憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
一週間は寝込みはしたが、無事アニスは全快し、あることを部下達に告げるため玉座の間に集めていた。
アニスは玉座に座して、跪く部下達を眼下に眺めながら、口を開いた。
「私、少し旅に出ようと思ったんだ。ラプラス達に報酬を払うためにもね」
それを聞き、ウルティマやミュウランを除き、皆驚愕の声を上げた。
「アニス様!な、何故そのようなことを?あ、ワタクシもついていけるなら構いませんのですけど」
「いや、アイリーン。今回は一人旅だ。それにずっとというわけでもないですよ。何回かは帰ってくるし、それに見聞は大事ですしね」
理由としては、実力を隠す技能をアイリーンは持っていない。ウルティマは出来るようだが、あの残虐性は健在のため、人間の街によることもあるため、論外。
三龍も防衛の役目、まだ未熟という理由でなく、ミュウランはある魔法の開発のため駄目であり、他も様々な理由で行けないために、結局一人旅となった。
アイリーンはそれらを聞いてもまだ納得できていない様子である。
「む、むぅ。ですが魔王がいないというのは」
「それはクレイマンが代わりにやってもらう。ほぼお飾りだが。それにゲールもミリムが勝手に監視しているから大丈夫だろう。アイリーン、私を信用できないか?」
アイリーンはそれを聞き、口ごもりながら、諦めた様子でため息を吐き、微笑を浮かべる。
ゲールは別に何も悪いことなどはしてない。むしろ積極的に働き、アイリーンの仕事量が半分にまで減った。部下達からも何も知らないためか良い関係を築きつつあり、ジスターヴに馴染んでいる。
ミリムはあの一件以降、ゲールの監視を続けており、敵意は向けていないが、好奇心で動いてる様子だった。
「わかりましたよ。ですがもしもの時は頼って欲しいですね。危険と感じたらどれだけ惨めでも戻ってきてください」
「あぁ、必ず帰ってこよう」
○
旅立ちの日、様々な贈り物を部下達から手渡され、それらは魔道具の袋の中に収納して、門の前まで見送られながら、アニスは旅立っていった。
荒れ地までたどり着き、その間にどのようなルートで探しながら、人間の街を見ていくか考えていた。
アニスは指にはめた邪悪な紫色の宝石がついた指輪を見る。
それは魔力を封印する代物で、一つしかない貴重品の魔法道具、ランクはユニークと、ミリムのような最上位には無理だが、アニスくらいなら人間レベル、とは言っても上位の魔法使い、ラーゼンくらいには魔力があり、人間の最高峰というかなり目立ってしまうが、一応考えはある。
異世界人。アニスはそう人間の街で説明するつもりだ。それなら怪しまれはするだろうが、異世界人はかなりの化け物ばかりであるため、魔王だとは思われることは無いだろうと、アニスは踏んでいる。
「さて、最初は何処に――」
一歩踏み出した瞬間、アニスはドボンという音と共に、
「ごばっ!?」
先程まで乾いた地面だったはずの足場が急に水へと変わり、藻掻きながら上に向かおうとするが、何かに吸い寄せられるように落ちていき、一応息は必要ないとはいえ、焦りからか溺れるような感覚を覚える。
光が見えた瞬間、水から脱出し、目に入ってきたのは、古代の王宮のような場所だった。
明かりも無いはずなのに室内ははっきりと見える。肌寒さはなく、心地いい温度だ。深い青で彩られ、神秘的な神殿の雰囲気を醸し出している。
古びているが、崩れそうな様子はなく、手入れが行き届いている。
「ここは……?」
「ようこそ、
アニスは声の方向へと視線を向ける。サファイアのような美しさの玉座に座しているのは、この場所の主に相応しい神々しさを秘めた少女が微笑を浮かべてアニスを見ている。
その左右に守護するように立っているのは巨人を図体を持った魚のような者と、ドラゴニュートに似た外見の女性。
どちらからもアニスを超える実力を持っているのがわかる
「何者なんだ」
「余は、ザパァ。ザパァ・インディゴ。ヴェルダナーヴァより深海の統括者を任され、世界を観察するのが趣味の
「マー……メイド?」
「おっと、この姿ではわからないか」
ザパァはその脚をくっつけると、魚の尾へと変わり、耳も人のものから、魚のヒレへと変化させた。
「こっちが本来の姿。んで、こちらの二人はデカデカなのがギルギル、マブマブなのがドラドラだよ」
「ドウモコンニチハ」
「よろしく。外界人」
ギルギルは聞き取りにくいが礼儀正しい動作と言葉であり
対してドラドラは高圧的な態度と声音で、美しい外見とは裏腹である。
見せ終わったザパァは再び人間の部位へと変化し、本題を話し始める
「さて、雑談する間柄でもないし、質問させてもらうよ。アニス・クレイマン、この世界を本当に
「……なるほど。いやまぁ覚醒前のアレの時点で薄々思っていましたよはい」
「あぁ、
「ナイア?空鬼もそうだけどザパァ、この世界は――」
アニスの先の言葉を、ザパァは手を突き出して止めさせる。
「待った。全部話すのもアレだね。あまり面白くない。だから三つ、三つ質問に答えてあげる。慎重に選んでね」
アニスはそれを聞き、何が優先か考え出す。数分ほど経った辺りで、アニスはまず一つ目の質問をする。
「……ナイア。そのナイアって何者なんだ?」
「オケ。答えてあげる。ナイア、というよりは名無しの
「ふむ、ショゴスね。やはり知らんけど、まぁいい。じゃあ次、私が知らなかった貴方達は何者?」
「……そうだね」
「
突如、緑色の空間の穴が開き、そこから現れたのは、ゲール、カリュブディスから回帰したとされる今はアニスの部下だ。
「貴様!よくここに姿を出せたな!」
ドラドラが今にも飛びかからんとしそうな憤怒の形相と態勢だったが、サパァがそれに首を振り、睨んでいるものの黙ってその場に元の直立で静止する。
「デミゴッド?」
「はい。言ってしまいますが、吾輩はその王の一柱、
「い、いろいろと知らない情報が出てくるな。じゃあ
アニスはザパァをほうを見るが、何も言わないことから、セーフだと思い、ゲールから話を聞く。
「零落。と言うんですかね。ヴェルダナーヴァに殺されて、ヴェルドラのスキルにされて、そのまま長い年月で自我を失って化け物にされてしまったんです。破壊衝動で生きていたんですが、貴方様の魔素をもらい、無事回帰したわけです」
「……?いや、何で私の魔素で回帰なんてするんだ?」
「それは――」
「はい駄目、それは三つの質問に含まれるからね」
アニスはやはり駄目かと、頬を膨らませ、ゲールから再びザパァへと視線を向ける。
「じゃあ最後の質問をしよう。この世界はなに?」
「……言うと思ったよ。いいよ、答えてあげよう」
ザパァは一泊おいて、立ち上がると手を掲げ、何かの映像を天井に映し出す。
そこには球体の中に、この大陸と島々がある不思議な映像だ。
「この世界は夢さ。我らにとってのヴェルダナーヴァ、アザトホース様のね」
「アザトホース?」
「そう。ここは現実と変わらぬ法則が働き、今は散っていった同胞達が唯一住める場所――
アニスは驚愕する。転生したらスライムだった件の世界ではないのはわかっていたが、まさか夢の中だとは思ってもいなかった。
「さて、これで質問は終わり、じゃあアニスくん。どうか旅を頑張ってくれたまえ」
「え、おいちょっと――」
アニスの声も聞かずにザパァは再びアニスの真下に水を作りだし、ドボンという音と共に沈ませた。
そしてこの場の客人が一人だけとなった。招かれざるだが。
「久しぶりだな。
「喧嘩を買うつもりはないよ、ハスター。それよりも要件はなんだ?暇つぶしにだけ来たわけではないんでしょう」
「そうだね。この話はどうでもいいか。じゃあ一つ、お前、アザトホース様が何処にいるか知っているか」
「知ってたら既に会いに行ってるわ。ナイア含めた
「なるほどね。よくわかったよクティーラ、いやザパァこれからも暇そうに眺めているといいさ」
ゲールはそれだけ言うと、ザパァに背を向け、緑色の空間へと消えていった。
「……気づいているんだろうなぁ」
「何をですか?」
「いや、こっちの話」
ザパァはドラドラの疑問を軽く流し、玉座に座り、水晶でアニスを楽しげな笑みを浮かべて見始める。
「さて、見せてほしい。アニス、キミが紡ぐ、物語を」
魔王達の品定め編、これにて終わりです。まぁ幕間挟むんですが