デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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Nishinniki様から支援絵を頂きました!
デジたんとうちの変態をサポカ風に描いてくださりました。
ありがたや…ありがたや…これでワクチン副反応も乗り切れる…()

【挿絵表示】



スイートガールズ

「昨日より耳の位置が4mmほど外側に傾いてる…。何かいいことでもあった?デジたん」

 

「おや、よく分かりましたね…ふふふ…」

 

朝からデジたんはご機嫌な様子だ。尻尾を振る間隔もいつもより0.3秒ほど短くなっているから間違いない。

 

「どんなことがあったの?」

 

「同志オロールよ。あなたなら分かるでしょう。薄っぺらな紙束に詰まった、無限大のロマンというやつを…ひゃふっ!?」

 

なにやら語り始めたデジたんだが、背後から誰かが彼女の肩に手を置いたので、可愛らしい驚きの声を上げた。

 

「グッモーニン変態ども。ここ座るぜ」

 

美しいその手の主はゴルシちゃん…後ろにはスピカの看板カップルの二人もいる。

 

「おはようゴルシちゃん、スカーレット、ウオッカ」

 

「おう、おはよう」

 

「おはよう二人とも…ところで、なんの話してたの?」

 

スカーレットがそう言った瞬間、デジたんはビクッと身を震わせた。

 

「エ゛ウッ…!…それは、まあ、あの…」

 

「デジたんがなんだか嬉しそうだったから理由を聞いてたんだ。薄っぺらな紙束がどうとかって…」

 

「ストォォーーーォップッ!!ドントォ!セイッ!エニィシングッ!」

 

突如、デジたんが僕の口元を手で塞いだ。…じんわりと汗が滲んでいる手で。

 

「…この味は!焦っている味だね…デジたんッ!」

 

「びょあああ!?ななな、何しました今!?」

 

まあまあ、細かいことはいいじゃないか。

それよりも、何となくだが、彼女がここまで焦っている理由を察してしまった。

 

「どうしたのよ?突然叫んだりして…何か恥ずかしい理由だったりするの?」

 

「尚更気になるぜ…俺たちにだけ教えてくれよ!誰にも言わねえからさ!」

 

「あ…あ、あ…」

 

デジたんはみるみる紅潮していく。今や髪よりも頬の赤みの方が濃い。可愛いなぁ。

 

「…あの…えっと、そう!本!欲しかった本を!買えたので…?」

 

「なんで疑問系なのよ…?」

 

それはきっと、デジたんとスカーレットの認識に齟齬があるからだろう。

 

…薄い本、と言ってもスカーレットは分からないだろうし。

 

「へぇー…本好きなのか?なんつーか、賢そうだな…」

 

「ぐはぁっ!!…純粋な視線が深々と突き刺さる…!痛い…心が…!」

 

今僕が助け舟を出せば、デジたんは非常に嬉しいと感じるのだろう。しかし、彼女の慌てふためく姿がもう少し見たいので黙っていよう。

 

「んふふ…可愛いなぁ…」

 

「…あの、そう思うのでしたら、助けていただけますか…?」

 

「可愛いなぁ…」

 

赤面するデジたん。

たったそれだけの事実が、僕に無限の興奮を沸き立たせてくれる。

 

そんなとき、ゴルシちゃんがぱんと手を鳴らした。

 

「とりあえず、そろそろ本題に入らせてくれ。お前ら全員に関係ある話なんだけどよ」

 

僕ら全員に関係がある、というとやはりスピカ関連のことだろうか。

 

「そういえばそうだったわね。確か、トレーニングのことだっけ?」

 

「ああ。トレーナーいわく、夏ももう中頃だから、季節感のあるちょっとしたイベントを用意したらしい」

 

季節感…夏らしいこと、というわけか。

夏といえば、海、山、祭り…しかし、ウマ娘の夏といえばやはり…

 

「もしかして、合宿とかやるのかっ!?」

 

「その通り!…だったらよかったよな。今のスピカにんなことやる金はねぇ。ただでさえあのトレーナーは万年金欠だってのに、こないだオロールに面白いくらいむしられたせいで最近はもやししか食ってないそうだぜ」

 

まあ、そんな気はしていた。

 

「残念ながら合宿じゃねえ。けど海には行けるぜ。明日はビーチの上でトレーニングだ。天気もいいし泳げるだろうな。つーわけで、明日は朝食済ませたらすぐ部室に来い」

 

「海…!なかなかいいじゃない…!」

 

「よっしゃ!泳ぎまくるぞ!」

 

「ふおぉ…!ウマ娘ちゃんの素肌を…!水しぶきの中、水面に反射する太陽に照らされるウマ娘ちゃんの御肌を…!そんなの無料で見てもいいんでしょうかっ…!」

 

ゴルシちゃんの言葉に三者三様の反応を見せる。しかし、皆楽しみなのには変わりないようだ。

 

なかなかやるな、トレーナー。ウマ娘のことをよく考え、こういう楽しめるトレーニングを企画するその姿勢には、素直に尊敬の念を抱く。

それはそれとして、きっとデジたんの水着姿を彼はやましい目つきで見るに違いないから、いつかその報いを受けてもらうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとウオッカ!もう少し詰めてよ!狭いんだから!」

 

「あぁ!?確かに狭いけど、それ以上にお前がデケェんだよ!色々と!」

 

「おいお前ら!狭いんだから騒ぐんじゃねえよ!」

 

よしお前ら、俺の車で行くぞ…などとほざいたトレーナー、しかし車内を見たときに、僕らウマ娘の心は一つになった。

 

すなわち、荷物をどかせこのダボ、である。

そこら中に積まれたよく分からないガラクタのおかげで、僕らは非常に窮屈な思いをすることとなった。シートは三列あるが、ウマ娘の隣に座ると確実に死ぬデジたんと、彼女の隣を絶対に譲りたくない僕で一列、残り三人で一列を使っている。

あーすまん、荷物どかすの忘れてた、まあ少し狭くなるが乗れるだろ、ははっ…とのたまってくれたトレーナーに当てつけるように狭い狭いと喚きたくなるのは当然である。

 

「まあまあ、みんな。狭いのはしょうがないよ。落ち着いて」

 

「…そうだな、仕方ねえ。狭いのはどうにもならねえからな」

 

こんなことをやっていると、運転中のトレーナーが髪をかきながら言った。

 

「ホントにスマン!沢山人を乗せるのが久しぶりだったもんで、つい荷物をどかすの忘れてたんだよ」

 

「などと言っておりますゴルシ裁判長。判決を」

 

「んー…じゃあジュース奢れトレーナー」

 

なんとも優しい判決だ。僕ならばもう少し追い詰めたくなる。

しかしゴルシちゃんがそれでいいのなら、僕もいいとしよう。

…実のところ、僕はむしろ狭くてよかったとすら思っているし。

 

「…確かに、狭いですからね、距離が近くなるのは分かりますよ?」

 

「そうだね。それがどうかした?」

 

「あの…だ、抱きつく必要性は…ないと、思うんですケド…」

 

「ハグすることで脳内に幸せを感じさせるホルモンが分泌されて、ストレス解消に繋がるそうだよ」

 

それと、僕にとって必須の栄養素であるデジタニウムの補給方法はデジたんを直接肌で感じることだ。摂取しないと僕は5日以内に生命活動を停止してしまうので、つまるところ、これは必要な行為なのである。

 

「世界で一番ストレスから程遠いであろうお前が何言ってんだよ」

 

「僕をまるで何も考えてないヤツみたいに言うのやめてよ。悩み事の一つや二つくらい僕にも…」

 

あれ?よく考えたら…いや、よく考えずとも僕はデジたんさえいればそれでOKなので、悩み事などほとんどなかった。

 

「言えねえのかよ。予想はしてたけどよ」

 

「…悩みがないっていいことだよ、ゴルシちゃん」

 

「頭ん中がお花畑だと幸せだな」

 

「…あーんデジたーん、ゴルシちゃんが僕のことをいじめるよー…デジたん?」

 

ふと見やれば、彼女は安らかな顔で寝入っていた。幸せの絶頂で眠りに落ち、夢で続きを見ているかのようだ。

 

「…なあトレーナー、あとどんくらいかかる?」

 

「…一時間くらいだ」

 

「…オッケー」

 

ふむ、今の話からするに、僕は少なくともあと一時間はデジたんの寝顔を拝めるわけだ。ならば存分に堪能させてもらおう。

 

「ふへへ…」

 

「…んハッ!?何か、底の知れない気配が…!」

 

あ、起きちゃった。残念。

 

 

 

 

 

 

 

 

真夏の太陽。どこまでも広がる青。

こういう絵面を前にしたときの第一声といったら、やはりこれだろう。

 

「海だーーーー!」

 

「お前さ、そういうのは波打ち際で言うもんだろ。車から降りるなり叫ぶんじゃねえよ」

 

「細かいことは気にしちゃあダメだよゴルシちゃん。この海のように広ーい心を持たなきゃ」

 

それに、今の新鮮な気持ちを抱えているときに言っておいた方がいいだろう。どうせ、すぐには遊べないだろうから。

 

「おーいお前らー。一応今日やるのはトレーニングだからな。もちろん泳ぐのもいいが、ひとまずそれは後だ」

 

僕らに続いて車から降りながら、トレーナーが言う。

 

「こういうビーチの砂の上を走るのは、トレーニングに非常に効果的だ。詳しい効果はやってみればはっきりと分かる!それほどに大きい効果がある。とにかく、最初はランニングだ!早速行ってこい!」

 

その言葉を聞いた僕らは、はい、と揃って返事をしたのち、砂浜の方へと走り出した。

 

「ふぅ…泳ぐのはもう少しおあずけね。ま、効果的なトレーニングができるのなら構わないけど」

 

「うへー…俺は早く遊びたいぜ、せっかく海来たんだからよー。そもそも、砂の上を走って何が効果的なんだよ?」

 

ウオッカとスカーレットが会話をしているうちに、足元は道路から砂へと変わった。

瞬間、今までとはまるで違う踏み込みの感触が、はっきりと足の裏へ伝わってくる。

 

「うおっ…!あぶね、コケるとこだったぜ」

 

「きゃっ!ち、ちょっとウオッカ!何よ、アンタはアタシの肩に掴まってなきゃ満足に走れないわけ?」

 

「ウ、ウルセェ!」

 

早速ウオッカがよろけ、近くにいたスカーレットに寄りかかっている。少し顔が赤くなっているのが可愛い。確かに、転ぶのはカッコイイとは程遠いから、カッコイイを目指す彼女にとっては恥ずかしいことだろう。まあそれが可愛いのだが。

 

「おお…!普段よりも踏み込みにパワーが要りますね。これは確かにいいトレーニングです…!」

 

「少し走っただけでも、結構くるものがあるね…」

 

デジたんの言う通り、砂に足を取られるので普段より力を入れなければうまく走れない。その上不安定だから、バランス感覚も必要になってくる。不規則な砂浜をテンポよく駆け抜けるために、いつもよりも足元に注意する必要もある。

シンプルだが、効果的なトレーニングだ。なかなか楽しい。

 

「…せっかく海に来たんだし、何かおいしいものを食べたいわね、スイーツとか…」

 

「はぁ?そこは普通、あれだろ…かき氷とか焼きそばとか、そういうヤツを食うだろ」

 

「…むぅ、何となくスイーツが食べたくなったのよ!」

 

「やっぱり海とは関係ねえじゃ…うおっと!まただ…砂の上だとペースが乱れちまうぜ…」

 

ウオッカがまたふらついた。あまり会話に気を取られていると、このようにバランスを崩してしまう。例え怪我に繋がることがなかったとしても、体力は消耗してしまうので、ペースを保つことは重要である。

 

「ペースが乱れるんだったらよ、掛け声でもやってみりゃいいんじゃねえか?」

 

「おお、いいなそれ!じゃあ、なんて言うか決めようぜ!」

 

「んー…スイーツ、とかでいいだろ。丁度スイーツ狂いもいることだしよ。スイーツ!スイーツ!」

 

「ち、ちょっと!?それってアタシのこと言ってるんじゃないでしょうね!?」

 

なるほど…面白い掛け声じゃないか。

前世で聞いた掛け声だが、案外適当に決まっていたものなんだなぁ。

 

「スイーツ!スイーツ!」

 

「ちょっと!誰か質問に答え…ああもう!ス、スイーツ!スイーツ!」

 

しかしこの掛け声、なかなか優秀かもしれない。てんでバラバラだった皆の足並みがわずか数秒でキッチリと揃った。

 

こうして、ビーチで奇声を上げながらランニングする集団が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

トレーニングを一通り終えると、僕らにジュースを渡しながらトレーナーは言った。

 

「お疲れさん。…いいぞ、行ってこい」

 

彼はたったそれだけ述べた。…更衣室を指差しながら。

 

「よっしゃあ!泳ぐぜー!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!アタシが先に泳ぐのよ!」

 

トレーナーの言葉を聞くやいなや、二人がすっ飛んでいった。

 

「…じゃ、デジたん。僕らも行こう」

 

「…へっ?あ、ちょっ!?なぜいきなりあたしを抱えて…!ひゃっ!?」

 

「デジたんはどうせあれでしょ?泳ぐつもりがないからって水着を持ってこなかった。違う?」

 

「え、ええ…それはそうですけども…あの、お姫様抱っこ的なコレは一体なんなんでしょうか…?」

 

「んふふ…大丈夫だよ…」

 

「何がですか!?」

 

デジたんが水着を用意していないのは予想していた。だからこそ、こうして僕は彼女を抱えて更衣室へ向かっている。

 

更衣室の中に入り、僕は持ってきたカバンの中を開けた。

 

「はい、デジたん。どれがいい?」

 

「エ゛ッ…これ…水着?」

 

僕がカバンから取り出したのは、何種類かの水着。

いつかデジたんに着せようと思って、前々から買っていたものである。

 

「いえ、いいですよオロールちゃん。あたしは見てるだけで満足…」

 

「はい、デジたん。どれがいい?」

 

「…ですから、あたしはやっぱり…」

 

「はい、デジたん。どれがいい?」

 

「…では、この左端のやつを着てみようかと思います」

 

よし!デジたんが着てくれる!

 

「じゃあ僕は後ろを向いてるよ。着替え終わったら教えて」

 

「…別に、あたしは見られてもなんとも…まあいいですけど」

 

もし僕が直接いろいろと見てしまった場合、何かが抑えきれなくなる気がする。そうするとデジたんに引かれるかもしれないので、後ろを向いた。

デジたんに引かれないようにすることが目的だ。だからといって、僕は決して周辺視野と鏡を利用して彼女に悟られないよう見るなんてことはしてない。してないったらしてない。

 

「お、終わりました…」

 

「ん、了解…ッ!」

 

「サイズがぴったりなことについては何も言いませんよ…。サイズ把握はもはやウマ娘オタクの必須スキルみたいなところありますからね、ハイ」

 

「っ…!」

 

デジたんが選んだのは、比較的控えめなデザインの水着。布面積は比較的多めで、ほぼ洋服といってもいいだろう。

しかしへそ出しである。しかしへそ出しなのである。

…すごくエッげふんげふん。

 

「あの…突然固まってどうしました?オロールちゃん?」

 

「…あ、いや、デジたんが眩しすぎて」

 

「そ、そうですか…」

 

水着デジたん。ずっと見ていられる可愛さだ。デジたんが可愛いのは元々だけど。

 

「…ところでオロールちゃん。あなたは着ないんですか?」

 

「あ、うん。今日はずっと君を眺めようと思ってたから、君の分の水着しか持ってきてないし」

 

「ふふふふ…そうですよね…」

 

突然デジたんは笑いだした。何かが面白くてたまらない、といった笑いだ。

 

「あたしたちは、やっぱり似た者同士なのでしょうね…ほら、これを見てください」

 

彼女は自分のバッグから何かを取り出し、それを僕に見せた。

先程僕が彼女に着せたものと非常によく似た形状のものを、彼女は取り出していた。

 

「…デジたん、まさか…」

 

その水着を、僕に着ろと?

 

「はい、オロールちゃん。着てください…と言えば、あなたはきっといつか着てくれるでしょう。しかしそれよりももっと確実な方法があります。それは…」

 

僕の方へと一歩、また一歩と近づいてくるデジたんは、ついには目と鼻の先にまでやってきて、僕のジャージに手をかけた。

 

「あ…デジ、たん…?」

 

シャツに手をかけた。

待ってくれ。やっぱり逆だろう、僕と君の立場が。

…こんな時に限って、体と口が言うことを聞かない。

 

「じ、自分でやっておいてなんですが、けっ、結構緊張するというかなんというかッ…」

 

彼女の顔はりんごのように赤いが、きっと僕も、それと同じくらいには赤いのだろうか。触れ合っても、お互いの体温が分からない。

 

 

…サイズはぴったりだった。




水着デジたん実装されないかな()


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