憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
アイリーンが新たな五本指になって三日、汚職していた部下達の掃除が終わり、今ジスターヴは人材不足に陥っていた。
「わかってはいたさ、あんだけの数の部下が死ねばこうなることくらいね……」
仕事に精神を殺されそうになりながらうわ言のようにそのようなことを呟きながらクレイマンは机に噛みつく勢いで仕事をしていた。三連勤、それも飲まず食わずにだ。
「クレイマン様、やはり人材確保は早急に行うべきでしょう。残ったのは指示待ちの無能どもだけですし」
「そう、ただ下手なやつは雇用はできないんですよね。この
クレイマンが憑依の際得たユニークスキル、
ヤムザ達を集めた際も発動させ、一人残らず悪人という結論が
「……そういえばヤムザはちゃんと生かしていますよね?」
「はい、地下牢獄にて生かさず殺さずの状態で収監させてあります」
「それは良かった、魔法道具を全て徴収したとはいえども上位の魔人ですから、そのくらいが良いでしょうね。改めてあのヤムザの討伐、よくやりました」
「ありがとうございます!」
とても部下の指導から空いた仕事とクレイマン以上の働き詰めとは思えないはつらつとした元気いっぱいの声がアイリーンから響く。
アイリーンの強さは異常だ。とてもただのダークエルフから一度進化しただけの強さとは思えない鬼神じみた強さがヤムザに、クレイマンに見せつけた。
アイリーンが言うには新たに発現したユニークスキル、「
あまり使いすぎるのはよくなさそうだからクレイマンの許可なしの使用は禁じている。
ふと、地下牢獄に何があったかクレイマンに思い出す。
あそこには今まで前のクレイマンが覚醒魔王になるために殺してきた人間奴隷の死体が集められている場所がある。
アンデッドにする選択肢があったのにしなかった理由、それこそ、
「悪魔召喚……そうかそれがあったな」
悪魔、上位の存在なら知恵があり、それも優秀な部下として扱える。
クレイマンは仕事を止め、アイリーンを連れて急いで地下牢獄へと向かった。
階段を降り、冷たく、濁った空気が喉を通り、不快な気分になる。
明かりは蝋燭だけという寂しいもので、とてもあの豪華絢爛な城の下とは思えない。
不快感を我慢しながら、牢獄の奥の扉までたどり着き、扉を開くと腐敗臭の極みのような臭いが溢れ出てくる。
部屋はかなり広く、その中心には大量の死体が集められ、腐った肉の山ができている。
冷えているため腐敗はそこまで進んでいないものが多いが、それでも山の死体という絵面が臭いの強さを後押ししているようだった。
「臭いですね……早いところ済ませますよ、アイリーン」
「はい、それではワタクシはもしもの時の戦闘の準備を」
「頼んだぞ。さて何がくるかな?」
クレイマンは死体の山を中心に魔法陣を展開する。
〈上位悪魔召喚〉
今のクレイマンの魔素の三割は飛ぶだろう魔法であり、あまり使いすぎるのはどうかとは思うが、優秀な人材が確実に手に入るこの手段は魅力的にクレイマンの目には映るだろう。
魂の入ってないことを考慮してもこの量なら六体は呼び出せるだろうと思いながら、召喚される様子を見ていると、
出てきたのはたったの三体のようだった。
「は?」
流石にこれは少ないだろうとクレイマンは驚きが声に出てきてしまった。
二体の悪魔の中心に立つ――紫色の髪をサイドポニーテールにしたどう見てもただの少女に見える悪魔が満面の笑みを浮かべて挨拶をしてくる。
「どうもー、召喚してくれて、ありがとう!」
「お、おう……とりあえず確認ですね」
あまりの可愛さに童貞みたいなきょどった声を上げながら、本当に悪魔か確認するため
性格 残虐非道で拷問好き 陰湿陰険
罪 拷問 人数:測定不能 殺し 人数:測定不能
欲求 殺人 拷問
精神状態 好奇心
……やっばい。
そうクレイマンは口にはせず、心の声に抑えた。
測定不能、人間なら故障かなとは思うが、相手が悪魔ならそれほど
他の二体も同じような感じであり、明らかにヤバすぎる悪魔を呼んでしまったとクレイマンは恐怖する。
しかし好奇心とはなんだろうとクレイマンが考えていると、真ん中の紫色の髪の少女が消え、いつの間にかアイリーンの目の前に現れていた。
「なんですか、あなたは」
クレイマンが真顔ながら内心恐怖してるとは裏腹に、アイリーンは堂々とした面持ちで紫色の髪の少女――いや悪魔と目を合わせていた。
「ふーん……来て正解だったみたいだね。やっぱりあなた
「は。とはどういう意味かな?」
「わかってるでしょ?」
「……」
二人の見た目は少女の睨み合いを、二体の悪魔とクレイマンはただ見守っていた。
一触即発の空気かと思われていたが、急に紫色の髪の悪魔とアイリーンは笑顔を見せ合った。
「あはは!冗談だよ!別に君の主様と喧嘩するためにボク来たわけではないからね。これからよろしく頼むよ」
「ふふふ、それはクレイマン様に向けて言ってくださるかしら」
「あー、それもそうだね」
紫色の髪の悪魔はクレイマンのほうへと視線をやる。
それだけでクレイマンは気絶しそうなほどの威圧を覚え、身体が氷のように冷たくなるような感覚を覚える。
「それじゃあよろしくね、クレイマンサマ!」
とんでもない人材を加えてしまったなと、クレイマンは2割の嬉しさと、8割の後悔をしたのであった。
○
ある晩、生者は眠り、死者が騒ぎ出すはずの墓場、しかし今日は死者すら眠りにつこうとしてしまうほどに剣呑な雰囲気がたちこめるこの墓場の広い敷地で、二人の少女が向かい合っていた。
一人はアイリーン。メイド服から着替えて黒い戦闘服で相手を睨んでいる。
相手は今日召喚された紫色の髪の悪魔。戯けない笑みを浮かべつつも相手をまっすぐに見据えている。
「ボクねー、前々から君のこと知っていたんだよ?
「覗きが趣味のようですね。それで?ワタクシをこんな場所に呼んだ理由は何でしょう」
紫色の髪の悪魔は口角を吊り上げ、アイリーンの方向に手を突き出す。
「
瞬間、紫色の髪の悪魔の手のひらから膨大な熱量を持った炎がアイリーンのいた場所を大きく燃やし尽くし、衝撃波が発生する。
炎が収まると、そこには巨大なクレーターができ、跡形もなく地面と墓場に生えていた枯れ木を消し去った。
「物騒な魔法を使いますね、いきなり殺す気とは流石悪魔ですね」
予想していたように何時もの笑顔のまま紫色の髪の悪魔は後ろを振り返る。そこには五体満足のアイリーンが立っていた。
「さすがー。君もしかして無意識に魔法使っているのかな?」
「魔法というのはよくわからないですね。ただあそこに行きたいなーって思った程度のことです」
紫色の髪の悪魔の顔に驚きの表情が初めて現れる。目を見開き、アイリーンという人物がどれほどのものかわかり、先程の残虐な笑みとは違い、今度は楽しげな笑みを浮かべた。
「いいね。本当にあんな雑魚にはもったいないね君は」
「軽口はもういいです。早いところ本題を話してくれないと帰りますよ?」
「ま、そうだね。別に大したことではないよ?君とボクとで戦って、勝ったほうが相手に命令できるってやつ」
「ふーん、じゃあワタクシが勝ったら……そういえば貴方名前は?」
「――ヴィオレ。名前ではないんけどそう呼んでくれるかな」
「ヴィオレね。じゃあヴィオレ、ワタクシが勝ったらクレイマン様に忠誠を誓うことね」
「うん、わかったよアイリーン。じゃあボクが勝ったらねー……そのクレイマンを君の目の前で殺してあげる」
「――は?」
今まで怒ることの無かった、軽口だと理解していたから、だが今の言葉はアイリーンを怒らせるのに十分足りる内容だった。
青筋がわかりやすいほど浮き上がり、魔素が大量に溢れ出てくる。その下手な人間なら即死しそうな威圧感は紫色の髪の悪魔――ヴィオレにはむしろ心地よく感じられた。
「いいよ!それくらい殺意を出してくれないとこっちも殺しがいが無いと思っていたところだよ!あ、半殺しだよ、もちろん」
両者の会話がそこで終わる。
見物しているのは同じく召喚された二体の悪魔のみ。
「どちらが勝つと思いますか?」
「もちろんヴィオレ様でしょう」
二体は今日もヴィオレが楽しく殺戮を、拷問を行うものだと思って見ている。
枯れ木の葉が落ち、ついにアイリーンとヴィオレの戦闘が始まる。最初の攻撃はどちらも拳。両者の拳はぶつかり合い、押し勝ったのはヴィオレ、後方にアイリーンは吹き飛び、枯れ木を足場に再び向かっていくのと同時に蹴りを入れる、それは片手でふさがれ、そのまま足を捕まれ、アイリーンは地面に落とされた。
ヴィオレは間髪入れずに両手を握り合わせ、アイリーン目掛けて振り下ろし、その一撃はこちらも間一髪で避けるが、乾いた地面に拳が沈んだ。
「流石に軽口たたくだけの実力はあるか」
「どうしたのぉぉぉ!こんなんじゃつまらないよ!」
ヴィオレはアイリーンに乱打を叩き込む。一発一発が骨を軋ませ、反撃する隙もない。
遠くから見守る二体の悪魔はヴィオレが勝ったと思っているが――本人はまったく思っていなかった。
「……あまり調子になるなよ。悪魔風情が」
アイリーンはヴィオレに交差するように、いわゆるクロスカウンターと呼ばれる形でヴィオレの顔に拳を一撃おみまいした。
ヴィオレはふらつき、片膝をついた。それは悪魔二体には意外すぎることであるが、ヴィオレは動じず、むしろ笑みを浮かべた。
「遅かったね。あまり待たせるものじゃないよホント」
二体の悪魔は気づく。先程までのアイリーンの魔素量と、今の魔素量が数倍、ヴィオレと近いレベルにまで上がっているのだ。
「やっと温まってきたわ。ヴィオレ、ここからが本番ってやつだよ」
「それは良かった。じゃあとりあえず」
「えぇ、とりあえずは――」
「「死ぬなよ」」
そこからは二体の悪魔は絶句した。何せあのヴィオレ――原初の悪魔とアイリーンが互角に渡り合い始めたのだから。
高速の死闘は夜が昼になるまで続き、太陽が昇り、朝日を背にしていた者は――いない。
両者は片膝をつき、ぜぇぜぇと疲れた様子で息を切らし、相手を睨み合っていた。
「はは、アイリーン、やっぱり君異常だよ。どれだけ
「クレイマン様のために働くためならどんな代償も軽いものです。失望されるよりずっとね」
「……あは、あはははは!やっばいね君!あの雑魚にそこまでするほどのものがあるっていうの?」
「あります」
即答だ。迷いの時間が一切なくそうアイリーンは言い切る。
「ホント?」
「えぇ、確約と言っていいでしょう、クレイマン様は大成します。この先百年の間に」
ヴィオレは再び驚きの表情を見せ、苦笑するとそのまま地面に仰向けに倒れる。
「負け負け!今回は負けにしとくよ。けどその確約が果たされないとわかったら、今度はボク
「いくらでも相手になりますよ。ワタクシも本気というほど出してませんし」
「……くふ」
「ふふ」
こうして本当にヴィオレはクレイマンの部下となり、二人の純粋な笑い声が、墓場に響き渡ったのだった。
○
ヴィオレは原初の悪魔でも弱いほうだ。それは実力ではなく単純に何かに熱中できないからであり、才能で言えば上位のほうだ。
それでも彼女に勝つという行為は本来ただの、いや奴隷という最底辺だった元々はダークエルフのアイリーンはヴィオレが言うように異常だ。
――その異常な強さは、近い将来代償が返ってくることを、少なからずアイリーンは予見している。
主人公誰だっけって執筆しててちょっと思ったようん(´・ω・`)