憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
「ふむ……つまり、薬の類だと」
アニスは捕らえたオーガが運び込まれた研究所に訪れていた。
元奴隷やダークエルフの中でも研究が得意な者を集め、秀でている一部の者には名付けも行い、かなりの実績をこの百年であげている。
その所長を任命されたダークエルフ、パラム――元ネタはパラケルスス――からオーガの異常を聞いていた。
「はい。魔法やスキルのようなものではなく、血液に何らかの異物が混入しておりました。それが脳から精神を曇らせ、自我を奪い、痛覚を遮断など、なかなか非人道的な状態になっておりました」
「なるほどね。そのオーガは今どうしている?」
「今は我々の治療のおかけで理性を取り戻しているはずです。危険ですので私もついていきますね」
パラムは注射器を取り出す。中の液体はかなりの濃度の睡眠薬で、ランクA−の魔物も昏倒させる代物だ。
そこまでしなくてもいいんじゃないかとアニスは思うが、やらせておこうとその忠誠心から口にはせず、パラムに案内されて、アニス考案の真っ白な隔離室へと足を運んだ。
様子が見るために動物園のようにガラスが張られ、出口らしき扉はなく、トイレや藁の寝床以外に物はない、それなりの広さの部屋だ。
どう入るのかと言うと、パラムが認めた者だけが入れるようにミュウランが考えた刻印魔法で出入りする作りとなっている。
パラムがガラスに描かれた刻印に触れると、刻印が光り輝き、するりとパラムの身体が通り抜ける。
アニスはその仕組みに感心しつつ、自身もパラムの許可を貰っている、というより全ての施設において、アニスはこの刻印魔法が施された物には無許可に入れるようにミュウランが作っていた。
生体認証とでも言うべき魔法であり、これのおかげでジスターヴはかなりの安全性を確立している。百年もミュウランは他のウィザードとの切磋琢磨も合わさって、人間の頃以上に研究が進んだ結果だ。
中に入ると、部屋の隅で何やらブツブツと言っているオーガが体育座りが見える。
「無事、なんですよね?」
「一応、は。えっと、そこのオーガさん、話できますか?」
パラムの声を聞き、オーガは視線をパラムに向け、次にアニスへと向けた。
「お、お、お願いです。族長を、族長を!」
オーガは飛びかかるように立ち上がって、アニスに土下座をした。
土下座にアニスは違和感を覚えたが、そういえば異世界人からそういう文化が伝わっていたなと、納得し、オーガの肩を叩く。
「言われなくても、危なくなったら私の配下が助ける予定だ。とりあえず貴方はかなり衰弱している様子だし、情報を渡すついでに休んでいけ」
「あ……ありがとうございます!」
オーガは顔から出る様々な液体を垂れ流しながら、床に液体に溺れる勢いで頭をこすりつける。
うわ、とは思いつつも、アニスはそれを受け入れ、パラムに衣食住をオーガに与えることを命じ、隔離室を後にする。
○
ツヴァイはアニスへの報告を終えて、休暇を貰って数日経ち、再びアニスから監視をせよとの命令を受けて、スライムのいる村まで飛んできていた。
「さて、あのオーガ達は元気してるかな」
ツヴァイは上空から村の様子を確認する。そこは魔物の村とは思えない綺麗な形の家屋が建設途中なのを含め並び、見た感じゴブリンではなく、進化した種であるホブゴブリンが働いている。
「驚いた。まさかあのスライムの手腕かな?」
ツヴァイは魔物の発展に素直に感心する。そうしていると大きめの家屋から一匹のスライムが現れ、声をかけてきた。
「あのー!そこの人ー!なにか御用でしょうかー!」
大きな声で、ツヴァイに言っているが、別に普通の声でもツヴァイの耳には聞こうと思えば聞こえる聴覚を有している。
「本当にスライムが喋ってますよ。おもしろ」
ツヴァイはゆっくりと降下し、スライムの前まで現れる。
水色の液体の塊にしか見えないが、魔素量はスライムとしては異常であり、ツヴァイは興味深そうに見ている。
「あー、えっと、わ、私はリムル・テンペストと言います。貴方が
リムルは内心焦っていた。何せこの青いドラゴニュート、明らかに桁が違う
「……はい。アタシがそうですね」
「リムル様、どうしまし――おぉ!恩人のドラゴニュート様ではないですか!」
リムルと同じ部屋にいたベニマル――赤髪の元オーガ、現在は鬼人――が、姿を見せる。
ベニマルはツヴァイの姿を見ると歓喜の声をあげた。
「ん?あぁ、あのオーガかな?進化したようで安心しましたよ」
「はい。ドラゴニュート様もお元気そうで何よりです」
ツヴァイはベニマルを観察する。身なりも整い、体格は小さくはなったが、魔素量はかなり上がっていて、それなりに戦えそうに見える。
「……それで、今の状況はどんな感じかな?」
「あぁ、それを聞きに来たんですね。では、他の者もおりますし、どうぞお部屋へ」
ベニマルに先導されて、大きな家屋の中に入る。殺風景ではあるが、ちゃんとした作りであり、魔物が作ったとしたら合格点だ。
部屋には、桃色の髪の鬼人、シュナ。青色の髪の鬼人、ソウエイ。紫色の髪の鬼人、シオン、リムルはシオンの胸を支えるように抱えられ、ツヴァイは若干軽蔑の目を向ける。
白色の鬼人、ハクロウ。最後に黒髪の鬼人、クロベエ――は、ベニマルの話では鍛冶場におり欠席だ。
自己紹介と共に、六人のオーガはなんと全員鬼人へと進化したと聞き、ツヴァイはアニス様の予想通りの展開だと、アニスに感嘆している。
鬼人達はツヴァイに感謝の意を示している。ツヴァイは改めて鬼人とリムルに自己紹介を始めた。
「どうも。アタシは
ツヴァイは、アニスから自分との、ジスターヴとの関係は隠せとの言いたしがあった。理由としては不可侵のジュラの大森林に、魔王の配下が来てるというのは、他の魔王からはいい印象はないだろうというのがあがる。
「フリーなのか……なぁ、それでしたら」
「仲間はゴメンですね。貴方達でなんとかしてください」
リムルは断られ、しょんぼりと目?の部分を下げる。ベニマル達も残念そうにしている。
ツヴァイが関わるべきなのはオーガの裏にいるやつであり、今のところ傍観というのがアニスからの命だ。
「それで、状況はどうなんですか?」
「あ、あぁ、そうでしたね。まず――」
リムルの話によると、ソウエイが偵察に行ったところ、族長、他のオーガ達は捕まっているだけで、死んではいないとのこと。ツヴァイが凍らせたオーガ達も無事合流したようで、鬼人となったコウガは戦力を集めている様子だった。
魔物を集め、あの方にジュラの大森林を献上する。そしてシュナを手に入れるというのが、コウガの狙いとのこと。
「ふむ。そのあの方がどんな人物か知りたいけど、まぁほれはこちらでどうにかしますか。ありがとうリムル。アタシもアタシで動いていきます。どうか勝利することを願っております」
ツヴァイは話を聞き終え、部屋から出ようとするが、それをベニマルに止められる。
「待ってください。その……連れて行った同胞はどうしていますか?」
「あぁ、それですか。無事ですよ、危険な目にはあってないと言っておきます」
「そうですか……良かった。この戦いが終わるまではそちらに任せます」
「ん、それじゃあね」
ツヴァイは改めて外に出て、村から飛び去っていった。
「さてと、どうなることやら」