憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
「この資料は……こっち、この損害賠償請求は……こっちでしたか」
クレイマン……それも本来のクレイマンは用意された執務室で仕事を淡々とこなしていた。
「はい、追加よクレイマン」
そろそろ仕事に終わりが見えてきた辺りで扉がノック無しに開かれ、さらなる分厚い紙が机に乗せられる。クレイマンは持ってきた女を睨むが、前とは違い女には余裕で満ちた表情をしている。
「ミュウラン」
「さんで呼びなさいよクレイマン。あなたはもう魔王でもないただの配下の一匹、私は五本指……いえ、
「私は認めた覚えはないのだがね」
「あなたの是非は知ったこっちゃないわね。じゃあ残りも終わらせておいてね。私は研究で忙しいのだから」
ミュウランはそれだけ言うと、軽い足取りで部屋から出ていった。
クレイマンはミュウランをほぼ無理矢理働かせてきた罪悪感のもあり、時間が経って冷静になったのもあって悪態は吐かずに再び仕事に励みだす。
あれから現状を理解し、カザリームより命じられた魔王の座が奪われて一度は怒り狂うことはあったが、仲間からの言葉で今はアニス配下の末席として働いている。
「はぁ、もう遅い時間なんだよなぁ」
首を鳴らし、伸びをするとパキパキと小気味よい音が身体のいたるところから鳴る。
徹夜を覚悟し、クレイマンは頬を叩くと再び仕事に専念しようとしたとき、今度はノック音が聞こえてくる。
「入れ」
ゆっくりと扉が開かれ、入ってきたのはまたもや顔見知りの人物。
「お、お手伝いしようと参りました」
「ピローネ!?もう私はあなたのは配下ではないんですよ!」
右小指のピローネ、索敵を主な仕事としている戦闘能力においては最弱に近い。しかしピローネもまたクレイマンよりも偉い立場なのは確かだ。
「関係ありません。私はクレイマン様に拾われた身です。今目の前にいるクレイマン様が私が慕う人物なんですよ」
「おう!俺だって同じ気持ちだぜ!」
「「俺っちも!」」
「うるさいよお前ら!」
ピローネの後ろから3匹の鳥の魔人が出てくる。彼らもまたピローネとともに拾われたこともあり忠誠心はなかなかだが、少し頭がわる……いや直情的なのが短所ではある。
「ふぅ……まぁいい。早いところこの仕事を終わらせておきたかったからな」
なんとか日が変わる前に仕事を終わらせ、クレイマンは優雅にティータイムを始めた。
「どうぞ、クレイマン様。今日の茶葉はいいものが手に入りました」
柔和な笑みを浮かべ、ティーポットから綺麗にカップに茶を注ぐその人物はエヴァ、メイドの一人ではあるが、その実力はクレイマンよりも高く、本来ならアイリーンに次ぐ、副メイド長につく予定ではあったが、本人はそれを辞退し、クレイマンに仕えるメイドという地位についている。
「ありがとうエヴァ……ふぅ」
すっきりとしたほのかな甘みが口に広がる。クレイマンの好みを把握している味である。
「――思ったより快適なんだよな」
クレイマンは当初、どんな奴隷生活が待っているのかと震えていたが、仕事は書類仕事、今日のようなイレギュラーはたまにしか来ず、本来は定時10分前には終わる量であり、ちゃんと食事は魔王の頃に比べるとグレードは下がりはするが、ワインも出るし食事もリクエストをほぼ受け付けるのでストレスは溜まらないどころか、むしろ魔王としての重責が消えて、クレイマンが口にした通り、快適なのだ。
「エヴァ、お前が進言でもしたのか?」
「いえ、全てアニス様が決められた待遇です。ラプラス様などからもありませんよ」
「なるほどなぁ……いったい何を考えているんだ、アニス」
「特に何も?貴方のこと気に入っているっていうそれだけの理由だよ」
突然、クレイマンの背後から声と気配が現れ、飲んでいた茶をクレイマンは吹き出した。振り返り、そこに立っていたのはクレイマンを幼くしたような鋭さに丸さを帯びた顔立ち、服装はそこらで売っている洋服を着こなしているが、そのオーラは下手な魔人なら呼吸を忘れるような圧迫感を放っている。現魔王、アニス・クレイマン、彼は薄い笑みを浮かべていた。
「アニス……いきなり現れてなんのようだ」
クレイマンは強く睨みつけるがアニスはそれを意に介さず用事を話す。
「あぁ、そんなに身構える必要はないよ。それに貴方にも少しは利がある話だから」
「なんだ」
「――クレイマン、魔王になってみない?」
「……はぁ!?」
アニスのその発言に、クレイマンは素っ頓狂な声を上げるのであった。
さて……ほとんどオリキャラ覚えていない