憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
数十分ほどで、クレイマンは東の平原にたどり着いた。
平原には大量の人間が進軍しており、クレイマンに気づいた様子は見られない。
「恨んでくれて構わない。だから私の糧になってくれ」
クレイマンは義手を含めた八本の手を掲げる。地面からエネルギーが流れ、身体を通り、頭上に巨大なエネルギーの球体が出来上がっていく。
「ぶっつけ本番。応用技」
クレイマンはそれを掴み、大きく振りかぶる。
「
クレイマンの奥義、
何千もの光線となって地上に降り注ぎ、東の帝国の兵士達が続々と死んでいくのが魂から見て取れる。
「さて、流石に警戒……?」
――おかしい。あれだけ死者が出たのに地上の兵士達はなんの反応も示さずに進軍を行っている。かなり異常な光景だが、そういう訓練をしてるのか?という答えでその疑問に蓋をする。
○
「え!それは本当なの?」
「本当。クレイマンは一人で魂を集めに東の平原に向かったわ」
ヴィオレから告げられ、ミュウランとアダルマンは頭を抱える。いくらクレイマンが少し強くなっただけではあれほどの数は無謀もいいところだ。死ににいった。それが二人の結論だ。
「おぉ、どうするのです。我は追いかけたいのですが」
アダルマンの言葉に、ヴィオレは頭を横に振る。
「やめておいたほうがいいよ。クレイマン、かなりの覚悟を持って挑んだ様子だったし」
「それでもです。何の戦略もなしに一万五千という数を殺し切るのは不可能に近いでしょう。あぁ、我はまた神を失うのか……」
「……ボクは初めて信じてみようと思うよ。あのクレイマンが生きて、
「ならジブンらは行くからな」
アダルマン、ミュウラン、ヴィオレしかいなかった部屋に、ある者達が訪れた。
○
「はぁ……はぁ」
あれから数時間。休むことなく兵士を切り続け、もはや数える気すら無くしていた。
兵士はクレイマンを視認すると無言で攻撃を始めたのだ。兵士はクレイマンを自然と囲んでの攻撃を始め、クレイマンの体は傷だらけだったが、すぐにその傷は癒えていく。そんじゃそこらの魔物よりは再生能力があり、下手な攻撃では死ぬことはないにしても、この数は流石に精神が先にまいることになるだろう。
そしてそんな状態のクレイマンの前に、突如として現れた。
人、というよりは類人猿に近くもあり、昆虫のようでもある存在。皮膚はまるで死体のように爛れて、真っ黒な肌だけだけで毛が存在せず、
化け物という言葉が一番わかり易く、元のクレイマンの知識の何処にもこのような化け物はない。
クレイマンを視認し、赤い眼光を放ちながら瞬きしてないはずなのに突如としてその姿が消えた。
「なんだ、何なんだこいつは!」
魔力感知を発揮していたのが幸いしてか、いや、反応は無かった、というよりは
魔素が存在しないのにこの魔物よりも魔物の化け物。クレイマンは恐怖を覚える。
「だからって逃げるわけにはいかないよな」
クレイマンはその巨人の人形腕で殴りつける。ダメージは薄かったが、確かに手応えはあったように化け物はよろめいた。
クレイマンは義手を全て巨人の人形腕に変え、何度も殴りつける。
化け物は反撃してくるが、クレイマンはそれを避けていき、余波で兵士達が次々と死んでいっている。
当たれば無事ではない一撃を確認し、クレイマンは攻撃を続ける。
数時間に及ぶ殴り合いはクレイマンの巨人の人形腕を損壊させ、化け物はそのまま地面に倒れ伏し、動かなくなった。
「なんだってんだよ。いったい」
クレイマンは悪態をつきながら、残りの兵士達に視線を向ける。
まだまだ多くいるその数に、クレイマンは逃げたい思いを圧し殺す。
逃げればそのままアイリーンは死ぬ。それは避けるべきことだ
「――!」
まただ、まさかあれ一体だけというクレイマンの希望的観測は外れる。
現れた化け物は五体。一体でもキツイというのに、そもそもクレイマン自体が戦闘向きではない。魔糸も攻撃に使えるほど上達してなく、結局この前のクレイマンから2本増やした六本の義手を加えた計八本の腕の剣でどうにかするしかない。
――あれから何時間経過しただろうか。夜だった世界に朝日は上り、そして下った、再び闇夜が支配する中で、クレイマンは再生もままならないほどボロボロとなったまま、残りの三体の化け物を相手していた。
もはや手足の感覚は遠く、視界もほとんど魔力感知で補うしかなくなっている。
クレイマンは
しかしその得るのに時間がかかる。そうなればただアイリーンを失うことになってしまう。だからこそ、クレイマンは手足を動かす。
クレイマンは自分自身で手足を支配する。いわゆる自らの肉体を操り人形のようにする技だ。
残り少ない魔力を使い、三体の化け物、何千の兵士達を相手していく。意識は遠い、死神が手招きしてるようだと思う。それでも――
「「「クレイマン様!」」」
空から降ってくる、天使?いいや、ドラゴニュートだ。夜の中でも美しく、宝石のように煌めくその三人を忘れることはできない。
「貴方達……何故、来たのです」
「じ、ジブン達だけではないです」
「万物よ尽きよ!
続いて、化け物が一体、神々しい魔法によって消えた。その骨の身体に見覚えがあるだろう。アダルマンだ。
「おぉ、新たな我が神よ。一人で背負う必要など何処にもありませんぞ?」
アダルマンに続き、ミュウランもやってくる。降りてきてすぐにクレイマンの治癒に入り、安心からか、今までのダメージの蓄積だろう、クレイマンの足は物理的に崩れる。
「魔王への進化、魂の回収には貴方の意思さえあればいいのよ?どうしてこんな無茶なことを?」
「……私は、お前らの信頼に応えてやれなかった。ただ利用することしか考えていなかった」
「……そう、それじゃあ利用しなかったのは罪滅ぼしのつもり?勘違いしてるみたいだけどここにいるのはそれを知ってたうえで貴方に仕えていたのよ」
「な!」
クレイマンは目を見開き、驚愕する。それほどまで知られていたのか。思ったよりわかり易かったのかと、クレイマンは苦笑した。
「馬鹿ですね。なら見捨てればいいじゃないですか。仕えるのが私ではいけない理由などありは」
「するわ。正直最初は不満はあったわ。けど、貴方が自分だけが得するだけではない。環境を改善しようと努力して、利用するためとはいえ私達を助けた。
そして今貴方は誰かのために死を覚悟してまでやり遂げようとしている。それに私達は応えたいと思ったから、ここにいるのよ」
「――はは。本当に、本当に私はなんてもったいないほどにいい部下を得れたのだろう」
その先の話は聞けていないが、目だけははっきりと部下達を見ていた。
化け物が倒され、東の帝国の兵士達が死に、魂が集まっていく。
――そして、その時は訪れた。
《告。
世界の声が鮮明に聴こえ、身体に変化が訪れるが、その前にクレイマンの意識は消え、地面に倒れるのではなく、ミュウランへと倒れた。
○
《告。個体名:クレイマンの
世界の声からそう告げられ、アイリーンは笑みを浮かべた。
そのすぐ後にアイリーンの意識は落ちていく中、手が誰かに握られている感覚を覚える。
(ありがとう。ヴィオレ、クレイマン様もおめでとうございます――)
アイリーンの意識が届かない中で、世界の声は響き渡る。
○
クレイマンの深い眠りの中、世界の声は告げる。
《告。
《憑依した魂の個体名クレイマンの
《確認しました。 種族:
その他、様々なスキルが与えられ、一通り終わると、スキルの進化へと移った。
《ユニークスキル、
突如、世界の声にノイズのようなものが発生した。
《エラー、
ノイズ音が更に酷くなっていくが、世界の声は続ける。
本来通り、
……そこで世界の声は消えた。
〘――●●●の覚醒――完了。言語能力を世界の声から獲得――完了。●●●、もとい
謎の声が世界の声に干渉を行った。それははたしてスキルなのか……それとも。
クレイマンと魂での繋がりのある魔物にも
祭りはまだ始まったばかりだ。
○
場面は変わり、ミュウランとアダルマンは意識を失った三人のドラゴニュートをアダルマンが、クレイマンはミュウランが運んでいる。
たどり着いたのは玉座の間、普通は病室だが、進化を祝うならここだと、アダルマンが言っていた。
「さて、クレイマンを
「――お待ちを」
ミュウランは背負っているクレイマンから、とても無機質な声が響いた。
ミュウランは驚き、クレイマンを落としてしまうが、クレイマンはいつの間にか再生した足で立ち、無言で玉座の前まで歩いていく。
「――これより身体の再構築、及び安全のため魔糸にて防護を行います」
クレイマンらしき者は浮き上がり、玉座のはるか真上にて全身を魔素の糸で覆っていく。
その姿はまさに繭であり、ミュウランは状況が理解できず狼狽えているが、アダルマンはかなりテンションが高そうに騒いでいる。
繭は静かに脈動を始める。はたしてそこから生まれるのはクレイマンなのか、別の誰かなのか。ミュウランは不安を覚えながら、繭を見つめ続けるのであった。
○
真なる魔王になるのはかなり難しい。
その前に死んでいくのが殆どで、魔王達はお互いに抜けがけしないように監視している。
十大魔王でも四人と少なく、それほどに開花が難しいことがわかる。
ある氷雪の大地にそびえる城、そこには一人の最古の魔王が鎮座している。
ギィ・クリムゾン。長い赤き髪をなびかせ、優雅にくつろいでいると、ある場所からここまで放たれるほどの気配を感じた。
「――ほう?」
レオン以来無かった感覚。強者の覚醒。ギィは不敵に笑う。
「これから、面白くなりそうじゃねぇか」
他の古参の魔王達も僅かだが気配を感じている。いったい何者か?どのような存在か?
クレイマンの覚醒
これより、新たに始まる激動の歴史の幕開けとなった。
追記、これ蛹じゃなくて繭だ!