憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
ある男のオーガがそこにはいた。
男は強さを欲していた。相手は赤い髪の、次の里の長になる男だ。
その強さは他のオーガに比べて秀でており、指南役からも評価が高い。
紫色の髪の女のオーガも、青い髪の男のオーガも毛色は違うが強者で、対してそのオーガは強くはあるが、他のオーガと比べれば平均的な強さと言っていい。
男は桃色の髪のオーガの族長の息子の妹に惚れている。だがその女は男に見向きもしない。話しかけても男を視界に入れているが何処か別の場所を見ているような感覚を覚え、男は日頃見てもらうために鍛錬を欠かさずに行っている。
ある日の試合、男は赤い髪の男と戦った。前よりも格段に強くなったと男は自負できる力を手にし、赤い髪の男に挑んだ。
結果は惨敗。攻撃の何一つとして当たることは無く、かなりダメージを受けたが、男はその結果を受けいられずに、里から出ていった。
男は森の奥深くまで走り抜けていく。何処に向かうでもなく、何処でなにをするでもなく、ただ現実から逃げている。
辛い、辛い、辛い。身体の痛みなどよりも激しい痛みが心に突き刺さる。
このまま赤い髪の男には勝てない。桃色の髪の女を手に入れられない。
男は大声で泣きじゃくり、魔物を大量に呼び寄せた。男は満身創痍の身体で魔物達を相手していくが、数分も持たずに地面に倒れ伏す。
死が近い、喰われるだろうと覚悟を決める。いや、生きるのを諦めた。このまま生き長らえても叶う願いなどない。
男はせめて弱肉強食の世界に相応しい最後を迎えようと、瞼を閉じ、死までの長い痛みを覚悟する。
バキッ!
その音は自身の骨の音ではない、別の誰かの音。その音は魔物の叫び声、断末魔と共に鳴り響き、男は不審がり瞼を開ける。
そこには、何十もの魔物を軽く蹴散らしていく、オーガ、いや、それ以上、つまり上位種が目の前にいた。
「……そなた、強くはなりたくはないか?」
白い髪が風でなびく。指南役とはまた違う、老化とは異なる純白に輝く髪だ。
角もまた白く、筋肉は細いがガッシリとした無駄のない肉つきで、肌はおびただしい数の古傷がつき、いったいどんな年月、どんな戦いが過ぎればこのような身体になるのだろう。
男かと最初思ったが、胸の膨らみと、腰付、顔立ちから女だということに、男は驚愕する。紫の髪の女とは一線を画すこの女は、いったい何者なのだろうか。そもそもその女は徒手空拳で硬い甲殻系の魔物すら砕き、鋭い鉤爪すらその肌で受け止める。
まさにオーガ、いや、我ら鬼という種族の到達点と言っていい、完全なる武力だ。
男はその戦いぶりに魅入られ、無意識に体を起こし、祈りを捧げる態勢になっていた。
戦いが終わり、息を切らすことなく、女は男の近くまで来て、再び同じ問いを口にする。
「もう一度言おう。そなた、強くなりたくはないか」
男に断る選択は里を抜けてきた時に捨てられていた。迷うことなく男は差し伸ばされたその無骨で、傷だらけのその美しい手を掴んだ。
「良いだろう。そなたに名を与えよう。そして誰にも負けぬ力もな」
男はこの選択に悔いはない。例えどのようなことが起ころうとも、男は女――あのお方のことを感謝し続けるだろう。
「そなたの名前は――」
○
その日、オーガの里で内乱が起きた。
首謀者は族長の息子の友であった男、名を貰ったらしく、
鬼人へ進化を遂げ、全てが桁違いに増大しており、どういうわけか一部のオーガ達も加担し、里は混乱の渦に飲まれていった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
赤い髪の族長の息子と、桃色の髪のその妹、紫色の髪の女性に、鋭い目つきの青い髪、老齢の白い髪、大柄の黒い髪の男の六人のオーガが、族長によって逃され、今森の中を追手から逃げていた。
既に一時間は走っているが、追手はまるで速度を落とさずに追ってきている。いくらか攻撃を加えたが怯む様子もなく、殺すつもりだったが、
「待ってください!彼らは何者かに操られていおります。魔法の類の反応は無いんですが、とにかくあの者達を殺すのは待ってください」
妹にそう言われたため、族長の息子は加減した炎で痛みで速度を落とすものだと思っていたが、やはり駄目だった。
体力の限界が来て、黒髪の男が転んだ。見捨てることはできない。
族長の息子は殺す覚悟を決めて、追手に刀を向け、挑もうとした――その瞬間、空から何者かが降りてきた。
新手かと皆が身構えたが、その者は持っていた美しい青の剣を追手に向けると、一瞬で全て凍結したのだ。
「――お怪我はなさそうですね」
「ど、
老齢のオーガが声を荒げる。ドラゴニュート、リザードマンが進化した存在であり、その力は鬼人に勝るとも劣らない。
そのドラゴニュートは青い髪、鱗、竜翼を持っている。振り返ったその顔は仮面で隠され、額からは宝石のような美しさの角が二本生え、
「な、何者なんだ。何処の者だ貴様は」
族長の息子が率先して疑問を問う。青いドラゴニュートは面倒くさそうに頭を掻き、口を開く。
「アタシは貴様らの監視を言い渡された者だ。あの御方の言う予想外の状況だったため、予定通り貴様らを助けました」
「あの御方?」
「知る必要はありません。さぁ、立っていないで走りなさい――あぁ、目的地が無いんでしたっけ。ではここより走った先にアタシみたいな仮面をつけた者がいるでしょう。そいつに頼ることをおすすめします。では」
青いドラゴニュートは追手の一人を軽く抱えると、何処かへと飛び去った。
○
青いドラゴニュート――ツヴァイは、ある任務を言い渡されていた。
先程自分で言った通り、監視もあるが、もし異変が起きた場合、どのようなことがあってもあの六人のオーガは必ず守り切れとのこと。
そしてオーガに告げなかった任務は、異変を起こした者の配下らしくやつを捕えろというものがある。ツヴァイは何故かと問いた。
「百年前に東の帝国の兵士の件もあってな。その時は殺し尽くしてしまったが、もしその異変も同じなら、何かしらわかるかもなって思ったんですよ」
あの御方――アニスはそう答え、ツヴァイはそれで納得し、ある仮面の魔人の存在を教えられて、ジュラの大森林に来ていた。
「さて、一応確認しときましょう」
ツヴァイは空からオーガ達のいる場所を見た。無事に仮面の魔人と合流し、仮面魔人は何やら慌てふためいており、たぶんそんなやつ知らないなんて言ってるのだろうと、ツヴァイは考える。何せ同じ立場なら自分もそう考えるのだから。
仮面の魔人と、アニスには接点はない。アニス曰く、魔王になる者だと、配下達に説明している。カリオンとフレイはかなり驚いていた。何せ魔王するという魔物が
ミリムはそれに大笑いして、かなり乗り気であり、カリオンとフレイも面白そうだとそれに賛同した。
しばらくツヴァイは六人のオーガと仮面の魔人とその配下だろうゴブリンが一緒に何処かへと向かうのを見ると、自身の役目は一旦終わりだと理解して、アニスの元へ向かおうとするが、その前にオーガの凍結したのを、ジスターヴの研究者達に渡すためにもそちらに戻るべきだと判断し、ジスターヴへと帰還する。
○
本来の世界では、オークがオーガ達の里を滅ぼす流れとなっている。しかしゲルミュッドはおらず、オークはジスターヴが変わったことでその恩恵から食料事情は改善されている。
アニスはこのままではオークディザスターが生まれないことに頭を悩まていたが、ツヴァイの報告を受けて歴史の辻褄合わせ、あるいは何者かが合わせてきたのか、オーガの里に内乱が起き、六人のオーガがスライムと合流する。
それがどんな意図が、どんな偶然か知らないが、アニスはこれを利用と考えた。
――魔王誕生計画、フェーズ1 終了。
最近5000文字執筆できていないなって、最初は展開が固まっていたのと、そもそも一章で終わる予定でした。
でもまさかここまで伸びるとは思ってませんでした。モチベーションも上がって2章とかもいけたけど、途中から展開が簡単に思いつかなくなりました。
なんとか……最後まで続けたい(´・ω・`)