デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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12月なのでホーム画面ウマ娘を水着スペちゃんにしました。


理解から最も遠い感情

じー……。

 

「……?」

 

じー……。

おお…!ゆっさゆさ…!

 

「むぅ…」

 

じー……。

ふむふむ。

ホントに同い年なのか思わず疑ってしまう。

涼風に揺られる栗毛のなんと嫋やかなことか。

 

「…何でさっきから人の体をジロジロと眺めてるわけ?」

 

「じー…っあ、うん。ごめん。ちょっといろいろと気になって。肉付きとか…」

 

サァーッと音がしそうなほどの勢いでスカーレットの顔が青ざめていく。

 

「あぁッ違う違う違うッ!いや、違くはないかも…やっぱ違う!断じて!これには深いわけが…!」

 

「ふぅーん…」

 

「ホントホント!いかがわしい気持ちなんてこれっぽっちも…ほとんどまったく抱いてないさ!肉付きってのはつまり…筋肉のつき方だとか、体格だとかそういう意味で言ったんだ」

 

やましいことなど多分きっとそれほどあまりそこまで考えてない。

…デジたんにはない艶やかな魅力が彼女にはある。多少なりとも見入ってしまうのは仕方がない。

街中でお洒落な服をショーウィンドウの向こうに見つけたとき、つい歩調を緩めてしまうようなもの。不可抗力だ。

 

「それならいいんだけど…でも、どうしてよ?」

 

「見て損はないでしょ?ウマ娘の体を観察して分析する。トレーナーさんがやるように、ね。もっと目を鍛えてこの技能をマスターすればかなり役に立つと思わない?…それに、チームメイトのことはしっかり見ておきたくて。自分では気づけないような体の異常なんかが見つかるかもしれないから」

 

凄まじい膂力を持つウマ娘の身体だが…実のところ、かなり脆い。

人間と変わらない体躯から繰り出される圧倒的なパワーゆえに、体には大きな負担がかかる。

十分なケアをしていても、怪我を避けることは難しい。

 

その上、ウマ娘という種族にはまだ未解明な部分も多く、人間には見られない特殊な病気だとかもある。予防しようのないそれらには、治療も困難かもしくは不可能であるものも多い。

異常の早期発見、早期治療ができるかどうかは、ウマ娘の選手生命を左右するのだ。

 

そう、僕はチームメイトの身体のことをしっかり考えているのだ。やましいことなどほんのちょっぴり、小指の爪くらいにしか考えてない。

 

「…アタシってそんなに怪我しそうに見える?」

 

「え?別にそんなことないよ。ただ単にチームメイトだから気にかけてただけ、みたいな。…どうして?」

 

「同じようなことを前にも言われたのよ。…ウマ娘について研究してる先輩に」

 

なるほど、スカーレットの知り合いのウマ娘について研究している先輩……ん?

 

「ねえ、それもしかして…タキオンさんのこと?」

 

そういえばあのムァッドサイエンティストはスカーレットのことを何かと目にかけていたのだったか。史実では親子関係にあったからな。

どうやら二人は既に出会っているようだ。アニメではOVAの「BNWの誓い」時点でまだ初対面だったはずだが、僕とデジたんがスピカに加入したのと同じく、何らかのパラレル的要素が発生したらしい。

 

「あら、タキオンさんのこと知ってるの?そうよ、その通り。…って、オロール。まさかあんたまでタキオンさんのことをマッドサイエンティストだのなんだのと言うんじゃないでしょうね?」

 

「…え?…あ、ウン、モチロン。タキオンさんは優しい人だと…思うヨ」

 

そうだった。タキオンさんはスカーレットを実験台にしたりしないから、彼女に優しい先輩として慕われているのだ。

 

「みんなタキオンさんのことをそうやって勘違いしてるのよ…。あんなに優しくて頭も良いのに。最近タキオンさんから特製のサプリを貰ったんだけど、それを飲んだ途端に一瞬で調子が良くなったのよ。…そんなすごい物も作れる人なのに、どうして皆誤解するのかしら…」

 

だってマッドなんだもんあの人。

そりゃあ、僕だってタキオンさんのことは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。ウマ娘だけあって魅力的な容姿、内に秘めたる悍ましいほどの才能と狂気。オタクとしては大変刺さるものがある。

だから、薬の実験台になれと言われたとしても僕は満更でもない。あのえげつない甘味と蛍光色をどうにかしてほしいところではあるが。

 

結局、マッドなことに変わりはない。

 

「…あ、そうだ。ちょうど今日そのサプリを貰いにタキオンさんのとこに行こうと思ってたのよ。アンタも来る?」

 

そうだなぁ…。

デジたんも「今日は文化的で創作的な活動に集中したいので…!」と言って部屋に閉じこもっているし、暇つぶしについて行くのも悪くない。

 

「うん、行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

トレセン学園のとある空き教室。

そこの扉を開けると、中にいたのは漆黒クール系ウマ娘ことマンハッタンカフェさんであった。

 

「あ…こんにちは…。スカーレットさん、オロールさん…。タキオンさんなら今は図書室に行ってますが、すぐ戻ってくるそうです…」

 

「こんにちはカフェさん。それじゃ、ここで待ってもいいですか?」

 

「はい、どうぞお掛けになってください。…コーヒー、飲みますか?」

 

「あ、いただきます」

 

「…アタシも、お願いします」

 

僕とスカーレットは近くの椅子に腰掛け、コーヒーとタキオンさんを待つことにした。

 

豆の挽かれる小気味良い音と深い香りが神経を刺激する。なかなか本格的なようで、実に楽しみである。

 

「…あ、そういえば…。今日はいないのかな…」

 

「いない?誰のこと?」

 

「あー…それは…」

 

誰、というか。ナニ、というか。

今日は、例の可愛い「お友だち」の姿が見えないのである。

 

「……あの子なら、さっき避な……どこかへ行ってしまいました」

 

カフェさんが背中を向けたまま教えてくれた。今日は会えなさそうだ、残念。

 

「…ねえ、二人とも誰のことを話してるの?」

 

僕はてっきり、「お友だち」はカフェさんにつきっきりなのかと勝手に思っていたが、そんなこともないらしい。

…いつでも会える可能性がある、とポジティブに考えることにしよう。

 

「…ねえ、誰なのよ…?」

 

「…お待たせしました。砂糖とミルクはご自由にどうぞ」

 

僕らの目の前に芳醇な香りのするカップが二つ、コトリと置かれた。

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

せっかくのお手製本格派コーヒーだ。まずはブラックで味わってみよう。

カップに口をつけると…何とも深みのある味わいというか、…芳香、コク、リッチな風味…僕の語彙では言語化するのは難しいが、素直にとても美味しいと思える味が、舌の上を転がった。

 

「美味しいです。とっても」

 

「ありがとうございます。…誰かと飲むコーヒーというのも悪くなさそうですね…。あの子も、私の淹れたコーヒーを飲めたならいいのに…」

 

どこか遠くを見るような目で、彼女は言った。

 

「あ…アタシも、いただきます…。って、ホントに誰なの?…ちょっと?」

 

コーヒーを楽しんでいると、廊下から足音が聞こえてきた。…コレはタキオンさんの足音だ。

間もなくして、部屋のドアが勢いよく開かれた。

 

「ンカ〜フェ〜ッ!カフェよ!君にピッタリな薬品のレシピを思いついたから今すぐ実験を…っと、お客さんかい?」

 

「あっ!タキオンさん!こんにちは!」

 

「こんにちは、タキオンさん」

 

スカーレットのキラキラした視線を受けるタキオンさん。その顔に浮かぶのは、まるで父が我が子に向けるような優しい表情。

あー…てぇてぇ!

 

「やあスカーレット君…それにオロール君も。何か私に用でも?」

 

「はい、タキオンさん!実は例のサプリのことなんですけど…」

 

「あぁ!…どうだった?効果の実感は?何か走りに影響は?いろいろと感想を聞かせてくれたまえ!…それとも、何か問題でもあったのかね?」

 

「いえ!むしろ、アレを飲んでからすっごく調子が良くなりました!」

 

ちなみにこの二人、スカーレットの方が微妙に身長が高い。

…だからこそめっちゃくちゃに尊いんだよなぁまったくこんちくしょうてやんでいべらぼうめぃ!

 

…おっと、ついつい昂りすぎた。

 

「…調子が良くなった、と。フフフ…であれば、オロール君。君には改めて感謝の意を表するべきだろう」

 

「…え?僕ですか?」

 

「ああ。こないだ君が協力してくれたおかげで、サプリの完成に一気に近づけたのさ。あの実に興味深いデータのおかげでね…」

 

あぁ、デジたんと危うく一線を越えそうになったあの件か。

今思うと、後からいくらでも言い訳できる状況だったわけだし、いろいろとやっておけばよかった。僕ったら、実にもったいないことをしたなぁ…。

 

そんなことを考えていると、タキオンさんが何やら思いついた、といった風に手をポンと叩いた。

 

「そうだ!丁度いい、君たちに頼みがあるんだが…」

 

「はいっ!!なんでしょうか?」

 

良い返事だなスカーレット。良すぎる。

 

「頼みというのはね。君たちに飲んでほしいブツがあるのだよ。これなんだが…」

 

「嫌です。…嫌です」

 

即座に否定を重ねるカフェさん。

気持ちは分かる。だってタキオンさんが今取り出した怪しげな錠剤からは…果たして錠剤と呼んでいいのか分からないほど、虹色の輝きが放たれているのだから。

 

「すっごく綺麗な色ですね!」

 

ウソだろスカーレット。

 

「ふふ、そうだろう。…おっと?青鹿毛の方々は何かお気に召さないことでもあるのかい?」

 

「いや、あの…ソレ、飲んじゃいけない色な気がするんですけど…?」

 

「大丈夫だとも!この錠剤はそちらのダイワスカーレット君に渡すため、例のサプリのレシピを改良して作ったものなのだよ。即効性はそのまま、さらに効果を高め飲みやすくした自慢の品さ。…彼女に渡すものに不備があってはいけないから、私とモル…トレーナーくんで何度も実験を行った。したがって飲んでも問題はない」

 

…どうだろう。

スカーレットのために作った、というのならば、さほどヒドい目には合わないだろう。…というか、むしろ何らかのメリットがあるかも。

 

「…私は遠慮しておきま…」

 

「カ〜フェ〜…カフェ、カフェ…。いや、初めに言っておくと、悪気はなかったのだ。しかし先日、偶然にも見てしまってね?君が物欲しそうな目でコーヒー豆の通販サイトを眺めているところを…」

 

そう言って、いつどこから取り出したのか、彼女は手にコーヒー豆の入っているらしい小洒落た袋を持っていた。

 

「…本当に大丈夫なんでしょうね」

 

「ああ、もちろん」

 

カフェさんはそれを受け取ったきり何も言わなかったが、コーヒー豆の魔力に屈したことは聞かずとも分かる。

 

…まあ、スカーレットもいるし。さすがに今回は大丈夫だろう。

 

「全員、飲んでくれるね?ならば早速、グイッとやってくれたまえ」

 

タキオンさんはワクワクした様子で、僕らに紙コップと虹色のブツを配った。

 

「んくっ…前よりも飲みやすいです!すごいですタキオンさん!」

 

早いよスカーレット。早い。

憧れとはこうもウマ娘を盲目にするものなのか。

 

「ありがとう、工夫した甲斐があったというものだ。…ほら、二人もさっさと飲むといい。心配ご無用、まったく同じ種類の錠剤だとも」

 

…やっぱり怪しい雰囲気は拭えないが、しかしタキオンさんを信じることにしよう。

意を決して、虹色を口に入れる。

 

「…ん。よかった、普通の味だ」

 

「……ふぅ。…飲んでも異常はないようですね…。今のところは…」

 

カフェさんも渋々といった様子で薬を飲む。

 

「さて、三人とも協力に感謝するよ。…ではスカーレット君。サプリの残りだが、私の部屋にあるんだ。取りに行くから、君も一緒に来てくれ」

 

「ハイッ!ありがとうございます!」

 

部屋の外へ出る二人。

しかし数秒と立たないうちに、マッドの方がひょこりとドアから顔を出した。

 

「…あぁ、青鹿毛諸君。言い忘れていたが、君らには日頃の感謝の意を込めて、少々特別な水を飲んでもらったよ。なぁに、礼は要らない。半時間ほどで効果は表れる。それまでに、何か柔らかいもの…ソファなんかの上にいることをオススメしておこう」

 

そう言って、彼女は今度こそ去っていった。

 

「…くっそ、やられたッ!」

 

「…あの狂人、スカーレットさんの前ではすっかり猫を被ってますね…」

 

残されたのは、騙された憐れなウマ娘が二人。

 

「……あの口ぶりからするに、私たちはロクな目に遭わないようです。…毛布持ってきますね」

 

「…あ、どうも…」

 

何か柔らかいものの上にいろ…つまり意識が飛ぶ可能性大ということだ。

僕らが選べる道は、ただ気絶に備えることのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んー?」

 

いつの間にか、心地よい浮遊感の中に僕はいた。

 

「…ふわふわする」

 

まるで本当に浮いているかのよう…。

 

と、そこで下を見た僕は、床が随分遠くにあることに気がついた。

 

「…ッ!?ふおお浮いてるッ!?浮いてる!」

 

もしかしなくても薬のせいだろうが、しかしなぜ体が浮くんだ!まるで幽霊にでもなったかのよう…って、まさか。

 

「…オロールさん。気がつきましたか…?」

 

声の方を見やれば、そこには浮遊するカフェさん。

 

「カフェ、さん?…あの、これってまさか…」

 

「…ご想像の通りでしょう。…俗に、幽体離脱、と呼ばれるものとみて間違い無いかと」

 

マジか。…マジかぁ。

タキオンさんの薬を飲んだだけで。ほんの少しの油断で飲んでしまった、それゆえに…

 

「…こんな素晴らしいシチュを体験できるなんて!最ッ高じゃないか!」

 

「…元気、ですね?」

 

「ハイッそりゃもうこんな神シチュオタクなら誰だってこうなるってもんですよヒャッホゥ!」

 

幽体離脱とは、つまりデジたんに対して何をしようと一切気付かれないということ。

こうしちゃいられない。すぐにデジたんの部屋に向かわなくては!それで、あんなことやこんなことだってできるわけだから…。

…僕はもしかすると、このまま天国に行ってしまうかもしれない。…いや、デジたんのいる此処こそが天国だ。

 

「デジたーーんッ!今行くよーッ!」

 

空を蹴って、僕は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

デジたんの部屋に着いたのだが、そこにあったのはデジたん(抜け殻)だった。

 

「…なんて可愛い顔で尊死してるんだい」

 

…机に突っ伏している彼女はペンを握っていて、手元にはウオッカと…描きかけで誰かは分からないがもう一人描かれている、ウマ娘モノのウ=ス異本の原稿らしきものが置いてある。

 

「描いてる途中で…耐えられずに…。デジたん、君は最期までペンを離さなかった…。まさに勇者だ…」

 

さて、勇者様の御体になにか異常がないかチェックを…。

 

するとそのとき、遠くから声が聞こえてきた。

 

…聞こえるはずのない声が。

こちらに向かってくる。

 

「……ぉぉおおおおお!あたしの体があるッ!ということはコレは確実に幽体離脱的なアレじゃないですかヤダーッ!…拙者、永きにわたり!壁になりとうござった…。壁になってウマ娘ちゃんを眺めたい、と…。しかし今ッ!その夢がッ!叶うッ!自分で描いた原稿が尊すぎて気絶したがためにッ!叶えられるッ!これは一刻も早くウマ娘ちゃんを拝みに行かなければ…!」

 

デジたんがもう一人現れた。しかも、窓の外でふわふわしている。

 

「うっひょ…!なぜかあたしの部屋にオロールちゃんがッ!…しかし今のあたしならばオロールちゃんに見られることはないッ!ふっへへ…拝ませてもらいやすぜ…オロールちゃんの誰にも見せない表情ってヤツを…!」

 

…ふふふ、すっかり調子に乗っているあまり、僕の足が床から1cmほど浮いていることに気がついていないようだ。

面白そうなので気付かないフリをしておく。

 

ふわりとこちらに近づいてくる彼女だが、僕から少し離れたところでなぜか止まってしまった。

 

「…ちょっと待った。そういえばオロールちゃんは確か、オカルト的なものが”見える”タイプのウマ娘ちゃんだったような気が…?あたしのことも見えている可能性が微レ存…?…よし、確認してみましょうか」

 

僕の目の前まで来て、手を振ってみたり、踊ってみたりするデジたん。

 

「…デジたんは可愛いなぁ」

 

「…ッポゥ!?…いや、コレは…マイボディを見ながら言っている可能性も…」

 

またまた手を振ってみたり、くるくる縦に回ったりするデジたん。

…ッ!ヤッターパンツミエゲフンゲフン。

 

「…尊いなぁ、デジたん」

 

「ン゛ッ…!…し、視線は依然マイボディの方に向いているようですし…。これはつまり、あたしのことは見えていないと考えるべきでしょうか…?」

 

そう言って彼女は僕の顔を覗き込む。

まさに目と鼻の先…絶好のタイミングだ。

 

素早く彼女の肩に手を回したところ、しっかりと掴むことができた。

 

「よしッ!…幽体同士なら触れるみたいだね、デジたん」

 

「ファッ!?…ゆう、たい…?あの、今なんて…というかあたしのことが見えて…ッ!?」

 

僕は彼女を抱え、そのまま宙へと浮き上がる。

 

「のわぁっ!?ちょ、オロールちゃん!プリーズ!プリーズ!エクスプレイィンッ!」

 

「ちょっといろいろあったんだよ、うん」

 

「ン〜アバウトですねぇ!?もっと詳しくッ!」

 

「タキオンさんの薬」

 

「アッ、理解しました」

 

さすがの理解力だ、デジたん。

そして相変わらずよきかな、お姫様抱っこ。

もう、なんか…収まりがいい。

 

「このまましばらく散歩してみない?…空中散歩。随分とロマンティックな響きだ。どうかな?」

 

僕としては寝ているデジたんにいろいろやる予定だったが、こうなっては話は別だ。

それに、デジたんの体をいじるよりかはよっぽど…綺麗だろう。

 

「ふぇ…?…ッちょ!?」

 

「落ち着いて。…さ、歩こう。足を出して。歩き続けて。そう、怖がらないで。…ふふ、上手だね」

 

「ひゃっ…!?…これは、でも。…エモい、なんて単純な言葉を使うのが憚られるほどに、不思議で、幻想のような…」

 

空を歩くデジたんは天使だ。

羽はない。だが今確かに、僕と彼女は空にいる。

 

まるで夢のようだ。

いや、もしかするとこれは本当に夢なのかも。

こんなオカルト的な出来事が、果たして現実で起こるだろうか。

 

まあエモいからいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んぅー…?」

 

いつの間にか、ふかふかのソファの上に僕はいた。

…浮いてない。当たり前だが。

 

「…おはようございます」

 

「あ、カフェさん…。どうも…」

 

横にカフェさんが座っている。

…やはり僕らはタキオンさんの薬を飲んで、少なくとも意識を失ったことは確実なのだ。

 

「…空中散歩は楽しかったようですね」

 

「…っ。…ええ、まあ」

 

…なるほど。

カフェさんの今の言葉、それはすなわち。

先程の奇妙な時間は僕だけが過ごしたものではない、ということだ。

 

そんなことを考えていると突然、部屋のドアが開かれた。

 

「やぁ二人とも!どうだったかね、効果は?水に溶ける無味無臭無色の薬はまさしく君らに無味無臭無色な体験を授けてくれたはずなのだが。さ、教えてくれ!」

 

なるほど、なるほどねぇ…。うん、なるほど!

 

「ッタキオンさん!…いえ、タキオン様ッ!この度は本当にッ!本ッ当にありがとうございますッ!貴女は天才だ!最高のウマ娘だ!どうぞ、これからも僕をどんどん実験台にしてください!」

 

「うえぇ…?ちょ、ちょっと待った。様付けはよしてくれ、なんだかむず痒い。というか、一体全体どうして君はそんな態度をとる…?カ、カフェ…。何か知ってるかい?」

 

「…彼女たちはそういう生き物なんだ、ということに、私は今日気付きました…」

 

「…ふゥむ?少し理解し難いが…。オロール君。やっぱり君は実に面白い子だよ」

 

…スカーレットの言う通りだった。

 

タキオンさんは優しくて頭も良い、まさに完璧なウマ娘だったんだ!




ハ○ルの動く城のBGMでも聴きながら読めばエモいんじゃないですかね、知らんけど(適当)

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