ウェディング姿ー……。
ぱふぁ
「なーなーなーなななーななー!なーつーだぁぜぇなーななー!」
「あぁっ、ゴルシちゃんが暑さでイカれちゃった。ちょっと、トレーナーさん!どうしてこんなに暑いんですか!」
「俺に言われても困るって。そりゃあ、夏だからだろ。とはいえ梅雨入り前にこれだと気が滅入るのも確かだな」
ウマ娘になってから、暑さへの耐性が弱くなった気がする。メディア露出が多くなる立場上、身嗜みにも一応気を配って生活しているが、こうも暑いと何もかもやる気がなくなって、やることなすこと全てが杜撰になってゆく。モデル業で活躍しているウマ娘……アレはすごい。同じ生き物とは思えない。
ただし走るのだけは楽しい。運動すると体温が上がって余計に辛くなるだろう、と思っているヤツはまだまだ甘い。身体を動かせばその分キモチよくなれるので暑さなどどうでもよくなるし、汗をかいて涼しくなれるのでとってもお得なのだ!
「しっかし、ホントに暑いねぇ、デジたん。何か涼めるアイデアはないかい?」
「まずはあたしにベッタリひっつくのをやめたらどうかな?少しは涼しくなると思うけど……?」
「僕と君とで最小単位を構成してるんだから、そんなことできっこないよ。もっと現実的な方法があるはずだよ」
「夏の暑さにやられたのはゴールドシップだけではなかったようですわ」
「マックイーン……。ボクが見る限りじゃ、あの2人はいつもあんな感じだよ」
暑さにやられたゴルシちゃんの代わりに、今日はテイマクがツッコミをやってくれるらしい。
「ふと思ったんだけど、マックイーンってなんだか見た目が涼しいよね。芦毛の髪にクールな顔立ち。そこにいるだけで風通しがよくなってる気がしてきた」
「何をおっしゃってますの?……それはつまり、清楚で落ち着きがあるという意味で、私を褒めてくださったということですか?」
と、ここでゴルシちゃんの目に生気が戻った。
「マック、ヘイ、マックちゃん。セイソってのはなんだ?よく分かんねーなあ。一人でカラオケに行って野球の応援歌を熱唱するヤツが清楚だとは思えねーし……」
「ゴールドシップ?金属と木材、お好きな方を選んでいただけます?貴女が最期に見る物でしてよ。よーく考えてくださる?」
「マックイーン?」
「ホームランをその身で体験してみませんこと?」
ウマ娘が全力を出せば、ゴルシちゃんの頭部をホームラン打球にすることは実際にできてしまうのだから怖い。非常に怖い。あー!マックイーンはとても清楚だなぁ!
「まあまあ、マックイーン。そんなに怒っても仕方ないよ。かえって暑苦しくなっちゃうってば」
「テイオー、私怒ってなどいませんわ。羽虫を追い払うとき、貴女は怒りを覚えますの?違うでしょう?今さらゴールドシップに1発かますくらいでわざわざ感情は揺さぶられませんわ」
「えーっ!マックイーン!アタシはこんなにもお前のこと好きだってのに!お前はアタシに対してなんの感情も抱かねぇのか?そりゃあねーぜ!今までのことは全部遊びだったってのかよ!?」
「ちょっと!やめてくださいまし、その言い方!貴女、私の何になったつもりですの!?」
めちゃくちゃ感情抱いちゃってるって。
マックイーンはあんな大口を叩いておいて、ゴルシちゃんの一挙一動に大層感情を揺さぶられている。
「テイマクか、ゴルマクか。それが問題だ」
「哲学的な問いだねデジたん。けど、僕の意見はこうだ。どっちもいいじゃないか。その二項は同時に存在し得る。愛さえあればいい。そして、僕らがCP論争に対して寛容になることもまた愛だよ」
……。
マクイクの線もあるな。
「確かに……!し、しかし、脳内で同時に2つのシチュを妄想してしまうと、尊みがギガトン級すぎて心臓爆発しちゃうっ!」
デジたんの環境適応能力には目を見張るものがある。いかなるジャンル、いかなるキャラ、いかなるCPであれ受け入れることができる彼女。だがいかんせん心臓と脳の耐久値がマイナスを切っているからすぐに昇天する。それが問題だ。
「オイオイ、そいつの頭を早く冷やせ。ただでさえ暑いのにストーブを点けるなんざアホすぎるぜ」
「珍しく貴女と同意見ですわ。デジタルさんの熱気がここまで伝わってきます。はぁ……。あまり優雅ではございませんが、いっそ水を浴びてさっぱりしたい気分ですわね」
「……それだッ!」
そうだ!夏といえば水着……水!海!プール!
トレセン学園の設備は実に潤沢だったではないか!
「トレーナーさんっ!いいかげんこの暑さには僕ら全員が参ってますし、デジたんには至急クールダウンが必要です。そこでっ!水泳トレーニングを提案しますっ!」
「今からかよ?そいつはちと厳しいな……。ここ最近ずっと春の陽気どころじゃない暑さだったからな、他のチームも同じことを考えてる。今日はさすがに場所を取れない」
「……ペッ」
「あっおい!?今のなんだよ!?お前今俺に何か吐き捨てたなぁ!?」
けっ、使えないトレーナーだ。
「くっそ、教え子にここまでコケにされるトレーナー、俺以外にいねぇぞ……?」
「なんなんだろーな。一応中央のトレーナーだから、マジメな話すげー頭良い上にスポーツへの造詣も深いはずなのによ。……オメー、あれだ。日頃の態度だな」
そうだそうだ。
「はーっ、ったく。それじゃあ明日はタイヤ引きでもやるか。あーあ、せっかくプールの場所取っておいてやったのによ……」
「トレーナーさんマジ神!最高!僕が今まで頑張ってこられたのは10割がデジたんのおかげで2割がトレーナーさんのおかげです!いよっ、世界一っ!」
「ご機嫌とってるつもりか?2割て……」
「オメー、マジかよっ!?オロールの基準に従って、デジタルを10としたときの2といやぁ、オメー……!愛の熱量をエネルギーに換算したら、軽く200年分の世界の電力を賄えるレベルだぜ!?」
「オロールさんをタービンに繋げば世界が平和になるのでは?」
ゴルシちゃんの例えは実に的確だなぁ。
もしも感情のエネルギーを利用しエントロピーの増加を食い止めようと図る地球外生命体が僕の前に現れたら、ソイツは多分キャパオーバーで死ぬ。
「……まぁ、せっかく許可取ったからには、明日はプールを使う。足が攣らないよう、しっかりケアしとけよ」
「やったー!トレーナーさん最高っ!」
◆
「ハァ、ハァ、スク水美少女ォ……!」
「もしもしポリスメン?」
「ハァッ、ハァ、ァ……?あっ!?ちょ、通報するのが早いってゴルシちゃん!まだ何もしてないよ!」
「犯罪者は皆そう言うんだ。悲劇が起こる前に行動しなきゃ、何も変わんねぇだろ」
僕だってけっこうな美少女なのに、犯罪者呼ばわりとは随分失礼だ。美少女であることがどんな免罪符よりも強力であることは言うまでもないだろう。
「このプールの水でお味噌汁を作りたいなぁ……」
今のセリフだって、発言者がデジたんであるというだけで一切の問題はなくなる。
ちなみに僕もそれは考えた。ウマ娘たちの汗と涙が溶けた聖水を美味しく頂けたなら、それはどんなに幸せなことだろう、と。
「いくらお前らがウマ娘好きだからって、プールの水はさすがに飲めねぇだろ。メイクデビューも済ませてるってのに、病気にでもなったらどうすんだよ」
「え?でも、ウマ娘ちゃんが泳いだ水ですよ?」
「だからよぉ、皮脂の汚れとか、細菌とか、いろいろあるだろ。除菌剤が撒かれてるとはいえ、100%安全じゃねぇ。アタシらウマ娘は人間のそれよりも強力な免疫機能を持ってはいるが、わざわざリスク犯す必要はねぇだろ」
「すっごく真剣だね、ゴルシちゃん」
「お前らがマジでやりそうだから本気で心配してるんだよ!あー!アタシ優しいなぁ!?なぁ!?」
目がマジだ。
だが僕もデジたんも、やるといったらやるぞ。
それはそれとして、あまりにも惨めなゴルシちゃんの姿を見ていると、今までの僕の行動を鑑みたときに、そこはかとない罪悪感を感じる。
「……なんか、ごめんね」
「なぁ〜にがごめんだよ!?今さらァ!?クッソ!暑さのせいで頭がカッとなっちまう!」
「……ホント、ごめんね」
「だーっ!こうなりゃ泳ぐしかねぇ!おいスペ!ビート板10枚持ってこい!」
日々の心労が限界に達したとき、人間であろうとウマ娘であろうとおかしくなってしまうのだなぁ。
いや。ゴルシちゃんの場合、ゴルシちゃん劇場の幕を開け、己の世界に閉じこもることで自分を守っているとも考えられるな。
だがオロール劇場の幕を下ろす気はさらさらないので、彼女にはこれからも頑張っていただきたい。
「……水着、またキツくなってきたかも。はぁ、子どものころは身体が成長するたびに嬉しかったのに。今となってはあまりだわ。服のサイズをいちいち気にしなくちゃならないのって面倒よねぇ」
「スカーレット。お前、それやめろよ。わざわざ、こう、胸のあたりを触って確認する動作っつーか、その。目のやり場に困るっつーか、さぁ?」
「何よウオッカ。アンタは別に構わないでしょ?例の変態2人ならまだしも、ウマ娘は恋愛対象外のアンタが気にする必要なんてないんだから」
「そりゃあ、そうだけど……」
90。
これが何を意味する数字か、同志諸君はとうに理解していることだろう。
「スカーレット、すごいなぁ……。ホントに中等部?すっごくイイ身体してるよねぇ」
「やっぱお前気ぃつけろよな!?コイツら変態が舌舐めずりするような行動は慎んだほうが身のためだと俺は思うっ!」
「ちょっと誤解してるよウオッカ。僕はたんに自分の趣味嗜好のみに基づいて発言したわけじゃない。君も競走ウマ娘なら分かるでしょ?スカーレットの身体を見てよ。この歳にして既にかなり仕上がった肉体、魅惑の曲線ラインの下に隠された恐るべき筋肉!ウマ娘として一種の究極形に限りなく近い身体だよ!あとついでにセクスィー!最高だ!」
「最後の一文がなければアタシも素直に喜べたわ」
普段は優等生の皮を被っている彼女だが、実際の走りを見ていると、優等生とはかけ離れたものだ。パワフルかつエレガント、原動力は1着への執念。最高にアツいウマ娘だ。
その肉体美を顕著にしてくれるのが、スク水。
我らがスク水。あゝスク水。優美なるスク水。
もちろんスカーレットだけじゃない。ウオッカは普段のアホの子ムーブからは考えられないほどにスタイリッシュかつスマートな肉体を有しているし、ゴルシちゃんはシンプルにスタイルがいい。まさに黄金の身体。
「ウマ娘ってみんなイイ身体してるよねぇ」
「あたしの全身をくまなく見つめながら言われると、さすがに気恥ずかしいといいますか……」
デジたんの美しさを表すには、僕の思考能力だけでは到底表現できないので、省略させていただこう。言わずもがな、である。
「心の中で情欲を抱いた時点で既に……何とやら。昔の偉い人もそう言ってた。聖書にも書いてある。本来は欲の乱れを律する言葉として一般に知られてるけど、僕はあえてこの言葉をポジティブに捉えようと思う。要は、愛する人を見た時点で、生物として至上の喜びを得られるわけだろ?最高すぎない?」
「それ、完全にストーカー予備軍の発想ね」
「スカーレットさん。確かにオロールちゃんがあたしを見る目つきは法律の抜け穴を突くような目つきですが、それはあたしとオロールちゃんの間に信頼関係が築かれているからなのです。ウマ娘ちゃんヲタクとして、我々はウマ娘ちゃんを不快な気持ちにさせるわけにはいかない!イエスウマ娘ちゃんノータッチ!周辺視野フル活用!ヲタクという立場にあるかぎり、ソッチ系の目線をウマ娘ちゃんに送るなど言語道断っ!……ですが、個人の心の有り様については、他の誰も干渉できない、してはならない領域です。昔の人の言葉通り、欲を律することも大切ですが、純粋愛としてのリビドーを抑えることは不可能ですゆえ、それとうまく付き合っていかねばならないのです。我々、決してストーカーなどにはなりませんので、ご安心をっ」
「……あれ?ストーカー予備軍であることは否定してないじゃない」
「そうだよ?僕ら立派な予備軍だよ?」
「自覚アリかよっ!?タチわる……。いや、むしろ自覚してる分、踏みとどまろうとする意志があるから良いのか?」
「その通り。最もドス黒い『悪』とは、自分が『悪』だと気づいていない『悪』だよ!」
僕とデジたんは、公衆の面前ではいくらか自重している、はず。
「踏みとどまっているようには思えませんけど」
「……気のせいだよマックイーン。それか錯覚」
「キミ、もしかしなくても、自分を悪だと自覚していない最もドス黒い悪じゃないかな」
テイオーの視線が刺さる。正直、いい意味でガキっぽさを孕んだ雰囲気を纏う彼女に軽蔑されるような目で見られるのはなかなか興奮す……ゲフン。
「というか!だったらなにさ!?公衆の面前でデジたんに抱きついたり髪の毛吸ったりしちゃあダメって言うの!?」
「いやダメだろ。常識的に考えて」
「えーっ!?でっ、でも、ウマッターを見てみなよ!全員猫吸ってるじゃん!猫吸いが合法ならデジたん吸いだって合法だ!猫吸いがウマッターという不特定多数の目につく場所で堂々と行われているのなら、デジたんを吸ったって問題はないっ!」
「……哀れな人ね」
どうして誰ひとりとして僕の意見に賛同してくれないんだ!その冷たい視線はなんだ!?
「お前ってホント救いようがねーなぁ!!」
「あっ、くそぉ、ゴルシちゃんめ!25m泳いだ先の安全圏から狙撃しやがって!」
卑怯な。
「……ねぇ、デジタル。アンタ、そっちの変態よりはまだ常識があるし、社会性あるわよね。それに、前にこんなこと言ってたじゃない。自らがヲタクの社会的地位を貶めることのないよう、行動には気を遣っております、とかなんとか。オロールとの惚気ってどうなのかしら」
「……ッスゥ〜、はぁ〜、えっと!えっとですね!確かに、社会のルールを遵守することは人としてのマナー。ヲタクであればなおさら気を配る必要があります。更にあたしたちはトレセン学園の生徒ですから、あたしたちの行動は学園の品位にも関わります。……But!ウマ娘ちゃんの仲睦まじい姿を見て不快になる人はいないッ!はずッ!あたしのような一介のヲタクがウマ娘として扱われるのは若干解釈違いですが、オロールちゃんと一緒にいる場合に限りッ!アグネスデジタルの名はウマ娘としてのアグネスデジタルを表す記号になるのですっ!」
「そうそう!ウマ娘同士の絡みはもれなく目の保養になるんだって!さらにさらに、デジたんは究極の美少女だし、僕ももれなく美少女!よってオロデジはそのうちガンにも効く!」
「いよっ!変態っ!!」
ゴルシちゃんのヤツめ。水に浮かせたビート板の上に立ちながらこっちを煽ってきた。
……どうなってるんだ?アレ。
「……そこまでいくと、何かこう、一周回って畏敬の念すら湧いてくるような気がしますわ。いっそのこと、そういう路線で売り出せば、もしかすると数多くのファンを獲得できるのではありませんこと?」
「はっ!百合営業っ!?」
「……ゆり、って、あの匂いがキツい花だろ?俺は嫌いじゃないけど。で、百合営業って何だ?」
「ウオッカさん……。申し訳ありませんが、あなたにはまだ早いでしょう。その純粋な御心を大切になさってください」
営業、とは言ったが、僕は絶賛ガチ恋中なので、厳密には営業とは呼べない。ファンサとしての意味を強めるためにそう言ったが、ぶっちゃけデジたんへのクソデカ感情を隠すのは面倒くさいので、完全に僕得、というヤツである。
「僕アレやりたいな。2人で向かい合って手を組んで、唇が触れるか触れないかくらいの距離になるアレ。写真撮ってもらって月刊トゥインクルの一面を飾りたいね」
「アッ……。その構図しゅき……。はっ、か、かといって、あたしもやってみたいなーとか、そういうわけじゃないデスヨ!?」
「……ホントに?正直に答えてみて」
予行演習は大切だ。そんなわけで、僕はデジたんの手をおもむろに握って、目と目を合わせたまま顔を近づけた。
「ひゅっ」
おっと。さすがに不意打ちすぎたか。潔さすら感じる断末魔を一瞬だけ上げて、彼女は後ろに倒れ込む。
って、そっちはプールが……!
「ゴポボボポポオロルチャブブブブ……」
「
「プールが鼻血で赤く染まっていく……」
「殺人現場みたいで趣味悪いわね」
うわぁ!大変だ!
このままだとデジたんが溺れてしまう!
すぐに救出して、念のため人工呼吸をしなければ!
「
ゴルシちゃんだと?いつの間に!
このウマ娘、水の下からツッコミを入れてきた。
「……ぷはっ!?」
「あっ、おはようデジたん!大丈夫?息してる?してないよね?やっぱり人工呼吸とかしたほうがいいよね?」
「いえ、さすがに空気のやり取りはご勘弁を……」
なぁんだ、残念。
許容範囲は軽めのキスってところか。
デジたんを合法的に吸えると思ったのになぁ。
ウチの変なウマ娘とテイオーの口調が似ているので使いにくいのですわー!
お文章書くのってクッソ難しいですわね!
自分の妄想を圧倒的表現力で顕在化してくれる方を月給5円で雇いたいですわー!