デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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トップガン大好き人間かつマヤノ推しなので、ぱかチューブの例の歌動画を見てから心臓がデンジャーゾーン状態ですア゛ッ!ア゛ッッ!
トムクルーズもケニーロギンスもこよなく愛してるので、正直トムクルーズ来日から始まる今回の怒涛の公式供給は確実にヲタクどもの息の根を止めにハ゛イ゛ッッッ!ヴェイ゛ッッッ!

……あの歌ってみた動画、今の高校生世代なんかは元ネタ分からない人の方が多いわけじゃないですか。86年の映画が元ネタとか。
とりあえず自分の需要満たせればオッケーと思ってそうなウマ娘制作陣マジ愛してるぅ!


無敵の領域へ

「今思い返しても不思議な気分だ。あの時、僕は確かに意識を失っていた。それなのに、デジたんの輝きだけははっきりと脳裏に刻まれてる」

 

「あぁ、アイツのライブの時な。結局お前は瞬きすらせずに気絶してたけどよ、アレマジでなんなんだよ?」

 

「……無我」

 

「んな大層なもんじゃねぇだろ絶対」

 

そうか?デジたんの眩しさに照らされた以上、悟りくらいなら簡単に開けそうなものだが。それに僕は世界の真理を知ってる。デジたん、イズ、可愛い。コレだ。

 

「まあ、再三実感したよ。デジたんがいれば、僕は大抵の限界を超えられる。今回の場合、僕は意識と無意識の概念すら超越したんだ。……閃いた!この技、レースに活かせるんじゃないかな?」

 

「え?……あ、オイ待てよ、話が飛びすぎて何言ってるか分からなかったぜ。で、なんだって?お前の変態性がどうレースに活きるんだ?」

 

「無意識のうちに自分の身体を完璧にコントロールすれば、思考リソースを他に割けて、より洗練された走りができるじゃん?つまり、レース中ずっとトリップすれば……」

 

「アタシが見たところ、お前とデジタルはその境地に半ば達しかけてるか、もう達してる気がするぜ。つーかレース以外でもキマってるし」

 

確かに。ゴルシちゃんが言うように、僕はレース中に時折視界が真っ白になる。その瞬間は本当に心地が良くて、息苦しさなども感じない。リミッターが引き上がる感覚があるので、いわゆる固有スキルのようなものだと思っている。固有スキルでガンギマリするウマ娘ってなんだよ。僕だよ。もはやそんな自分が好きだ。

 

「ハイになるんだよ!デジたんがこの世界に存在する限りっ!デジたんがいてくれれば、たとえロンシャンの芝だって空港の動く床みたいなもんだよ!」

 

「世界ナメすぎじゃね?……いや、待てよ。そういやアイツもドバイで勝ってたな……。でもってアイツもなかなかの変態だ。つーことは、変態は世界に通用すんのか……?あっ、やべぇ、考えてたら吐き気が」

 

「ちょ、どしたのゴルシちゃん。胃袋に穴空いたような顔してるけど」

 

「いやなに、認めたくない真実に気づいちまった可能性があるだけだぜごふ゛っ」

 

ゴルシちゃんが胃潰瘍系キャラになってしまうなんて、そんなことがあっていいだろうか。完全に世界の終わりじゃないか。

 

「ゴルシちゃんゴルシちゃん、そういう時こそ、無我ッ!何も考えずにっ!感じるんだっ!ほら、こんな風にッ!」

 

サルでも分かる、おクスリいらずのトリップ方法をご紹介しよう。

まずはデジたんのことを考えます。終わりです。

……ホントにそれで終わりだ。それで十分だ。この際、できるだけ強く印象に残っている思い出のことを考えるとよい。僕の場合は、やはり先日のレースだろう。

 

「お、おいオロールお前、なんで急に小刻みに痙攣し出すんだよ?」

 

忘れようにも忘れられない、あの1600m。

僕もデジたんも走ったあの場所の風景が、僕の頭の中で緻密に再現されている。

……おっと、レースへの欲が出てしまって、ついついシミュレーションを始めてしまった。デジたんと僕があそこでレースするシミュレーションだ。

 

「おい聞いてんのかよ?」

 

先手は僕が取る。デジたんは僕の後ろ姿を眺めつつ、スタミナを温存するだろう。コーナーでは抜かされない。一度走った場所だ、もはや誰も走れずに芝がキレイなままになっているほどのインベタ、そのさらにインをキープし続けることくらい、僕には楽勝。だがデジたんだってそれについてくるはず。

 

「……なんか、目ぇ光ってね?」

 

やはり仕掛け所はコーナー終わりから。僕も彼女を見習って広いストライドのまま脚の回転数を上げてみるが、デジたんはその小さい体躯のどこにそんなパワーを秘めているのか、僕のスパートなどお構いなしに追い上げてくる。差は次第に縮まってゆき、ついにゴール板へともつれ込んで……。

 

途端に、僕を多幸感が包み込む。レースを走り切った疲れの幻覚が体にのしかかると同時に、日々の甘い思い出全てが想起される。血液が蜂蜜に置き換わったようだ。

 

アっ……!気持ちいいいいッ!

 

「お前なんで目ぇ光んの?怖っ」

 

「……ふひっ。とうとうできた!僕はもはや自分のリミッターを完全にコントロールできる領域まで達したッ!」

 

「えっちょ怖い怖い怖い。やめろよ、身体改造はタキオンの薬飲んだときだけにしとけって!自力でそーゆーのできちゃうとか、マジで怖いわ!」

 

「えぇっ!?いいじゃん、ほらっ!なんか強そう!なんか主人公っぽいじゃん!」

 

「お前アレだぞ。日頃の行い的に間違いなく敵の幹部あたりになるぞ。しかも変態タイプの。拷問とか趣味で、最期は笑いながら死ぬヤツな」

 

ゴルシちゃんは僕のことをなんだと思ってるんだ。

 

「美しいとは思わない?僕の目。これはデジたんを愛する気持ちが天元突破してる証だよ!ふふふ、新たに習得したこの技をデジたんに見せてこようっと!」

 

「マジでよぉ。お前は何を目指してるんだ?」

 

「デジたんッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

麗らかなデジたんの声を聞いていると、春の陽気でさえも生温く感じる。

たとえそれがドン引きボイスであっても。

 

「え、ちょ、えっ……?とうとう……?」

 

「とうとうとはなんだよ、君。いや確かにとうとう行く所まで行っちゃった感は自分でも感じてるけど!どうかなコレっ!?コレで君との併走が百倍楽しくなるっ!脳みそ焼け焦げるくらいに白熱したレースができるよっ!」

 

チームスピカ、いつもの練習風景。

トラックに集ういつものメンバー。ただし1人だけなにかおかしい。目がギンギラギンに光っている上、体から薄ら蒸気が噴き出している。

 

「というか。あたしがその状態のオロールちゃんと張り合える前提で話進んでない?」

 

「デジたんならイケる。それにさ、君も入ればいいんだよ、領域(ゾーン)に」

 

「えぇ……?如何にして……?」

 

「簡単簡単!自分の気持ちが1番昂る情景を思い浮かべるんだ、それだけで何かスイッチが入ったような感覚がする」

 

この領域(ゾーン)とかいう謎トランス状態が、いわゆる固有スキルそのものである可能性はかなり高い。当然、実力のあるウマ娘ならこの世界に入門できるはず。それこそ、レース終盤に何人か追い抜かす、だとか、最初から最後までトップを維持する、だとかのスイッチがあって、それを満たしたときにリミッターが引き上がるのだ。

 

でもって僕の場合、発動条件が「デジたんへの愛を叫ぶ」とかそんな感じなので、レース以外でも簡単に発動できてしまうという深刻なバグが起こっている。まあ発動が容易なのは便利だし、むしろ有効活用したいところ。

 

「あたしが1番昂る瞬間……。うーん、心身一如の勢いで昂った経験といえば、やっぱり〆切間近にフルカラー特殊PPを手がけたあの日……」

 

その瞬間、デジたんからオーラが立ち上る。

 

「あっ」

 

「え?デジたん?領域(ゾーン)入門(はい)った?」

 

入門(はい)った……」

 

そうか、なるほど。

つまるところ変態は最強ってわけだ。

 

「ちょっと、誰かツッコミなさいよアレ。もはや存在自体がオカルトよあの2人。あとウオッカ、そのキラキラした目でアイツらを見つめるのをやめなさいよッ!」

 

「えー……?でもよ、あのよく分かんねーオーラとか、それ自体はカッコよくね?なんかイカすぜ!俺ももしかしたら左腕に隠された力が眠ってたりとか……!」

 

分かる、分かるよウオッカ。こういうのにくすぐられるんだよな、琴線を。だって僕らは今まさに厨二時代なのだから。

ウオッカはもちろん、テイマクもその例に漏れず少し興味がある様子だし、ゴルシちゃんも領域(ゾーン)のあまりの力に恐れ慄いて顔を青ざめさせている。スズカさんに至っては早速額に手を当てながら何かを念じている。入門(はい)れば速くなる。それだけの動機で行動しているに違いない。

 

「……よく分からないけど、昂る?それをすればいいのよね。じゃあ私走ってくるわ」

 

なぜこうも期待を裏切らないんだ、スズカさんは。

 

「スズカさん、いっちゃった……。じゃあ私も、そのぞーんとやらを習得すれば!今度の皐月賞にも勝てるかもっ!昂れば?いいんですよねッ!」

 

「オイオイスペ、速くなりたいのはいいが、この変態どもに染まるなよ?実はアタシ、さっきとうとう胃をやっちまった気がするんだ。これ以上のボケはキツいぜ」

 

漂う哀愁。実質スピカのリーダー的ポジションを務めるウマ娘の背中は、大きい見た目に反してやけに物哀しく見えた。それに、芦毛ではなく白毛に見えてきたぞ。

 

「ふぅ……。領域(ゾーン)入門(はい)ったはいいけど、あんまり覚醒(はい)ってると消耗(つか)れるなぁ」

 

そろそろやめたいなぁ、と考えていたら、案外簡単に領域(ゾーン)終幕(おわ)った。

 

「つかお前普通に喋れって。ったく気色悪ぃ」

 

「なんだよ黄金船(ゴールドシップ)。まったく、火酒(ウオッカ)稽古(みなら)ってよ。すごく燦々爛々(キラキラ)した()をしてるじゃないか」

 

「やめろよマジで。ん?つかソレどーやって喋ってんだよ!?よく考えたら意味分かんねえって!?」

 

「ゴールドシップさん。このお二方にしか分からない世界というものもきっとあると思いますのよ。特に゛ーさんは、私たちの理解が及ばないことを時々なされますし」

 

「ッ!?マックイーン、お前もか……ッ!」

 

ゴールドシップ、ここに散る。

というかマックイーンがとどめを刺した。

 

「えぇ、嘘……。唯一の良心がいなくなるなんて。どうやって収拾つけたらいいのよコレ」

 

「スカーレット的には、ゴルシちゃんは唯一のツッコミって認識なんだね」

 

ハジケリストの名は伊達だったか。いや、ゴルシちゃんは確かにハジケリストだ。ただ、根本ではやっぱり優しくて常識人だから、今回の哀しい事件が起きてしまった。ゴルシちゃんよ、安らかに。

 

「いや、唯一じゃないわよ。スピカは確かにボケに走るウマ娘ばっかりだけど、アタシは違うわ」

 

「スカーレット、お前それマジで言ってんのかよ?俺からしちゃお前だってボケだぜ?」

 

「お二方とも、どうやら己を客観視する必要があるのではなくて?このチームスピカにおいて、いわゆるツッコミと呼ばれるべき存在は間違いなく私……」

 

「ちょっと待ってよマックイーン!まさかキミ、自分がボケたことないとでも思ってるの?ボク知ってるんだから!君がどこかの野球チームのユニフォームを着て、大声で応援歌歌ってはしゃいでたの……」

 

「どこかの野球チームではありませんッ!ビクトリーズですッ!」

 

ケンカするほど仲がいい、という言葉は、スピカによく当てはまる。こうした小競り合いはそれなりに起こるのだが、日も暮れぬうちに仲良く併走しているのがオチ。それを人はケンカップルなどと呼ぶ。デジたんも垂涎する光景がしょっちゅう見られるのが、トレセン学園の良いところだ。

 

「生きてて良かったァ……」

 

と、このように。涎以外にも何か垂れてきそうな顔をしているデジたんである。

 

「……ゴルシちゃん、起きてくれ。君の胃を苛め抜いた僕が言うのもなんだけど、やっぱり君が必要なんだ。スピカを纏められるのは君だけだ、頼むよ」

 

「……お前、オロール、マジで。慰謝料請求してぇレベルだぜコッチは」

 

復活のG。

 

「今度10円チョコ買ったげるよ」

 

「やっすいなオイ」

 

「大事なのは気持ちだよ」

 

愛だけで食ってはいけないし、お金だけでは心を満たせないから、お金も愛も大切なものだ。というのは一般的な話であって、僕の場合は愛を貪りまくってもパトスが溢れて止まらないタイプのウマ娘なので、愛さえあれば問題ないのである。

 

愛してやまないデジたんを見つめながらそんなことを思っていると、スピカのボケ筆頭候補であるスズカさんがトラックを一周して戻ってきた。

 

「それで、結局のところ、誰がツッコミで誰がボケなのでしょうか……?」

 

全員揃ったところで、デジたんが疑問を口にする。

 

「お前、そりゃあ聞くのは野暮だぜ。まあ認め難いが、スピカのツッコミは……」

 

「アタシよね」

 

「俺だな」

 

「私ですわ」

 

「ボクだね」

 

「へっ?えっと……私?」

 

「私、よね……。さすがに」

 

統一感のないチームだなぁ。

 

「どう考えてもアタシだろうがっ!?」

 

ゴルシちゃん、渾身の叫び。皆の視線が一気に彼女に注がれ、次いで僕とデジたんにも視線が向く。

各々顔を見合わせる中、「確かにゴルシの言う通りだ」ということを、誰が口にするでもなく全員が理解した。

 

「確かに、あの2人を捌けるのは……」

 

「ゴールドシップだけですわね……」

 

統一感のあるチームだなぁ。

 

「こんな纏まり方でいいのかよスピカ」

 

「まあキツキツな雰囲気よかいいんじゃないかなぁ。てことでキャプテンゴルシ!我らに指示をっ!」

 

「お?いいのかよ、そーゆーことして。アタシは容赦しねぇぞ?ほんじゃまずはあの太陽に向かって走れェッ!スペは今度皐月賞だろ?尚更気張れ!変態2人には最近煮湯を飲まされてばっかりだからお前らだけ死ぬ気で走らせたるわ!!行くぞオラァ!」

 

ちなみに、ゴルシちゃんは脚質が追い込み型なので、啖呵だけ切っておいて先陣は切らずに最後尾である。

 

「逆にありがたい命令だよゴルシちゃん!んふっ、よぉしデジたん!一緒にブッ飛ぼう!」

 

ギアを上げるのももう慣れたものだ。デジたんの方を見るだけで、僕の世界は一瞬で2人きりの真っ白になる。

 

「ウワァオロールちゃんが急激な加速をぉっ!?あ、あたしはどうすれば……あっ、覚醒(はい)った……」

 

デジたんはさきほど領域(ゾーン)を会得したばかりだが、もう使いこなしている。天才はいる、悔しいが。

 

「オイオイ、マジかよアイツら。また目ぇ光ってんぞ。クセになってんじゃねーのか?一回向こうにイッちまったらもう帰ってこれねぇんだな、脱臼みてぇ」

 

「例えが最悪だけど適切ね、ゴルシ」

 

僕の耳には必要最低限の情報しか入ってこない。すなわち、デジたんの足音、心臓のリズム、風を切る音など。

……最高に楽しいが、疲れるんだよなぁ、コレ。

何度かやっているうちに耐性がついてくれることを祈っておこうか。

 

ん?……待てよ?ということは、疲れてしまうのだから、合法的にデジたんに甘えられるじゃないか!いや、僕がデジたんに甘えるのは普段からだからともかく、彼女が僕を必要とせざるを得ない状況を作り出せる!やったぁ!

 

「あああオロールちゃんがさらに加速したッ!?」




トップガンにちなんだ名を付けた馬が希代の名馬となって、後世に美少女キャラ化し、そのキャラがなぜかトップガン新作の宣伝大使に選ばれ、しまいにはトムクルーズが来日……。
お人柄は詳しく存じ上げませんが、馬主さん、さぞかし嬉しいんじゃないでしょうか。とてつもないドラマですよね。

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