デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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「チャンミって何なのだ……?」勢の作者が書く怪文書ですが、読んでいただけると幸いです。


冬の悪魔

見渡す限り一面に広がる、緑豊かな大草原。

景色を眺めるうちに、やがて自分と世界の境目がだんだんと溶けていくような感覚に陥る。

気づけば、綿雲漂う青空と、風にそよぐ緑との境界線を目指して、僕の身体は勝手に走り出していた。空気を切る感覚が心地よい。このままどこまでも行けそうだ。今日はすこぶる調子よく動く四本の脚で、思いきり地面を蹴って……待て、四本?

 

どうもおかしい。僕は馬ではなく、ウマ娘だ。脚は二本のはず。

では、なぜかいつもより視界が広い僕の目を下に向けると見える、艶やかな毛が生えた棒状のモノは一体……?

 

 

「んはぁっ!?」

 

「おぉ、すっげ。映画とかでよくある目が覚めた瞬間に勢いよく体起こすヤツ、アタシ実際に初めて見たぜ」

 

「あ……ここ、部室か」

 

よかった、夢か。

ある意味とても恐ろしい夢を見た。僕の見た目が美少女でなくなっているのも問題だが、何より夢の中で僕自身がホースボディを”しっくりくる”と考えていたことが何より恐ろしい。現実でないことは確かなはずだが、僕の心臓はバクバクと鳴り響いている。

 

「つーかお前、すっげー楽しそうな夢見てたみてーだけどよ、コタツで寝たら風邪ひくぜ?」

 

「う゛っ。けど、そうは言っても、抗えないものは抗えないんだよ。デジたんもそう思うでしょ?」

 

「……むにゃぁ……うふ、ひひ、たっとい……」

 

うん、寝言が尊い。

じゃなくて。デジたんも抗えなかったか。

 

「おぉい、こっちもかよ。……待て、よく見りゃ全員ダウンしてるじゃねえか。ずいぶん気持ちよさそうに寝てんなぁ、オイ」

 

ウオッカとスカーレットに関しては、経緯がまったく不明だが、対面に座りながら少し身を乗り出し、両手を恋人繋ぎにした状態で寝息を立てている。

 

「なんだよこの空間、可愛いが過ぎる。っていうかさ、ホント危ないよ。コタツ。途轍もない魔力を秘めてる」

 

先日、財布を眺めながら虚無の表情を浮かべるトレーナーさんを横目に、ゴルシちゃんの手によって部室に設置されたこの冬の悪魔は、実に良い効果を発揮した。

北陸だとかの町ではもう雪がウンm積もったとか、そんな季節だ。大した暖房設備もないウチの部室では、コタツこそが最も快適な空間である。トレーニングがある日もない日も、自室の布団と同じかそれ以上に快適なこの場所に、気づけば皆入り浸っていた。

 

「あぁー、つかアタシも眠ぃ。わり、オロール、後で起こしてくれ」

 

「コタツで寝ると風邪ひくよ、ゴルシちゃん」

 

「いーんだよ、バカと天才は風邪ひかねぇからな。大丈夫、アタシ天才だから。んじゃおやすみぃ」

 

ゴルシちゃんはコタツの中へ潜り込んでしまった。というかよく入れたな、170cmをどうやってそこにしまい込んだんだ?まあ、ゴルシちゃんだし別にいいか。

……というか、生き残っているのは僕だけか。

どんな楽しい夢を見ているのだろうか、時々危ない笑い声をあげながらすやすやと寝入っているデジたん。しかし、あまり長くここで寝ていてはそれこそ風邪をひいてしまう恐れもあるから、起こしてあげるべきだろう。僕だってもう少しこのままでいてほしいが、しょうがない。あと数秒間「コタツで触れ合う足と足」シチュを楽しんでから彼女を起こそう。

 

「さて、どう起こしたものか。とりあえず、耳?いや、待て、いっそ思いっきり……」

 

デジたんの側に寄りつつそう呟く。

 

「聞こえてますよオロールちゃん。今起きました。あの、耳は……ダメです」

 

すると、ちょうど今起きた様子のデジたんが、コタツに顔を伏せたまま僕に言う。

 

「おはよう。それじゃ挨拶がわりにそのお耳触ってみたいんだけど、いいよね?」

 

「……」

 

デジたんは当の耳をパタンと後ろに絞って、僕に向き直った。さらにはジト目。それがなんとも愛らしい。

 

「……よっしじゃあ遠慮なく」

 

素早く耳に手を伸ばしてみたが、デジたんはひょいと頭を後ろに下げて

僕の手をかわした。

 

「あなたに対して行動で意思を示せると思ったあたしがバカでした。大事なことは言葉で伝える……うんうん、当たり前のことでしたね」

 

「その通りだ、デジたん。ねえ、だったら君のホントの気持ちを聞かせてよ。僕流のイヤーマッサージを受けてみたい気、あるんだよね?」

 

「……くっ!ええ、そうですとも。認めます!オロールちゃんに触られること自体は吝かではありません!けどもしもそうなったときには、あたし、確実にダメにされちゃう自信がありますッ!ですから……わひゃぁっ!?」

 

ああ、もう。じれったいな。どうしてそう思わせぶりなことを言うんだよ。こんな可愛い生き物、誰もほっとくわけがないだろう。だからこそ僕が手に入れるのだ。背中側からしっかりホールドして、デジタニウムを効率的に摂取する。

 

「っ!?あっあっあぁ……あ、コレ、意外とイイ?コタツでカバーしきれない上半身がオロールちゃんの温もりで心地よく……」

 

「……ン耳モフぅッ!!」

 

「あああいいいあああっ!?」

 

お耳をマッサージさせていただいたところ、予想以上の反応が返ってきた。心拍数や耳の筋肉の動きから察するに、嫌がっているわけではなさそうだ。というか確実にその逆、表現的に危ないレベルで気持ちよくなっちゃってる。ずいぶんと血色のよい頬だ。それに先程からデジたんにはバイブレーション機能が実装されたようで、テンポよく小刻みに震えている。

 

「このままトロけてくれちゃってもいいよ。僕は欲深いからね、君が僕無しでは生きられない体になってくれると、とても嬉しいんだ」

 

ウマ娘になって分かったことだが、耳というのは非常にデリケートな部位で、ウマ娘のソレは特に敏感だ。触るとどうなるかは……まあ、想像はつくだろう。

 

「いやぁ、あははー……正直、あたしの生きがいはウマ娘ちゃんを推すことでして。もちろん、オロールちゃんもその対象ですから、ある意味既にそうなってるかもしれませんねぇ〜……なんて」

 

「嬉しいこと言ってくれるね。けど、僕が欲しいのは、僕だけのデジたんだ」

 

「くっ、手ごわい……!」

 

いや、何を攻略しようとしているんだ。

 

「あ、もしかして攻守交代がお望み?それならダメだ。僕が攻め、絶対に」

 

デジたんが積極的になっているような気がする。それは構わないが、一種のプライドとでもいうべきか、攻守に関しては譲れないな。そもそも僕にソッチ側は似合わない。多分。

 

「そういえば、あたしっていつも受け身でしたね。

……ならばッ!発想の転換ッ!オロールちゃんの役目、今回はあたしが貰い受けましょうッ!」

 

「ちょっ、えっ?何を……ひゃっ!?」

 

あまりにも唐突で脳の処理が追いつかない、なんて感覚を今以上に強く感じたことはない。とにかく、ひとつだけ確かなことがある。どうやら僕は押し倒されたらしい。

 

「…………」

 

「…………?」

 

流れる奇妙な沈黙。僕は混乱よりも興奮の方が勝っているから、なんとなく状況が掴めてきた。どうやらデジたんはさっきの僕以上に混乱しているらしく、今にも煙を吹き出しそうなほど真っ赤になっている。

 

「あ、あっ、あのっ!?コ、コレ、どっ、どうすればいいですかネ……?」

 

「いや知らないよ。てか、ほら。こうなったからには僕のこと煮るなり抱くなり好きにしてくれ。この際抵抗しないことにした」

 

攻守云々などと考えていた先程の僕、あれは僕じゃない。過去の己は己に非ず。何事も経験。

つまるところ、デジたんに押し倒されるのも悪くない、というかむしろ進んで押し倒されたい。そう思っただけだ。

 

「……なんか、ごめんなさい」

 

「デジたん?ねえ、デジたん?そこで止まっちゃダメだ、もっと、ほら!積極的に!かもん!来ないなら僕の方から行くッ!」

 

「ひょっ……!?おぅわぁぁぁぁぁあ!?」

 

うん、僕が上でデジたんが下、やっぱりこっちの方が好みだ。それに、こうするのが一番はっちゃけられる。

 

「おうお前ら。水差すようで悪いけどな、他所でやってくれよ。というか他人がいる空間でそーゆー事する勇気すげぇな。もはや畏敬の念すら抱くぜ」

 

……ゴルシちゃんが、さすがに見かねる、といった表情の顔をコタツからにゅっと出してきた。

 

「いいとこだったのに。というか、僕にそれを言う?ネットの海の真ん中で愛を叫んだ僕にそれを?何を言われようと、僕は場所時を問わずデジたんを求める」

 

「いや怖ぇーよ。つかアタシの近くで甘々領域を展開すんな。なんつーの?なんか、とにかくいろいろ気が散ってしょーがねぇんだよ」

 

「しょうがないのはこっちだよ。なんやかんやゴルシちゃんと一緒にいることが多いから必然的にそうなるんだ」

 

僕が最も共に過ごす時間が長いウマ娘は誰かと言えば、睡眠時間を含める場合確実にゴルシちゃんだ。特に何もない日は基本的に四六時中デジたんにくっついてはいるが、同時にゴルシちゃんがいる場合も多い。

 

「これはもしや……運命では?僕とデジたんとは運命で繋がってる、それは確かなことだ。ゴルシちゃんがそうでない、なんて確証はどこにもないし、もしやホントに……」

 

「運命じゃなくて悪縁だろうぜ。もし前世があるなら、きっとそん時も妙な間柄だったんだろうな」

 

実を言うと、僕もゴルシちゃんに同感だ。二人の間にはなんとも言えぬ奇妙な間、とでも言うしかない、僕がこれまでに経験してきたどんな関係性とも異なるものがある。

 

「とりあえず、ソイツ大丈夫か?まあいつものことだから大丈夫だろうけどよ、相変わらずイイ寝顔だな」

 

やけにデジたんが静かだと思ったら、そうか。例のごとく逝ってたわけだ。

さっきの上下のくだりで大分限界が近づいていたようだったし、むしろデジたんがあそこで一瞬でも耐えたこと自体が驚きだ。

 

「……ふぁっ!?あたしは、何を……?」

 

「さすがの復帰能力。目が覚めたばかりだけど、さっきの続きをする気はないかな?」

 

「ちょ〜っとデジたんボディが持たないので、遠慮しておきます……」

 

おや、残念。せっかく耳に仕掛けてオトす方法をマスターしたのに。

 

「お前ら仲良すぎな。……そういや、アイツらも似たようなもんか?ほら、まだそこで寝てるヤツら、ウオッカとスカーレット。手まで繋いでんだぜ?」

 

「……おっと?ふ、ふふふっ!ゴルシさん、なかなかイイ目の付け所ですねぇっ!そうですよ!ケンカップルなんて言葉が生ぬるいほどの尊さッ!堪りませんッ!ホント、ウオスカ、しゅき……!」

 

「あぁ、うん、ごめん。ごめんな。アタシそこまで堕ちるつもりなくてな。けど、アタシの言い方もちょっとアレだったもんな、ごめんな」

 

なんだろう、とても距離を感じる。ゴルシちゃんと、僕プラスデジたんインマイアームズとの間の心の距離。

 

「ちなみに、ゴルシちゃんはなんであの二人が恋人繋ぎしてるのか、その経緯とか分かる?」

 

「あぁ、すげーシュールだった。やれどっちの手が冷たいだのどうのとやってるウチに手ぇ繋いでよ。『こぅするとケッコゥぁったかぃヮネ……』とかスカーレットが言ったかと思えば二人とも寝ちまってた」

 

ゴルシちゃんの適当なモノマネ付きの解説によると、やはり二人はそういう関係とみて間違いないだろう。……いや、そういう冗談を抜きにしても、距離感が尊すぎるのだ。結局のところ、これをカップルと呼ばずしてなんと呼ぶ?残ってる呼び方といったらアベックくらいだ。

と、ここでゴルシちゃんが何やら考え込みだし、そして何かに気づいたように口を開いた。

 

「ハッ!?アタシだけそういう相手がいねぇ!?やっべ、このままじゃスピカの恥晒しだッ!?」

 

「スピカってそんなシステムだったのか。まさかの強制カップリング……?」

 

「なんて画期的なシステムッ!手当たり次第にカッポゥウマ娘ちゃんを勧誘すれば世界が救われますよ!」

 

スピカって素晴らしい。とりあえず最近見かけたシャカファイを勧誘してみようか……なーんて。

 

「っていうか、ゴルシちゃんのお相手と言ったら……誰だろう。あ、トレーナーさんとかは?」

 

「不純異性交遊どころじゃねぇぞオイ。第一、アイツはイジリがいあるけど、なんか可愛くねーし。ゴルシちゃん、もーちっと可愛げのあるヤツがいいぜ」

 

そもそもなぜアスリートの僕らが恋愛強制なのか、トレーナーさんは可愛いだろ、とかそんなツッコミは野暮だ。

……トレーナーさんは可愛いか?可愛いよりかはカッコいい?そうでもないか、いや、よく考えると普段の姿もやっぱりちょっと可愛い……うーん、どうだろう。

 

「ゴルシさんって、もしかして……もしかしてっ、需要を満たしてくださる神っ!?」

 

「さすがにお前らみたいにはならん。ただふと思ってよ、今のスピカにはマイラーが二人、ダートもイケるヤツが二匹、けど長距離は今んとこアタシだけじゃん?」

 

確かに。もっと言うと、スピカに短距離ウマ娘はいない。だが、どうも人間をやめているフシがあるウチのトレーナーさんの腕ならば、適性も脚質もまったく異なるウマ娘たちをステージのセンターに立たせることなど容易いだろう。それに、彼がスカウトするウマ娘はとてつもない才能を秘めている。ここにいる彼女らのように。もちろん、僕だって負けないように、日々トレーニングを怠っていない。

 

「大丈夫だよゴルシちゃん。僕、頑張れば7000mくらいまでは走れるから。デジたんも多分イケる。だから共に歩もうじゃないか!」

 

期待を込めた目でデジたんを見つめると、彼女は慌てだした。

 

「えっちょ、はぁ!?ムリムリムリッ!ムリですよぉ!7000?3600ですらムリ……」

 

「デジたんならできるさ、だってデジたんだもん」

 

「超絶イミフ理論っ!?」

 

イミフ?断じてそんなことはない。

僕にとってのデジたんは、とても言葉では表しきれない存在だ。同志で、最推しで、チームメイトで、必須栄養素で、最愛の……とにかく、全部ひっくるめて表せる言葉がひとつだけある。

それが、デジたん。

つまり、デジたんに不可能などない!

 

「デジたんならできる。デジたんだからね」

 

「なぜに二回っ!?」

 

「……お前らなら案外できそうなのが怖ぇ。ともかくよ、アタシ考えたんだ。そろそろ新メンバー加入の時期じゃねえか、ってな」

 

「……ほほう?」

 

なるほど。それはイイ話だ。チームにとっても、そして僕にとっても。

ゴルシちゃんの言い方から考えるに、勧誘ターゲットはステイヤーといったところか。僕が近くで見たことがないタイプのウマ娘だ。であれば、その技を観察して盗ませていただこう。確実に新たな発見があるはずだ。

 

「そ、こ、で、だ。スピカの流儀を思い出せお前ら。今までまともな手段で加入したヤツがいるか?いねーよなぁ?てことで今回も例のアレを使おうと思ってる」

 

ああ、例のアレ(ズタ袋)か。確かに一番手っ取り早い。

しかし誘拐したとて、ムリヤリ加入させるわけにもいかない。当人に加入の意志がなかった場合、僕らは土下座して頼みこむくらいしかできない。

……いや、待てよ。

 

「ねえゴルシちゃん。ターゲットは決まってるの?」

 

「ああ、目星はつけてる。アタシの知り合いなんだけど、すっげー将来有望なヤツだ。名前は……やっぱいいや、教えねぇ。まあそん時のお楽しみってこった」

 

いや、名前を聞く必要はない。それが誰なのか分かった。……多分。

 

メジロマックイーン。

ターフの名優。彼女がスピカに加入する日は近い。

……と言いたいところだが果たしてどうなるやら。

 

今はクリスマスを待ち望む声でいっぱいの十二月中ごろ。彼女がスピカに加入するのはもっと先のはず。

 

「話の流れからして、その方はステイヤーでしょうか?むっふふふ……!長き戦いに挑むため、極限まで絞られ引き締まった無駄のない肉体っ!嗚呼、良き哉……」

 

「あー、どうだか。引き締まってんのかは分からんけど、まあ面白いヤツだぜ」

 

ほなマックイーンやないか。

だったら全力で誘拐してやろう。

……確証がないのだ。マックイーンがスピカに入るという確証が。運命なんで言葉をよく使う僕だが、運命がすなわち「原作の強制力」でないことは知っている。だからこそ、僕の手で確実にマックイーンをスピカにぶち込む。

 

「……よし、ゴルシちゃん。決行はいつだい?」

 

「お、やけに気合入ってんなオイ。とりあえず、次の休みでいいだろ」

 

となると、一週間弱の準備期間がある。

今、作戦……のようなものを思いついた。

 

「ねぇ、デジたん。甘いものは好きだよね?」

 

「それは、ハイ……って、いきなりどうしたんです?」

 

「いや、なんとなく聞いてみただけ」

 

まあ、そういうことだ。

首を洗って……あとちゃんとトレーニングと自己管理を欠かさずに待ってろよ、マックイーン。




デジたんはかわいいから長距離適性S!!!

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