憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
「……あれ?何か見ていたような気がするが、確かコウガからシュナをよろしくとかだったか?ま、まぁいいとりあえずこれで――」
リムルが思念伝達で仲間達にコウガに勝ったことを伝え、この無意味な侵攻を終わらせようとした瞬間、大賢者から声が聞こえてくる。それも何処か焦り気味に。
《――!?個体名コウガに残っていた謎の物質の鑑定、失敗に続き、隔離に失敗。緊急措置として排出します》
リムルの身体から何かが勢いよく吐き出される。
「な、なんだ!?大賢者、いったい何があったんだ!」
《不明としかお答えできません》
リムルは大賢者らしからない答えに、いったい何が出たのか排出された物質を見る。
それは鋭い牙の入れ歯。口だけと言ってもいい。パッと見では単なる入れ歯だが、それがコウガを捕食した後に出てきたとは考えにくい。
「まさか……大賢者が言っていた正体不明の物質か?」
「ゥ……ウガァ、クトゥン、ユフ」
そのようかよくわからない言葉を、謎の入れ歯は壊れたラジカセのように繰り返し、カチカチと牙を噛み合わせて鳴らし始める。
「ウガァ、クトゥン、ユフ、ウガァ、クトゥン、ユフ、ゥ、ウガァァァァ!」
瞬間、入れ歯はどういう原理で跳ねて、リムルのほうへと向かってくる。
「うぉ!?」
リムルは回避しようとするが、もう殆ど力が残っていないのかスライム体に戻り、跳ねて回避もできなくなっている。しかしそれだけではないような違和感が、スライムの身体に感じられる。
(ん?これって、人間の頃にあったような、確か……
《告。確かに
そんなリムルの思考をよそに、入れ歯は眼前へと迫っていた。その時だった。
上空から冷気が入れ歯目掛けて降ってくると、一瞬にして入れ歯は氷の中に閉じ込められた。
「ま、こんなところですかね。リムルさん、大丈夫でしょうか」
降りてきたツヴァイは氷塊となった入れ歯を拾うと、すぐさま飛び去ろうとする。
「ま、まて!その物体って何なんだ!」
リムルの言葉に、ツヴァイは首を横に振る。
「アタシに
ツヴァイはそれだけ言って飛び去った。
それをリムルは視界から消えるまで睨んでいた。
「アタシには……ね」
○
最近ジスターヴに作られた隔離施設。その場所は秘匿され、作った大工達にも目隠しでその場所にこさせ、知っているのはアニスとゲールのみである。
強固な魔鋼によってその部屋は作られており、結界も合わさって魔王でも破壊には時間がかかる強度となっている。
殺風景な真っ白な空間で、窓や隙間が一切ない、一個の箱の中のようになっている。
部屋の真ん中に置かれているのは先程ツヴァイが回収した謎の物質である入れ歯。氷塊になっているため動く気配は無いが、見ていると不安感を抱かせる。
部屋には二人だけ、アニスとゲールのみだ。
二人は直接転移してきた。扉がないから当然であり、それ以外に侵入手段は皆無だからだ。
アニスは氷塊の中の入れ歯を凝視する。バロールにも聞いてもだんまりであり、ゲールにこれが何か問いただす。
「なぁ、これって何なんです?」
「ん、あぁすみません。これの出どころ考えていたので最初に言い忘れてしまいました。これは
「ツァトゥグアね。肉の一部であんな化け物みたいになるんですか?」
途中からツヴァイに近くに行けと命じて、水晶で見ていた。何せ明らかに異様な進化をしていたのだから。よくわならない言葉を言っていたのもあり、感情があるのかという疑問やあの物質にはどれほどの力があるのか気になるところだ。
「活性化してないなら無害に近いですね。まぁだからといってそれを身体にくっつけるのは自殺行為ですよ。我ら偽神の肉体はヴェルダナーヴァによって直々に作ってもらったからね、魔人程度が使っていいものではない」
「なるほどね。その肉体って意思とかあるんですか?コウガくんめっちゃ自我崩壊してましたけど」
「あるにはありますね。ほぼほぼ魔獣に近い衝動のみですが。我ら偽神は肉体、精神、そして
ゲールの身体はドライアドに近い状態だ。弱々しい幽霊のようにも見え、魔素量も覚醒前の魔王程度だ。しかし八割もないはずなのに、あのミリムの攻撃を防いでいるのをアニスは目撃している。
「精神でそれとか怖すぎるな」
「偽神は精神にも能力――こちらで言うなら
「下で、それも肉片であれですか。ゲールの肉体にはどのような力が?」
「肉体は既にギィによって消滅させられてますが、確か宇宙空間を飛び回る程度でしたか。後大半の能力は世界に霧散してますね。どっかの魔物にでも残滓があるかもですね。能力は風系ですね。軽く海を巻き上げるくらいの」
「……なんかもうスケールがな。結局貴方達ってなんですか?」
「例外を除けば皆異界の化け物です。先程話した魔人と偽神の肉片についての続きですが、我らは魔素を必要としません。人間にも魔素がありますが、我らには存在しない。独力で風を出したり、炎を操れます。肉体も我ら専用に作られているため、魔素を持つ者には拒絶反応を起こしてしまい、下手な毒より猛毒の類です」
「……ヤバい。脳がキャパオーバーしてきた。今回の最後の質問をしま――」
アニスが喋るのを遮るように、氷塊がひび割れ、中のツァトゥグアの口がアニスへと襲いかかる。
「ウガァァァァ!」
「おっと」
ゲールはツァトゥグアの口を掴むと、それを無造作に透けた身体に押し込んだ。
「ウガガガガガ――」
みるみると口はゲールの中で溶け、ゲールの身体が少しばかり濃くなったような気がする。
「続きをどうぞ」
「お、おう。ごほん!貴方達って今世界にどれだけ生存してるのですか?」
「そうですね。吾輩が把握してる限りですと、殆どがギィやラミリス、他の魔王によって肉体が滅ぼされ、精神は魔素のある空間に耐えきれず摩耗して消滅、あるいは吾輩みたいに自我のない魔物としているのを除きますとですね――
「ザパァと例のナイアかな?」
「ザパァは例外ですよ。あれは魔物と偽神の混血種。どちらかと言えば魔物に位置する半偽神です。ナイアは当たりです。で、もう一人と言う者は――今は
「は?」
思ったより近場にゲールと同類のがいることに、アニスは驚愕するのであった。
○
ジュラの大森林の奥地、近づく魔物も魔獣もまずいない場所であり、そこには
「すみません。今回の首謀者に思しき鬼人を発見しましたが、思った以上の実力を持っていたため、討伐は諦めざるを得ませんでした。ドラゴニュートについては、敵対の意思はない、魔族ではないとのことです」
ドライアド、トレイニーはその中でも一際大きい、満開の花が咲き乱れる場所に存在する、あるトレントに報告をしていた。
容姿は幹から無数に枝分かれした根が生えており、その大きさは他のトレント以上の巨大さで、様々な普通ではない大きさの花が咲いており、見る者は誰しもが美しいと呼べる花樹だ。
その花樹より、声が発せられる。老婆の声だ。
「なるほどのう。見ておったが確かにあれはおぬしらでは手に余る。逃走は正解じゃったろう。もう下がると良い。リムルとやらのところに行ってやれ」
「はっ!」
トレイニーは花樹に了解の意を示すと、この場から消え去った。
いなくなったことを確認すると、花樹の花の一つから、一体の何かが落ち、綺麗に着地する。
「――くく、本当に面白くなってきたね。わしとしても見逃せん展開じゃ。まさかこんな世界に
それは朱色の髪をたなびかせ、真珠色の肌を持った一糸まとわぬ、トレイニーよりも更に上の美しさを持った少女だった。
彼女はヴルトゥーム。ヴェルダナーヴァより授かった肉体を捨て、大きく弱体化しながら魔素を完全に我が物とし、偽神としての格を落とさずに今尚存在し続けている、デミマナスを所有する、正真正銘の偽神だ。
元よりジュラの大森林との親和性が高かったのもあるが、力に固執していなかったのも今も残っている理由だ。
ドライアドや他のトレントには、
「ま、こちらからは会うつもりは無いんだけどね。わしはのんびりぐでっと生きていたいからの、争い事に巻き込むならぶちのめすつもりだけどね――聞いているかな?」
虚空を見つめる。返事は返ってこないが、満足したのかヴルトゥームは再び今の肉体である花樹に戻っていく。
「わしは安全圏でのんびりと、そなたらの結末を見てやるとするわ」
ヴルトゥームは争いを好まない。疲れるのもあるが、争いそのものに価値を見出させないためだ。前述の通り力に固執していなかったため、ある偽神の戦争にも参加せずに森に籠もっていた。
ヴルトゥームは己の精神の力、時間空間を無視した感知にて、現実とこの世界を両方見ながら怠惰に過ごす。
これまで通り、自身に危害が加わるまで。
トレントについてあまり言及ないしやっちゃえって感じです。あったらそれはそれで二次創作ってことで