ようやく先日「史実改変」タグを追加しました。
ぬるりと。
どうして最初から追加しなかったのか()
「徳……、徳積まなきゃ」
「おう積め積め。手始めにアタシをいたわれ」
「おっけぃ。ゴルシちゃんのためなら何でもしちゃうよ。もう肩とか揉んじゃう。ほぅら、ほらほら、どう?気持ちいい?」
「んー、もーちっと強く」
「くっ、こんなんじゃまだ徳が足りない……!」
「オロールちゃん……!そうだよね、思えば最近のあたしたち、徳を積み忘れてたよね。それは非常によろしくないッ!とりあえずどぼめじろう先生の新刊を3冊買ってグッズ買って財布を空にしなきゃ……!」
「徳を早く積まないと。今までの僕の行動は、もし警察が目の前で見ていたら間違いなく執行猶予なしの有罪判決を食らうレベルでヤバかった気がする。それを帳消しにできるくらいの徳を……!」
「自覚があるようで結構。アタシらが通報しなかったことを感謝しろよな?」
「そうだね……。けれど今になって更生なんかできない。どうして愛を表現することが犯罪になるのか。自分の気持ちを伝えることを法が許さないのなら、僕は法なんていらない。どんなレッテルを貼られても構わない」
「だからこそ、積もう……!徳を!まずは社会奉仕!ウマ娘ちゃんの住まうこの世界に、尽くすッ!そいでもって貢ぎまくるで候ッ!経済回しちゃいましょう!」
「おー。頼むからパクられんなよな。ボランティア活動なんかをやってる間に惚気でもしてみろ、間違いなく公共の秩序を乱してるぜ」
「クソッ……!法律め……!」
なんだか生き辛さを感じる。学生とはいえ社会の一員である以上、法の遵守は大切なのだろうが、自分の感情を抑圧しなければならないのはイヤだ。
「法律は頑張ってる。つーか100:0でお前が悪いと思うぜ」
「そうかなぁ。大体、美少女がイチャついたところで目の保養にしかならないんだから、見逃してくれたっていいのに」
「お前その自信はどっから湧いてくるんだよ。いくら顔が良かろうと中身がコレじゃあな。美少女とは言い難いんじゃねーの?」
「チッチッ、まだまだだねぇゴルシちゃん。僕というウマ娘の魅力を分かってない。まず第一に顔が良い。ほら、瞳なんかケッコー綺麗でしょ?第二に、多才!デジたんのために習得した数々の技術は、もうどれもが人に自慢できるレベルまで達してる。最近は特殊メイクの技術を身に付けた!第三に、ボクっ娘!もう可愛いよね!うん!最初こそ無意識のうちに使ってた一人称だけど、よく考えたら一部の人の性癖にどハマりする強属性だよ!どう?魅力たっぷり!」
つまり僕は可愛い上にカッコいい。デジたんの次くらいに可愛いんじゃないだろうか。知らんけど。
ちなみに、こないだエゴサをしてみたところ、何人か夢女子の製造に成功していたことが分かった。しかしデジたん以外の女の子をオトしてもなぁ。いや、ファンが増えるのはもちろん嬉しいが。
「んで?その可愛いお前はこれから社会奉仕するんだろ?今までに犯した罪を帳消しにしようってんなら一生かかるんじゃね?」
「さっきはそう言ったけど。実際のところ、こちらにはデジたんという最強の免罪符がある。デジたんを拝むだけで魂が洗われるから、カルマは0の状態になる。僕が徳を積む理由は、あくまでもカルマをプラスにするためだよ」
「たった今お前自身がのたまったカルト思想のせいでカルマがまた強まってる気がするんだが」
「それなりの正論でツッコミを入れないでよ!あぁ、もう面倒くさい!こうなったらゴルシちゃん!君も社会奉仕に参加しろ!君だってトレセン学園にまあまあな迷惑をかけたことあるだろ!」
「んなっ!?そ、それほどでもねーよ!?せいぜい使われてない小屋を勝手にゴルシちゃん号のガレージに改造したくらいだ!」
「……考えてみると、ゴルシさんがまともキャラに見えるスピカって、とんでもないチームですねぇ」
「お前が言うなよ!?」
残念ながら、ゴルシちゃんは所詮狂人の皮を被った常識人なのである。
真似っ子の偽物は本物には勝てない。そうだろ?
◆
「社会奉仕とは言いましたけども」
休日、とあるイベント会場に集まったウマ娘たち。
「あたしにとっての社会とは、すなわちウマ娘ちゃんに関する部分が主であるわけです」
「だからアタシが同人誌即売会のスタッフをやるハメになってるわけだ。ビックリしたぜ、てっきり地域のゴミ拾いくらいで済むと思ってたからよ」
「まあまあ、お小遣いももらえますし。奉仕ではないですけど、そのお金をウマ娘ちゃんに貢げば、より大きな徳が積めますから!」
「アタシはそういうのしねぇから。多分今後しばらくラーメンのチャーシューが増えるだけだ」
今回参加するのは、とある小規模な即売会の準備だ。いつの間にか3人分の枠が確保されていたのだ、デジたんの謎人脈によって。
「こういうイベントにはあたしも馴染みがあります。それに、主催者様が父上のお知り合いだったりする時も……。曲がりなりにもあたしはウマ娘!こう見えてパワーだってありますから、現場では重宝されるんです!ならばご期待に応えねばッ!」
「ほお、なるほどなぁ……。で、さっきからずっと気になってたんだけどよ。オロールはまだかよ?てっきりデジタルと一緒に来ると思ってたぜ。アイツが遅れてくるなんて考えにくいんだが……」
ゴルシちゃんがそう言うものだから、僕は物陰からおもむろに姿を現した。実のところ、さっきから僕はずっと隠れて2人の会話を聞いていた。まあ、ちょっとしたイタズラである。
「ふふふ……!やあ、可愛らしいポニーちゃんたち。これからお出かけなんだろう?僕も同行する」
「花京い……いや誰だお前?」
「あ、オロールちゃん。ちょっと遅かったけど、どうしたの?」
おっと。さすがにデジたんは気づくか。
「んんん?お前、もしかしてオロールかよ?つか、仮にそうだとして、なんでそんな格好してんだ?」
ゴルシちゃんの問いに、僕はサングラスを指でクイっと持ち上げながら答える。
「フッ……!デビューしたおかげで僕の顔もそれなりに知れてきたから、姿形を変えなきゃ、ね」
「いや、多分まだまだ無名だぜ」
「……とにかく!印象に残りやすい目を隠しておこうと思ってサングラスをかけた!ついでに服も存在感薄めのやつをチョイス!パーフェクトカモフラージュ!」
さらに帽子を被っている上、尻尾も服の中に隠しているので、ウマ娘であることも気づかれない。そう、僕は完璧な変装をしてきたのだ!
「……まあ、変装自体はなかなかうまくいってんじゃねーか。知り合いでも一目で気づけなかったわけだしよ。変装する意味はいまいち分からんけどな」
「だー!いいじゃん!単にやってみたかったの!」
今後の練習だ!
「しかし、お耳と尻尾を隠してしまったのは少しざんね……。いや、待った。隠されていることにより生まれる美もまた存在する?さながらミロのヴィーナスのように、観測できないからこそ、想像力によって生まれる秘匿の美がッ!?」
「大げさすぎるだろ。別に美は感じねぇって。ムダに変装がうまいから完全に一般人に溶け込めそうだしよ」
「ああ、2人ともありがたいことを言ってくれるね。美しさも変装の腕も褒められて嬉しいったらありゃしない。ちなみにこのサングラス、人間用なんだけど……」
言いつつ、こめかみのあたり、人間でいう耳がある位置の髪をかき上げる。
「お、おー?ヒト耳付きじゃねーか!どうなってんだよそれ?付け耳かよ?」
「いや、それだとチープになるから。特殊メイク」
「どうしてそういうところに気合を入れちゃうの、オロールちゃん……」
何事にも全力で取り組むのが僕のモットーだ。今決めた。
「変装の腕を磨いておいて損はないと思うんだよね。例えば、もし将来デジたんがメチャクチャ有名になって、マスコミに追われたとする。そこに特殊メイクを使ってデジたんに変装した僕が現れ、マスコミを惹きつけてデジたんのプライバシーを守る」
「クッソ限定的なシチュだなオイ。ぜってーそんな未来訪れねぇだろ。第一、お前とデジタルじゃ身長が違うから誤魔化し効かねぇだろ」
「そんなもの気合でどうにかなるよ」
「ああなるだろうな!お前の場合与太話だと笑い飛ばすことができねぇから怖ぇ」
最近、ゴルシちゃんが僕のことをまるで名状しがたい冒涜的な生命体を見るような目つきで見てくる。どうしてそういうことをするんだろう。
「……ハァ、何も働いてねぇのに疲れたぜ。とりあえずよ、チャッチャと終わらせて帰ろうぜー?」
「ハイ!そうですね、そろそろ担当者さんからお話を聞いて仕事に移りましょう。……いいですか、ゴルシさん。我々はこれから金銀財宝などよりはるかに価値のある
「ま、物好きが高じて自分で本まで出しちゃうヤツらなわけだろ?そこは素直にすげーと思ってるぜ。身近な例がアレすぎて答えにくい質問だったがな」
「アハハ……。オロールちゃんは、ヲタクというより、もっと何か別のカテゴリに属しているといいますか」
「デジタル、お前のことも含めて言ってんだぜ?」
「エッッ……!ふひっ、いやぁ〜ーっ!あたしめなど、まだまだ精進途中のウマ娘ちゃんヲタですから、そのように褒めていただけると、なんというか照れ臭くなっちゃいますねぇ……!」
「褒めてねぇ」
日本語は難しい。ゴルシちゃんは意図していなかったらしいが、僕の耳にも褒め言葉に聞こえた。
「ゴルシちゃんもそろそろコッチ側に浸ってもいいんじゃないかな。気持ちいいよ、すごく」
「イヤだ、アタシはゴールドシップとしての生を全うしたい。もしも『堕ち』ちまったら、アタシはゴルシちゃんじゃなくなっちまうんだ」
「いったい君はこの界隈のことを何だと思ってるんだ」
「イヤイヤ、別に界隈全体の話はしてねぇ。いいか?仮にアタシが沼にズブリとハマったとしよう。すると当然沼の底から手が伸びてくる。他でもないお前らの手だ。それが問題なんだよ。アタシの近くにお前らがいる限り、沼に引き込まれるどころかそのまま地中深くまで引き摺られて、地熱で溶かされるに決まってんだよ」
「なるほど。うん、その認識は正しい。けれど僕は決して手を引っ込めたりしないよ。今日のお仕事で君の心境が変化してくれることを願っておこうかな、ふふっ」
さて、そろそろ動き始めるか。
デジたんが人差し指をピンと伸ばして言う。
「それでは!……出動しましょうっ!」
◆
「よーし、頑張っちゃうぞ!」
「そうですねぇ……ッ!?って、ああっ!?荷物をたくさん抱えたスタッフさんが転びそうにってオロールちゃぁん!?速ぁッ!?」
ふう、なんとか支えてあげられた。
10mで0.6秒か……。まだ練習の余地アリだな。
◆
「ああっ!?高価そうかつ重そうな機材が倒れそうにってオロールちゃん速ぁっ!?ちょっ、あたしも……!」
うーん、なかなか重そうだったから身構えたが、いつもトレーニングに使ってるダンプのタイヤよりはさすがに軽いな。小指で持ってみよう。
◆
「フゥー!いい汗かいたぜ!てっきり知的生命体としての矜持を捨ててるようなヤツらが集まる場所かと思ったが、皆イイヤツだったな!」
「はい。特にスタッフの指揮をとっている方々は、いわば歴戦の戦士たち……。長年のヲタクライフを経て、真の善に寄った人格を形成している尊き先輩方なのです。まあ、完全に本能の赴くまま行動しているのはオロールちゃんくらいですからねぇ」
「確かに。デジタルからは時々知性を感じるがコイツは違ぇもんな。知性がいくらあろうと狂気が上回る」
「いやぁ、そんなに褒めなくても……」
「褒めてねーって」
それにしても、ゴルシちゃんにとって僕は狂気に満ちた存在らしい。実際は違う。僕の心を満たしているのは全て愛であるから、つまるところゴルシちゃんが勘違いしているのだ。彼女は愛を知らないのかもしれない、かわいそうに。
「……君も、いつか誰かを愛せる日が来るよ」
「は?」
ゴルシちゃんは素敵な子だから、きっと。
「まあそれはともかく。無事に労働の対価を得たんだ、このまま経済を回しに行こうじゃないか。ゴルシちゃん、この際君もグッズを買いなよ。気持ちよくなれるよ」
「ぜってーやだ。アタシは、まあ……そうだな。この金は土星旅行の資金にでもとっておくぜ」
「ステキですね!あたしは、そうですねぇ……。いつものようにグッズを買うのも一つの手ですが、今回はあえてウマ娘ちゃん用撮影機材のアップグレードに資金を投じるというのもなかなか……」
「オイ、せっかくボケたんだからツッコめよ。……いや今のはアタシが悪かったな。悪い、やっぱお前らといるとキレが落ちるんだ」
「君養殖だもんね。ホントはアレでしょ?お淑やかで礼儀正しい性格だったりするんでしょ?」
「……好きに解釈してくれ。アタシは所詮この程度のウマ娘だったんだ……!」
「あああ!待って!ゴルシちゃんは十分ハジけてるよ!曲者揃いのスピカでもキャラを確立してるし、君はよくやってるよ!あっそうだ!いっそ今度のレースのウイニングライブで一緒にやらかそう!例えば、僕が音響をジャックするから、君はゴルシラップをかませばいい。他にもいろいろやりようはある!君の悪名を世界に轟かせよう!」
ゴルシちゃんは確かにハジケキャラで通っているが、実際の彼女は意外とまともだし、相手によってはむしろツッコミ役に回ることだってある、そんなウマ娘なのだ。だからこそ、世界に通用する抗いがたい魅力を秘めている。最近、デジたんに次いでゴルシちゃんのことが好きになってきたので、いよいよ僕も見境がなくなってきたなと思う。いや、元々こんなんだったか。まあどうでもいい。
「……へっ、そうだな。まさかお前に思い出させられるとは。四六時中面白さを求めんのがゴールドシップ様のやり方だ!計画変更ッ!この金を元手に資金を増やして、そしてゴルシちゃん旋風を世界中に巻き起こすぜ!」
「その調子だよ!そのまま凱旋門賞も勢いで獲ってきちゃえ!」
「おうよ!ゴルシ様の進撃は止まらねぇからな!」
「……割と真面目に獲ってきてほしい。君がロンシャンの芝を走って、どんな感触だったか僕らに教えてくれ。僕らが走る時に君の経験を活かすから」
「えー……。目がマジじゃねえか。つか、お前ら2人とも走るつもりかよ?海外の、それも最高クラスのレース。色々キチぃだろ、距離適性とかもあるしよ。デジタルはどう思ってるんだ?」
「ふぇっ!?そ、それはもちろん、世界の名だたるウマ娘ちゃんが集まるレースに参加したくないわけがありませんよ!しかし、ゴルシさんの言う通り、アウェーの環境で、中長距離を走るのは難易度がルナティック……」
「んふふ。ウマ娘って、案外愛があればなんでもできるんだよ。君が本当にウマ娘好きなら、ドバイであれアメリカであれフランスであれ、どこへだって行けるはずさ」
「あっ確かにそうだね。死ぬ気でトレーニングすればいいだけ!なるほど、イージーゲーム!」
「いや納得すんのが早ぇよ。あと普通は死ぬ気で練習することをイージーとは言わねぇ。……いや、普通じゃなかったな。なら別にいいか」
普通なんざつまらない。ゴルシちゃんもそう思っているからハジけるのだろうし。僕の場合、デジたんを愛する上で必然的に普通じゃいられないだけだ。
「夢のような話だけど、現実として、僕もデジたんもゴルシちゃんも、スピカのウマ娘は全員挑戦権を持ってる。スペちゃんは日本一を目指してるけど、もっと上だって目指していい。まったく最高じゃないか、競走ウマ娘って」
「あたしにも、挑戦権が……。もしも、あたしがG1レースに出走させていただいた暁には、恐れ多いことですが、グッズ化などされてしまうんでしょうか。自分が推される側に回るのは不思議な気分ですけど……。嫌ではありません。むしろ、そうなることで喜んでくれる同志がいるのなら、走る理由がまた1つ増えたことになります。ヲタクとして徳を積むことも大事ですが、競走ウマ娘として戦績を残すこともまた、徳を積むことと言えるのではないでしょうかっ!?」
「……いいこと言うねぇ。君がそんなことを言うもんだから、走りたくなってきた。もう日も暮れそうだけど、寮の門限までは少し走れるね」
「ここからトレセン学園まで、そう遠くない距離だし。推し活で鍛えたこの脚で……勝つるッ!」
走るだけで徳を積めちゃうなんて素敵な世界だ。そう思うと走ってない時間がもったいなく感じてきたぞ。
「……お前らホンット元気なのな。しゃーねーからアタシも付き合うぜ」
そう言いつつも、口角はしっかり上を向いているゴルシちゃんが好きだ。
「あ、つーかよ。オロール。お前テンション上がったら
「ひゃっほい!ブッ飛ぼうよデジたん!」
「ちょ、速ぁ!?ま、待ってっ……。いや違う!本番のレースでウマ娘ちゃんの正面からお顔を拝む方法はたった一つ!デジたんとしたことが、『甘え』がありましたね……!うおおおおおおおッ!」
「……話聞いてねぇなコレ。まあいっか」
「文芸」の定義が作者の中では曖昧なのですが、少なくとも当小説は断じて文芸ではない()。
これをアートの範疇に含むのはオラが許さんぞ。
それはもう芸術界どころか世界への冒涜だ。
「読むだけで首筋が浮き足立つ文字の羅列」だと思って読んでいただければ幸いです。
書いている途中に(アレッ中学生なのにバイトしてんぞぉ?)という考えがふとよぎりましたが、多分気のせいでしょう。デジたんは優しいのでいつも街の人たちのお手伝いをしてくれるのです。可愛いですね。