頭の中だとめっちゃ壮大なストーリーが展開されてるのに……!とまあ、よくある話です。これに関しては共感してくださる方も多いのではなかろうか、と思う今日この頃。
「僕の勝ち」
「何が?何の話?なあ、つい数秒前までグースカ寝息を立てて、たった今目覚まし時計をぶん殴ったとこなんだよアタシは。会話に脈絡がないどころか、会話すらしてねぇの。分かる?」
「寝起きなのに随分と口が回るね。すごいや」
「おうセンキュ。多分性能の良い目覚まし時計のおかげだろうな。ちょっと耐久力のテストもしたいからよ、いっぺん全力で殴ってみてもいいか?」
「世界で2番目に美しい目覚まし時計になんてことをするんだ。もっと丁重に扱ってくれ」
無論、世界一美しい目覚ましとはデジたんである。朝目を開いた時にデジたんの吐息がかかるあの瞬間は、無形文化遺産に登録すべきだと思う。
「とりあえず、僕の勝ちだ。もう競走ウマ娘界では2番目に最強と言っても過言ではない」
「おう、おめっとさん。で、何がだよ?もうアタシ帰っていいか……ってここアタシの部屋かクソッ」
「さあ、分かったら僕の勝ちを認めるんだ」
「さっきからよお、アタシ、なんとか歩み寄ろうと努力してるんだぜ?それをお前、何も無下にするこたねーだろ」
「ごめんごめん。いや、別に長い話でもないよ。僕の勝ちだと言える理由を話してあげよう……。っと、ちなみに聞くけど、ゴルシちゃんの予想はどんな感じ?つまり、僕がこうやって勝ち誇ってる理由に見当はついてない?」
「ついに自力でアグネスデジタルのゲノム解読に成功したとかじゃねーの?」
「違うよ。でもそれってすごく良いアイデアだね。今度やってみようかな……」
「お前そういうの得意そうだもんな」
「うーん、タキオンさんやシャカールさんに協力を要請すればなんとか……」
「前代未聞のウマ娘ゲノム完全解読を成し遂げられそうなメンツが普通に学生やってるの、この世のバグだよなぁ」
うむ、その通り。少なくともタキオンさんは今すぐ国から何かしらの賞を授与されるべきだと思う。それと手錠も必要かもしれないが。
「って、僕が勝利宣言した理由はそうじゃなくて。もう言っちゃうけどさ。……来たんだよ、遂にッ!」
「お、何がだよ?」
ターフに遍くウマ娘の憧れ。
競走ウマ娘たるもの、例外なくソレを渇望する。
いわば、プロとアマの境目。
僕たちにとって、至高にして最大のアイデンティティとなり得るものである。
「僕の勝負服が、完成したんだよっ!」
勝負服。
G1レースに出場するウマ娘のみが身に纏える、世界に一つだけの特別な衣装である。
◆
「年末は大きなレースがたくさんあるでしょ?要はそれまでに僕の名を世間に轟かせればいいわけ。すると、勝負服を着てレースに出走できて、その姿をデジたんに見せつけることができる」
「なんか、イヤだぜ……。こんなヤツが日本トップクラスのレースに出場しちまうってのは」
「他人のこと言える身かい?君は。こないだのレース後のライブでステージにDJブースを設置したのはどこの誰だっけ?」
「アタシんなことやったっけか……。あぁ、やってたわ。アレか。まあライブじゃよくあることだろ」
「いやはや、君の存在ってありがたいよ。ほら、ゴルシちゃんがネタに走るときって大概派手じゃん?僕が暴走するときって……。ほら、根底にジメッジメでドロッドロのねちっこくてグチョグチョした激重感情があるから、派手さには欠けるんだよ」
「んなことねーと思うけどなぁ。まあ目的の違いかもな。アタシは、ほら、全員の目を引いてからフラッシュバンを投げたいタイプだからよ」
僕の愛の形が世間様にお見せできるようなものじゃないことくらいはさすがに分かっている。分かっているけどやめられないだけで。
いや、やっぱり、元来ウマ娘の愛は尊いものであるから、それを受け入れられないヤツがいるとするならば、ソイツが悪い。僕は悪くない。
「とにかく!今、僕はとってもワクワクしてるんだ!今僕の目の前にある段ボール箱の中に、ありとあらゆる希望と可能性が詰まってるんだ!」
興奮が抑えきれなかったもので、まだ空がオレンジのベールに覆われているにもかかわらず、ゴルシちゃんを巻き込んで部室に一番乗りしてしまった。
その部室に無造作に置かれた段ボール。先日、トレーナーさんから勝負服が届いたとの旨の連絡を受けてから、ずっと待ち望んでいた。
「スゥー……!スゥー……!スゥー……」
「吸いすぎじゃね?少しはハァーっとやれよ」
「スゥー……!スッ……!」
よし、興奮を声に乗せて地平線までブッ飛ばす準備はオーケーだ。
「スゥー……ッ!いざッ、開封ッ」
「あ、ちょい待ちな。察したわ。待てよ、マジで。アタシが耳栓付けるまで待……」
「うわああああああああああああああああああああああぁぁぃゃぃゃぁーぃーゃーッ!!!」
「ああああああああ!?うるっせぇぇ!?」
「ごめぇぇぇん!!!」
「……すぞ」
「……なんて?」
「ブッ殺すぞお前マジで」
「おっ、おぉ……。ゴルシちゃんからシャカールさんばりの気迫を感じる」
この目は本気だ。本気書いてマジと読む。
「っていうか!見てくれよ、コレ!すごいすごいすごいっ!ホントに勝負服だ……!」
「ほー。パッと見、まあまあイカすじゃねーか。色合いとか」
「見てなよ、僕がこれを着るだけで君の眼球は焼けちゃうはずさ」
「お前を注視したところで目が腐りこそすれ、焼けるこたねーわ。間違いなく。つーかデジタル呼べよ。アイツならちゃんと目を焼かれてくれるはずだぜ」
「フッ……。僕はキチンと計算してるのさ!さっきの叫び声がデジたんに届く確率100%!そして彼女がここへ来るまで約3分!その間に全力で着替えを済ませ、デジたんを迎え撃つ!」
「気の毒と言うべきか、それとも幸せ者だと言ってやるべきか。つまり、ドアを開けた途端にアイツは昇天する運命にあるわけだろ?」
「僕のカッコ可愛い姿を直で拝めるなんて最高じゃないか。あ、僕の勝負服姿を最初に見せる相手はデジたんがいいから、ゴルシちゃんはしばらく目瞑っててくれる?」
「すげーワガママ。まー別に良いけどよ。アタシは風の流れで空間把握する練習しとくわ」
そう言って彼女は自分の目を潰し、代わりに額から生えた角で空気の流れを把握……したりとかは全然なく、妙なデザインのアイマスクをどこからともなく取り出して付けた。なんだそのデザイン。黒地に白文字で「たからじぇんぬ」と書いてある。なぜか明朝体だ。どうでもいいけど気になるなぁ。
「ハッ……。覗いちゃダメだからね。エッチなこととか考えないでよ?」
「いっつも風呂場で見てんだろーが」
「いや、ほら……。こういうシチュでのみ観測可能な美しさというものがあるでしょ」
「知らねーって。はやく着替えろよ!」
◆
勝負服。
それはウマ娘の象徴であり、個性。
だから、ウマ娘の持つ魅力を最大限引き出せるものでなければならない。
聞き慣れた足音。
ふむ、予想より少し早かったな。
その歩みは止まらぬまま、勢いよくドアが開かれた。
「オッ、ッ!?オ゛ッ……」
「ちょ、逝くのが早いって」
……まあ、仕方ないかぁ!
僕、ちょっとカッコよすぎるもんね!
「コヒューッ、コヒューッ……!」
「デジたん、大丈夫、落ち着こう。まずは深呼吸して。それが済んだならば、瞠目せよ!僕の晴れ姿をッ!」
「あー、オロール?もうアタシも目ぇ開けていいだろ?」
「ああっ!そして拝むんだ!崇め奉るんだ!最高にクールな僕の姿をッ!」
僕は美しいッ!と、まるでオペラオーさんのようなことを言うが、前提として僕は眉目秀麗の種族であって、その上最高に似合う服を着ているから、デジたんが血飛沫の中に沈んでいったのも仕方がないというものだ。
「いと、尊きかな……」
「ありがとう。あぁ、ホントに嬉しい。僕ってこの瞬間のために競走ウマ娘になったのかもしれない」
「はぁ〜っ、尊みスタンピードに押し潰されそう……!だって、だって……!」
「あぁ、分かるよ、君の気持ちが。僕自身、自分に対してこんな感情を抱いたのは久しぶりだ。今の僕なら自分と結婚できる」
もちろん、僕が一番に結婚したいのはデジたんだが。しかし、自分のクローンを第二夫人にしちゃってもいいくらいだ。うん、とりあえずクローン技術と同性婚と複婚が認められる国を探そうかな。ところで、ゴルシちゃんの顔はいつの間にか青ざめている。
「あ、あー、その。アタシ帰っていいか?」
「え?ダメ。君には僕をもっと讃美する義務がある」
「……」
まったく、この服は素晴らしい出来だ。
まず、全体的に、黒を基調としたカラーリング。僕の青毛の髪によく映え、デジたんの白と対になる、まさに僕が求めていた色だ。外套は、何というのだろうか、ジュストコール、あるいはアドミラルコート、とにかく海賊の着るような、アレだ。アレ。艶やかな黒に、袖口やポケットのボタンなど、ところどころに僕の瞳と同じ金や青の装飾が施されている。
インナーも同じく黒い。カフェさんとデザインが若干被ってしまわないか、なんて心配をした時もあったが、どうやらそんなことはなさそうだ。あちらはまさしく夜の闇を想起させる意匠だが、僕の勝負服は、何というか、荒々しい青の海にポツンと佇み、そのまま周囲を飲み込んでしまいそうな黒だ。さながら皆既日食のように、一瞬で辺りを黒く染めてしまえそうなほど。
そうそう、帽子もこれまた素晴らしい。海賊といえば三角帽子、そんなわけで僕も被っているのだが、こちらもよく映える金と青の羽飾りがいい味を出している。落ち着きと絢爛の中庸を保つそのフォルムは、そこだけ見ていると、むしろ高貴な印象すら感じるほど。
さらに、これは僕もあまり予想していなかったことなのだが、もうひとつ面白いデザインがある。
「それにしても……。ちょっとコレ、あたし、年齢制限の必要性を感じました。オロールちゃん、それはさすがにえっちすぎるというか……」
「確かにえっちだ。うん、自分でも興奮するもん。つまりね、僕は結構気に入ってるんだよ。この絶対領域……!」
絶対領域ッ!
それは全人類のロマンッ!緻密な黄金比を伴いこの世に顕現する、聖なる領域ッ!
僕の下衣は黒のレザーショートパンツである。
そして、ニーハイブーツ。
やるな、製作者。僕の曖昧なイメージをこうも素晴らしい形で現実化してくれるとは。感謝の念がいくらあってもたりない。
絶対領域とは、衣服によって隠された素肌がほんの少しだけ顔を見せる、その刹那の美しさ!
僕は、その体現者だ!
カラーリングは派手でないものの、この絶対領域や伏に施された装飾、洒落た帽子などが、この上ない獰猛性を孕んでいる。まさしく僕の理想だ。
「最ッ高だ……!G1レースに出走するウマ娘たちが皆、あんな重たくて動きにくそうな服を着てるのが不思議だったけどさ。今なら分かる。ホントに、力が湧いてくるんだ。僕が僕である証のようなものが、この服に宿ってるような感じだよ」
「なるほどつまりオロールちゃんがオロールちゃんでオロオロオロオロオロ」
「君、もしかしてなんか吐いてる?」
デジたんの吐瀉物なら、僕は、正直言って余裕で性癖の射程内に収まっている。
「うん、吐いた……。たましい」
「たましいを」
うむ、よくある話だなぁ。
「つか、海賊か。なんかアタシと若干ネタ被ってないか?」
「ゴルシちゃんのは、どちらかというと海軍とか、そっち系じゃない。僕を追い詰める側の勢力だろ」
デジたんの魅力を際立たせられるようなデザインに拘り続けた結果、図らずもゴルシちゃんとの関連性まで浮上してきた。なんとも言えない運命的なものを感じる。
「あ、ヤバい……。これ、ずっと着てられる」
服の通気性や伸縮性など、無論アスリート用の衣装であるからして、一般の服よりも断然に優れていることは間違いない。しかし、やはり見た目に重きを置く以上、若干の息苦しさだったり、そういうものがないわけではない。
しかし、それを差し置いても、有り余るほどに心が熱くなる。気合、根性、そういった曖昧な概念が、この衣装に身を包んでいる時は、ハッキリと理解できる気がする。
「分かりみ……。あたしも、こないだ試着をしてみたんだけど、着るだけでウマ娘ちゃんラブが止まらなくなってきちゃって……」
「は?ちょっと待って?君、もう勝負服持ってるわけ?」
「へっ?あ、ハイ、それは、まあ……」
「なんで教えてくれなかったの!?僕、君の勝負服姿を生で拝めたら死んでもいいと思ってるくらい待ち望んでたのに……!」
「い、いや、その。そこまで気が回らなかったというか。あたしの勝負服姿とか、どこ需要……?って考えが先行しちゃって、それで!スペさんみたいにG1への出場まで急拵えで準備をしたわけでもないですし、別に、いいかなーと……」
「僕という世界規模の需要……。いや、銀河規模、多元的世界なんて目じゃないほどの需要を、君はほったらかしに……!デジたんだから全部許せちゃうし、そういう君もまた可愛いから全くもってオッケーなんだけども!でも!君の勝負服姿を見たいって気持ちはまだ燃え尽きてないし、むしろその熱はだんだん高まってきてるんだけどなー……?」
「あ、えっとぉ……。あたしは何を……?」
「勝負服、着よ?」
「えっ、あの、今着」
「着よ?」
「ハイ」
◆
「オッ……オ゛ッ」
「あぁ1人死んだ。アレ、なんかデジャヴ感じるな」
「どうしてなのでしょうか。あたし、他のウマ娘ちゃんたちの印象が潰れないよう、かつあたし自身のヲタ的感情を詰め込みまして。とにかくそういう想いをコンセプトに勝負服のデザインを考えたんですけど。やっぱり刺さる人にはとことん刺さってしまうのでしょうかね。特にオロールちゃんのような変わり者には……」
「お前も罪だよなぁ。正味、アタシから見ても、ソイツはなかなかにいいデザインだぜ。あと、なんつーかな。お前身長低いから、そうキラキラフリフリした飾りが付いてると、余計に幼さが増してるっつーか、でもっていつもハァハァやってるから、どうにも犯罪臭がするっつーか……」
「え゛っ」
「自覚しろ、って。こればっかりはこの変態に同意見かもしれねぇな」
「ゴッ、ゴルシさんっ!?あの、あなた多分オロールちゃんに毒されてますよ!?モノの見方が歪んできてますッ!?」
……。
何やら、僕がトンでいる間に話が進んでいる。
ふむ、なるほどな。
「……ゴルシちゃんは実に穿った見方をしているよ。まったく、デジたんは世界一可愛いんだから、一挙一動に気を遣わなきゃ、僕みたいに脳を破壊されるヲタクを大量生産するハメになるよ?」
「しょっ、しょんなぁ……」
何べんも同じ話を僕はしているし、彼女もその度に聞いているだろうに。本気でショックを受けた、と言わんばかりに肩を落とすデジたん。
「何にせよデジたんが可愛い。最高だ。今ならオーストラリアを2時間で横断できそうだ。勝負服から力がむんむん湧いてくる。勝負服ってこんなに素晴らしい効能を持ってるんだな」
デジたんの勝負服と僕のがシナジーを起こし、効果は倍増である。
「コレ、普段のトレーニングも勝負服でやらないと、いざってときに肉体がぶっ壊れるかもしれない……」
つまり、勝負服によって倍増された力が肉体を蝕むかも、ということ。
「さすがにねーだろ。……と言えないのが、お前の怖ぇとこなんだよな。別に学園内で着る分には、重大な不都合があるわけでもないし。時々着て走るってのも面白そうだな」
「ゴルシちゃんもそう思う?じゃ早速トラックに行こう!デジたん!」
「ファッ!?いや、ちょ、それはなんだか恥ずかしいといいますか、その……」
「恥なんてヲタライフには不要だよデジたん!いや、真に幸福なウマ娘生を送る上で、恥じらいの感情を適時オンオフすることは必須だ!さあ!ほら!勝負服でキマろうよ!」
「仮にもウマ娘の誇りをそんな汚ねぇ言葉と一緒に使ってやるなよ」
「キマるものはキマるだろ!」
「オメーだけだかんな!?」
むぅ。よく分からないな。
もしかして、テレビなんかで見るG1ウマ娘は、レース中にトリップしないタイプなんだろうか。
珍しいなぁ。普通は気持ち良すぎてハイになること必至だというのに。
現に僕は既に視界が虹色に染まってきている。
まったく、勝負服というものは素晴らしいな。
うーん、厨二。
いや、この文章力では、作者の脳内に存在する確かな美少女のイメージを伝えることはなかなか難しいものです。
しかし、もう少し普遍的な概念に近づければ、少しは分かっていただけるでしょうか。
要は、ウマ娘たちがごく稀に見せる、野生的な芯の強さといいますか。そういうのっていいですよねぇ……。
ちなみに作者が一段と推しているウマ娘は、ナリブとマヤノです(手慣れた隙自語)。2人の勝負服には、そういう概念がかなり表れてますから。
好きだァ……