デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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水着スペちゃんが当たったから海の話を書きたくなったわけでもなければ、アプデを満喫してたせいで更新が若干遅れたわけでもありません。
ありませんっ!!!


1パーセントのヒラメキ

ばしゃり、ばしゃり。

 

「ひゃんっ!?ち、ちょっとウオッカ!?何すんのよ!」

 

「へっ!せっかく海に来たんだから楽しまなきゃあな!それっ!俺のウォータースプラッシュだぜ!もっと喰らわせてやる!」

 

「何よそのヘンテコな名前!相変わらず子供っぽいわね…ぴゃっ!?」

 

ばしゃり。

 

「…もう頭にきたわ!覚悟しなさいッ!」

 

「うおおおっ!?て、テメースカーレットッ!やるかッ?上等だぜーっ!」

 

ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ。

 

「…いいものだねぇ…」

 

「…いいものですのぅ…」

 

水着に着替えたのち、僕らは浜辺に座り込み海を眺めていた。

というより、水飛沫の向こうで尊みを放出しまくるウオッカとスカーレットを拝んでいる。

 

というより!僕はその尊い光景を眺めるデジたんからさらなる尊みを享受している。

いつもよりも多く晒された素肌に飛んできた波の欠片が、珠玉となって彼女の魅力を引き立てる。大海原を見つめるそのどこまでも透き通ったアクアマリンの瞳は、無限の青を湛えている。

…なんだ、この神々しすぎる美少女は。

 

「…僕は悪くない僕は悪くないデジたんが可愛いのがいけないんだ、仕方ないんだ…」

 

「あ、あの…どうしました…?」

 

そう仕方ないんだ、僕がこうやって思わず手を出してしまいそうになるのはしょうがないことなんだ!

 

「…っ」

 

「デジたん…君が尊すぎるのがいけなヘブッ!!」

 

いたい。この叩き方は確実にゴルシちゃんだ。だっていたいもん。

振り向けばやはりそこには水着を着てよりスタイルの良さが引き立った芦毛が立っていた。海を満喫する気マンマンのスタイルだ。シュノーケルに浮き輪、手にはビーチボールにバケツ、あと日焼け止め…それで叩いたのか、そりゃあ、いたい。すごく。

 

「やめろよ?衆目があるんだぜ?他人のフリしよーにもツライぜまったく。つーかよ、ピンクの方。オメーもなんとか言えよ」

 

「…!え、ええそうですとも、そりゃああたしだって一言二言は言おうとしたのですっハイ…。あたしはいわゆるオタクで…つまりは見る専で結構なのだと、そう思っていたのですが…!」

 

拳を握りしめるデジたん。

 

「…あの、その…これはもう、役得ッ!…なんじゃないかと思ってしまう自分がいるわけなのですよ…あはは〜…」

 

「ンン〜分かるよッ!そういうことだよデジたんッ!あくまでも己はオタク、その線引きをしっかりしているつもりでもね!いざこうして何度も姿を拝んでいると、溜め込んだものはいつか必ず爆発するのさッ!」

 

僕は、これがウマ娘という生き物としての性なのだと、これが勝利に貪欲であるウマ娘の本能がもたらす衝動なのだと思うことにした。

 

「そう、本能なんだよデジたん!一度抱いた願望がとことん大きくなって、やがて何としてでもその望みを叶えたくなるのが!僕らウマ娘なん…疾ッ!!」

 

瞬時、風切り音が僕の耳の僅か数センチ横を駆け抜ける。

…何か物体が飛んできた。ゴルシちゃんの方から。

 

「…!危なかった。ゴルシちゃん…君の日頃の行動の一挙手一投足からシミュレートし、その行動パターンを予期していなければ、今投げられた日焼け止めをかわすことは不可能だった…」

 

ゴルシちゃんは今僕に向かって日焼け止めを投げた。しかし、眉間直撃コースだったそれに僕は決して当たることはなかった。後ろでズンと何かが沈む音がしたので、本来僕に当たるはずだったそれは砂浜に突き刺さったのだろう。…結構力強く投げてるじゃん、怖い。…とにかく、そう!予測していたからこそ、座った姿勢からスマートに跳躍し、回避することができたのだ!

 

「…疾いっ!今のオロールちゃんの動き、視認が難しいほどに滑らかで素早かったです…!実に無駄のない動き…!完璧なタイミング予測と、砂地を蹴って瞬時に加速するその脚が為せる神技ッ!」

 

デジたんはいつの間にか数メートル離れたところで、腕を組みながらそんなことを言っている。なんだか楽しそうだ。

 

「…いや、予測できるんだったらよ、そもそもテメーが原因だってこと分かるだろ。つーかデジタル、お前もノリノリだなおい。何バトル漫画の解説役みたいなことしてんだよ」

 

「…いいね、デジたん。分かってるね…。バトルに解説役は付き物ッ!そういうことだよゴルシちゃん!」

 

「いや、バトルじゃねえから…ハァ」

 

後ろ髪をかきながらゴルシちゃんはやってられんといった様子でため息を吐いた。

しかし、今この場では!ノッた者こそが勝者!このバトルノリについていくことが勝利への近道…。ゆえに、ゴルシちゃんには日頃のお返しも兼ねたチョップを喰らってもらおう!

 

「そっちがその気じゃなくとも僕はいくよゴルシちゃぁん!喰らえーっ…ッ!?」

 

「…ハァ、だからバトルじゃねえって」

 

「なななっ!?なんと鮮やかな動き!一見隙だらけに見えるその振る舞いは、しかしあらゆる攻めに対する究極完全な防御の姿勢だったッ!まるで合気道のようにッ!オロールちゃんをいなしたッ!」

 

それを待ってましたとばかりに、彼女は僕のチョップしようとした腕を素早く取って、その勢いを利用して僕を元いた位置へと投げ飛ばした。バランスを保てず、思わず尻餅をついてしまう。

…もしかしてゴルシちゃん、意外とノリノリ?

 

「…バトルじゃあねえぜ。初めっからッ!勝ち負けが決まってるんだからなァ〜ッ!」

 

「…ッ!?何を言って…!?」

 

次の瞬間、ゴルシちゃんはさきほど持っていたビーチボールを、勢いよく僕に投擲した。…しかし、このコースでは間違っても僕にかすりもしないだろう。彼女は狙いを外したようだ。

まあもっとも、ビーチボールが当たったところで痛くもかゆくもないが。

 

「ふふ、残念だったねゴルシぢゃっ…ッ!?」

 

破裂音。至近距離。

分かったことはそれくらいだった。パァンと大きな音が僕の背後で鳴り、耳の中で何度も残響する。

脳を揺らされたような気分だ。

 

「…ふう、アタシの勝ちだな!」

 

「あ゛ッ!あだだだだ!ギブ!ギブッ!」

 

ゴルシちゃんめ、僕がフラついてるうちにプロレス技をかけてきた…いたいいたい関節いたい関節固まってるいったぁいッ!

 

「なっ、なんとッ!?投げたビーチボールが、先程地面に突き刺さった日焼け止めによって割られたッ!ウマ娘ちゃんの強靭な膂力によって投げられたボールが、ご丁寧にフタを取られた日焼け止めの先端が刺さって割れたッ!…しかし、おかしいです。いくらウマ娘の力とはいえビーチボールがああも容易く、そしてあんな大きな音を立てて割れるはずが…?」

 

「ヒュー、いい音だったぜ。アタシが投げたのはビーチボールじゃなく、ソレに見せかけた模様の入っただけのゴム風船だったのさ!」

 

…なるほど。この程度の距離、ウマ娘の力ならば空気抵抗など関係なく豪速球…豪速風船を投げられるだろう。

それにしても、なんだかんだ一番ノリノリだったのは間違いなくゴルシちゃんだな。

 

「ち、ちなみにゴルシちゃん…一体なんだってそんなものを用意してるの…?ァ゛ッ!?あだだだだッ!ギ、ギブ!ギブだって!」

 

「ん、レモン汁塗ったあとトレーナーの側に転がしとこうかと思ってた」

 

「な、なぜそんなことを…?」

 

「ふふふ…デジたん…レモンやオレンジの皮に含まれる成分はゴムを溶かすんだ…。つまりゴム風船に塗っておけば時間が経つと割れァあだだだッ!?ギブッ!アップ!ゴールドシップッ!ストォーップ!」

 

「しょうがねえな。ホレ」

 

ふう…やっと放してくれた。なにもこんなにキツく長く締めなくたっていいじゃないか。

 

「うし、茶番も終わったことだし、とっとと行こうぜ。まだまだ風船はあるからな」

 

「ん、ああ…そうだね、行こう」

 

せっかく海に来たのだから楽しまなければ。ノリにノッた者勝ち。トレーナーに恨みはちょっぴりしかないが、とりあえずゴルシちゃんと一緒に彼の鼓膜をぶち破りにいこう、絶対面白い。

 

…企む僕らの前に、影が立ち塞がった。

 

「おーいお前ら…何やろうとしてる?」

 

「げ、トレーナー…」

 

「げ、とはなんだゴルシ。…そこの二人、コイツが何企んでるか知ってるだろ?」

 

「知ってますよトレーナーさん。僕ははっきり聞きました。ゴルシちゃんはトレーナーさんの側で風船を破裂させようとしてました。まったく、なんて悪質なイタズラ…!」

 

まったく、ゴルシちゃんは許せんよなあ。平気でこういうことをやるからなあ彼女は。

 

「白々しいなオイ。さしずめお前も共犯だろ?んでそっちのデジタルは、態度からして巻き込まれただけってとこか…。そうだろデジタル?」

 

「あたしも共犯です、トレーナーさん!むしろあたしが発案者ですッ、ハイ!」

 

デジたん…!心根が優しく、基本的にウマ娘を庇いたくなるその性格ゆえに一人だけ罪を被ろうとするその姿勢は非常に尊い。しかし、面子が面子なだけに、それが逆に僕らの罪を決定づけてしまう。

 

「く〜ッ…ったくお前らよ、毎回聞いてる気がするが、俺になんか恨みでもあるのか?」

 

わりとある。デジたんの足を触ろうとした罪は一生消えることはない。

 

「…ま、ガキに大人がたかるわけにもいかんしな。大したお咎めはしない。強いて言やぁ、お前らにゃ追加でトレーニングでもやってもらおうかと思っている」

 

ふう、良かった。トレーニングならむしろ大歓迎。追加で指導を受けられるというのなら、それはもはやご褒美だ。僕の方からお願いしたいところである。

 

「あ、ちなみに個人メニューだからな」

 

「ノォォォォッ!?」

 

デジたんは!?デジたんと一緒にトレーニングするんじゃないの!?

思わず砂の上に倒れ込む。…なんだ、まったく。楽しみが半減した。

 

「デジたん、僕のことを忘れないでくれる?きっといつかまた会えるから…」

 

「今生の別れかよ」

 

デジたんと一緒にトレーニングすることの味を覚えてしまったからには、以前のように一人でトレーニングするのがとても辛いことのように感じる。

 

「はぁ…楽しそうだな。お前ら」

 

トレーナーが言う。

そりゃあ、楽しいよ。このチームは。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、トレーニングを始める前に何やら言いたいことがあるとかで、トレーナーがスピカ全員を部室に集めた。

 

「よしお前ら。今日から、お前らそれぞれにやってほしいことがある。今後の成長に大きく関わってくることだ」

 

「成長…!いい響きじゃない、早く教えなさいよ!」

 

「まあ待て。それぞれと言ったろう。一人ずつ説明する」

 

…ふむ、なるほど。

先日言っていた個人メニューというやつか。どうやら僕とゴルシちゃんだけでなく、全員が対象のようだ。

…デジたんと一緒にできないのは非常に、すごく、それはもうとんでもなく残念だが、しかし依然として楽しみなことに変わりはない。一体何をしろと言うのだろうか。

 

「じゃあまずはウオッカ…それとスカーレット」

 

「おう、なんだ?」

 

「え…一人ずつじゃないの?」

 

「ああ、お前ら二人だ。そうじゃないと意味がない」

 

分かってるじゃないかトレーナー。この二人は一緒にいるべきだ。それがあるべき形だ。

 

「こないだ海に行ったときにいろいろ閃いたんだが…とにかく、傍目から見てお前ら二人はとても仲が良い…」

 

『良くないッ!』

 

ハモりながら言ってる時点で相性バツグンだよ。

 

それに、海でいろいろ閃いた、と。

やはりトレーナーになるには、日常の些細な出来事からそれはもうビックリするほど沢山のアイデアを閃けるようにならなくてはいけないのだろうか。

 

「…とにかく!二人は良きライバルってわけだ。俺から言うことは一つ。今後もその調子で互いを意識してトレーニングに臨め。分かったか?」

 

「…?お、おう…?」

 

「ライバルを、意識…」

 

なるほど、常に互いに向上心を刺激し合うことでより成長させようという気だろうか。

ライバル、いいねぇ…。何がいいって、その関係性は非常に尊みがある。

 

「で、次にデジタル。お前なんだが…」

 

「ハッ、ハイッ!何でございましょうかッ!」

 

「お前はいわゆる、…まあ、アレだ。だから他のウマ娘に対する観察眼やリサーチ能力には目を見張るものがある。それをもっと活かすんだ」

 

「…えっと、あたしは具体的に何をすれば?」

 

「そうだな…まずはどんどん他のヤツらに絡みにいけ。特にライバルになりそうな同年代のヤツらなんかにな。相手の体格や足のサイズ、レースの癖や性格なんかを余すところなく観察して、そこから学びとれ。…できるか?」

 

「ェ゛ッ…ウマ娘ちゃんに…あたしが…かっ、…絡みに…?」

 

デジたんの他のウマ娘に対する基本的スタンスは、完全なるオブザーバー。一線を引いて、あくまでもファンの一員として接する。しかし、彼女とてウマ娘、どちらかといえばトレーナーの言ったようにライバルとして接する方が正しいのだろうが、彼女にはそれが難しいのだ。オタクだから。すごいオタクだから。

 

「で、オロール。次はお前だが…」

 

「あ、僕ですか?何でしょう?」

 

「お前、自分の長所を聞かれたら何て答える?」

 

「…まあ、記憶力がある、と」

 

「そう、それだ。記憶力。そいつはレースにも活かせる。レース理論だったり、相手の情報だったりを余すところなく記憶できれば、それだけで大分有利だからな」

 

…既に僕は、学校に保存されている過去のレースの映像だとか、図書館のレース本だとかを完全に覚えている。

つまり、今までとやることは大して変わらないのだろうか。

 

「だからお前にはコイツをやる」

 

「何ですかこれ…?ファイル…?」

 

トレーナーが僕に渡したのは、数枚のプリントが入ったファイルだった。

中を覗くと、どうやらとあるウマ娘のデータが書かれているようだ。

 

「それはお前のライバルになりそうなウマ娘のうち一人のデータだ。プラス、俺というトレーナーの視点から見た考察だとかも書いておいた。しっかり読んでおけ」

 

「…トレーナーさん。一ついいですか?」

 

なるほど、確かにこれは非常に良い物だ。対戦相手を知ればそれだけ勝てる確率は上がる。しかし…だからこそ、彼に言いたいことがある。

 

「自分で言うのもなんですが、僕の記憶力ってかなりのものなんです。それこそ、コレと同じようなファイルがあと百枚あったって1日で覚えられる…だから、こんな風に一人分のデータを渡さずとも、まとめて一気に渡してくれて大丈夫ですよ?」

 

「お前の記憶力のことは知っている。だがあえて一人分だけ渡した。…そうだな、その理由を考えてこい。それもトレーニングってことにしよう」

 

「…?はい、分かりました…」

 

理由…?

そんなの、トレーナーがリサーチを怠っているから一人分のデータしかない、とかじゃないのか?

…しかし、それを考えるのもトレーニングの一環であると彼は言った。一体どういうことなんだろう。

何にしろ、彼は僕らのことをしっかりと見ている。きっと何か意味があるのだろう。

 

「なートレーナー、アタシは何やりゃいいんだ?」

 

「ゴルシ、お前は雑用だ。俺を含め、皆のジュースとかを買いに行くような係だ。安心しろ、金は出すから」

 

「…ハァ?」

 

…雑用て。

いやしかし、このトレーナーのやることだ。一見適当そうに見えて、しっかりとチームのメンバーのことを考えているトレーナーのやることだから、やはりきっと何か意味があるのだろう。

…アニメでトウカイテイオーが骨折した際も、似たようなことを彼はやらせていた。その目的は、他のメンバーとの交流の中で走る意味を見出してほしい、というものだった。

 

「…ゴルシちゃんはいつも適当だから、こうして仕事をさせることで目標意識を芽生えさせ、しっかりとした目標を持てるようにする…そういう意図があったり?」

 

「いや違うぞオロール。特に意味はない。どうせゴルシは好きに走らせとくのが一番いいんだ。だったらせめて俺の仕事を減らしてもらおうかと思ってな…」

 

「おいおい、ゴルシちゃんはそんなの勘弁だぜ」

 

ゴルシちゃんに関して、トレーナーは既に思いっきり匙を投げていた。

ゴルシは好きに走らせとくのが一番…確かにそうだろうが。

 

まあ、何はともあれ。

これからはいろいろとやることがある。

自分のトレーニングももちろん大事だが、僕にとって一番大事なのは…

 

「あ、あぁ…あたしが…ウマ娘ちゃんのあんなことやこんなことを…」

 

可愛いデジたんの力になってあげることだ。

ウマ娘と会話、ましてやその中で情報を探るなど、会ってすぐに限界化する彼女には難題だろう。

これからは常に僕が側にいて彼女のアシストをしてあげよう。うん、それがいい、それがベストだ。

 

個人メニューと聞くと、いよいよトレーニングが本格的に始まったような感じがする。

ふふ、楽しくなってきた。




拙者
「ゴルシ!…は、うん、好きに走れ」
「オッケー」
のときのゴルシちゃんの流し目大好き侍(ry

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