマン。
若い魔王であり、人を信用せず人形のように利用し、人形のように操る、いつか全ての魔王を支配するのが目的の、小物と言った敵キャラだ。
俺はそのキャラに何か親近感が湧いた。冷徹に人を利用するところが特に。
しかし、俺とクレイマンとでは決定的に違うところがあった。
それは仲間、そして人望。
クレイマンには仲間がいた。ラプラス、フットマン、ティア。そして旧魔王カザリーム。クレイマンの親のような存在。
俺には既に家族は他界しており、仲間もとっくに離れていってる。何故仲間にはあんな態度なのか。理解ができない。
次に人望だ。部下は使い捨てだ、そこは理解できるがあまりに雑すぎる、人望なんてものはなく、忠誠心を持つ者はいなかった様子だ。
それではいけない。信用がなければいつ裏切られるかわからない、力があるとはいえ何故そんなことをするのかわからなかった。
そうして俺は転生したらスライムだった件が大好きとなり、続きを見ようとした矢先にあの部下の裏切りだった。
正直あそこまでするほど恨まれていたとは思っていなかった。良い環境も与えて、良い関係も築いていたのにこれだ。
いろいろと悔やみながら、俺はなんの因果か憑依した。
クレイマンに憑依し、今までの自分を押し殺して環境改善に取り組んだ。ヴィオレにも不満をあたえさせないためにあのような殺していいやつらが集まるスラム街を与えた。
優秀なドラゴニュートの部下、強力な五本指、一人を除いて。
そしてアイリーン。
俺はよくわからない。あそこまで忠誠心を誓っているやつは初めてだったんだ。クレイマンはいったいどんな調教を?当然信用などしていない。ラプラス達だったそうだ、あんな正論言われて怒りはしたが、俺は間違っていないと、人間の頃の人生で痛感した――はずなのに。
ヴィオレがアイリーンに会う一週間前、つまり倒れた当日に俺はアイリーンが運び込まれた病室へと足を運んだ。
「あぁ、クレイマン様、すみません」
最初にアイリーンは謝ってきた。ベッドで寝ているその姿は弱りきっており、今にも死にそうだった。
なのに何故、何も負の感情が
あるのは忠誠心と、喜び、普通は死の恐怖や、後悔が現れるはずなのに、どういうことなのだ。
「私を、恨まないのか」
「何故です?ワタクシはワタクシが選んで今の結末を選択したんですから」
「あぁ、私の期待に応えるために命を削ってまで進化したのであろう。理解できない行為だ」
「そうですね。後補足するとワタクシが消費したのは命以外にも
わけが、わからない。何なんだコイツは、平気でそんなことをするなんて狂っているとしか言い表せない。
「……教えてほしい。何故そこまで私に好意を向ける!私は、
「知ってますよ」
「は?」
知っているだと?ありえない。ならコイツは、アイリーンは見ず知らずの人間にここまでしていたということになるじゃないか!ふざけている!
「いつからだ」
「本当に最初からですよ。クレイマン様が話しかけてきたその時から」
「……何なんだ。どんな理由があってこんなことができるった言うんだ!赤の他人にそこまで!」
胸にわけがわからない痛みが走る。
アイリーンは少し驚いた顔をした後、微笑を浮かべた。聖女のようなそんな美しさすらある笑みを。
「理由なんていります?ワタクシ的には人の善意に理由なんて付けるものではないと思うんですが」
「善意に理由は……いらない?」
なんでだ、なんなんだよ本当に。ふと、何かが頬を伝う、それは水滴だ。止められない、目から流れるものが、俺は、俺は今どういう感情を抱いているんだ?
「クレイマン様」
アイリーンはベッドから起き上がり、生まれたての子鹿のような足取りで俺に近寄り、優しく、母のように抱きしめた。
「クレイマン様、貴方はたまに辛そうな表情をしてることに気づいていますか?初めて、玉座で会ったときも、ワタクシを見るときそうなっていましたよ」
「……俺は、クレイマンではない」
「それでも、貴方はクレイマン様として生きているんです。ならばワタクシは貴方をクレイマン様と呼び続けます」
「……また、また裏切られたくない。もう一度誰かを信用してみたいよ」
俺の口から本心が吐露されていく。俺は最初物心ついたときに感じた母の優しさが心地よかった。それを与えるのも気持ちよく、感情が幸せと喜びに満ちていたんだ、善行によって。
「大丈夫です。他の誰が貴方から離れていったとしても、ワタクシはクレイマン様に忠誠心を、愛を捧げます。この命が尽きるまで」
「あ――あぁぁぁぁぁぁ!!」
あぁ、久しぶりに泣いたかもしれない。汚い声をだしながら、俺はアイリーンの胸で泣き続けた。
かなりの時間泣いたかもしれない。俺はアイリーンから離れると、アイリーンは力なく倒れ、それを俺は支えた。
「アイリーン!」
アイリーンに既に意識はなく、笑身を浮かべて眠っている。その呼吸は浅く、時間は残されていないのだと感じることができる。
「死なせない、絶対に死なせるものかよ!」
俺は急ぎ、ピローネに命じにいった。何処かで人が集まるところ、例えば、戦争。何処かに侵攻しようとしてるやつはいないか。
何処でもいい。ファルムスでも、東の帝国であっても。
そうして俺は一週間待ち続け、ピローネから報告を受けすぐに東の平原へと、死闘の地へ向かったのだった。
ふふふ。人間ドラマ難しいです(´・ω・`)
文字数6000とか……でも仕方ないんや、一話に収めたかったんや。
モチベーションがえげつないほどあるんや。