デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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前書きにはとくに誰も聞いてない作者のガチャ報告とかするといいって風の噂で聞いたのでします。

黒髪で吸血鬼なタマモクロスと茶髪巨乳でミイラなタマモクロスは引かず、とあるキャラのために石を貯めています。

ところで、タイトルの編集を忘れて投稿したバカがいるらしいです。


解釈って大事だよね

時刻は午後1時過ぎ。春らしくない強烈な太陽が、食事を終えた僕らを煌々と照らしている。

 

「まずはすぐそこのウマ娘ちゃんグッズショップへ行きましょう!そしてっ…貢ぎまくるッ!場合によっては諭吉さんとお別れすることも辞しませんよッ!」

 

もう一つの太陽が、わくわくした様子で僕に言う。

 

「…元気だねぇ」

 

デジたんは相変わらず眩しい。

 

さて、今はその店へ向かって歩いているわけだが。

 

…あの、ホントに。僕死ぬって。そのようぢょみたいな服着て、ようぢょみたいにはしゃがれると…とにかく、すごい。

 

彼女は気持ちが昂ると身振り手振りを使うから、非常に人目を引く。そのほとんどが何かほっこりするものを見るような目なので別に良いのだが。いやむしろもっとやれ。より多くの者がデジたんの尊みを享受しろ。

 

僕がデジたんをもっと布教する方法を考えながらしばらく歩いていると、彼女はある建物を指差し、

 

「見えてきました、あのお店です!あそこで数々の萌えと尊みが我々を待っていますッ!善は急げ!ということで早く行きましょうッ!」

 

と、言うやいなや駆け出した。遅れて僕も足を速める。それを見ていたスーツ姿のおじさんやら、ギャルっぽいお姉さんやら、皆思わずといった様子で目元を細めている。やはりデジたんの尊さは老若男女を問わないな。

 

自動ドアが開ききらないうちに、デジたんは店の奥へと入っていった。僕はそのあとを追って店に入る。

 

「ふぉぉっ…!あっちにも、こっちにも…!国宝級のお宝がごろごろありますよ…!…ふふふふん〜ふ〜ふんふん〜♪」

 

人間国宝…いや、ウマ娘国宝がなんか言ってら。

 

趣味に打ち込める場所に来られて、彼女は非常に楽しそうだ。やけに上手い鼻歌まで歌っている。

 

僕もせっかく来たからには何か買いたいな。しかし、肝心のデジたんグッズがそもそもまだこの世に存在しないのが非常に残念だ。

 

「…こちらをみながら少し残念そうな顔をしているオロールちゃん。最近あなたの考えていることが何となく分かるようになってきましてね…」

 

「…そう?じゃ、何考えてると思う?」

 

「どうせ、あたしのグッズがないのが残念、とか考えてるんでしょう!…ここにある数々の神がかったアーティファクトを見てくださいよ!これらとあたし、どっちがより素晴らしいかなんて一目瞭然でしょうっ!」

 

「…当てられた。あと、質問の答えはデジたん一択だね」

 

そういえば僕、前にもゴルシちゃんに心を読まれてる。やっぱり分かりやすい方なのだろうか。

 

「っ!…この店に来てもそんなことが言えるとは…。なかなか深い業を背負ってますね…」

 

「デジたんが可愛いことは変わらない。だからこの業は決して消えないよ」

 

死んでも治らないどころか、むしろ深刻化したからね。

 

「いえ、消してもらいますよ…!友人が間違った道に進むのは見過ごせませんからねっ…。ほら、このオペラオーさんのうまどろいどとかどうです?デフォルメされていながらも決して衰えない凛々しさと、うまどろいどらしい可愛さのマリアージュがとっても神々しいっ!最高の逸品ですよ!こっちのドトウさんのと合わせて買うのをお勧めしますっ!この二人はあたしのイチ推しCPですゆえ、ぜひ尊みを分かち合いたくっ!」

 

「推し変はしないけど、それは買うよ。サイズもちょうどいいし、クオリティの割に随分安いし」

 

このクオリティ、万くらいは取れるだろうに、まさかその半分以下の値段とは。

それに、デジたんが勧めてくれたものを買わないわけがないし。

僕はうまどろいど…どこかで聞いたような名前の二頭身フィギュアを手に取って見つめた。

 

オペラオーさんことテイエムオペラオー。皐月賞、有馬記念などの数々のG 1レースを制し、「世紀末覇王」の異名を持つ、最強と呼ばれるウマ娘の一角だ。かなりのナルシストだが、周りを見下さず、面倒見が良く、その自信に見合う成果を出すイケメンウマ娘である。あと何気にボクっ娘。可愛い。

 

ドトウさんことメイショウドトウ。オペラオーさんと同じレースに数多く出走し、ほぼ毎度僅差でオペラオーに惜敗しているウマ娘。だからといって決して弱いなんてことはない。一着でなくとも掲示板は外さない、紛れもない強者の一人である。レース外での彼女だが、ドジっ子ゆえにネガティブな性格で、そんな自分を変えたいと願い、いつも堂々としているオペラオーさんに憧れを抱いている。可愛い。

そしてそのオペラオーさんも彼女のことを大切に思っており、呼び捨てで親しげに呼ぶほどだ。

 

つまり何が言いたいかって?この二人、尊い。これに尽きる。

 

 

 

「ハァ…こっちにはブロマイド…キラキラした王子様みたいな勝負服を着ていながら、それに負けないどころか勝るほどの輝きを放つオペラオーさん…ンン゛ッ…なんと神々しい…!」

 

なお、ただいま悶絶中であるこのアグネスデジタルというウマ娘は、二人に勝つほどの能力を持っているスーパーウマ娘である。そして可愛い。

 

…いつかデジたんのグッズが発売されたら、二人のやつの横に並べてエモさに浸りたいな。うーん、夢が膨らむ。

 

 

その後も僕らはしばらく店内を物色し、そして四つの袋と一緒に店を出た。僕が一つ、デジたんが三つである。彼女はしっかり五桁円を払ったようだが、その顔は幸せで満ち満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んなあああああッッ!?みっ、見てくださいよアレェ!?ぱかプチちゃんがっ…ガラスの向こうをびっしり埋め尽くしてますッ…!」

 

「ちょうど入荷したばかりなのかな。ラッキーだったね」

 

僕らは今、体力とやる気が上がるアレ…すなわち、クレーンゲームの前に立っている。

 

ぱかプチとは、主にクレーンゲームで入手できるウマ娘達のぬいぐるみのこと。端的に言えばそうなのだが、デフォルメされていながらしっかりと各ウマ娘の特徴を捉えた見た目、細部の作り込みなどが非常に凝っていて、しょっちゅう品切れになってしまうほどの人気を博しているぬいぐるみである。が、今日に限ってはたまたま入荷直後だったようで、筐体の中にはたくさんのぱかプチが転がっている。

 

「ああ…あまりの尊みで震えが…あたし、こんなにたくさんのぱかプチちゃんをみたのは初めてですぅッ…!」

 

ガラスを隔てた先にあるその尊さで、感動に打ち震えているデジたん。

 

「…しかし、軍資金もあとわずか。その上、手が震えて止まらない…!っくぅ!尊みを過剰に摂取した程度でこの体たらく…あたしはなんと不甲斐ないオタクなのか…!」

 

デジたんはぱかプチをお迎えしたいようだが、手の震えその他もろもろが原因でできないようだ。

 

…今の僕はツイてる、…多分。午前中はあんなに頑張ったんだもの。ここで運が回ってこないなんてこと、ないはず。ならば!

 

「よーし…イケる気がするっ!待っててデジたん…!この筐体を空っぽにする勢いでやってみるよ!」

 

 

「おおっ…やはり持つべきものは志を同じくした友ッ!オロールちゃん、あたしの僅かばかりの軍資金を託しますっ…!だからどうかあの子達を解放してあげてください…!」

 

そう言った彼女の白く綺麗な手が、僕の掌と重なり、チャリンと音を立てた。

 

…今彼女から託されたのはお金だけではない。ぱかプチへの想い、ひいてはウマ娘への想いが僕に託されたのだ。

最推しを笑顔にできないで、オタクを名乗れようか。

 

…この勝負、負けられない!

 

 

 

 

 

「…やった!3つ一気に…ア゛ッ!?全部落ちたっ!?」

 

「おいアーム?もっと頑張ってくれよアーム!まだ本気じゃないだ…うおおいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局二つしか取れなかった…」

 

運なんてなかったよ、ちくしょう。

 

なお、奇しくも入手したぱかプチはオペラオーさんとドトウさんのものだった。運命的な何かを感じる…なんちゃって。

 

何はともあれ、戦果を献上しよう。

 

「はい、デジたん」

 

「……フッ」

 

僕がぱかプチを手渡そうとしたところ、彼女はニヒルな笑みを浮かべながらゆっくりと首を振り、それらを僕の方に押し返した。

 

「…いやいや、お金だって少し出してもらったし、僕はもともとデジたんにあげるつもりでやってたから…」

 

「同志よ。これはあなたが勝ち取った戦利品。ならばあなたが持つべきです…。あたしはもう十分拝ませてもらいましたよ…ぱかプチ以上の価値がある、オロールちゃんの楽しそうな姿をねっ!」

 

顎に手を当て、キメ顔のデジたん。大変オイシイ表情をありがとう。しかしここは君に折れてもらわねばならぬ。

 

「…僕もデジたんの笑顔が見たいんだ。だから、ほら。受け取ってよ」

 

「同志よ。どうすれば一番あたしを笑顔にできるか、考えてみてください。…そのぱかプチは、オロールちゃんが手に入れたもの。あなたが持つべきもの。ウマ娘ちゃんの幸せはあたしの幸せ。そしてあなたもウマ娘ちゃん。あなたの幸せがあたしにとっての幸せ、というわけです…。あッついでにお願いなんですが、ふっ…なんだ…僕と同じようなことを考えてるだけじゃないか…と納得するような感じの微笑を浮かべつつ『…わかったよ』とか言ってもらえると助かりますッッ…!」

 

…。

 

ふっ…なんだ…僕と同じようなことを考えてるだけじゃないか…。

 

「…わかったよ」

 

「ッヴォフッッ…!」

 

ふっ…なんだ…尊死するデジたんも可愛い…って。

 

「えっ!?って、ちょ…は、鼻血出てるよ…!?ほら、このティッシュ使って…!」

 

ぜひ拭き取らせて家宝にさせていただきたい…じゃなくて。

かなりの量だから、服に血がつかないうちに処置しないと。もちろんティッシュは適切に処分する。

 

「フゥ…ありがとうございます。自分でリクエストしたにも関わらずこの威力…さすがオロールちゃんですね…」

 

「ありがとう…実は今の、結構自信あったんだ」

 

ふふふ、僕はデジたんとは違って自分がそれなりにイケてる方だってことを自覚してるからな。えらい。まさか鼻血出すとは思わなかったけど。

 

「血、止まった?…じゃあ、ティッシュ捨てに行っ……」

 

「いえ、自分で捨ててきます。…オロールちゃん、さすがにそれはニッチすぎますよ…?」

 

食い気味でそう言ったのち、早足でゴミ箱に向かうデジたん。…いや、ニッチて。僕、別にやましいことなんてあんまり考えてないのに。

しばらくして、なにやら念入りにゴミ箱をチェックしてからこちらに歩いてくるデジたん。

 

「あたしは今、たしかにゴミ箱の奥にティッシュを捨てました。すっごく奥です。いいですね?」

 

戻ってくるなり言うことがそれか。まったく、僕を何だと思ってるんだデジたんは。

 

 

「さすがにゴミ箱までいったら諦め……あっ」

 

「…だから…ニッチすぎますって、それ」

 

いやいや、ただ単に僕はその時の思い出の品を一種のトリガーにすることで、より効率よく記憶を整理して夜な夜な萌えに浸かろうか、と考えていただけであって、決してそんなやましいことは考えてない。

 

「…スゥー…そろそろ帰ろっか…」

 

「……」

 

だからデジたん。無言はやめてよ。寂しいじゃないか。

 

「…あたしも、ウマ娘ちゃんのそういうものが欲しくないとは言いませんよ?ただ問題なのは、オロールちゃんの欲しがっているのがよりによってこのデジたんのものだってことです!ニッチどころの話じゃないですよコレェ…!」

 

「あ、そっち?」

 

 

結局、夕食を食べるときも、寮への帰り道でも、僕らはずっとこんな調子で性癖を語り合った。まあ、あれだ。無音声の方がよりお楽しみいただけます、みたいな絵面だったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり一番ヤバいのは尻尾の毛だと思う」

 

「ですよね、やっぱり尻尾が……あ、もう寮が見えてきましたね」

 

行きのときはあんなに長く感じた道が、今はあっという間に過ぎてしまった。

夕日に照らされ、長く伸びきった僕らの影を映す彼女の瞳には、確かな楽しさが浮かんでいた。

 

「なんだか、いつもの休日よりも楽しくて、1日が短く感じましたっ!やっぱり、同志がいるというのはいいものですねぇ…!」

 

「僕も楽しかったよ。…ほんとにあっという間だった」

 

…にしても、夕日を背に笑うデジたん、ちょっとエモすぎない?…しばらくは飲食しなくても生きていけるレベルでエモい。…よし、しっかり目に焼き付けよう。

 

「…こんなときにも夕日ではなくあたしを見つめるあたり、オロールちゃんって本当、オロールちゃんですね…」

 

「…?僕は僕だよ?」

 

何を当たり前のことを。

そも、その言い方はまるで、僕が何かヤバいやつの代名詞みたいじゃないか。オロールちゃんはただの一般ウマ娘オタクだよ?それにゴルシちゃんの方がよっぽどハジけてるヤバいヤツだ。

僕なんてそれと比べるまでもなく常識的だからな。

 

「…とにかく、今日は本当にありがとうございました!…あたし、今までこうやって趣味の合うお友達とお出かけとかしたことなくって…しかも初めての同志がまさかのウマ娘ちゃんでッ!もう、感激が止まらないというかッ!…このデジたん、今日という日はこの先絶対忘れません!」

 

「僕も同じだよ。こういうの、初めて。…しかもその相手が最高の同志で、最推しだなんて!…感謝してもし足りないくらいだよ」

 

「あたしは推される側じゃないですってっ!

…っと、そろそろ部屋に行きますか。…オロールちゃん、ではまた明日!」

 

「うん。…また、明日」

 

なんだか、日常の中に最推しがいるってすごいことだな。僕はなんて幸せ者なんだ。

 

…デジたん、友達と出かけるの初めてって言ってたな。で、実は僕も初めてだ。これってつまりお互いに初めてを相手にあげたってことだよな、うん。

日本語って素晴らしいな。一つの事実でも、捉え方次第でこんなに気持ちを高めてくれる。

 

今日一日を僕なりの解釈でまとめさせてもらおう。

デートして、初めてをあげて、もらった。

 

うん、シンプルで素敵な文章だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜もいよいよ深まろうかというころ。今日は夕暮れ前にご飯を食べたから、なんだかこの時間になって小腹が空いてしまった。ふと思い立って、ゴルシちゃんに聞いてみた。

 

「ふぅ…ゴルシちゃん。今日は屋上で美味しいもの焼いたりしないの?」

 

「いや…なんつーか最近はキレが悪いっつーかな…。順応能力の限界を試されてるっつーか…うん」

 

「はぁ…そうなんだ。実は僕、なんだかんだあれ結構好きなんだよね」

 

「おー、そりゃ、どうも…。ところで聞きたいんだけどよ」

 

「すぅ…どうしたの?」

 

「なんでさっきからぱかプチに顔押し付けてんだ?」

 

…すぅはぁ。

 

「すぅー…いや、実は今日いろいろあって、このぱかプチをデジたんがぎゅって触ったんだよ。ぎゅって。だから鼻からデジたん成分を摂取してる」

 

僕が彼女にぱかプチを渡そうとしたとき。こう、いい感じに…ぎゅむっ、と。押してくれたのだ。

 

「あー…そうか…頑張れよ…?」

 

「はぁ…ゴルシちゃん、疲れてる?…すぅ…あ、そういえば、今日はチームに顔を出すとか言ってたね」

 

「…まあ、色々あって疲れてはいるな」

 

あの不沈艦ゴルシちゃんも疲れには抗えないか。僕も今日は情報量の多い一日を過ごしたし、少し早めに寝るか。

 

「ふぅ…それじゃ、おやすみゴルシちゃん」

 

「…おう、おやすみ」

 

すぅはぁ。

 

あー。呼吸、楽しい!




時空が…歪む……!

うちのオペドトウさんは既にシニア戦線で戦ってます。そんなこともあるよね。だってウマ娘だもの。

時空が歪むといえば、楽しい時間ってあっという間に過ぎてしまいますよね。あと、締め切りなんかに追われてるときも。
何なんですかねあれ。何なんですかね(半ギレ)

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