憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意)   作:謎のコーラX

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3話 福利厚生は絶対条件

クレイマンはある魔法道具を手にする。薄い黒曜石のような色の板、例えるならスマホだろうか。持つことで念話を大多数の人間に送れる代物で、便利のようだが長時間使用すると魔素をごっそり持っていかれるため戦争などの戦略伝達には使い勝手は悪い。

 

しかし短い演説程度なら使用にはかなり便利だ。クレイマンは喋る必要ないはずだが呼吸を整える。

 

次に顔を叩くと、念話を開始する。

 

(皆さん、私はジスターヴの国王、クレイマンです。急な念話ですが、どうか拝聴してくれると助かります)

 

圧の感じない優しい声音で話していく。クレイマンは城のベランダから城下町を見やる。様々な亜人や魔人が約一億人と、奴隷が多数いる傀儡国ジスターヴ。

 

今まで恐怖と権力が支配していたこの国に、その象徴のクレイマンの声が全ての者に届けられる。

 

横の台に置かれた水晶からは様々な声が聴こえてくる。不安、焦り、恐怖、不信感。とても良い反応ではないが、予想はしていた、というより今までの悪行を考えると常識的な反応だとクレイマンは思う。

 

(別に何か悪事を考えているわけでは……いえ、私の言葉は信用には値しないのはわかっております。ですので行動で示すことを約束します)

 

「料理人さん、奴隷全員分の食事は用意できそうですか?」

 

クレイマンは一旦念話を止め、振り返り、ヴィオレと召喚された二体の内の一体、コックコートをつけた悪魔、名付けは今のクレイマンには魔素量が足りないのと、あまり使える余裕がないために料理人という呼び名となっている。

 

「はい、余裕で足りるかと」

 

「それは良かった。宝物の殆どを売り払っただけはありそうですね」

 

クレイマンの城にあった美術品などはほぼ売り払った。今のクレイマンであるリョウマにはセンスがわからず、いらない物であったため後悔などは一切ない。

 

売り払ったお金はこれからジスターヴの治安、建造物整備、食料の安定供給と無駄になるお金は存在しない。

 

「ご苦労様です。では無理ない程度に料理作り頑張ってください」

 

料理人を了解の意を確認し、その退室する後ろ姿を見送ると、再びクレイマンは念話を始める。

 

(失礼。先程も行った通り行動で示します。最初にまず奴隷の開放を行います。その後福利厚生を見直し、誰もが働けるようにします。言葉に説得力は無いかと思いますが、どうかこれからの働きに僅かでもご期待してくださりと助かります。それでは)

 

クレイマンは念話を切り、水晶を見る、人々が映り、皆混乱している様子だが、一部は歓喜の声を上げている者もいる。

 

「とりあえずはこんな感じか」

 

「クレイマン様、お疲れ様でした」

 

ベランダから部屋に入る、そこは寝室であり、室内にはメイド服姿のアイリーンが礼をして待っていた。

 

「あぁ、人材確保とか言っておきながら働く意志が出ない環境をどうにかするのを忘れていたよ。これで長くて一年後くらいには働いてくれる人が出ると良いが」

 

「きっとなりますよ。クレイマン様の手腕なら必ず達成されると思います」

 

クレイマンは苦笑する。元の人間の頃とは勝手が違う。サラリーマンの福利厚生がどれだけ通用するか、不安はあるが、やるしか無いだろう。

 

クレイマンは気合を入れ直すと、突然アイリーンが倒れる。というよりは土下座をしたのだ。

 

「ど、どうした?」

 

突然の行為にクレイマンは驚く、そもそも土下座を知っていたのかよっというのが最初に驚く要素だったが。

 

「昨日の夜、ヴィオレ――あの召喚した悪魔を説得するためとは言え、狂信者(シンジルモノ)を使用してしまいました。どうかこの言いつけを守れぬ愚かなワタクシを罰してくださいませ!」

 

「あぁ、ヴィオレって言うのかあの紫色の髪の少女悪魔。とりあえず顔を上げなさい。その説得?が命の危険があったのだから使用したのだろう?なら守っているではないか。罰する要素なんて何処にもない、むしろお前が無事ということはヴィオレをコントロールできるようになったのだろう?。褒美をやりたいくらいだ」

 

アイリーンは顔を上げ、涙を流して再び頭を下げる。

 

「寛大な御慈悲!ありがとうございます!」

 

「えぇ、これからも励みなさい。アイリーン」

 

 

ジスターヴにもスラム街と呼ばれる区画は存在する。

 

整備が行き届いていなく、病気になる者もおり、そこら中に飢えや病で倒れる者が転がっている。

 

たまにクレイマンによって贄になりそうな物を拾いに来ていたが、今現在はというと、整備は行き届いていないのは同様ではある。

 

しかしそこに倒れる人の姿は何処にもない。うめき声で満ちていたスラム街は沈黙に包まれている。

 

元いたスラム民の殆どは既にクレイマンの環境改善案によって表の街に移住していき、病気や飢えの心配は無くなっている。

 

だが何故スラム街が残っているのか。国民の意見ではお金をまわす余裕が無いというのが有力説になっている。

 

しかしある噂からもう一つの説が出来上がりつつある。夜な夜な人の声が聴こえるそんな噂から。

 

「ぐへへ、ここは良いな、良い隠れ場所になる」

 

ある深夜、明らかに盗賊、あるいはどろぼうといった様相の男達がいた。この場にいるのは五人、彼らはスラム街に隠れ住む外から逃げてきた犯罪者であり、今ある計画を練っているところのようだ。

 

「貴族層のあの小娘はあの場所にいくから――」

 

「なら時間は――」

 

「身代金は――」

 

下卑た笑いと共に話は進んでいく。そんな中、女の声が男達の耳に入る。

 

「ね、ねぇ、やっぱり帰ろうよぉ、お父様に怒られちゃうよ」

 

「我慢よパープ、ここに来た証拠を持っていけば男子達を見返せるんだから」

 

「でもぉ」

 

一人はダークエルフの少女、黒い肌に白いワンピースが容姿もあって美しさを相乗している。

 

もう一人は人間の少女。少しボロめの私服で、長めの紫色の髪を揺らし、怯えた様子でダークエルフの少女の腕にしがみついている。

 

どちらも貴族なのだろうか、誰もが二度以上振り返る端正な顔立ちで、男達は売れば高値で売れると確信する。

 

男達は二人の少女を囲むように動き、男の一人が声をかける。

 

「どぉしたのかなぁ?こんな危険な場所に来ちゃったらお父様に怒られるでしょう?」

 

「ここにしかない物を取りに来ました!何かないでしょうか?」

 

「そうだなぁ、おじさん思いつかないなぁ、あ、そうだ!」

 

男が手のひらに拳をおいて何か思いついたような仕草を合図に、背後の男二人が革袋を二人の少女に一つずつ被せようとする。

 

「はい、犯罪者はっけーん」

 

その瞬間、ダークエルフの少女の腕にしがみついていた人間の少女が後ろに手を軽く振ると、被せようとした男の一人の頭が弾け飛んだ。

 

「は?」

 

男達は皆、何が起きたのか理解できていない様子だった。

 

しかし紫色の髪の少女がダークエルフの少女から離れ、その耳まで届きそうなほどに口角を上げた表情からその少女がヤバい存在だということは理解できた。

 

思考から行動まで数秒だった、男達はすぐさま四方八方へと走り出し、少女から離れ、スラム街から脱出しようとする者と、仲間の応援に向かった者へと別れた。

 

「逃して良かったんですか。パープ、いえヴィオレ」

 

儚げな少女を演じていたヴィオレは髪をサイドポニーテールにし直し、無邪気な笑顔をダークエルフの少女、アイリーンに向ける。

 

「あはは!大丈夫!スラム街全体に結界張っておいたから、逃げれないからこうやって君と話せるんだ」

 

「……やはり魔法を使えたのですね」

 

「君もでしょ?」

 

「使えるとは言えないレベルだけどね。まさか手加減されていたとは悲しいわワタクシ」

 

「君に悲しいという感情があるの?。ま、ボクも今の身体じゃ威力は8割に落ちているから不完全だし。君に撃った破滅の炎(ニュークリアフレイム)ももっと威力があったんだよね」

 

「へぇ、ならいつかは完全な形で決着つけておきたいわね」

 

「だから僕はそのためにクレイマン――様に仕えてるんだよ?」

 

「そう、まぁ喋るのはこのくらいにして、任務を遂行するわよ、ヴィオレ。まぁワタクシは監視役なわけだけどもういらなそうね」

 

ヴィオレに与えられた任務。それはスラム街にまんまと住み着き、それをヴィオレが楽しく殺すというもの。

 

今のスラム街はいわばヴィオレの遊び場として残したものであり、ヴィオレはこの日を待ちわびていた。

 

「よーし、そろそろ仲間と合流してくれているかな?じゃあボク楽しんでくるから!」

 

「待ちなさい。ちゃんと殺す前に知識を抜き取っておくのよ。それも任務の内です。ですがそれ以外は叫ばせようが鮮血ぶちまけような構いません。ご自由に」

 

「わかってるよアイリーン。じゃあ!」

 

ヴィオレは一瞬でアイリーンの視界から消え失せ、数秒後、遠くのはずなのにここまで悲鳴が聴こえ出した。

 

「派手にやってそうね。さて、ワタクシはただ待ちます……ん?」

 

アイリーンは気配を感じ、試しに魔力感知を発動させる。暇になったのもあるが、近くにこの前のスラム民移民のし忘れ、あるいは行き倒れと、可能性が多いが、それは的中したようで、弱々しい魔力を持つ者を三人、身を寄せ合っているのを察知する。

 

このままだとヴィオレに殺されるので、アイリーンはその場所まで走っていく。

 

古びた空き家の中にいるようで、扉のない入り口から入り、声をかける。

 

「誰かいるのはわかっている。ワタクシは助けに来た者だ!出て来てほしい。出て来れないなら声を出してくれ」

 

数秒待ったが反応も姿もない。どちらでもないなら可能性は二つある。敵対心を持っているか、声が出せないほど衰弱してるかだ。

 

アイリーンは進んでいき、魔力感知に反応があった場所までいくと、三人の人影を発見した。

 

その姿は一言で言うなら屑鉄。錆色の鱗を持った蜥蜴人族(リザードマン)のようで、全身が傷だらけで、生きているのか怪しいレベルだ。

 

その内の真ん中のリザードマンが辛そうに口を動かし、何かを言っている。動きからして、た・す・け・て、とアイリーンは理解した。

 

「なるほど。了解した」

 

アイリーンは軽々とリザードマン三体を背負い、急いでスラム街の外へと向かう。ヴィオレの張った規模はあるが実力のある者にとって脆く、アイリーンは結界の一部を破壊し、速度を落とさずに突っ走る。

 

目的地は考えたが今の街では助かるとは思えないため、渋々クレイマンのいる城へと向かった。

 

城には優秀な魔法を扱える五本指がおり、アイリーンは息を切らすことなくその人物のいる部屋までたどり着く。

 

ノックもかけずにドアを開き、中にいた人物は軽く驚くが、すぐに状況が飲み込めたようだ。

 

「ミュウランさん。こいつらの治療、お願いします」

 

「わかったわ。でもノックはちゃんとしてくれると助かるわね」

 

「確約はできないわ」

 

「心がけるだけでもいいわ。もし今度はドアを壊したらクレイマン様に言いつけるけどね」

 

「……善処します」

 

アイリーンは渋々と言ったしょぼくれた表情で了承する。

 

「そ、じゃあ私はこの子達の治療に入るから任務頑張ってね」

 

ミュウランは床に寝かされたリザードマン達に治癒魔法をかけ始める。

 

アイリーンは問題ないことを確認すると、急いでスラム街へと戻っていく。

 

時間としては五分程ではあるが、すぐに終わらせてしまっていることをアイリーンは想像でき、先程割った結界から入り、元いた場所までくる。

 

どうやら悲鳴が聴こえていることに我ながらおかしいなとは思いつつもアイリーンは安心する。

 

五時間ほど経つと、ヴィオレが満ち足りた顔でアイリーンのところに戻ってくる。

 

「お帰り、情報は?まさか忘れていたとか言わないでほしいわね」

 

「ボクそんなに信用ないかな?大丈夫ちゃんと引っこ抜いて来たよ」

 

ヴィオレには知識を抜き取る力があるらしく、クレイマンは有用と考え、一石二鳥の案として今回の任務が行われた。

 

「それなら良いけど、とりあえずクレイマン様に報告に行きましょう」

 

「そうだね~。あ〜またやりたいねこの仕事」

 

「ワタクシは嫌ですけどね。あの善悪判定の演技とか」

 

「ボクはちょっと楽しかったなぁ。次はどんな設定で行く?」

 

「ぬかせ」

 

アイリーンとヴィオレはそんなことを楽しげに喋りながら、城へと歩いて戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クレイマンパートとアイリーンパートの差があるのはどうにかしたいですね(´・ω・`)

というかいつの間にか出来てた2パート構成。
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