憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意)   作:謎のコーラX

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追記 加筆修正しました


環境改善編
1話 新生活の最初は掃除から


あれから3日が経った。クレイマンは過去のクレイマンの記憶の整理で殆ど動けず、雑務はアイリーンに任せた。

 

「……ふぅ、なかなか濃い記憶だな。それにしてもだ、人死にの記憶を見てもなんとも思わなかったのはもうあれですね。口調もそうですが人間やめたしクレイマンに寄っている感じなわけですよねこれ」

 

クレイマンは寝室のベッドから起き上がる。

 

室内は人間だったクレイマン(リョウマ)にとっては無駄金が過ぎる装飾とインテリアが多い印象だ、壺とか変な造形の女神像など、とても落ち着ける雰囲気ではない。事が済んだら大半は売っぱらおうとクレイマンは室内に入った瞬間、心に決めた。

 

クレイマンは手鏡を見る、そこには悪魔のような切れ長の眼、オールバックの銀髪は寝ていたため崩れているがそれでも整った顔がそういう髪型のように見せる。

 

白いタキシードのような服装は紳士の様で、礼儀正しい人のように見えるが、記憶の彼はまさに悪魔のようで、仲間以外には冷酷で残忍、そして狡知だ。

 

改めてなんて人物に憑依したんだと若干後悔はあるが、小説の世界に来れた嬉しさが大きく勝っている。

 

「さて、まずは見て回りますか」

 

髪と服装を整え、クレイマンは扉を開き廊下に出ると、アイリーンが頭を下げて扉の右側で待っていた。服装は三日前にクレイマンが選んだメイド服に着替え、部屋も与え、名付け前より髪は汚れが消え、肌も透明感が出ている。

 

とりあえず疑問の一部を解消するためにアイリーンにクレイマンは問う。

 

「なぁアイリーン、世界の声だったか、それに三日前になんと言われたんだい?」

 

アイリーンは顔を上げて、問いに答える。

 

「はい、確か『ダークエルフ、アイリーンの願いを受諾、進化を開始します、完了しました、種族妖死耳長族(デスエルフ)となりました』でしたっけ?」

 

デスエルフ?、クレイマンもリョウマにもどちらの記憶にも存在しない種族だ。こういうとき大賢者があったらと本当に思う。名前からして魔物のエルフと言った感じなのだろうか?

 

「ふむ、願いとはなんだ?」

 

「はい、クレイマン様と同じ魔物になれたらなぁって常々思っていましたので、たぶん名付けでそれが叶ったのだろうと思います」

 

願い、というより反応したのは欲望、そうクレイマンは推測した。かなり強い欲望だったのだろう。システムはそういうのを叶えることは代価を支払えばなんとかしてくれると転スラのクレイマンの覚醒から前々から考察していた。

 

疑問の一部をスッキリさせ、クレイマンはそうですかと短く理解の意を答え、こちらも無駄に凝った廊下を歩いていく。その後ろからアイリーンも追従してくる。

 

「これからどちらに?」

 

「なに、我が城を見物していこうかなとね」

 

聞こえないほど小さな声で、無駄探しもかねてねと続ける、なるほどとアイリーンは頷き、そこで一旦会話は終わって数時間後、クレイマンは執務室に最後に立ち寄った。

 

見た感じでは数えるのが面倒なほど広く多い部屋がこの城にはあった。百聞は一見にしかずとは言うが、皆クレイマンを見るなり顔を引き攣らせている。当たり前だろう、あれほど奴隷のような扱いをしているのだから。

 

クレイマンの国、傀儡国ジスターヴの国民は奴隷階級が殆どだ。前の国王でありクレイマンの親のような存在の魔王カザリームに代わり統治し、クレイマンはこの国を権力と恐怖で支配していた。

 

無論今のクレイマンであるリョウマはそんなブラック企業みたいなのはゴメンだ。

 

まず片付けるべきは政治だろう、いくら言葉が上手くても環境が劣悪では聞く耳は持ってくれない。

 

執務室もかなり贅が使われている、明らかに高級そうな絨毯に、真ん中の仕事に使う机は元の世界ならうん万はしそうな質感のもので、紙束が両端に積まれている。

 

「ふむ、見事に頭がおかしな内容ですね」

 

クレイマンは一番上の紙を手に取り読み進める。

 

内容としては横領、その次は過度な税、更には無駄な美術品の購入履歴と元の世界でもここまでのは無いほどの悪徳貴族を極めた内容だ。

 

無駄に冷静に見れているのはクレイマンという身体のおかげか逆に怒りすぎて冷静か、クレイマンは別に回答に意味はないと思考の外に追いやる。

 

「アイリーン、お前も見たのか?」

 

「はい、一部処理しましたがそれでもかき集めるとかなりの量ですね。捨てられていた、あるいは燃やされていたのを含めると更にあるとは思います」

 

「なるほど、これはこの身体に感謝ですね。徹夜ができますから、それにご丁寧に誰がやったかも書いてありますし、掃除が楽になります」

 

椅子に座り、アイリーンのサポートも受けて書類を精査していく。

 

――20時間以上の時間が経過し、クレイマンはそれでも疲弊、疲労と言ったものは感じることなく、窓のカーテンの隙間から漏れ出る朝日がさすと共に精査の終わりが迎える。

 

「ふぅ、アイリーン、今何時だ?」

 

「7時に開始したので、現時刻が6時ですので23時間です。お疲れ様でした、クレイマン様」

 

アイリーンも疲れた様子はなく綺麗なお辞儀をする、机かははみ出るほどに悪徳な部下達の書類を減っているとは分別し、クレイマンは大きく伸びをし、立ち上がる。

 

「さて、掃除の時間ですね、アイリーン、ここにある書類の者達を一人残らず玉座の部屋に集めなさい」

 

「御意に」

 

 

玉座の間に集められた多数のダークエルフや魔人達、その中にはクレイマンの幹部、五本指の一人であるヤムザの姿があった。皆跪き、顔を下げてクレイマンという王を待っている。

 

(な、何故俺がこんなところに?)

 

ヤムザの背後から何も知らされていないことがわかるざわつきが聞こえ、集められた者達の誰一人としてここにいる理由を知らないのだろう。

 

しばらくすると二つの足音が扉が開く音と共に聞こえてくる。カッカッという軽快な靴の音が目立ち、もう一つの音は聞こえづらいが、気配がもう一人いることを伝えてくる。

 

どす黒く、沼のように深く、絡みつき、まるで上位の悪魔のような気配をヤムザは感じ、冷や汗が流れる。

 

(なんだ!?なんだこの気配は、俺の知らない五本指?いったいどんな化け物が……)

 

気配が横を通り過ぎ、顔を少し上げてヤムザは確認すると、そこには明らかに成人とは言えないメイド服の小柄のダークエルフの少女がその気配の正体だとわかる。

 

(こんなダークエルフの少女が!?クレイマン様の隣に立っているのだから信頼の置ける部下なのは確かなのだろうが、何者だ?)

 

「……皆、顔を上げなさい」

 

ヤムザと後ろの部下達が顔を上げる、クレイマンは玉座に足を組んで座り、何時もよりも鋭い視線をヤムザ達に向けていた。

 

「では本題から行こう、無駄に時間は使えないからな。貴様ら、随分と私の金を使っているようだな」

 

部下達、いや元部下達はそれを聞いて弁明や戯言を並べるが、その内の一人の首が消えると一瞬で静まり返る。

 

アイリーンの手には先程の部下の頭が握られ、それを手の中に収まるほどの握力で握り潰される。

 

「誰が発言していいと言った、クレイマン様の前で無駄に騒ぐなどもはや部下ではないとはいえ不敬ですよ」

 

「アイリーン、ありがとう。それでは皆の衆、一人ずつ理由や弁明を聞いていこう」

 

――それはもはや虐殺に言葉がついただけのものだった。

 

「わ、わたくしは多大にこの国に貢献しました!、そのためにお金を」

 

「何も言わずに使えるわけではないだろう?聞くに値しないな」

 

一人は胸に風穴が、

 

「クレイマン様は騙されております!わたしがそのような横領などするわけが」

 

「私の発言が嘘だと?立場を分けまえて話せ」

 

一人は下半身だけ残して消え失せ、

 

「ウワァァァァ!」

 

一人は逃げようとして足がもぎ取られ、頭を踏み潰された。

 

「クレイマン様、残りは一人です」

 

メイド服を血で汚しながらアイリーンは頭を下げて命令を待っている。

 

クレイマンはまさかこれほどかとアイリーンの力を実感していた、正直クレイマンにはアイリーンの動きを目視できていない、自身の発言の後に一人死んでいる、なかなか怖い状況だ。

 

「さて、ヤムザ、罪状を並べていこうか、敵前逃亡、部下殺し、責任転嫁……まだ言わせるつもりか?」

 

「く、クレイマン様、私はそのような」

 

「あぁ、一応、多少は信じているよ、だからお前だけには一つチャンスをやろう。ここにいるアイリーンと五本指の座をかけて戦ってもらう、そのために氷結魔剣を持たせて呼んだのだからな」

 

「そうすれば無罪放免にしてくださると?」

 

「えぇ、勝てたら許そう、アイリーン」

 

「はい」

 

アイリーンは玉座の側から離れ、ヤムザから数歩離れた場所で両手を腰にまわし微小を浮かべ待機する。

 

「さて、やりましょうか」

 

「ちっ、舐めるなよ新参者が!俺は五本指最強、氷結魔剣士、中指のヤムザ様だぞ!」

 

ヤムザは腰の氷の剣を抜き、腕輪の力を開放する。

 

鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)

 

至宝の魔法道具であり、自分とほぼ同じの分身を一体作り上げる代物だ。

 

「「消え失せろ!双水氷大魔嵐(デュアルアイスブリザード)!」」

 

二人での強大の元素魔法が放たれる。

 

文字通り二倍の氷の嵐が吹き荒れ、アイリーンを飲み込んだ。

 

「はっはっはっは!」

 

勝利の笑い声をあげる、氷の嵐が収まり、ヤムザはそこには氷の像ができていると思っていた……しかし結果は違った。

 

「……寒いですね、それだけですが」

 

アイリーンはこびりついた氷を払いながら、何事もなく同じ場所に佇んていた。

 

ヤムザはランクA+の魔人だ。自らも最強だと自負できるほど強さに自信があった。負けることなど魔王のような規格外以外には無いと常々思っていた。

 

しかし今の状況は理解できないでいた。年端もいかないダークエルフの女が最強の技を受けてなんともないのだ。

 

「そ、そうか!氷無効の魔法道具か!それなら近接戦でやってやる!」

 

ヤムザは理解できる答えを出してその氷の剣と自身の身体能力でアイリーンを二体の動きで翻弄する。

 

「はぁ!」

 

二体のヤムザは背後からアイリーンに剣を振り下ろす。確実な死角からの攻撃、勝ったと確信するが、それをアイリーンは見もせずに剣を両手の指で摘んで止めてみせた。

 

「鬱陶しいですね、蚊ですかあなたは」

 

そのままアイリーンは剣ごとヤムザを持ち上げ、同じ方向に二体を投げ飛ばした。

 

「ぬぉぉぉ!?」

 

焦りはするがなんとか体制を整えて着地はするが、既に視界内にはアイリーンはいなかった。

 

「ど、どこに――」

 

「後ろですよ」

 

振り返ると同時に二体のヤムザはアイリーンの二発の正拳突きで宙を舞い、そのままアイリーンは二体のヤムザの身体に乱打を叩き込む。

 

分身が消え、本物のほうのヤムザから骨、肉が潰れ砕ける音が響き、最後に床にヒビが入るほどに頭を掴み、叩きつけた。

 

「ぁ……が……」

 

虫の息といった様子で、ヤムザは痙攣するだけでもはや戦闘はできそうにない。

 

「アイリーンの勝ちですね。おめでとう、アイリーン。貴方が新たな五本指の中指ですね」

 

「ありがとうございます!」

 

息を整えたアイリーンは笑顔をクレイマンに向け、頭を下げ、喜びを噛みしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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