レースとか分からんて(ウマ娘二次創作者にあるまじき言動)
一回頑張って書いた文章を放牧したら繁殖して勝手に文章生まれませんかね。
「ッラァ!!」
「どわっ!?ちょっ、速、速いッ……!」
ダメだダメだダメだ!
基本スタイルが差しのブライアンさんにスピードで負けたら、この後がキツすぎやしないか。
はぁ。そうだった。
世の中には、悔しいが天才がいる。
ブライアンさんが逃げをやらないと誰が決めた?そもそも僕だって、芝とダートのどちらでもG1を獲ってやろう、なんて酔狂なことを考えるウマ娘だ。
あまりにも速い。弾丸のようなスタートダッシュ。僕は完全に遅れをとった。
「もう、ムリだ……」
不可能じゃないか。こんなの。
「ダメだ、ムリだ……!」
脚の感覚がなくなっていく。
「ムリだ、我慢できない……!」
こんなの興奮するなって方が不可能だよなぁ!?
脳内麻薬のおかげで、ひとりでに動いている脚。雲の上を走っているような心地だ。
「ちくしょう待ってろよ!?レース終わったらありったけのパクチーとコリアンダー口ん中にぶち込んでやりますから!!」
「同じじゃないか!!クソッ私は逃げるぞ!」
「差しますよぉ!?僕はァ!」
シャドーロールを外せば、かのナリタブライアンは臆病なウマ娘だ。怪物を怪物たらしめていたのは、影に囚われないための翼。そのはずだった。
だが今は違う。
彼女はもはや、影を恐れない。それどころか受け入れるほどの器量を身につけた。群れの答えを知った。要するに、彼女の内では、己が姉に抱く愛情に対して、驚くほど正直になっているのだ。タキオンさんのふざけた薬のおかげである。
ウマ娘の成長物語などありふれているし、それでいてどれも心を揺さぶる。脚を止めずに進み続ける彼女たちの姿に、人は変わらず魅了されるのだ。
「だったら僕も!何度でも進まなきゃな!」
芝、ダート、海外。どこへでも赴いて戦い勝ち進んだアグネスデジタルのように。
手始めに、このレースで自分の力を出し切る。
「なぁデジタル。お前パクチー好きか?」
「はい?まぁ、嫌いではないですけど……」
「おー。んじゃちょっと貰ってくれよ。知り合いのオッチャンがパクチー余らせてんだ」
「えぇ、どういう状況……?」
「あとギョウジャニンニクとかも余ってるんだけどよ。いる?」
「独特すぎません?その方」
「いや、それはアタシが取ってきた」
「え?んっ、んん〜〜?」
こんな時でも、僕の耳はデジたんの声を聞き逃さない。
で、何の話をしているんだ。僕のレースを見てくれよ。
「ふむ、やはりブライアンの方に天秤は傾くか。今のところは。距離は縮まっているが、あのペースでは到底……」
と、会長。
学園の生徒のうち、もっともウマ娘たちの可能性を信じるべき立場にある貴女が何を言っている。デスクワークで目がなまったんじゃないか?
「あの、畏れながら、会長様。オロールちゃんは、ここでただ負けるような子じゃないですから。先輩方がお創りになられた数々の神話と同等か、それ以上の物語がいくつも生まれるに違いありませんしっ!このレースだって、結果は最後まで分かりませんよ?」
「……すまない。君の言う通りかもしれないね。確かに、鍛えた量はうちの副会長の方が大分優っているだろう。しかし、ウマ娘にとって最も大事なもの、すなわち唯一無二の想い……。オロール君のそれは、ブライアンに追い縋るどころか、さらなる高みにあると言える。ましてや、友人の想いまで背負っているのなら、彼女は輿馬風馳を体現するだろう。学園内の模擬レースであれ、竜騰虎闘を拝めることをありがたく思う限りだ」
会長殿にそう言われては、このレース、手を抜こうものなら万死に値する。まあデジたんが見ている時点で僕は全力に全力を重ね走るんだけど。
そう、いつだって僕を見ているのはデジたんだ。
会長にああも言ってのけ、それから我が身のことのように不敵な笑みを浮かべるデジたん。口の端から涎が垂れていなければとてもカッコよかった。ただし、涎が垂れているので可愛い。
「……そのまんま風除けになっててくださいね」
出遅れも悪いことばかりではない。
メタ的な話をすれば、ブライアンさんのスキルは追い抜きでしか発動しないのでこのままいけば……。とはならないだろうな。現実はそこまで都合が良くない。こちとらそれを知ってるから妨害してるんだ。
とにかく、なんとか持ち直して、ブライアンさんの背後につけた。
「ああ。構わん。それをやれば、お前は私の渇きを癒せるか?」
「そりゃもう。渇きを潤しまくってお肌プルンプルンにしてやりますよ!ついでに野菜もたくさん食べてもっとお肌ツヤツヤにっ!」
「ニ、ニンジンなら食べているッ!それで十分だろうッ!?」
ブライアンさんのペースがほんのわずかに落ちる。
小数点以下の数字でペースが変化した。それでも僕にとっては大きな勝利への糸口だ。
「おいアイツクソだぞ。まだ精神攻撃を諦めてねぇ。マジで性根腐ってんじゃねーの?」
「オロールちゃん、ついにデバフスキルをも習得するとは!さすがですねぇ!」
「デバフって言えば許されるわけじゃねぇと思う」
魅惑のささやきがあるのなら、恐怖のささやきがあってもいいだろう。ふと思ったが、魅惑のささやきって何なんだ?贈賄交渉?
「つーか、割と観客来てんな。まあそらそうか、ナリタブライアンが模擬レースするとなりゃあ、観にくるわな。ところでカイチョーさん。パクチー食う?」
「生のパクチーを束で出されては少々困ったなぁ。まあそれはそれとして。ふふ、案外オロール君目当ての子もいるようだよ?」
本当に?
「あっ、あの子は!自制を一切せずにグッズを買い込み、人の背丈ほどに積まれたそれらを驚異的なバランス感覚で持ち帰る我らが
「誰だよ」
「ハッ、あっちには必殺収集人、そっちには韋駄天サイリウムさんまでッ!」
「誰?何?物騒な異名だなオイ?怖っ」
「趣味仲間の皆様がこぞって応援しにきてくださるなんて、オロールちゃんも幸せものですねぇ〜」
ヲタクのウマ娘が僕とデジたん以外にいない、なんてことはあり得ない。彼女たち学園の同志と有意義なやりとりをした経験は何度かある。つまり洗脳ゲフンゲフン。いかにデジたんが偉大な存在であるかを語ったりしたわけだ。以来同志と良き関係を築いている。
「彼女たちのように、レースを直接的に享受し、盛り上げてくれる観客はありがたい存在だ。学園の生徒にそのような子がいるのは嬉しい限りだな。観客席が歓喜の声で溢れ……。うん?観客、かん、かん……。ふむ」
……。
っと、今はレース中だ!
一時たりとも油断はできない!
「ついて来るか。ならばッ!」
「ッ!?」
相変わらずブライアンさんにぴったりつけていた僕だが、コーナーに差し掛かった途端に戦況は一変した。インコースを強引に攻めるのが僕のやり方だが、ブライアンさんが道を塞いでいて進めない。
至極当たり前のことだが、レースはタイムトライアルではない。相手のやりたいことを潰しつつ、マイペースを崩さない。そのスキルは、実戦経験の豊富なブライアンさんの方が上手だ。
プラス、トレセンの芝は整備が行き通っているから非常に綺麗だ。皆がこぞって走るインベタでさえも。だからこそ容易に最短ルートを選べる。まさしく掟破りの地元走り……。なんちゃって。
「ハッ、何が“渇き”ですか!しっかりジメジメしてるじゃあないですか!」
彼女はこの後のスパートに向けて息を取っておきたいらしい。僕が数度追い抜かそうとつついてみると、コースと速度を調整して追い抜かせまいとしてくる。ブライアンさんの逃げは、タイムトライアルに持ち込むスズカさんやマルゼンさんのとは違う。強いて言うなら、近いのはスカイさんだろうか。レースの展開を前からコントロールしようという算段である。
「だったら、こうだ!」
「ッ、行かせんッ!」
再び外側から追い抜きを試みる。今度ばかりは絶対に前へ出るという気概をブライアンさんに浴びせるように、ピッチを上げる。
ただし本命は別にある!
「邪魔ァ!」
速度が上がれば、それだけインに張り付くのは難しくなる。ましてこちらの様子を常に伺うブライアンさんは、やはり詰めが甘かった!一瞬だが、隙は生まれたぞ!
草原を優雅に駆ける馬ではなく、それを追う側。
狩猟を生業とする肉食獣の如く、全身のバネをいっぺんに縮める。
「ッチ、抜かせん……!?何をっ!?」
「何って、ココを空けた方が悪いでしょう!」
バネに力を溜め、身体を縮めてムリヤリ内ラチを擦りにいく。頭はブライアンさんの腰あたりの高さだ。走るというより、前に倒れ続けるような格好になった。
「アイツ先輩にすげー口利くなぁ。邪魔ァ!言ってたぞ」
「ふふふっ。それくらい噛み付いてくる子の方が、私としては迎え撃つ甲斐があるというものさ」
「会長さん。それ多分アレだぜ。活発でコミュ力も高い有望な人材だ!つって現場に寄越されたのがただのDQNだった、みてーなヤツ。普段のアイツは単なる変態だから、そこんとこ気をつけろよ」
皆のいる位置からはだいぶ離れたのでもう声は聞こえないのだが、何だろう。何か僕に対する侮辱を感じた気がする。
「お前っ、そんな隙間を……ッ!」
ようやく、ようやくだ。
ブライアンさんの肘が僕の頭上を掠めていった。
ちなみに、彼女と僕の身長は大差ない。つまり、僕は自分でも驚くほどに深い姿勢でインを抉っていた。
「いける、いけるッ……!ッ、抜けたッ!」
縮めたバネを伸ばせば、当然、弾性力が発生する。
元の長さに戻るはずのそれを、僕は、むしろ引き伸ばしてやる。
インコースをものにしたあとは、ずっとスパートだ。コーナーはようやく終わりに差し掛かろうかというところだが、それでもいい。
伸び切ったバネは二度と戻らない。僕だって、今最高速度で突っ走れば、もう誰にも止められない。
「ああああああッ!デジたーんッ!」
ゴールすればデジたんにいっぱい労ってもらえる!ああ早く会いたい髪に顔埋めてクンクンしたい抱きしめたいいっぱいしゅき。
「おいすげぇな。ここまで声届いてるぜ。で、デジタルさんよぉ、呼ばれてんぞ。ゴールで待っといてやれよ」
「そうですね。若干恐怖を感じますが、まあいつものことですし、もう、何でもいいや……」
ゴールすればデジたん!デジたん!
つまりゴールはデジたん?ということはこのレースはデジたんだった?
あ、そっか。そもそも世界がデジたんだった。
「ふむ、最終直線に先にやってきたのはオロール君か。いやはや、素晴らしいね。麟子鳳雛の勢いは衰えることがなさそうだ。だが……。ブライアンは負けない。そうだろう?ハヤヒデ君?」
「ぶーちゃんなら勝てるッ!頑張れ、ぶーちゃんっ!」
「ぶーちゃんッ!?そんな可愛い御名前で呼んでらっしゃるんですかぁ!?やばっ、あっ、シチュが脳内で爆発して、脳漿漏れそう……」
その瞬間まで、僕とデジたんだけの世界があった。
だが、僕は感じ取った。三冠ウマ娘の執念を。
ぶーちゃんが、来る。
「うっわ、マジかよぶーちゃん。急に耳と尻尾が揺れ出したぜ。アレ、嬉しいのかな」
ぶーちゃんの睨眼が僕を射抜く。そして眼光は次第に強まっていく。
くそっ、タキオンさんの薬のせいで、普段の彼女ならば顔を青ざめさせるような呼名すら平然と受け入れる。それどころか、姉との親愛を感じたのか何なのか、急激に速度が上がっていく。あまりの気迫に思わず振り返った。彼女の口元はニマニマと綻んでいた。
ゴールまで、あと100mを切った。
1/3バ身ほどあった差は、今やその面影すら残っていない。完全に横につけられた。
このペースでは負ける。
差が埋まったということは、ブライア……ぶーちゃんの方が速いということなのだから。認め難いが。
「がああああーッ!?」
自分でも驚くほど汚い吠え声だった。
あと数m。限界を越える、なんてのはウマ娘の御家芸だ!僕はまだ終わってない!
最後の一歩。
少しでも前へ!そう思って、倒れ込むようにゴール板代わりのヒシアマさんパネルの前を通り抜けた。
◆
「うわあああああああああっ!!?」
今のは僕じゃないぞ。ぶーちゃんの叫び声だ。
「あっ、あね、姉貴。とりあえず一発殴らせてもらえるか」
「ぶーちゃーん……?」
「その呼び方をやめろォ!安心しろ後遺症の残らない程度に後頭部を殴って記憶を消すだけだ」
「怖いぞ、ぶーちゃん」
「クソオオォォォ!!」
クスリが切れたらしい。
かわいそうに。これからずっと今日の黒歴史に苛まれるのだと思うと、にんじんが美味しくてたまらないな。
クールで寡黙な娘が赤面するだけで、飯は美味い。
「……ハァ。ここにいる全員を殴るわけにもいかないか。まあいい、私はあのカスマッドサイエンティストをシメてくる。ついでに忘却薬でも貰えれば御の字だな」
ぶーちゃんは早足でトラックを後にした。
「ぶーちゃ……ブライアン!待ってくれ、私の記憶を消そうとしないでくれ!お前がレース直後に呟いた『姉ちゃん……。その、応援、ありがと』は一生の宝物だ!なあ、頼むから!」
ビワハヤヒデさんが追いかけていった。
「にしてもよー、惜しかったなぁお前。あと半バ身で三冠ウマ娘に勝ってたぜ」
「……そんなに差、ついてたかぁ」
「そんなにって、お前、むしろ今の段階でそこまで張り合えるのがおかしいぜ?そもそもお前まだ中等部だろ」
「でも、デジたんならもっと鮮やかに、美しく!勝利を収めてるはずなんだ!」
「ちゃんと目が見えてるかどうか疑うレベルの過大評価ァッ!?」
1日30時間デジたんのことを考えている僕のシミュレーションの精度はほぼ完璧に近い。デジたんなら勝っていた、間違いない。
「それにしても、今日のブライアンはどこか様子がおかしいと思ったら、そうか、タキオン君のせいか……。妙な実験に人を巻き込むのも、博学才穎であるがゆえかな。今年に入ってまだ半年を過ぎたばかりだというのに、12件のボヤ騒ぎのうち全てに彼女が関わっていたよ」
と会長。
「ぶっちゃけよぉ。この変態と知り合っちまった、ってのも、タキオンがハジけてる原因の一端だと思うぜ。基本的に他人を実験台としか思ってない狂人と、愛するデジたんのためには何でもやる変態、二人の相性がよすぎたんだ」
「……否定ができない。振り返ってみると、僕と関わったウマ娘は、大抵ハジケ度が増すか、ツッコミで過労になるかの二択っぽいんだよね。そういうジンクスでもあるのかな」
「ああ間違いねぇ。あの秀才ビワハヤヒデと怪物ナリタブライアンの姉妹がただのシスコンになってたしな」
ぶーちゃんの恥じらいの表情は見ものだった。
「ハァ……。そもそも、なんで僕たちレースしてたんだっけ」
ああそうだ。もともと暇を持て余していたブライアンさんの提案によるものだった。
「うっわ、やば。急に、脚が、パンパンになってきたような。あぁ、疲れがドッとくる……!」
「あっ、と。大丈夫……?」
「大丈夫。よしデジたん、今から君の胸元に向かって倒れ込むからしっかり受け止めてほしい。すると僕の疲労は立ちどころに治る予定だから」
「は、はぁ、別にいいけど、例えば思いっきり息を吸ったりとかはやめ」
「スゥ〜〜〜……!」
「ひゃわぉああっ!?」
あー、肺が潤う。
「はぁ、悔しい。ホントに悔しいな。ダートだったら勝ってたよ、マジで」
「そういやお前、ダートの方が好き〜とか言ってんのに、ここんとこずっと芝ばっか走ってんな」
「うん、本質的にはどこでもいいんだ。デジたんが見てくれてるなら、僕は深海でレースしろって言われても快諾する」
「水圧ェ……」
僕の愛圧の方が大きいために、そんなものは意味をなさない。
「あ、これ、すっごくおちつく、な。このまま寝ちゃいたい、なぁ……」
……。
「あっ、コイツ人の胸借りたまま寝やがった。んでデジタル、お前も満更でもないって顔だな」
「ふひっ、し、正直申しますと、ウマ娘ちゃんの御肌を自ら進んで提供してくれるなら、ありがたく享受すべきだという結論に至りまして……」
「おう。アタシ、ちょっとコーヒー買ってくるわ。口ん中が甘くてやってらんねぇ」
某ゲームのおかげで更新ペースに支障が出ておりますが、まあそんなもんです(?)
操竜したときはちゃんと「俺の愛バが!」ってチャットしてるので許してください()