憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
12話 人が変わるにも限度がある
傀儡国ジスターヴ。
そこは本来閑散とし、暗い雰囲気と、奴隷達が虐げられ、魔人達が我が物顔で犯罪が起こる金だけは充実していた国だった。
しかし今は活気に溢れ、明るい雰囲気と、商人達のたくましい呼び声と巡回する優しい人形が魔人達を見張り、食も様々なものが店に並ぶ、世界でも有数の優良都市に変わっていた。
東の帝国との縁を切ったという噂もあり、場所が場所でなければ来たいと思う者も少なくない。
そんなジスターヴに、三人の魔王がここに来る道中歓迎を受け、観光を楽しんでクレイマンの城にやってきた。
場所は何時も集まっている広く豪華な部屋――だったはずだが。
「おいおい、何だこりゃあ」
獣王国ユーラザニアの魔王、
その部屋にあったはずの贅の限りを尽くした品々が消えていた。
代わりに絨毯は豪華とは言い難いが、国産なのか荒いところはあるが立派なものになり、机は変わってはいない古い香木の円卓だが、椅子の座るところは客人の尻に優しい柔らかい素材が使用され、壁にかけられた絵画は一つ残らず無くなっていた。
本来なら来客に敵意を削ぐ効果の豪華な品は何処にもない。理由はすぐに明白となった。
「……貴方は、いったい何者?」
天翼国フルブロジアの魔王、
フレイは部屋の主であろう入口に向かい合う位置の椅子に腰掛ける
白というより白銀の長い髪をポニーテールとオールバックにし、ツインテールの魔王よりは少し高い身長の少年であり、不釣り合いな白い紳士服、鋭い目つきはある男を連想させる。
だがその
少年はニコリと笑みを浮かべ、フレイの問いに答える。
「忘れているのか、それともこの姿じゃわからないかな?私ですよ、クレイマンです。まぁ今はアニス・クレイマンという名前で通しているんですけどね」
「お前が……クレイマン!?」
「これは驚いたわね。まったくの別人じゃない」
「わぁ……!」
二人の魔王とは対象的に、三人目の魔王の口からは涎が溢れていた。
「な、なぁ、これ食べてもいいのか!」
その少女は円卓の真ん中に置かれている山盛りの様々な菓子が混ざった皿に釘付けとなっていた。
これでも彼女はこの部屋のなかでは最強である。最古の魔王、
「えぇ、私の手作りです。存分に食べていってください」
「おぉ!やはり太っ腹だな!クレイマンとは姿どころか
ミリムの言葉にアニスは驚いたのか目を見開き、小さく笑った。
「凄いな。噂に違わぬ慧眼、もといスキルをお持ちのようで」
「お、おい!どういうことだよ!コイツはクレイマンじゃないのか!」
「あぁ!、身体はクレイマンだぞ、だが中身は別物だな」
「……話してもらおうじゃない。クレイマン、いや、アニスと呼んだほうが良いかしら?」
アニスは快くこうなった憑依から覚醒まで経緯を話した。
その話をカリオンもフレイも真摯に聞き、ミリムは菓子を頬張りながら聞いている。
「なるほどね。なかなか数奇なことが起きていたわけね。じゃあクレイマンはもういないってことかしら」
「いや、覚醒してから今も魂が暴れまわっている感じがするからバリバリに生きていますね」
「あら、それは残念」
本当に残念そうにフレイは肩を落とす。カリオンは何故か拳ををバキバキと鳴らしており、アニスは何か嫌な予感を感じている。
「な、何かなカリオンさん」
「いやなに。どれくらい強くなったのかねってな。なぁ、一発戦って欲しいんだが?」
「え、嫌ですよそりゃあ」
「いやいや、別にへるもんではないだろ?それとも俺が怖いのか?」
「弱い者いじめしたくないので」
「あ?」
「ぶふっ!」
それを聞いたカリオンは青筋が浮き上がり、明らかに怒っているのを我慢しているのか口角がぴくぴくと動いている。
フレイは我慢できずに吹き出した。ミリムは――いつの間にかいなくなっている。
「へぇ、言うねぇ。はっはっは!――ここをぶっ壊されたくないよな?」
「……まぁ、良いか。ちょうどいい場所は、ここかな」
アニスが指を弾くと、カリオンとアニスの足元に突如穴が空き、落ちた先はジスターヴ北端の平野だった。
なにもないその場所はまさに戦闘にはもってこいの場所であり、アニスとカリオンは空中に浮遊して向き合っている。
「ここなら誰も邪魔しないし、被害の心配もない。思う存分、私にぶつけてくるといい」
「はっ、余裕綽々ってか。いいねぇ。クレイマン、いやアニス!お前の実力を見定めてやろう!」
カリオンはこれからの戦いに興奮を覚えながら、アニスへと向かっていくのであった。
○
同時刻、何時もの墓場の広場でデーモンエルフとなったアイリーンと、デーモンロードとなったウルティマが戦っていた。
提案したのはいつも通りウルティマで、やっと強くなったアイリーンと戦えることにウキウキとしていた。
しかし、その感情は既に何処にもなかった。
「はぁ…はぁ…く、クソ!」
まず何時もの近接戦が行われた。結果はアイリーンも一年でウルティマとの戦闘で上達しただけあって今ではウルティマ相手に汗一つかかずに圧倒してみせた。
「
ウルティマは全力で放つ魔法。炎熱と衝撃で敵を跡形もなく消滅させるウルティマの得意魔法であり、ウルティマは何時も通り避けてしまうのだと思っていた。が……。
「
アイリーンが得た二つの
ウルティマの魔法がアイリーンに届く直前、アイリーンが手を魔法に向けると、手に炎が触れた瞬間、まるで最初から無かったかのように炎が消え失せた。
「嘘……でしょ」
ウルティマは狼狽し、人生で初めて後退りをした。
「……」
アイリーンは無言でウルティマを見つめる。戦闘が始まってから何も言わなくなり、ウルティマはそれがたまらなく恐怖していた。
その恐怖はアイリーンにではない。
(……もし、ボクがこのままの強さでも、アイリーンはより高みにいくのだろうね――嫌だ。
ウルティマは手のひらに先程の魔法の元である
本来ならそれを相手に放つが、そのままの状態でウルティマは待ち、黒炎核は
「ぐぁ――ぐぅぅぅ!!」
ウルティマは自身が焼かれながらも、アイリーンを見続ける。その表情はなんの反応もない真顔であり、ウルティマは自身の行いに苦笑する。
(これは賭け、いや賭けですらない自害かもしれない。それでも!ボクはアイリーンに届き続ける存在でありたいんだ!こんな、こんなところで精神世界に還ってなるものか!)
腕が炭化し、自身が消滅していく。
炎が収まると、そこにはウルティマの姿はなかった。
――突如、炎が何もないところから現れた。
《確認しました。
世界の声と同時に、炎は柱となり、天高くまで届く勢いで伸びていき、炎が全て天空にて集まり、人の形をとり、一人の少女が姿を表した。
十二枚の薄紫の翼の上に炎が纏わり、手には鉤爪のような炎がついている。
「……遅いですよ。あまり待たせるものではありません」
アイリーンは悪魔の翼を生やし同じ目線で炎の主、ウルティマをウルティマと似た邪悪さがある笑顔でそう言う。
「ごめんね。ボクってマイペースなもんで。じゃあ――やろうか」
「えぇ、こちらも本気でやります――
アイリーンは自身のもう一つの
「待て待て待て待てぇい!」
アイリーンと見た目の年が近いツインテールの少女であり、その様子は焦っている様子だ。
「待つのだ!おぬし、そのスキルがどのような効果が知ってて使おうとしてるのか!」
「え?ま、まぁ、信仰心で無限に魔素を増やせるって言うのは」
「そう!だからそれは本当にヤバいとき以外はやめておくのだ!魔素過多で自滅するぞ」
「――ねぇ、邪魔しないでくれるかな。君」
ウルティマは邪魔をした少女の正体を知ってなお、強気の態度は崩さない。
少女はウルティマを見ると、驚きと喜びが混在した表情を浮かべ、一瞬で遠くまで移動すると、二人の様子を見守る。
「別に邪魔はしないつもりだぞ、ワタシが言いたかったのはスキルの危険性のついてだけ。戦いには口出しする気はない」
「……で、貴方は誰なんですか?」
アイリーンは遠くにいる少女に何時もの声で話しかける。
それを聞けた少女は遠くから大声で自己紹介をし始める。
「聞いて驚くと良いのだ、我こそは最古の魔王の一人!ミリム・ナーヴァ様だ!」
「ふーん」
ミリムの名を聞いてもアイリーンはつまらなそうに返答し、ウルティマを見やる。
ミリムは悲しそうな顔をして、二人の様子を眺める。
「ミリム・ナーヴァが来てるということは、魔王の方々が来てるようですね。
「えー、僕としては
ウルティマは手のひらに黒炎核を作り上げる。その大きさは先程とは比にならないデカさで、小さな太陽のようだった。
それを小さく圧縮し、両手のひらを突き出し、放つ構えを取った。
アイリーンは地脈を吸収し、魔素と融合、それの塊をウルティマと同じように両手のひらを合わせて突き出して放つ構えを取った。
「その台詞、お互い様ですね。では行きましょうか――
「
瞬間、ウルティマから
アイリーンから龍脈と
墓場が余波で吹き飛び、遠くのミリムにも届いてくる。
結果は――相殺と相成った。
○
その頃、アニスとカリオンは、両者一歩も引かない攻防を繰り返し、こちらも終わりが近づいていた。
「やるじゃねぇか。素人の動きだが筋は良いな。どうだ?今度俺のところで訓練受けてみないか?」
「時間があったら行きますね。それじゃあそろそろそっちの全力を見せてくれます?」
「……へっ、後悔するなよ?」
カリオンはユニークスキル、百獣化を発動させる。
獅子の威容を持った頭部、大鷲の立派な翼、象のように頑強な身体、熊の強靭な腕、猫科の瞬発力の脚。あらゆる獣の要素を白銀の毫毛で一体とした姿となり、現れた愛用の武器、白虎青龍戟を構える。
槍が魔粒子に変わっていき、カリオンは自身の必殺技を放つ。
「本当はミリムとの戦闘の時に残しておきたかったユニークスキルと技だが、お前はそれだけの相手ってことだ!、くらいやがれ、
魔力で打ち出す粒子砲であり、拡散していくのだが、今回は相手が一人だけであり、その威力は落ちずにアニスに向かっていく。
これで死ななかったものはいないと自負できる威力の技だ。
しかし目の前のアニスは避けずに受けた。カリオンは殺してしまったか焦るが、すぐにそれは杞憂だとわかる。
ビーストロアをかき消し、アニスは先程とは違った姿を見せる。
パールホワイトの鎧に身を包み、背中からは三対からなる傀儡の龍が生え、顔は目が空いた笑顔の仮面を被り、隠す必要がなくなったのか、巨人かと錯覚するほどの膨大な
「なるほど、これはちょっと痛かった。覚醒魔王化して油断していたみたいだね。失敗失敗。そもそも相手にあんな対応いけないよね。だからカリオンさん……私の力がどれほどか見てね」
先程までとは違った砕けた口調で、地面に向けて手のひらを合わせて突き出し、背中の龍も口を大きく開け、そこから更に龍のようなエネルギーが、手のひらからはそれよりも巨大な龍が現れる。
「
それは龍達が踊るように舞った後、龍達は大きな龍に巻き付くように放たれ、地面に直撃すると、軽く都は飲み込む範囲の爆発が起こった。
「これは……はは、俺を弱者だと言い切れるわけだ」
カリオンは壊れた武器を手放し、引きつった笑みを浮かべて、必殺技が打ち消されたのもあって、降参の意を示したのであった。
(´・ω・`)今回ちょっと時間がかかった。