憑依したらクレイマンだった件 (微量の転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
「ん……うーん」
クレイマンは魔素が回復し、目が覚める。何時ものベッドの上であり、いつもの天井が見えるが、知らない声が三人分耳に入ってくる。
「ね、ねぇ、ここはジブンがやるってことでいい?」
「あ?なんでそうなったんだよ!ここはオレがクレイマン様の世話だろ。頭いいしな!」
「頭いいやつは頭が良いとは思わないって聞くけどね。アタシの得た知識と見解だと」
クレイマンは体を起こし、声のする方に視線を向ける。そこにはキラキラと輝く銀のような竜翼を持ち、金のような髪をなびかせ、瞳は黒曜石のような美しさを持った三人の
エメラルドのような深緑の三つの角を持った短髪の少年が悲しそうな表情でたどたどしく喋るが、声音は意思を通そうとハッキリとしたものだ。
ルビーのような紅の一本角を持った荒々しい獅子のような長い髪の大柄の男性はまくし立てるように喋り、表情もそれに合った憤怒の表情だ。
二人の話の合間にこの状況がおもしろいのか、楽しげな表情で自分の意見を挟むサファイアのような碧い双角を持った綺麗な長い髪をポニーテールにした女性がそこに当たり前のように立っている。
「貴方達は……」
クレイマンの知らない宝石のようなドラゴニュート達は、クレイマンを見ると笑顔となり、話すのをやめて角がルビー、サファイア、エメラルドの順で一列になった。
「お目覚めになったか大将!オレだぜ!アインという名を貰った元リザードマンだ!」
「あぁ、我が君、おはようございます。アタシはツヴァイです。この名に相応しい働きをこの三日間行なっておりました」
「ど、ドライです。えっと、何故眠りを妨げるような言い争いをしていたのかと言うと、誰が仕事でアイリーン様不在の中眠っているクレイマンの世話をするか、です」
「……え?、あの錆びたような鱗のリザードマンか貴方達!」
凄まじい変化だ、面影が何処にもなく、とても死体のようは姿からここまで進化するとは流石にアイリーン以上の驚きがクレイマンを襲い、声を少し荒らげさせる。
「はい、アタシ達は目覚めたその時より、この御恩を一生をかけて尽くす覚悟です。どうかご命令を、我が君」
三人のドラゴニュートの熱い視線に気圧されつつも、笑みを浮かべ、平静な動作でベッドから降り、身なりを整えて、咳を一回挟んだ後、最初に言っておきたい質問をする。
「その前にだ。何故貴方達は私の国で倒れていたんだ?」
三人のドラゴニュートは目配せをしあい、ツヴァイが話をするようだ。
なんでもある意味珍しい鱗を持つリザードマンだった三人は元いたジュラの大森林のリザードマンの村に様々な場所で奴隷を売りさばく者、『コロンブス』という奴隷商団に仲間達から疎まれていたため迷いことなく差し出され、奴隷として生きていた。
買い手がつかずにコロンブスの長らしき男になぶられ続け、憔悴しきっていたが、なんとか夜の間に抜け出し、スラム街へと逃げ込めたがいいが、もう動く気力もなく、そのまま倒れていたところをアイリーンに救われたというのがことのあらましだ。
「その、リザードマンの里とかコロンブスっていう奴隷商団に復讐とか考えていませんか?」
「はい、リザードマンの頃は考えていましたが、この姿になってからはその心も希釈され、今では恩を返すためにクレイマン様に尽くすのが最優先だと考えております」
「ま、オレとしてはまだ復讐は考えてはいるが、それは相手がノコノコと姿を見せるまではやるつもりは無いぜ」
「ジブンも、あのリザード畜生共のことはぶっ潰したいですが、そんな小さなことでクレイマン様の不評をかいたくないので、し、しません」
三人とも、心も強くなったのか復讐はついでのように考えているようで、クレイマンはやっぱ進化すげーと、この世界の名付けの効果に感嘆していた。
――まぁ別にそんな訳はなく、三日間の間ににアイリーンによって
「三人とも、忠誠を感謝しよう。さて、目覚めたからには一つやっておきたいことがあるんですよ。本当に大事なことを」
○
世界の裏から暗躍し、皆仮面を被ったピエロのような姿をしているのが特徴的な集団であり、そのフットワークの軽さと情報力で各地で策謀を巡らせ、依頼あらば確実に遂行する。
その集団の中核と言っていい三人が、同じく中庸道化連の仲間であるクレイマンの国に訪れていた。
クレイマンからの誘いとあって、三人は違和感を覚えた。
「なんや?なんか騒がしくないか?」
中庸道化連の副会長を務める楽しげな仮面をつけた男、ラプラスが耳をすませる。
前来たときは静寂そのもの、悪く言えば活気が無いとすぐにわかるものだが、門の前だと言うのに楽しげな声が聴こえてくるのだ。
「ふーむ、これはどういうことなのでしょうね?試しにあそこにいる門番さんに聞いてみるとしましょう」
恰幅のいい体の怒った顔の仮面をつけた男、フットマンは門番のダークエルフの男に話しかける。
「おぉ!、貴方がクレイマン様のお仲間ですね!」
「え、それはどういう?」
フットマンは話しかける前に嬉しそうに門番から話しかけられ、少し困惑する。何せこんなこと一度も無かったことなのだから、前来たときはこの仮面から嫌悪されていたことがあるが、まるで逆の反応だ。
「うーん、クレイマン何かしたのかな?でも操られているにしてはそんな不自然な感じないよね?」
他二人と比べると小柄な体の涙を流した仮面をつけた少女、ティアは思考を巡らせるが、そこまで頭の良くない知恵では何も浮かばず、諦めた。
「どうぞお三方、中にお入りください」
門番は門を開け放ち、中庸道化連の三人は中に入っていく。
そこに広がっていたのは、とても傀儡国ジスターヴとは思えない活気、そして綺麗な町並み。
道路は舗装され、建物には傷一つ、汚れ一つ無い綺麗なもので、露店には見たことのない食べ物が売られており、それを魔人やダークエルフが買いに来ている。
誰一人として悲しげな表情は無く、服もボロボロなものはない、見るからにオシャレな格好が多く見られ、楽しげな声がより一層強く感じられる。
あまりの異様さに三人はたじろぐほどで、しかし追い打ちの如く、更に異様な光景が目に入ってきた。
「あっ!」
一人のダークエルフの少年が氷菓子、アイスクリームを持っており、それを紳士風の男、そうクレイマンのズボンにぶつかり、汚してしまったのだ。
「あっ。ご、ごめんなさい」
三人は、「死んだなあいつ」と口を揃えるが、クレイマンは笑みを浮かべてポケットから財布を取り出し、お金を手渡したのだ。
「すみませんね。私のズボンがアイスクリームを食ってしまったようで、これで新しいものを買ってくると良いでしょう。釣りはいりません。どうぞ好きに使ってください」
これまた優しい声音で少年の頭を撫でるクレイマン、少年は満面な笑顔で手を振りながら人混みの中に消えていった。
「なんやこれ……」
「なんでしょうね」
「いやホントになに?」
三人は異様すぎる光景に度肝を抜かれていると、クレイマンが三人を見つけ、アイスクリームがついたズボンのまま歩いてきた。
「おや、もう来たのですか。ラプラス、フットマン、ティア」
「お、おう、クレイマン、お前も元気そうやな」
「えぇ、元気にやってますよ。それでは行きましょうか。ここで露店まわりも良さそうですが、流石にいきなりそれはハードルが高いというものです」
三人は偽物かと疑うが、何処をどう見てもクレイマンそのものであり、違いがあるとするなら指にはめた指輪くらいだろう。たまに自慢のために付けていることがあるため、別に普通なことだと思い、三人は疑いはするが、証拠がないためクレイマンの後をついていった。
「はー、これまた減ったなぁ」
城に入ると豪華絢爛なエントランスは、シンプルながら気品のあるものに変わっている。高そうな品はなく、それどころかあんなにあった高そうな壺が何処にもなく、前の城内を知っている三人は殺風景だと思った。
「中庸道化連の、ラプラス様、フットマン様、ティア様。ようこそいらっしゃいました」
城内に入り、最初に待っていたのは執事のような老齢の男だった。しかし三人はすぐにその男の正体に気づく。
「悪魔やんけ!それも上位のやつやん。クレイマンこんな大物を召喚できたんか」
「おやおや、すぐに気づかれてしまいましたね。クレイマン様」
「本当にね。紹介しよう。この人は――あぁ、名無しだったね。まぁ執事と呼んでくれ」
三人は先程から驚きの感情ばかりであり、流石に疲れ始めた。
執事を加え、そのまま三人はクレイマンに案内されながら度々見かけ、クレイマンを視認するとお辞儀をするメイドの様子を観察する。
やはり恐怖と言った感情は見受けられず、あるのは喜びの感情であり、前来たときの疲労からくる憔悴しきった辛そうな顔は何処にもない。
クレイマンはある一室、三人はそこが食事場だと知っている。
「まずは旅の疲れを癒やすのと、もう昼時だからね。食事といこう」
扉を開け、クレイマンに続いて中に入ると特に目立ったもののない、あるとするなら長机くらいだろう。椅子の数は数えた感じでは十二はあり、こちらも特に凝った様子は無い普通の物だった。
「さて、もう料理は準備されている。食べるとしましょう」
クレイマンは一番奥の椅子に座り、三人は右側にラプラス、左側にティアとフットマンが座った。
クレイマンが手を叩くと、メイド達が料理を運んできた。こちらも見たことない料理で、野菜と肉が入った茶色のソースに白い粒が乗っている。
「カレーという料理だ。さぁ、食べようか。あぁでもその前に指輪は外しておかないとね」
クレイマンは普通なら汚さないために、指輪を外すが、三人はそれの意味を理解した。というよりすぐにその結果が現れた。
クレイマンの身体から感じたことのない魔力が溢れ出し、すぐに目の前の
「んなっ!、お、おま――」
すぐに問い詰めようと椅子から立ち上がろうとするが、突如として現れたメイドに肩を捕まれ、座らされる。
「お客様、食事時は立ち上がるものではないでしょう?」
勝てない。すぐにラプラスは直感する。その気配はあのコックと執事とは比べようがない圧が発せられ、仮面の下で冷や汗が流れる。
「皆さん、お入りください」
続けざまに先程入ってきた扉から続々と人が入ってくる。
クレイマンの幹部、五本指(四人)の面々に、見たことないドラゴニュート。そして最後に明らかに別次元の紫の髪をサイドポニーテールにした少女の姿をした悪魔が入ってきた。
(この席の数はそういうことかいな!)
メイドを入れて、ぴったり十二の席が埋まった。三人はすぐにこいつらは自分らにクレイマンに対して何もさせないために集められた面々だということを理解させられた。
「何者なんや、お前」
なんとか声を絞り出す。集められた八人は自然に食事をしているが、下手なことをすれば殺しにくるのが殺気から感じ取れる。
「クレイマンさ。クレイマンの身体を持ち、クレイマンの記憶を持ったクレイマンそのもの」
「性格は違うようやけどな」
「ふふ、まぁそこは仕方ないでしょう。さて、こうやって
クレイマンは自分が憑依し、この傀儡国ジスターヴを改革し、誰もが笑った暮らせる国に変えたことを話す。
前のクレイマンの人格は今のところ消えていると感じていることを最後に話すと、ティアが手を震わせ、仮面で見えないが、睨んでいるように見える。
「あんたが、あんたがアタイらのクレイマンを!」
「確かに、前のクレイマンはいないが、私には先程言った通りクレイマンの記憶はあるんだ。少しややこしい言い方かな?まぁ私が消えたと思っているだけで、本当はまだいるのでは?とはミュウランは考察しているが」
ティアの怒りをよそに、フットマンはカレーをすぐに食べ終え、口元を拭くと、話し始める。
「……それでです。何故ワタシ達をここに呼んだのです?まさかワタシ達を消すためですか?」
「なに、簡単な取引ですよ。私に危害を加えないという簡単のね」
「ほほ、破ったらどうなるます?」
「骨身に染みているでしょう?」
「……なるほど。わかりました、それではラプラス、アナタの決定を聞きましょう。ワタシ達はそれに従います」
「ちょ、フットマン!」
ティアは納得していないが、それでもこの状況ではどうしようもない。ピローネ程度ならやれるだろう。しかしあのメイドと、それ以上にあの紫色の髪の少女には三人がかりでも怪しいレベルだ。ラプラスが本気でやればなんとかいけるかもだが、その後の戦闘で必ず殺されるだろう。
ティアはフットマンのこちらを見る無言だがわかってくれという意思を汲み取り、苦虫を噛み潰したような顔を仮面の下でして、ラプラスの決定を待つ。
ラプラスは逃走という考えは既にない。ミュウランが必ず妨害するのもあるだろうが、ティアとフットマンを残して逃げれないだ。
ここまでノコノコと来てしまった時点で、選択は一つに絞られていた。
「……わかった。ワイらはお前に危害を加えないことを約束しよう、中庸道化連に誓ってな」
ラプラスは顔を下げそう言うと、クレイマンは口角を上げて、少年の時と優しい声音で感謝した。
「ありがとうラプラス。君ならその選択を選んでくれると信じていたよ」
こうして、クレイマンの最後の懸念事項を解消してのであった。
それにしてもどう見ても悪役である。