デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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デジたんのバレンタイン限定ボイス、トレーナーのことを相方(戦友)としてしか認識してない(と自分では思っている)感あってイイですねェ……!

 さて、それでは更新頻度が雑すぎた結果生まれたクリスマス怪文書をお楽しみいただければ幸いです。



アイ•ウィッシュ•ユー

もはやスピカメンバーの定位置と化しつつある、部室に置かれた例のアーティファクト。自然とウマ娘が集まるそこでは、話のタネが絶えることはない。

 

「なーんか学園が妙にザワついてっから、なんでか気になってたんだが、そうか。もうダイハードの季節か」

 

「つまり、もうクリスマスイブって言いたいんだね、ゴルシちゃん」

 

「ふひっ……クリスマスといえば、そうっ!年に一度、この日にしか拝めないアルティメット尊みがそこら中にッ!特別な日を、特別な相手と過ごしたい……。イケナイ事だって分かってる。それでも心にウソはつけない。今日だけはアナタと……!っくぅ〜ッ!最高っ!甘酸っぱぁぁぁぁいっ!」

 

“それ”は無論君自身にも当てはまるんだろうね、デジたん。億が一そうでなかったとしても、僕が君を連れ去って二人っきりの時間を創る。

 

「つか、こないだマックちゃんが入った日から、ウオッカが変に気合入っててよ。あいつ最近料理に凝り出したみてーだ。こりゃあ、クリスマスは飯に期待できそうじゃね?」

 

「僕、最近食堂行ってないんだよ。だってさ、このコタツでぬくぬくしてると、美味しそうな匂いと一緒にウオッカがやってきて、それで……うん。天才はいる、悔しいけど」

 

人の心を掴むのに、こんがらがった言葉はいらない。ただ、美味い飯と美少女があればそれで十分だ。

 

「あの……ちょーっとイケメンすぎやしませんかね、ウオッカさん。根がイイ人ですし、最近はあの背伸びしてる感じ……ああ、もちろんそれも性癖に刺さるんですけどね?とにかく、そういうのが前面に押し出されることがなくって。代わりに持ち前の優しさがどんどん発揮されて。少年の心を忘れぬ良きパパへの道を着々と歩んでますよ、ウオッカさん」

 

まったくその通りなのである。彼女、どうも今までとはベクトルの違うカッコよさを意識しているらしい。つまり、不良を気取ってオトナぶるのではなく、いわば「デキるオトナ」が、彼女の中でカッコいいものとして位置づけられたのだ。

まあ付き合ってる相手(スカーレット)に言われればそうなるのも仕方がないか。

とはいえ、まったく不良を気取らなくなったわけでもない。今までと同じく、見栄っ張りでヤンチャな部分もある。

要は少年の心を忘れぬ良きパパである。

 

「でもよ、アイツこないだ街に出た時、ショーケースの中のフリフリしたお姫様みたいな服をじっと見つめてたんだ。しばらくしたら、顔真っ赤にしながら自分に何か言い聞かせるみてーに首振って、結局その店に入ったりはしなかったんだけどよ」

 

「ハイ来たッ!もうどのパターンでもオイシイやつッ!……いつかは俺もあんな服……いや、お姫様なんて柄じゃねえな。健気に王子様を待ち続けるお姫様ってか?まったく冗談じゃ……って、なんで王子がアイツの顔なんだよッ!?ってパターンか、あるいはッ!!」

 

ここでデジたんがいきなりコタツから立ち上がり、華麗にターンを決めた。くるくる数回転したのち、僕のことを、何処ぞの帽子と髪が一体化してそうな高校生みたいなポーズで指差した。

 

「……可愛い服。けど俺には似合わねーな。そうだ、アイツにプレゼントでもしたら喜ぶ……って、何考えてんだよ俺ッ!?ってパターン!!どう思いますッ!?オロールちゃんっ!」

 

「うーん、そうだな。……へえ、随分とフリフリした服だな。こういう服着るヤツってのは何考えてんだろ。……例えば、つ、付き合ってる相手がいて、ソイツに見せたいから……とかか?ま、俺には関係ねぇ話……はぁっ!?なんでアイツの顔が思い浮かんで……ッ!?とか、どうかな?」

 

「あーーー!ヤバい!!ヤバいコレ!無限の可能性を感じるッ!もうホンット供給が途絶えることがなくて……トレセン学園に入ってよ゛がっだぁ゛ぁぁッ!!」

 

まったく同感である。需要と供給が釣り合うどころか供給過多なのが、トレセン学園、というよりスピカ、というよりデジたんの良い所だと思う。まあ、あくまでも僕の知るスピカの話だが。いやはや、まさかデジたん共々スピカに加入するなんて、入学当初は夢にも思わなかった。

 

「……お前らほどじゃねえけど。確かにアレは、なんつーか、ヤベぇなって。アタシも思うぜ。なんか、こう、見てると心が暖まる」

 

「ゴルシちゃんもどうだい?コッチ側から眺める景色は最高だよ。まさに天国って感じ」

 

「遠慮しとく。つかそれ、お前らが地獄にいるからコッチ側が天国だって認識できてんじゃねーの?」

 

「ふっ、コッチにはデジたんがいる。よって天国だ」

 

「ヲタの狂気を煮詰めてその澱みを凝縮したようなヤツがいるんだから間違いなく天国ではねぇよ。つかお前も似たようなモンな。んで、しょっちゅうシナジーするからコッチ側にも狂気が侵食してきてる」

 

「シナジー……!それだけ僕とデジたんの相性がいいってことだよね!君にそう言ってもらえるなんて嬉しいよ!」

 

「ハイアタシが悪かったです。すいませんでした。だからもうこの話はやめにしよう。な?」

 

それは残念、これから二人の愛を確かめ合うターンだったのに。

 

その時、部室のドアが開いた。どうやら件のウオッカが来たようだ。手にビニール袋を提げている。

 

「よお!アイス買ってきたから皆で食おーぜ!」

 

コイツ……!なんて罪深いことを……!

ウオッカは知っている!ぬくぬくのコタツの中であえて冷たいアイスを食すときの、クセになる背徳感を!

 

「自主練の時、スカーレットが最後まで外で走ってたろ?寒いのにご苦労だよな。で、加入の手続きなんかがあったトレーナーアンドマックイーンと会って、そっからなし崩し的に今日の晩飯の買い出し行ってんだと。今メッセ来た」

 

ウオッカが言う。とすると、今日の夕食は少し豪華になりそうだ。にしてもスカーレットとマックイーンか、なかなか面白い組み合わせだ。

 

「おおっ!クリスマスの前夜祭ってとこか?敬虔なキリスト教信者さんにゃ申し訳ねえが、ジャパンのウマ娘としてバッチリはしゃいどかねぇとな!」

 

「古来より、クリスマスは家族と過ごす日とされてきた。でも、敬虔なキリスト教信者さんには申し訳ないけど、僕はジャパンのウマ娘だからさ。どうだいデジたん、一緒に聖なる夜を過ごすってのは……」

 

「ホーリーナイトですよね?りっしんべんの方ではないですよね?」

 

「ああ、デジたん!僕はね、君が望むのなら何だって受け入れるつもりなんだ。愛に形はない。だから、君がプラトニックな関係を望むのなら僕は喜んでそうする!」

 

「付き合ってる前提でものを言うのやめてくださいよっ!?部室だからまだいいものの……」

 

「残念ながら手遅れだよデジたん。僕が前に君への愛を電波に乗せたの、忘れたかい?ほら、そのあとのネット民の反応見る?」

 

「えっと……?『はよ結婚しろ』『やはり百合!百合は全てを解決する……!』『法改正班頼んだ』……いやいやいやいや、ちょ、えぇ……?」

 

ありがたいことに、例の頭が沸いてる物好きクラブの会員たちは皆、僕を後押ししてくれる。誰も僕を止められない。僕の愛は必中だが、ソレが必中たる所以はデジたんに逃げ場が残されていないから、である。

 

「ハァー……なーんでウチのチームは全員、こう、なんつーか、アレなんだろーな……」

 

「いいんだよ、百合の花は美しい。美しければ、それでいいんだ。というかゴルシちゃん、君だってその片鱗はあると思うけど」

 

「あ?マックちゃんのことかよ?……いや、アイツはなんか、アレだ。あえて例えるなら、じいちゃん家の畳みてーな……そういう、安心感?それしか感じねぇんだよ」

 

ホントにその感想が出るのか。しかし、僕はマックイーンに対してそういった印象を抱くことがなかったので、やはりその奇妙な縁は二人の間だけにあるものなのだろう。

 

「……つまり、ジジマゴ?」

 

あながち間違ってないデジたん、というか正解だ。

 

「ジジ、ねぇ。いや、イイ線いってるぜデジタル。アイツ、いいとこのお嬢様だってのに、おしるこ添えて縁側に置いといても違和感ねぇもん。マジでじーちゃんだよ」

 

ゴルシちゃんにそう言われて、脳内でその図を描いてみると、なるほど実にピッタリだ。違和感?あぁ、いい奴だったよ……。

 

「……ふと思ったのですが、そんなお嬢様とちょっとした繋がりのあるゴルシさんっていったい何者……」

 

「おっと、当のウマ娘がおいでなすったみてぇだ。アタシがさっき言ったことは秘密にしてくれよな?」

 

確かに、耳を澄まさずとも、三人分の足音がこちらに近づいているのが分かる。しばらくしないうちにドアノブが勢いよく回り、次の瞬間僕の前を一陣の風が走り抜けた。

 

「ゴ〜ルドシップ?バッチリ聞こえてましたよ?誰がジジイですって……?」

 

「ひっ……!?い、言ってねぇ!アタシそこまでは言ってねえぞ!?あ゛ぃただだだだだだ!!」

 

嗚呼、此の世は無常なり。ゴルシちゃんは哀れにもバックブリーカーの餌食となってしまった。

 

「あぁ゛ああぁっ……かひゅ゛……」

 

合掌。やはりメジロのお嬢様……いや、お嬢には勝てなんだ。

 

「……デジタルさん、とかおっしゃいましたね?」

 

「ヒィェッ!?ハッ、ハイなんでございましょうかあの先程の非礼はお詫び申し上げますのでどうかあっしの指だけでご勘弁いただきたくぅ……!」

 

おや、デジたんがウマ娘に対して愛以外の感情を抱くとは。だが無理もない、あの確実に二桁人はヤってそうな眼光に射抜かれてしまっては、生物としての原始的本能、すなわち恐怖が呼び起こされるのは当然のことだろうから。

 

「指……?ああ、いえ。貴女をゴールドシップと同じ目に合わせようなどとは思っておりませんわ。ただ、先程零していた言葉について、誤解されてしまわぬよう、ほんの少しご説明させていただきたくて」

 

「ほえっ……?」

 

ターフの名優の名はダテじゃない、今この瞬間、僕はそれをハッキリと認識した。だって、ほら。瞬きする間に、ヤのつく自営業の人みたいな目つきから、貴い人のソレへと変貌しているのだ。その表情にはシンプルな優しさが感じられる。未だにゴルシちゃんの背骨をへし折っているのに、だ。

 

「先程、貴女は私たちの関係性について疑問を抱かれていたようですので。始めに言っておきますと、特に深い血の繋がりなどはございませんのよ。ただ……」

 

それにしても、純粋な恐怖に支配されるデジたん、か。非常に珍しいデジたんが拝めたな。マックイーンには感謝しておこう。

 

「た、ただ……?」

 

「貴女の言う通り、とでもいいますか。私とこのゴールドシップとの間に、何か浅からぬ妙な因縁のようなものがあると、私自身それを実感しているのです。このハジけたウマ娘を見ていると……少し癪ですが、それこそ、年の離れた子……孫をかまっているような気分になるのは確かなのです」

 

「つまり……ジジマゴ?」

 

勇者アグネスデジタルの名はダテじゃなかった。この場面、このタイミングでその言葉を放ってしまったのは、果たして彼女に宿る勇気がそうさせたのか、それともただの染みついたヲタク根性によるものか。

 

「ぐぎごぉッ……!ま゛っ、マッグイ゛ーンッ!てんめぇ……!オ゛ラぁぁ゛あッ!」

 

「あっ!?ゴールドシップ……っ!?」

 

おおっと、ここでゴールドシップ、奇跡の復活!生と死の狭間から帰ってきた彼女が魅せた。膝を180度折り曲げて、華麗にヘッドシザースを決めてくれた。

 

「……茶番もいいが、ほどほどにな?怪我しないようにやれよ、お前ら?気が済んだらこっち来い、もう火ぃつけるからよ」

 

低い声がする方を見やれば、そこにあるのはまさしく冬の至宝、鍋。身も心も暖まる香りが、鼻腔を通って脳に届く。

マックイーンと一緒に帰ってきていたトレーナーさんが、セッティングをしてくれていた。

 

「コタツで鍋、ね。いいわねぇ、これぞ冬って感じで」

 

「クリスマスらしさはあんまねーけど。ま、美味いからいっか」

 

渦の外の二人は、楽しそうに鍋をつついている。僕もデジたんを抱きかかえ、彼女らと鍋を囲う。

 

「お、来たか。ほい、箸」

 

「ん、ありがと」

 

ウオッカに割り箸を手渡されたところで、デジたんがぼやく。

 

「ナチュラルにあたしが抱っこされたことには、やっぱりもう誰もツッコんでくれないのでしょうか……?」

 

「いつものことでしょ。逆にツッコむ方がおかしいわよ」

 

「あぁっ、想像よりも外堀が埋められてるぅ……」

 

それはそうだ。僕とデジたんの関係について口を挟むヤツは誰一人として存在できない。なぜならば、僕がソイツらを潰すから。そもそも、デビュー前のウマ娘の関係性にわざわざ目をつけるようなヲタクは、大概どこか狂っているので問題ない。

 

「ヒトはヒト同士で、ウマ娘はウマ娘同士で恋愛すべきだ。それが世の摂理だ。だから、デジたん。埋められる外堀なんて、そもそも初めからないんだよ」

 

「うぐっ、それは確かに……。で、でも!ウマ娘ちゃんとトレーナーさんとの間で生まれる絆は未知のパワーを生み出すと聞きます!だからこそッ!あたしはウマ×トレ♀を推させていただくッ!」

 

この場の解決にはなっていない。が、しかし、それは非常に面白い概念だ。

 

「君は天才だよデジたん!ウマ×トレ♀のディープな愛ッ!ソレが尊くないわけがない!」

 

そんな素敵なことを思いつくのはこの可愛い頭か?よし、撫でてあげよう。目一杯撫でてやる。ふわふわした耳の感触も楽しめるので一石二鳥だ。

 

「ったく、随分とうるさいチームになっちまったな。あっちじゃプロレス大会、こっちじゃねじ曲がった恋バナときた」

 

「ねえトレーナー、そこんとこ実際どうなのよ?つまり、ウマ娘とトレーナーが深い仲になってそのままゴールイン……ってのは。多いの?」

 

「あぁ、多いかどうかは分からん。でも、それなりにあるぞ、そういうこと。で、二人のプロから指導を受けた二世が中央にやってきてG1をかっさらう、なんてこともあるぞ」

 

ふむ、思い浮かぶところで言うとミホノブルボンだろう。彼女の父親はトレーナーで、クラシック三冠達成は家族の悲願でもあるのだったか。

 

「ところでデジたん、興味深く聞き入ってるみたいだけど、鍋も食べなよ。ほら、あーん」

 

「…………」

 

「あーん、して?お願い」

 

「……っくぅッ!あ、あー……むぐっ」

 

「どう?美味しい?」

 

「……おいひいれふ」

 

そりゃよかった。

 

「まあ、様子を見る限りじゃあ、お前らが俺に惚れちまうようなことはなさそうだな。トレーナーとウマ娘がそういう関係になるのは悪いことじゃねえ、と俺は思ってる。だが世間サマはそうもいかん。結ばれるためには、数々の理不尽な批判をものともしない強さが必要だ。まあ、どっちにしてもお前らなら問題ないだろうがな!さすが俺の教え子だ!」

 

「トレーナーさんはそもそもヒト娘が放っとかなさそうですけどね。中央のトレーナーなんて高給取りで、その上イケメン……」

 

ウチのトレーナーさんはひっじょーにイイ男である。顔、声、スタイルは申し分なし、性格だって優しい。未デビューウマ娘を何人も抱えてはいるが、十分高給取りの部類に入る。ではその金の行先はというと、僕ら担当ウマ娘のトレーニング費用だ。おかげで彼は、羽振りの良さとは程遠い、日々の食費と飲み代をなんとか財布から切り出す生活を送っている。これがイイ男でないわけがなかろう。

 

「お、おい?なんだって急に俺を褒めるっ!?えっ怖っ!怖いんだが!?」

 

「……いや、本心ですよ。まあ100%僕の日頃の行いのせいでしょうけども」

 

ゴルシちゃんなら分かってくれるだろうが、なぜか彼にはちょっかいをかけたくなるのだ。だが、師として、そして一人の人間として彼のことは尊敬しているし、恋心とはもちろん違うが、僕は彼のことが好きである。

その時、ふと思い出した様子で彼が口を開いた。

 

「ああ、そうだ。言っておきたいことがある。お前らのデビュー時期の話なんだが……」

 

「マジかっ!?早く教えてくれっ、トレーナー!俺はいつ走れるんだ!?」

 

「落ち着け。今説明する。……結論から言うと、来年にはもうレースに出られる。全員な。特にウオッカとスカーレットは体の成熟が早いから、その分早めに出た方が良いだろう。ただ……」

 

ふむ、名前が出ていないのは僕とデジたんとマックイーン、それにゴルシちゃん……はゴルシちゃんだからともかくとして、僕らに何かあるのだろうか。

 

「残りのヤツらはもう少し待っても問題はない。もちろん、今のままでも十分大舞台で立ち回れる。ただ、俺としては仕上がった状態でレースに出てほしいし、誰を応援すればいいかハッキリするから、デビューの時期を多少見送りたいところではある。ま、お前ら次第だ」

 

……どうしよう。

これは僕とデジたんそれぞれの問題ではない。デジたんのデビューの時期は僕にも影響する。つまり、デジたんがデビューするのならば僕もデビューする、逆も然りだ。

 

「……私は、待たせていただきます。自分の中でまだ完成しきっていない部分を、思う存分に鍛え上げてからレースに臨みたい。トレーナーさんには先日お伝えしましたが、私の目標は『天皇賞・春』ただそれのみですわ。そのためにはいかなる努力も惜しまず、然るべき時に、己が持てる全てを懸けて挑むつもりです。だからこそ、私は来るべき時を待ちたいのですわ」

 

いつのまにかゴルシちゃんとの決着をつけていたマックイーンは、その優雅な立ち居振る舞いの中に宿る、煮えたぎるような決意を言葉に乗せた。

 

「了解だ。マックイーンはデビュー見送り、と。それで、他はどうする?」

 

「なあトレーナー、アタシは……」

 

「ゴルシ、お前も来年だ。お前なら、うん……なんか勝てるだろう、多分。まあその、頑張ってくれ」

 

うん。ゴルシちゃんならなんとかなる。それ以上は何も言えない。

さて、これで残っているのは僕とデジたんのみ、つまるところデジたんの決断に全てが委ねられている。

 

「……あたしはッ!レースで、走りたいですっ!そのっ、もう耐えられないというかっ。非公式ではありますが、既にレースには出走しているわけでっ!あの時の感覚を、早くもう一度味わいたいんですッ!」

 

「よし、分かった。それじゃ残るは……」

 

「あ、僕もデビューでお願いしますトレーナーさん」

 

「お、おう。なんかお前だけあっさりしてるな。いいのか?他の二人みたいに、こう、アツイ想いとか語らなくても……」

 

「僕はそれでも構いませんよ?ただそうなってしまうと、必然的にデジたんへの愛を数時間語ることになるので……」

 

「よしっ!これにてこの話は終了だ!詳しいことはその時期になったらまた話す!今はとにかく食って飲んで騒げ!お前ら!」

 

おっと、強引に流された。

まあいい、僕だってTPOを弁える場合もある。

デジたんへの愛は、ベッドの上で二人きりの時、彼女の耳元で囁くことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー好き。好き、好き、好き、好き……」

 

「唐突な告白ASMRッ!?ふぁっ、ちょ、やめっ!?耳っ、耳が溶けるっ!?」

 

やめない。抱きしめたとき、丁度いい位置にデジたんの耳が来るのだから仕方がない。

 

「僕はこんなにデジたんを愛してるのに、君は今まで面と向かって僕にそういう言葉をくれることはなかったよね。君の口から聞きたい言葉ナンバーワンなんだけどなぁ」

 

「……古代の哲学者は云いました。『恋されて恋するのは恋愛ではなく友愛である』と」

 

「そんな昔の人の言葉なんか考えないで。僕だけを見て。その時の君自身の気持ちを聞かせてよ」

 

「……っ!なっ、なんだか眠くなってきましたー!あー、眠い!眠いですよーっ!おやすみなさいっ!」

 

ふーん、ほー、へぇー。そうか。なるほどね。

……おやすみ、デジたん。




拙者、デジたんが突然イケボで哲学者の名言を引用するやつ大好き侍で候。

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