サイゲに日本一のヲタクが潜んでいる可能性が高い……!
ある日のこと。
春の始まりらしい柔らかな風を感じる、特に変わったことのない日。そのはずだった。
朝食を食べ終え、デジたんと廊下を歩いていると、ふと彼女が大口を開けて欠伸をした。
「ふあぁ〜〜……!……ねむっ!とてもねむい!」
「大丈夫デジたん?てか、目の下にクマが……。うん、やっぱり毎晩僕が側にいないとダメなんじゃないかな。何、創作に励んで夜更かしでもした?」
「あはは、これは、その。なかなか新刊のネタが浮かばず、つい考え込んでしまって……」
寝不足はお肌によろしくないというのに。
普段はしっかりものの彼女だが、こと推しが関わってくると、歯止めが効かなくなってしまう。だから僕がつきっきりにならないといけないんだ。絶対にそうだ。
フラフラと、足取りも不安定なものだから、いつもなら敏感にウマ娘の気配を察知する彼女が、通行人とぶつかってしまった。
「あっあぁっ……!すみませんッ!本当に申し訳ございませんっ!あたくしの不注意で……!お怪我ございませんか!?大丈夫ですか!?」
ぶつかった方を一目見ると、ポケットに手を突っ込み、ガラの悪そうな目つきをしたウマ娘がそこにいた。
まあ、誰というわけでもなく。ウマ娘よろしく眉目秀麗ではあるが、僕の記憶にはない見た目の、いわゆるモブウマ娘。
「あ?……ナニ、お前。ぶつかっといてそんだけ?先輩への礼儀が足りてないんじゃないのぉ?」
いや、デジたんの反応はむしろ過剰なレベルだと思う。
と、それはともかく。このウマ娘、見た目に違わぬヤンチャな子らしい。そして「高校生から見ると中学生がちっちゃく見える現象」のせいだろうか、僕らをナメくさった態度。そして、仮にも精神年齢でいえば彼女よりは上の僕……。上、だよな。うん。自分で言ってなぜか一瞬不安になった。その僕からすると、典型的な不良少女である彼女には、逆に背伸びをしている雰囲気が窺えるので、正直嫌いじゃあない。独特の香ばしさがある。ちょいワルウマ娘だ。
「はひっ!どうぞ、なんなりとお申し付けくださいッ!何かご不満な点がありましたら、どうぞバンバン言っちゃってくださ……」
その瞬間、ちょいワル娘はデジたんの耳元に口を近づける。オイ!それは僕の特権だぞ!?
「ねぇ、アンタさァ。そんなんで済むと思ってるわけ?ちょっと後で校舎裏に……」
「オイコラァッ!デジたんを誑かすなァッ!?」
ちくしょう、コイツ!デジたんが可愛いからって、校舎裏に呼び出してあんなことやこんなことをするつもりに違いない!いくらウマ娘とはいえ許せないッ!デジたんにあんなことやこんなことをしていいのは僕だけなのに!
「オイテメェ、いまデジたんに何した?可愛い可愛いデジたんのことを口説こうとしたよなァ?」
「ハッ?いや、違ッ、私はただ、コイツからちょっくら小遣いを貰おうと……」
「……ンだと?オイ、オイ。いいか、よく聞けよ。デジたんは僕のモノなんだ。人のモノとっちゃダメだって、小学校で教えてもらったよなァ!?ン?聞いてんなら返事ィ!」
「ハッ、ハイッ……!」
どうやら彼女の目的がデジたん本人ではないらしいことは、血の昇った頭でもなんとか分かる。しかし、それは言うなれば、このちょいワル娘はデジたんの魅力を理解していないということだ。
「あ、あの、なんか、ゴメンナサイ……!」
冷静になりつつある目でちょいワル娘ちゃんを見ると、先ほどとは打って変わって、兎のようにガタガタ震えて僕らに謝っている。
「スゥー……ハァー〜ッ!よし、一旦落ち着いた。すいませんねぇ、いきなり怒鳴っちゃいまして。けど、今の僕悪くないですよね?センパイ?ねぇ?違いますか?」
深呼吸したからか、口先がやけに滑らかだ。
「ハッ、ハイ。あの、私がチョーシ乗ってました……」
「イイ返事じゃないですかぁセンパイ!そうだ、ぶつかった縁ですから、この際デジたんについてたーっぷり知っていってくださいよ!この子とっても可愛いんですからァ!ねぇデジたん!君は可愛いもんねぇ?」
「ハッ、えっあっ、えっ?ちょ、オロールちゃん?なぜいきなりそんなテンションに……?」
今となっては、表面上はある程度冷静だ。しかし、依然として僕の心の奥底では苛立ちや怒りが渦巻いている。結果はどうであれ、ちょいワルちゃんが恐喝をした事実は変わらないのだから。単にそのどうしようもない怒りを発散したいので、布教をするまでのこと。
「よく聞いてくださいね、センパイ。この子、アグネスデジタルっていうんですけど……。まず見て!この可愛らしい姿!もうどこをとっても可愛い!究極の芸術!その上性格も優しいッ!そして賢いッ!いいですか、この子がいなきゃあここ数年のファン感謝祭や文化祭は存在し得なかったんですよ?デジたんは常に他のウマ娘のことを考えられる子なんです。だから、学園行事の際は進んでボランティアに取り組み、ウマ娘皆が楽しめるように心身を削ってるんですよォ!デジたんは!」
「へ、へえぇー〜……」
「分かったら感謝ァ!ありがとうって言えェ!」
「ハッ、ハイッ!いつもありがとうございますデジタルさんッ!」
うむ、パーフェクト。
「もっとデジたんのことを推したくなったでしょう?なったという体で話しますけど。まずはファンクラブに入ってください。次に彼女のような模範的なウマ娘ヲタクを目指してください。それだけで生きるのが楽しくなりますから」
「は、はぁ……」
「返事が小さァいッ!」
「ハイィッ!?」
「いやいやいや!?オロールちゃん!?やりすぎだよ!?」
やりすぎ?断じて違うね。多感な時期の迷えるウマ娘に、ヲタク道という最高の行先を見せてあげただけだ。
推しがいると心が豊かになる。脳科学的なメリットが非常に多い。幸福ホルモンを手っ取り早く生成するには、推し活をするのが良いだろう。僕などは、デジたんを愛して愛して愛し続けた結果、魂レベルで幸福を感じているくらいだ。
「……その、いろいろと、ごめんなさいッ。あの、もう二度とアナタたちの前には現れないから……!」
「ああああちょっと待ってくださいよぉ!?あたし全然気にしてませんからぁ!?むしろヤンキー系ウマ娘ちゃん万歳って感じで……!」
「ひっ……!ううぅ、もう私このヤンキースタイルもやめる!もともとシリウス先輩に憧れて始めただけなの!だからホントは全然ヤンキーとかじゃないんスッ!さっきの耳元で囁くやつも、シリウス先輩の受け売りなんスッ!むしろ私が先輩に囁かれたいっ!あとタバコ吸うのとかも怖いからココア味のシガレット型お菓子舐めてるんス!ごめんなさぁい!」
そう半泣きで述べる彼女。というかヲタの素質は十分あるように思える。そのシリウス先輩とやらが耳元で囁くのを聞きたいという欲求は、まさしくヲタクそのものだ。
デジたんはというと、何やら考え込んでいたようだが、口を開いてこのようなことを言った。
「もしや、シリウスさんの所へ赴けば、ウマ娘ちゃんのてぇてぇが大量に拝める……?あ、ていうか次の新刊のネタそれでイケるかも……」
「なるほど?ああ、一応聞くけどさ。まさかデジたんもシリウスさんに口説かれたいとか思ってないよね?」
「……ノープロッ!思っておりませんとも!」
ならよし。
デジたんが変な汗をかいているように見えるが、多分僕のせいじゃない。
「じゃ、ちょいワルちゃん。シリウスさんとこまで案内してほしいんですけど……」
「ちょいワルちゃっ……!?あ、あの、一応私、グランシャマールって名前があるんスよぉ……」
「あ、そりゃ失礼。じゃ改めて、ちょいワルセンパイ。シリウスさんに会いたいんですけど……」
「いや名前……あっもういいっス。ホントごめんなさいぃっ!」
なぜ僕を怖がる?
手は出していないのに。うーん、不思議だ。
◆
「シリウス先輩、普段はこの辺で私たち後輩の走りを見てくれてるんです。今日はまだ来てないみたいスけど。……あ、私もう帰っていいですかね?ていうか帰りますね。それじゃ……」
心優しきモブウマ娘ちゃんの案内でたどり着いたのは、レース場のとある一角。自主練に励むウマ娘がまばらに見受けられる。
「……僕も一応ヲタクの端くれやってるわけで。最推しはもちろんデジたんなんだけど、それでも他のウマ娘に魅力を感じないかと言ったら嘘になる」
「……つまり、何が言いたいの?」
「ストレッチしてるウマ娘ってエッ……!ゴホンッ!可愛いなぁって。あっ、そうだ。ちょっとデジたんストレッチしてくれよ。できれば足裏とか脇腹とかをチラ見せしつつ」
「注文が多いっ!?」
筋肉を引き伸ばして、ちょっとキツそうな顔であればなおいい。別にわざわざセクシーアピールなどをする必要はない。ヲタクは勝手に悶える生き物だ?
「ていうか、トレーニングの時にいつも見てるじゃん。あたしのストレッチなんて」
「ハッ!そうだ、僕はなんて幸せなんだ……!」
なんとも嬉しいことに、僕の所属するチームには魅力的な娘がたくさんいるのだ。デジたん以外にも、ゴルシちゃんなんかのトレーニング姿には大変そそられる。
「……シリウスさん、今日は来られないのでしょーかねぇ。あたしとしては、次のネタはイケイケ系×ほわほわ系で攻めたいところなんだけど……。参考資料がないと滾らないってもんやでぇ、ほんまに……」
「なぜに関西弁?あ、ていうかさ。この際僕がイケウマ娘を演じてしまえば……」
「それはダメ。オロールちゃんの一番カッコいいとこなんて一般公開するにはもったいないよ。あと、いつもあたしに攻めてくるから、受け側としても次の一手を読めるようになってきちゃって、アイデアが湧きにくいというか……」
「なんッ……!だとッ……!?」
地味にショックなことを言われた。いや、彼女が前半部分で口にしたことに関しては非常に嬉しい。僕だけしか知らないデジたんがいると同時に、デジたんしか知らない僕がいるのだ。これ以上に喜ばしいことはなかなかない。
問題は後半部分だ。要するに、マンネリ。僕との絡みじゃ創作意欲がいまいち湧かないらしい。僕の場合、脳内デジたんフォルダを毎秒更新していながら未だに飽きる気配がないので、その問題を失念していた。不味いぞ、これは。
ただし解決方法は分かっている。彼女の意識を変えるのではなく、僕がより魅力的にならなければいけない。デジたんを僕好みに魔改造してしまうのは、僕のある意味身勝手な信念が許さない。
「そっか、そっか、ふぅ……。なるほどね。メイクの勉強でもしようか。あとは、なんだろう。声とか?もっとイイ声目指してトレーニングしてみようかなあ」
「あっいやいや!?そんな気にしないでよ!?今のは、そうっ、えっと!あたしの問題だから!ッスゥー……。ヤバいよ、しっかりしなきゃデジたん!オロールちゃんから着想得たネタ描きすぎて、作品の方がマンネリ化してきちゃってるんだよぉ……!それでも筆が止まりそうにないのが、もはや恐ろしい……」
ほーう?そうなのか?
イイことを聞いてしまった。今夜はずっと今のセリフをリピートしてトリップできそうだ。
「ねぇデジたん。ちなみになんだけどさ。今の僕って、どうかな?イケてる?えっと、客観的に見て」
「うーん……。あたし的には百億点満点なんだけど。心を鬼にして辛口な意見を言うとね。言動がイカれてるかなぁって思う。すごく。あと個人的な願望もこの際だから言うけど!オロールちゃんがヘアアレンジしてるとことか見てみたいなぁ!見たいなぁ〜!あと、人に可愛さを自覚しろって言うくらいなら、自分の身だしなみも究極にカッコよくて可愛いやつにするべきだと思うなぁ!折角超絶神りまくりな素材を持ってるんだから、活用しなきゃ!あたくしデジたんの、率直な意見でございますっ!」
「……ソ、ソッカ。ナルホドネ。ウン、そっかぁ」
今日はなんだか情緒を掻き回される。不意打ちでそんなことを言われてしまうと、お恥ずかしながら、頬が熱を持ってしまう。別に、照れてなどいない。多少不意打ちを喰らっただけだ。驚いているのだ、僕は。
「分かったよ……。じゃ僕はもう、アレだ。千年に1人の美少女を目指すことにする」
デジたんは多元宇宙に1人の美少女なので、僕と競合することはない。
「もし、もしもオロールちゃんがあたしの選んだ服とか着てくれたら、発狂する自信があるよあたし。余裕で爆発しちゃう。うへへへへ……」
「あの、散々アプローチかけといてなんだけどさ。あんまり僕に入れ込みすぎないでね?日常生活にあまり支障が出ない程度に……」
僕の恋慕の情は日に日に強くなり、留まるところを知らない。デビルズ・マーブルもびっくりな奇跡的バランスで、日常生活を常識の範囲内で送ることができてはいるものの、少しふらついただけでアウトだ。社会的に死ぬ。
いや、もう死んでるか。今の僕は社会的ゾンビみたいなものかもしれない。
……そして、今のデジたんの様子は。なんだか既視感があるというか。僕が己を客観視したときとよく似ているというか。
とにかく、闇のヲタクに染まるなよ、デジたん。
「大体!これ、ほとんどオロールちゃんが悪いよ。あたしをこんなにしておいて!」
「ごめん!反論できない!」
うん、僕が悪い。それを受け入れてくれたデジたんにも落ち度はあるんじゃないか、と、ささやかながら反論させてもらおうか。そうも思ったが、深く考えずとも九分九厘僕が悪い。
「……分かったよ!デジたん!僕、これから努力するよ!マンネリ化を止めるために!君を僕なしじゃ生きていけない体にするのは確定事項だから。そこはよろしく。ね?」
トレセン入学当初の目的は概ね達成したと言っても過言ではない。彼女は以前よりも態度に自信が現れ、僕への依存度も少しずつ増えている。
「ふふふ、上等!あたしはもう前のあたしじゃないよ?ヲタクは……進化する。最近のデジたんはいわばニューデジたん!風林火山の精神を覚えたこのニューデジたんに、死角はあんまりない!」
可愛いなぁ!小さい子が背伸びをしているみたいで。
もうロリってことでいいか。実際、ロリの要素がないとは言えないだろう。彼女には少なからずロリの因子が内在されている。
自信満々な姿も尊いが、僕としてはやはり彼女の赤面をこれからも拝みたいところだ。友愛のキス程度じゃもう揺さぶりが効かない。さらなる手をアップデートし続けなければ。
そんなことを考えていると。
突如、背の高い人影が現れた。
「見ないツラだな。お前ら。……フッ、その割に声は随分とデカいみたいだが」
デジたんと会話しているうちに頭の片隅に追いやってしまっていたが、彼女こそが件のウマ娘、シリウスシンボリだ。
そして、その言葉通り、僕たちの話し声はそれなりに響いていたらしく、先ほどから何人かのウマ娘がこちらに視線を向けていた。
「お前ら、どうも問題児ってツラでもないな。だが、のうのうと暮らしてる優等生って雰囲気でもねぇ。……へぇ、なかなか面白い目をしてやが」
「あわわわわばばばーー〜ッ!近くで拝むと!しゅごいっ!溢れ出る尊みグレートオーラで目が焼けそうッ!」
「シリウスさんっ!僕を弟子にしてくださいッ!」
「……ほう?」
一瞬の沈黙。
僕は思った。丁度よくイケウマ娘に出会えるのだから、いっそ彼女からいろいろと学ばせてもらおうと。キザな立ち居振る舞いが似合うような見た目、メンタリティ、それらをマスターしてやるのだ。
「……ハッ!どうやら私の想像よりも面白いヤツららしい!なんだって?弟子入り?随分と酔狂なことを考えるもんだな」
「ふむふむ。想定外の出来事があっても余裕を保てばいいわけだ。理解はしているけど、実践は難しいな……」
「なんだよ?何ブツブツ言ってる?」
常に余裕を持つこと。紳士たるもの、爆風を背に受けても振り返らずに落ち着いて歩くことが重要だろう。いついかなるときも落ち着く。難しいな、僕などは今日も怒りで感情を乱してしまった。
あとはアレだ。「ハッ、おもしれーヤツ」なんて平然と言ってのけるウマ娘になっておきたいところだ。
「……私のことをそれなりに知ってるらしいな?名が知れてるのはいい事だ。まあ、それはこの際どうでもいい。なぁ、よく聞けよ。ここはな、世間じゃロクデナシなんて呼ばれる連中のシマなんだよ。お前らは違うだろう?除け者の匂いがしねぇ。テストでいい点をとって、ボランティアにも励む。模範生として生徒会長サマに褒められたことだってあるはずだ。……私が何を言いたいか、賢いお前らなら分かるよな?」
「はひゅっ……!鋭い眼光ッ、イケメンすぎる……!アッじゃなくてえっとその!ハイ!分かっておりますとも!遠巻きに眺めさせていただくだけなのでご心配なく!あたしたちのことは雑草とでも思っていただければ!」
「そんなデカい声で喋らなくても聞こえるよ。ったく……。大体、よく他のヤツらに目ぇ付けられてなかったな?」
シリウスさんいわく、この辺りには素行の良くない生徒が溜まっているらしい。確かに、ウマ娘が皆どことなく仄暗い眼をしている。しかし、僕らに対する態度は、余所者を排斥するようなものではなく。むしろ、若干関わりを避けているような……?
疑問の答えは、シリウスさんではなく、こちらに駆け寄ってきた取り巻きらしきモブウマ娘ちゃんが出してくれた。
「先輩、お疲れ様っス……。あの、この2人、けっこう前から居たんスけど。なんか、会話の内容が生理的に恐ろしくて。あの、アタシらビビっちゃって……。別に練習の邪魔をするわけでもないんで、放置してたっつーか……」
「ほ、ほう……?」
再び一瞬の沈黙。
「ハイ!そういう趣味ですから!」
歯切れよくわだかまった空気を吹き飛ばすデジたん。
「まあ……。どうやら。住む世界が違うらしいな。本当に。ともかく、私は私で忙しいんだ。弟子入りなんてバカなことを言ってないで、自分らの家に帰れよ?早めにな?」
「はい。もう学びたいことは学べたので、弟子を卒業させていただきます。今までお世話になりました!」
「ほ、ほーう……?達者でな……?」
シリウスさんの態度、姿勢、声、その他諸々は既に覚えた。トレースするくらいならもう容易いことだ。
そして、シリウスさんのキャパシティを越える一言を最後に放つことができた。もはや僕の勝利と言っても過言ではない。いや過言か。そもそも何と勝負しているんだ僕は。
◆
しばらく歩き、トラックを出たあたりで、僕はいよいよイケウマ娘への第一歩を踏み出した。
「ア、アーアーアー!ンン゛ッ!」
「オロールちゃん、何してるの?」
「ん?……チューニングだよ」
つま先まで意識を張り巡らせ、最も美しい体重移動を心がける。そして、デジたんの顎に優しく触れる。
「ひょっ……!?」
「……よしッ、コレだ!どうかなデジたん。胸キュンした?」
一言一句、発声に気を付け、喉を慎重に操る。
「ア、まって。ちょ、ほんと。まってよ……。心臓がドキドキして……!」
「……可愛い」
「ぴゃっ!?」
衆目、特に教師陣の目がいつあるとも限らないので、今回は頬へのキス。
思ったよりも効くな。デジたんが骨の髄までヲタクなのもあるだろうが、僕もけっこうイケてるかもしれない。
いや待て。もっと自信を持て。彼女に見合うウマ娘とは、自分の限界点を定めるヤワなウマ娘などでは決してない。
世界最強。そのくらいは軽く獲ってやる心意気でいこう。大丈夫だ、デジたんがいる。僕は自分自身とデジたんを信じるだけだ。
「アノ〜……長くないデスカネ」
「ん、もう少しこのままで……」
デジタニウムが枯渇しないよう、しっかりと補給をしておかなければ。
シリウスシンボリ様の声優様が推し様なのですが、サポカ様を持っていないために声を聞く機会が少ないッ!キャラもよく分からないッ!サポカが欲しいッ!
猛省ッ!時には限度を超えた課金も必要なりッ!