憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
「……こりゃあまたえらい変わったなぁ。クレイマン、いやアニスやったか」
アニスは客間で自分は外交で喧嘩を売ってきてしまいましたという看板を首に下げたアインを右に正座させ、左にはマネキンのような人形が不自然に置かれながら、ラプラス達、中庸道化連を呼び出していた。
ラプラスらは不信感を持ちながらも、アニスのもとに訪れ、クレイマンの面影がある完全に別人となったアニスに軽く驚いていた。
「うっわー、可愛くなったね。覚醒魔王になった影響?」
ティアはベタベタとアニスの身体に執拗に触って変わりようを確認していた。
「明らかに異常なほど魔素量が上がってますね。まぁあの内にあった魔素量で予想はできてましたが」
フットマンはふんふんと首を振り、アニスの魔素量に感心している。
「で?ワイらを呼んだ理由を聞きたいんやけど」
「えぇ、また依頼を頼もうかと思いましたね」
「内容は?」
「はい。フレイからカリュブディスを任せられましてね。それをこちらまで誘導するのがお仕事です。あ、依代は
カリュブディスの名を聞き、ティアは手を止め、ラプラスの近くまで戻り、ラプラスとフットマンは大変驚いている様子だ、何せ魔王に匹敵しうる化け物を連れてこいという依頼だ。とても二つ返事で受けることなどできない。
「いやいやいや。流石にキツイわ!そんなの簡単には――」
「
「――何やて?」
低い声音で、ラプラスは問う。前にもそのような内容で依頼を受けているため当然ではある。
「目処がついたんだ。クレイマン復活のね。何なら前報酬、いや受けるか受けないかを復活の後で決めてくれてもいい」
「そ、それはそれは願ってもないことやな。で?どんな手段で復活させるっていうんや?」
「案外簡単だよ。今の私にはね」
アニスはソファーから立ち上がり、置かれている人形の胸辺りに手を置く。
「一体何を――」
〘問います。
「あぁ、使ってくれ」
アニスは了承すると、ラプラスらは人形に何かが流れていくのが見えた。
それは徐々に人形を覆っていき、ある人物が形成されていく。
「――ぐっ、ここは……外か?」
その人物にラプラス達は知っている。
「クレイ……マン?」
神経質そうな目、オールバックの髪、全裸ではあるが、そこには見知ったクレイマンが頭を抑えながら立っていたのだ。
クレイマンはアニスを視認すると、憤怒の形相で喚き散らす。
「き、貴様ぁ!この私の身体を乗っ取るだけでは飽き足らず、勝手に身体を変えたな!返せ!それは私がカザリーム様のために使うべき身体なんだぞ!」
アニスは耳を抑えながら、わかったわかったと言った様子で手をしっしと言った感じで手を振り、犬に吠えられた程度の扱いをする。
「クレイマン、お前本当あのクレイマンなんか」
「ん?あ、あぁラプラス、すまなかったね。こんなことになってしまい。せっかくカザリーム様から命じられた魔王になったのに、まだ魔王を支配することもできずに」
「「「クレイマン!」」」
中庸道化連の三人はクレイマンを抱きしめ、もう帰ってこないと思っていたと言った様子で泣いた。
クレイマンは何が何やらの様子でそれをアニスを睨みながら数分が経ち、クレイマン含め話ができる冷静さを取り戻し、クレイマンは用意されていた予備の紳士服を着て、四人はソファーに座り込んだ。
「さて、前報酬のつもりだけど、どうかな?」
「あぁ、ええやろ。マッチポンプな気がしないでも無いが、その依頼受けたるわ。そういえば前報酬ってことやけど完了後の報酬は何なんや?」
「……カザリームの復活だよ」
「なっ!」
「なにっ!?」
ラプラスが言う前にクレイマンが反応する。喜びと不信感が一体となったよくわからない表情を浮かべている。
「貴様、嘘はほどほどに――」
「可能だとは思うよ。私の精神投影なら、ま、本物の魔王の身体に耐えられる人形があるか知らないが、魂さえ見つければカザリームを復活させられる」
それは投影とついているだけあって他の者に自身の精神を投影、植え付けることができる他に、精神の交換、あるいはクレイマンのように精神だけではなく、依代からその精神を元に本物に近い身体を作り上げることが可能のスキルだ。
何故これが魔眼之王という名前のはずのバロールに備わっているのか不明、バロール聞いても知らないと答える謎のスキルだが、使わない手はないだろう。
「ほ、本当にできるっていうのか!」
「疑い深いね。ラプラスらはこの目で見たからわかってくれると助かるんだが」
「あぁ、信じてやるわ。その報酬ならカリュブディス程度楽な部類や」
ラプラスは自信満々の高い声音で言うが、フットマンは少し思うところがある様子だ。
「しかしその魂は何処にあるのですかね。私らも探し回りましたが、何処にもなくて」
アニスはフットマンの言葉に、なんとも微妙な苦々しい表情を浮かべる。
「そう、そこなんだよ。正直
「ほう?私に何を頼むっていうんだ?」
「
「は?」
クレイマンは何を言われたのか一瞬理解できず硬直し、理解すると立ち上がり、笑みを浮かべ、笑い出す。
「はははは!それは良い、元より私は魔王なのだからな!」
「それと同時に、
「ははは――は?」
クレイマンはアニスがカザリームを探すために留守するため、クレイマンに魔王を代わってもらうというのは理解できた。その間に再び自身の思い通りにしようと画策していたが、それは叶わないことを、すぐにその一言で理解できてしまった。
「下手な真似はしないことだね。その依代の人形にはお前の行動を逐一報告する機能あるから、下手にそれを取り除くとまた魂に逆戻りだから、気をつけてくださいね?」
クレイマンは口をあんぐりと大きく開け、ドスンという勢いのいい音をだしてソファーに座り、頭を大きく下げた。
だろうなと言った感じでフットマンとティアに慰められるクレイマンを横目に、ラプラスは話を続ける。
「受けるってことで決めたが、本当に大丈夫なんか?ジスターヴが崩壊するかもしれんのやろ?」
「その心配はしていない。むしろ殺さないかヒヤヒヤしてるよ。私が全力で相手したら数分くらいで沈むと思う。狙いはカリュブディスの支配なわけだし」
「大きく出たなぁ。ま、ワイらはカリュブディスを誘導したらそれで完了ということでええんか。で?依代はどいつになるんや?下手なやつでは不完全な復活になると思うんやが」
「一応五本指筆頭をね。今地下牢に入れているんだ。足りるとは思うよ」
「あぁヤムザはんか。連れ出すなら簡単そうやな。あれこれ言って疑いもせずに洞窟に行かせられそうや」
「ま、危険と判断したら逃げるといい」
「はは、まぁ気軽にやってやるわ」
「……なぁ」
クレイマンは壁を何かを探すように見渡している。
「ここにあったはずの絵画は何処にやったんだ?」
「売った」
「は?」
「売りました」
アニスからそう告げられ、クレイマンは白目を向き、人形じゃなかったら泡を吹きそうな表情で机に突っ伏した。
○
「はぁ、はぁ、た、助かったぞ、ラプラス」
ボロボロの服装で、ヤムザはラプラス達、中庸道化連の三人に連れられ、フットマンとティアは外に待機し、ある洞窟に逃げ延びていた。
「ええってことよ。それにしても
白々しいラプラスの言動に、ヤムザは気づくことなく頷いている。
「あぁ、俺はもっと上に立てる魔人なんだ。早いところ強くなってクレイマン様を、いやクレイマンを殺してやる!」
ヤムザはあのクレイマンがアニスであったことを知らない。知るはずもないが、怒りの矛先がクレイマンになっていることに、ラプラスはクレイマンに同情している。
「ほんならすぐに強くなれる方法があるで?ま、人型でなくなるけどな」
「なに?おい、それを教えろ!」
ラプラスは仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、話し始める。
「
「カリュブディス……良いだろう。強くなるためなら、クレイマンを殺せるならなんだってしてやる!」
心の内で、簡単すぎるやろと思いつつ、ラプラスはアニスから教えられた封印場所まで案内する。
その後、「じゃあワイは外で待ってるから、頑張ってなー」と言って、ラプラスは洞窟から退避する。
外に出ると、ティアとフットマンがアニスから暇つぶし用のトランプでババ抜きをしていた。
「ほほ、また私の勝ちですね」
「あー、負けたー!」
ティアは手札のジョーカーを投げ捨てると、ラプラスのほうへと飛んでいき、それをラプラスは掴んだ。
「楽しそうやな。けどそろそろ誘導の時間や、準備はできとるか?」
フットマンはトランプを片付け、ティアも準備運動をして、何時でも走れる準備をする。
その直後、洞窟から奇声が響き、地面を突き破って、カリュブディスは姿を見せた。
全長は五十メートルは超えるだろうその巨体は圧巻だ。
鮫のようなフォルムで、岩を貫きそうな尖った角の下には大きな目玉が辺りを見渡して何かを探している。
手足は飾り程度に小さく存在し、背には大小二対の、龍のような翼が生え、ヴェルドラの申し子と呼ばれるだけはある立派なものだ。
そんな不気味な美しさがある魔物の周りから、鮫に似た魔物が追随してくる。
下手な攻撃を通さないだろう竜鱗、カリュブディスと同じ一つ目の魔物、
それを十三匹ほど連れて、空を泳ぎながら、辺りを見渡している。
「さてと――おーい!クレイマンはこっちやでー!」
「クレ イ マン?――く、く、クレイマァァ!」
そのような声と共に、走るラプラス達についてくるカリュブディス、メガロドンもそれについてくるが、それだけではなく、ラプラス達に襲いかかる。
「そうくるとは思っとったわチクショウ!」
○
クレイマンをおと――目印にカリュブディスをラプラス達が誘導する計画はどうやら成功したことを、ラプラス達が荒れ地に到着したことで、アニスは理解する。
「お疲れ様。もう休んでくれて良いよ。飲み物いる?」
ラプラス達は汚れや一部、服が切られてはいるが無傷であり、若干息を切らしている程度だ。
「はぁはぁはぁ、お、おう、貰うわ」
三人はアニスから飲み物を貰い、それを喉を大きく鳴らしながら飲み干し、息を吐いた。
「じゃ、わいらはここで見物させてもらうわ。それで誰が相手するんや?」
「三龍だよ。チームワークと実力的にそれしか無かった。さ、アイン、特にお前は汚名返上のために頑張ってくださいね」
アインは首に板を下げながら、ツヴァイとドライが笑いを堪える姿に我慢しながら、三人揃って現れた。
「はは、大将。マジで頑張るから見ててくれよ?」
若干元気のない声音でアインは前に出ていく。
それを優雅に昼の強い日差しを遮るパラソル付きのテーブルに置かれた菓子を摘みながら、綺麗に椅子に座り、アイリーンとウルティマ、そしてカリオンとフレイと共にアニスは三人を見守る。
数分後、カリュブディスはアニス達の視界に現れる。
――戦いの火蓋は、もうすぐ切られようとしている。
(´・ω・`)明日はハロウィン特別編(予定)