デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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埼玉(SAITAMA)をローマ字表記で逆から読むとアマティアス(AMATIAS)になるのがとてもかっこいいとおもいます


ノーウェア•イズ•ヘイブン

「……で、何してるんですか?」

 

「…故郷を、懐かしんでたんだ…」

 

「……ぬか漬けがあるんですか?」

 

「へへっ、まあな……」

 

どういう会話?これ。何で今ちょっと誇らしげになったの?

何で窓の外で逆さ吊りになってんの…?てか、なんでぬか漬けなんだよ…?

いや、一旦落ち着け。このままだと僕はなすすべなくゴルシちゃんワールドに取り込まれてしまう。

 

ゴルシちゃんことゴールドシップ。

170cmという高身長、B88、W55、H88という抜群のスタイルを誇り、美しい銀髪を腰まで伸ばしたクールな雰囲気の漂う美人である。

…少なくとも、見た目だけは。

僕の目の前にいるのは、今説明した通りの美しいウマ娘である。ただし、ぬか漬けの話をしながら窓の外でロープにぶら下がっているものとする。

 

このゴールドシップというウマ娘、生まれる世界を間違えたのではと思うほどのハジケッぷりを発揮し、基本的に周囲にカオスを巻き起こすヤベー奴ではあるものの、レースでは最後方に位置どってターフを掻き回し、最終局面で持ち前の豪脚とスタミナでもって一気に前を抜き去って勝利をもぎ取る、紛れもない強者である。「黙れば美人、喋れば奇人、走る姿は不沈艦」とはよく言ったものだ。

 

その上、場の空気を読むのが上手く頭の回転も早いので、何気ない一言で雰囲気を和ませたり、ひっそりと他人のサポートに回ったりもできる。さらに、アニメではなぜか溶接技術やデザインソフトを使いこなす描写まで存在する、ハイスペック美人である。

 

ただし!今は僕の目の前でぬか漬けの話をしながら、紙皿やら割箸やらの入ったビニール袋を取り出しているものとする!!

神々しい美貌や謎の器用さを全て無に帰すレベルの奇行を見せつけられている。ワケワカンナイヨー!しかし一つだけ確認しなければならないことがある。

 

「…この部屋に住んでるんですか?」

 

そう。窓からというイカれたエントリー方法ではあるが、彼女は部屋に入ってきてそのビニール袋を手に取った。とすると、なんの因果か、彼女が僕のルームメイトということなのだろう。さて、返事は____

 

「ほい、ガシッと」

 

なるほど。まずガシッと僕の胴体をホールドして……え?

 

「腹、減ってんだろ…?しょうがねぇな、このゴルシ様がデリシャスなゴルゴル星風ぬか漬けを食わせてやるよ!」

 

「…ふぇっ?」

 

僕を抱き抱えたまま、彼女はロープを登り屋上へと向かい始めた。

 

「……は、ちょおっ!?ええええ!?」

 

「っておい、暴れるなって!そんなにぬか漬けが楽しみなのかよ…?」

 

だからなんでぬか漬け…いや、そもそもルームメイトかどうか聞いただけでどうしてこうなった。なぜ屋上に行くんだ。情報量が多すぎる。

 

 

そうこうしているうちに、寮の屋上へと着いた。

僕の横には何かを顎で示しながらサムズアップするゴルシ、そしてその視線の先には……

 

「焼きたてだぜ!ほら、やるよ!」

 

糠漬け秋刀魚の乗った七輪があった。

彼女はそれを一本さっき持ってきた紙皿に移し、割箸と一緒に手渡してきた。

 

「あ…どうも」

 

香ばしい匂いが僕の鼻腔をくすぐる。

秋刀魚の熱が紙皿へと伝わり、指先を温める。

七輪からあげたばかりだから、黄金色に焼けた皮の上で、まだ脂がじゅうじゅうと音を立てて踊っている。

 

五感を順に刺激された僕は、五つ目の感覚…すなわち味覚を感じるために、大きく口を開けてかぶりついた。

 

「…うっま!」

 

美味い!まず最初に感じるのは、絶妙な焼き加減によって黄金色に輝く表皮の味、炭火焼き独特の香ばしい煙の風味。そしてひとたび噛めば、畳み掛けるように糠によって凝縮された身のうま味が湧き出てくる。それらが舌の上で混ざり合って、非常に奥深い味わいを____

 

「…いや待て、色々おかしいッ!!」

 

「そんなん最初からだぜ、今さらどーしたよ?」

 

一番おかしい張本人が言うな。

何をどうやったら入学初日の夜に寮の屋上でぬか漬け、しかもよりにもよって秋刀魚を食べるハメになるんだ。なんでそこをチョイスしたんだ。でも部屋の中で七輪使わない程度の良識はあるのね。いやでもどうやって屋上に炭と七輪持ち込んだんだ。というかどうしてこうなった。

…僕が咄嗟に「食べます」って言ったからだな。

 

「でも、美味いだろ?」

 

そう、美味いのだ。ただでさえ秋刀魚の糠漬けは美味しいのに、炭火焼き。さらに月明かりの下というロケーションも相まってより美味しさが際立つ。口へ運ぶ手が止まらない。おかげでついつい完食してしまっ____

 

「いやナチュラルに心読まないでくださいよ」

 

「顔に書いてあったんだよ。つまりオメーが分かりやすすぎるのが原因だな」

 

「…そんなに顔に出てましたかね…」

 

「おう。ハムスターと同じくらいってとこだな」

 

うん、いちいちツッコんでいると疲れる。隙あらばボケ続ける彼女の言葉は、聞き流すのが正解だろう。

 

「あー、美味しいからなんかもうどうでもいいや…」

 

「なかなかノリノリだなオメー。見込みあるぜ。そういえば、名前はなんつーんだ?」

 

そういえば、お互い自己紹介すらしていなかった。まあ、僕は一方的に名前を知ってるけど。

 

「オロールフリゲートといいます…先輩は?」

 

「先輩なんて、そんなかりんとうみてーに堅苦しいこと言うんじゃねぇよ。その敬語もだ。アタシはゴールドシップ!愛情を込めてゴルシちゃん、と呼ぶといいぜ!」

 

呼び捨てとタメ口許可ときた。そういえばアニメじゃスカーレットもゴルシちゃんのこと呼び捨てにしてたっけ。先輩後輩だとかをあまり気にしないのは実に彼女らしいというか…。

…そういや、学年不明だったなコイツ。一体何歳なんだろう?先輩なのは確実だと思うんだけど…やめよう、追及したら頭がおかしくなる気がする。

 

「じゃあ、ゴルシちゃん。…それで、やっぱり僕とゴルシちゃんは同室ってことになるの?」

 

「そういうことだな。…同室の証に、アタシの故郷を教えてやるよ。…ほら、おとめ座のあたりのあの星…分かるか?」

 

「…それが例のゴルゴル星ってやつ?」

 

「突然何言い出すんだオメー。秋刀魚が美味すぎてイカれちまったか?」

 

「…そうかも、しれない…」

 

気力を消費しないように、ボケを受け流す。というか、消費する気力すら残っていないほどに疲れた。秋刀魚を食べきったら、急に眠気が…

 

「…飯食ったらすぐ眠くなるとか、赤ちゃんかよ。…ほら、落ちねーようにしっかり掴まれ。部屋に戻るぞ」

 

「りょーかい…」

 

 

今日はいつもより大分早起きしたせいもあるだろう。まだ消灯時間ですらないのに、すごく…ねむい。…あ、ベッド…。

 

「部屋に着くなりすぐベッドインかよ…」

 

あ、ゴルシちゃんがなんかいって……る……。

 

 

 

「…制服のまま寝かせるわけにはいかねーよな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…………あ…」

 

目が覚めると、知らない天井だった。

…昨日は見る暇がなかった、新たな住処の天井。

もう一つのベッドを見れば、銀髪の美少女がすやすやと寝息を立てている。…こうしていれば、清楚で美しく見えるのにな。いかんせん中身がハジケリストなのがなぁ…。とりあえず、寝顔はソウルメモリに保存させてもらおう。

 

…昨日は朝から晩まで色々あったな。トレセン学園に入学したら、まさかのスカーレットやウオッカがクラスメイト。寮に入ろうとしたらいきなり最推しに会えた興奮で気絶。自室は安息の地かと思いきや、ルームメイトは白いの。逃げ場がないじゃないか。

 

そういえば昨夜はすぐに寝たせいで、いろいろとやるべきことをやってなかったな。荷解きもしてないし、風呂にも入ってない…。

 

そこまで思い出したところで、一つ疑問が浮かんだ。そういえば僕、昨日は制服から着替えずにそのまま寝てしまったはずだ。

 

「…なんで僕、パジャマ着てるの…?」

 

…まあ、答えは一つしかない。ゴルシちゃんが僕の寝ている間にいろいろやってくれたんだろう。ご丁寧に下着まで替わっている。

ゴルシちゃんが僕の眠りを一切妨げずに服を替えられるほどに器用なのか、それとも僕の眠りが深すぎたのか。なんとなくだが前者な気がする。

 

そして、僕の服が入っていたカバン…それをよく見ると、服の他に入っていた日用品だとかが、分かりやすい位置に整理整頓されている。

 

ゴルシちゃん、ちょっと優しすぎない…?あの破天荒さが嘘のようだ。

まあ、それら全てを含めてこそゴールドシップというウマ娘といったところか。

 

「…む…ふぁー……ふぅ、おはよぅさん」

 

と、噂をすればだ。

 

「おはよう。…その、ありがとう。服替えたりとかしてくれて」

 

「ん、どーいたしまして。…いやぁ、お前って結構攻めた下着履くん____」

 

「ああああ待って!ストップ!それ人から言われるの恥ずかしいから!」

 

油断したらこれだよ!これがゴルシちゃんクオリティ…!

 

「ふう…とにかく、何かお礼させてよ。今は持ち合わせがないから、後でしっかりと。…何か希望はある?」

 

ここまでしてもらってはもう、ありがとうの一言で済ませられるレベルを超えている。着替えに、荷解きの手伝いに…よく考えたら、ゆうべの秋刀魚も奢ってもらったものだ。ゴルシちゃんは聖人かもしれない。ハジケ部分を除けば。

とにかく、出来る限りのお礼をしたい。そのためなら6ケタ円くらい余裕で出せる。さあ、なんでも言ってくれ。

 

すると彼女は大して考えた素振りも見せずに口を開いた。

 

「じゃ、今から朝風呂行こうぜ?」

 

 

 

「え?」

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが寮の大浴場だ。結構広いんだぜ?…お、今は誰もいないみたいだ。やったぜ、貸し切りだ!」

 

え?

 

「脱衣所も体重計だとか、いろいろモノが置いてあるんだよ。勿論使用は自由!なんてったってここは自由の街ニューヨークだからな!」

 

え?

 

……現実逃避はやめよう。僕がこれからゴルシちゃんと風呂に入るのは確定事項だ。

 

朝風呂行こうぜ?と言って、僕が返事をしないうちに手を引いてここまで連れてきてくれた彼女は、既に上機嫌に鼻歌を歌いながら服に手をかけている。

 

って、待った待った。確かに体はウマ娘だが、それでも僕の心の性別は一応男である。そのため、このままいくと僕の精神衛生上かなり良くないことが起こる。

 

「……ちょっと、さすがに恥ずいな…」

 

思わず独りごちた言葉は、もちろんすぐそばにいる彼女の耳にも届く。

 

「お前の一糸纏わぬ姿なら昨日たっぷり堪能させてもらったから大丈夫だぜ!安心しな!」

 

相変わらずとんでもないこというなこいつ。いや、僕の裸を見られるのは別にいいとして、このままいくと僕が見てしまうことが問題なんだ。正直見たくないわけじゃないが、仮に見た場合は間違いなく逝ける自信がある。滴るお湯のディティールすら完璧に記憶してしまうので、その後も無限に逝き続けることになる。

 

…あ、あったわ、解決策。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前それ、見えてんのか?」

 

「うん、見えてる。心眼で」

 

誰でもできる!風呂での尊死回避テクニック!

ゴルシちゃんより先に風呂に入ってその間取りを瞼に焼き付けて、あとは出るまで目を瞑るだけ。

ね?簡単でしょ?

 

「…お前ってもしかしてヤベーやつ?」

 

…ヤベーやつにヤベーやつって言われた。でも否定できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー!さっぱりしたぜ!朝風呂ってのもいいもんだなー!」

 

「…お礼、ほんとにこんなんで良かったの?」

 

「そんなに気にすんなって。アタシがいいっつってんだからいーんだよ」

 

風呂上がりといえば、瓶入り牛乳を一杯グイッといきたいところだが、残念ながら寮の食堂にそのようなものはない。あるのは紙パック牛乳だけである。

風呂を浴びていると丁度いい時間になったので、僕らは真っ直ぐその食堂へ向かうことにした。

 

道中、本当にこれでお礼になるのか気になって聞いてみたが、返ってきたのはそのような言葉だった。

…彼女が何を考えているのかは理解できないが、喜んでくれているなら、まあ、いいか…。

 

ふと、気になったことがあるので聞いてみる。

 

「ところで、ずっと一人部屋だったの?」

 

「うんにゃ、ちょっと前までは相部屋だったんだけど、そいつはこの前海外に行っちまったんだ。ドバイだったかな?わかんねーけど」

 

「へぇー…」

 

そのウマ娘、もしや名前がジから始まる子かな?

 

「やっぱし、一人より二人の方が面白えな。お前みたいに面白いやつだともっといいな!」

 

…ゴルシちゃんも、やっぱり寂しいと思うことがあるのか。ほぼ初対面の僕にグイグイ絡みにくるのも、その寂しさの反動だったりするのかも。

 

いや、でもゴルシだし。あんまり深く考えてなさそうだな。案外その場のノリでやってそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

時計の針はまだ6時半だが、食堂には既にそれなりの数のウマ娘がいた。

ぐるりとあたりを見渡せば____

 

「あは〜…美味しそうにご飯を食べるウマ娘ちゃんたち…よきですなぁ…」

 

いた。最推し。食堂全体が見える隅っこの方でいろいろオカズにしながらご飯を食べている。

 

「デジたん先輩っ!!ご一緒してもよろしいでしょうか!」

 

「あ、マジ?いきなりそこ行っちゃう?」

 

「ヒョッっ?!?あ、オロールちゃんと…ゴルシさん!?どっどどうしてまたあたしなんかのところに……あッ!!いえ座っていただくのは構わないんですけども!むしろ座っていただけると嬉しいんですけども!」

 

「ありがとうございます!!」

 

デジたんの正面の席確保。勝った。

というわけで、彼女と同じテーブルに自分の朝食を置く。

大きめのロールパンが7個、ベーコンエッグが二つにポークチョップが一枚丸々。それと人参多めのサラダに野菜スープ。

ウマ娘は大量のエネルギーを必要とするので、朝でもこれくらい食わないとやってられないのだ。

…遠くの方に見える芦毛のウマ娘などは、山盛りの皿を大量に置き、テーブル一つを一人で占拠しているくらいだ。まあ、あれは特殊な例だが。

 

これだけ大量に食べるウマ娘だが、口の大きさは人間と変わらないので、必然的に食事の時間が長くなる。それを考慮してか、この食堂はかなり早い時間から開いているようだ。

…まあ、例の芦毛のテーブルには空っぽの皿しか残っていないようだが。そして本人はまた同じ量をおかわりしているように見える。

あれは、うん。多分消化器系だけ別の生き物なんだろう。

 

それにしても、だ。

 

「あ……あの……あたしの顔、なにかついてますか…?」

 

「…いえ、何もついてないですよ。……可愛いから見てるだけです」

 

いやあ、推しが尊い。さっきから一ミリも目が離せない。

 

「…アタシはもしかすると、デジタルよりヤベーやつとルームメイトになっちまったのかもしれねぇ…」

 

ゴルシちゃんが何やら言っているが、デジたんはヤバい部分よりも天使の部分が優っているので、差し引きで天使である。いや、むしろ天使を超えて女神まである。

 

「………」

 

「…あの、昨日のアレ…ファンがどうたらのくだり、まさかホントのホントだったんでございますか…?…えっと、あの、無言で見つめられると……うぅ…」

 

食事が終わるまで、僕はしっかりとデジたんを堪能させていただいた。

いやぁ、美味しいなぁ。いろいろと。




少し免疫がついたので調子に乗るオリ主

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