草案をストックしたり、プロットをしっかり考えておけば、更新が容易になるということに。
まあめんどくさいのでこれからも適当にリアルタイムで更新するんですけどね(IQ2)
「よう、この辺りに『歴史を……創ろう!』と堂々と啖呵を切った次の日ににんじん賭博してる救いようのないバカがいるって聞いたんだが」
「へぇ、そんなヤツがいるのかい?そいつはトレセン学園の生徒の風上にも置けない……ご無礼。ツモりました」
「お前だよ!!」
「うわっ!見て見てゴルシちゃん!裏ドラノッた!」
「なんだお前!?数え役満出してんじゃねーよ!!」
よし、にんじんゲット!今日のネタは
「おいナカヤマさんよ、コイツにチョーシ乗らせたら面倒なことになるぜ?分かってんのか?」
賭けの相手はもちろんナカヤマさん。
彼女なしじゃこの世の賭け全てがつまらない、そう言って差し支えは無いくらい、根っからのギャンブラーで勝負好き。
学園の屋上で、今日も
「おうゴルシ。アンタんとこの借りてるぜ。恥ずかしい話だが、今んとこ私は負け続きでね。どうだ?アンタも混ざらないか?」
「ハッ、なるほどなぁナカヤマ。読めたぜ」
「ん?」
「お前アレだろ。イカサマを全部見抜かれて、その後はツキが向かないってトコだろ」
「正解。ま、ツキも実力のうちだ。まあ、後から挽回するさ。それに、元手のにんじんからマイナス10本までは勝ちの範疇だからな」
カスのギャンブラーみたいな理論じゃないか。
「ナカヤマは実質戦力外か。ならアタシの勝ち筋もありそうだな。っしゃあ、やってやるぜ!」
ゴルシちゃんのヤツ。にんじんを賭けて戦う僕のことを救いようのない何とやらと言ってくれたが、結局同じ穴のムジナじゃないか。そういうとこが好きなんだけどね。
「……つーか、アンタ、今日は随分静かじゃねーか?」
ゴルシちゃんが呟く。
ああ、そうそう。ナカヤマさんと僕は別に二人麻雀をしていたわけじゃない。メンツはもう一人いる。
僕とナカヤマさんは向かい合っているので、ゴルシちゃんがそのもう一人のウマ娘の対面に座る形になった。
そして、そのもう一人ウマ娘とは誰か?おそらく、ゴルシちゃんとも縁が深い相手だ。
「……なあ、リョテイさんよ?」
「……黙れよ。ニャン公が起きちまうだろ」
卓を囲んでいた相手は他ならぬ、我らがステイゴホンゴホン。キンイロリョテイ先輩である。
ただし、膝の上にネコちゃんが鎮座している。
度胸があるなぁネコちゃん。しばらく動く気配はないし、制服に涎の痕までつけている。
「……ネコ?プッ、なんか面白い絵面だな。他人にしょっちゅう噛み付くアンタが、ネコの前では骨抜きになるなんて」
「いいじゃねーか、ニャン公はよ。誰にも靡かず媚びず、迷惑かけても気にする様子もねェ。コイツもふてぶてしく他人の膝に居座りやがる。そのくせ、テメェと同じで愛嬌があるし」
「テメェって……アタシか?ゴルシちゃんのプリチーさに気づくとはっ、やるじゃねーかリョテイ!」
「誰がんなこと言った?テメェっつーのは私のことだよ。ゴールドシップとかいうどこぞのウマ娘よりも、このニャン公の方が、世界一可愛いリョテイ様と同じくらい可愛いだろ」
ゴルシちゃんの知り合いなだけあって、なかなかキャラが濃い。まあ確かに、彼女の顔はやはりウマ娘らしく眉目秀麗。目立った特徴はないものの、底の知れない自信満々な表情で構えている。
「それじゃ、一人増えたし、仕切り直すか」
「負けが続いてるナカヤマさんがそれ言うの、ズルいですよ」
負け続きのナカヤマさんが勝負を仕切り直そうとするが、当然僕は勝ち分を失いたくないので抗議する。
「確かにな。ギャンブルじゃ勝者がルールを決めるのが筋だ。それならそれで、私は生死を賭けたスリルを楽しませてもらおう……!」
ナカヤマさんは勝負師。勝つか負けるかのスリルを追い求めているので、結果がどうであれ決して後悔しないタイプだ。ある意味黄金の精神を持っている。
まあ、にんじんで借金したところで生死には関わらないし、日が変わる前に全て胃袋に収まるので、貸し借り0になる。よってスリルもへったくれもないのだが。
新たに加わったゴルシちゃんも、どこからともなくにんじんを取り出し、勝負が始まった。
◆
キンイロリョテイ。
僕は彼女のことをあまり知らない。
「あ、おい待てニャン公……。ハァ、どっか行っちまった。ったく、萎えるわ」
ネコに逃げられてやる気を無くしたかと思いきや、着実に点を稼ぎ二位の座をキープしたり。
「あ?おい、せっかくいい手でアガれそうだったのに何してくれてんだよゴルシ。テメェの尻尾ケツの穴に突っ込んで奥歯ガタガタいわせんぞ」
「怖ぇな!?」
ネコに好かれておきながら、凶暴性がMAXだったり。
「なー、麻雀飽きた。別のことやろうぜ」
飽き性だったり。
「それなら、こんなのはどうだ。なぜか今学園の上空を飛んでいる鷹を手懐けたヤツが勝ち、ってのは」
ナカヤマさんが意味の分からない勝負を始めたり。
ちなみに
「おい!メンコやろーぜ!メンコ!」
そして、ゴルシちゃんが謎にメンコを押してきたり。
現代っ子の僕はメンコで遊ぶ機会が少なかった。しかし、いざやってみると、ウマ娘の膂力でメンコが宙を飛び交うわ、叩きつけたときの音が大きすぎて発砲音か何かと勘違いされるわ、噂を聞きつけたバクシン系学級委員長がやってきて、にんじん賭博を咎められるわ、適当に誤魔化したらなぜか納得して帰っていくわで、なかなか面白かった。
「あっ、さっきのニャン公が戻ってきた!よっしゃ、それなら誰があのニャン公を一番屈服させられるか、勝負だ!」
やっぱりネコには優しい。
当のニャン公は、猫じゃらしを振り回すリョテイさんの横をふてぶてしく通り過ぎてまたどこかへ行ってしまったけど。
「まあ、リョテイさん。元気出して……」
「あ?テメェに言われるまでもねぇよ。あんのニャン公め、このリョテイ様にも媚びねぇとは……!やるじゃねぇか……!」
彼女の背丈は僕と同じくらいか、それよりも小さく見える。しかし放つ気迫はトレセン随一と言っていい。自分が一番強いと信じて疑わない態度の表れだろう。
こうして話してみて分かったことがある。彼女は確かにタチの悪い性格だが、悪人じゃない。ゴルシちゃんやタキオンさんと同じで、退学にならない程度のイタズラをする、ヤンチャなウマ娘の一人だ。
「いつぞやの宝塚じゃあウチのスズカに負け、こないだの秋天でもスズカに負け……。その上今度はネコにも負けたな、リョテイさんよ」
「なんだとゴルシ。ありゃあお前んとこのチョーシ乗ってるガキに華持たせてやっただけだ。レース中に影を踏んでやったが、あのスズカとかいうやつ、こっちを見向きもしねぇ。先頭しか見えてねぇバカだな、ありゃあ」
うん、口は悪いがあながち間違ってない。
先頭狂のスズカさんには後ろを振り返る習性はない。あの人は自分一人の世界に浸るタイプだ。最近は「先頭の景色」に僕たちスピカの仲間が映るようになったらしいが、いずれにせよ彼女のレースは相変わらず一人タイムアタックだし。
「スズカみたいな手合いはどうせ、仲間のために走ることが楽しくて嬉しいと思ってるタイプだ。そうだろ?私はそういうヤツとは相容れないなァ」
まあ、短い付き合いだが、リョテイさんは清々しいまでに自分勝手なウマ娘だと分かる。
「レースに勝ちたいってのは、どんだけ綺麗事言おうが、結局は自分勝手な欲望だろ。なのにURAや理事会の連中と来たら、ことあるごとに、ウマ娘とトレーナーの絆が〜とか言ってやがる。マジでふざけてるぜ。自分のために走ってんのに、賞金はトレーナーの懐にも入るしよ。あーあ、萎えるぜ」
彼女の論に付け加えさせてもらうと、レースに勝つということは、敗者を生み出すということ。他人が不利益を被る時点で、いくら綺麗事で取り繕おうとも、レースで勝利するということは、その結果だけを見れば自分勝手なものだ。
「……ま、アタシも綺麗事だけ言ってる連中が好きかと聞かれれば、そうじゃねえけどよ。案外、その『絆』ってヤツもバカにできねぇんだぜ?」
ゴルシちゃんはニヤリと笑う。
「ほう?」
「そこのオロールってヤツが何よりの証人だ。まあコイツの場合は絆っていうよりも……執着?偏愛?」
純粋な愛情だよ。
まあ、確かに。僕という存在自体、ほとんどがデジたんへの好き好き大好きクソデカ感情で構成されているようなものだし。絆の力というか愛の力というか、その辺のスペシャリストのようなものと言っても過言ではない、はず。
「あー、えっと。リョテイさん。それなら、僕の推し活エピソードとか……聞きます?」
推し活とはいうものの。
僕のデジたんライフを前世から遡って、LikeからFave、そんでもってLoveに変わるまでの過程は正直どうでもいいだろう。僕がデジたんへのLoveを原動力として何をやらかしてきたかを語らねばなるまい。
というわけで、いろいろ話した。
初対面で二人とも昇天して介抱され、それが原因で昇天する……そんなくだりを何回やったかとか、デジたんファンクラブを作って会員数を6桁にした話や、デジたんにいいところを見せるためひたすらトレーニングに励み、往復100kmがコンビニ感覚の距離ガバ勢になった話などなど。
「……バカだな。お前。私が知らないタイプのバカだ」
「リョテイさん、アンタの言ってることは正しい。このオロールというウマ娘、なかなか面白いヤツだろう?私も気に入っているんだ」
ウマ娘が走るのは誰が為か。
「応援してくれる人のため」とか言ってるウマ娘と、「結局自分のため」と言うウマ娘。互いの言い分は水掛け論となる。
まあ、僕やデジたんのようにその道を極めた変態の場合、何かを愛する行為自体が自分を満たしてくれるので、問題はない。
僕のデジたんに対する気持ちは、無償の愛だ。
「綺麗事言ってるだけの俗物かと思ったが、そうじゃねぇらしいな、オロールちゃん?数々のG1レースでシルコレとして名を馳せたセンパイから、ありがたーいお言葉を授けてやんよ」
「ええ、お願いします」
「この世には100種類のウマ娘がいる」
多いな。
「実際はこの世界に存在しない絆やら夢やら、見栄えのいい適当なものを信じて走ってるバカと、途中で挫折するバカ」
ふむ、僕はどっちでもないな。
何せ僕の信じる夢はこの世界の外からお取り寄せしたものだ。生まれ変わっても性根が変わらない僕の心は、そう簡単には折れない。
「……ちなみに、残りの98種類は?」
「あ?二進法を知ってる奴と知らねー奴」
なんなんだ、このウマ。
「でもってよぉ、オロールちゃんよぉ?私はこう見えて超のつく
「……ここは、ちょっとカッコつけてマジメな解答をすべきですかね」
イケメンフェイスで詰め寄ってくださったところ悪いが、僕らのような人種は、推しを見るだけで比喩なしの白飯が食えるし、なんなら霞で腹を満たせるので、
まあ、マジメに答えてやるか。
「……もうね、よくぞ聞いてくださいましたって感じですよ。この際だからデジたんについて僕の語り得る全てを語りたいところなんですけど、そうすると数週間はかかるのでやめておきます。とにかく、僕はデジたんのことが好きすぎて、彼女なしじゃ生きていけないんですよ!もはや一心同体レベル!思うに、本当の絆ってヤツには、他人と自分の境界線なんか必要ないと思うんです」
時々愛が重すぎるなどと言われることがあるし、僕も自覚はしている。ただ考えてもみてほしい。そも、絆という言葉はもともと、動物などが逃げない為に繋いでおく綱のことを指す語だ。近頃はもっぱらいい意味で使われるけど、別に愛が重かろうが、それが分かちがたい結びつきならば、絆だと言えるだろう。
「あーあ、私にはどーにも分からんな。聞いて損した」
「……これ以上ウダウダ言っても、お互いに納得できる着地点はなさそうですね。だったらいっそのことウマ娘らしく、走りで決着つけましょうよ」
「
ゴルシちゃんのツッコミが冴えている。
だがそういうものだ。やはり肉体言語は全てを解決する。文明社会の始まりは炎でも棒切れでも音楽でもなく肉体言語だった。
「は?オイオイ、つまんねぇなぁ?そんなん私が勝つに決まってんだろーが。やっぱバカだなテメェ」
「……いつやります?」
「いつでも構わねぇよ。だがまあ、テメェの言う絆ってヤツで本気出せんなら、私もそれなりに気合い入れて走ってやんよ。だから、そうだなァ、実入りのいいレースで決着つけようじゃねぇか。私は稼げるレースの方がやる気出んだよ」
なんとも現金なお人。そのスタンス嫌いじゃない。
「お前ら二人とも結局ただのアホなのに何シリアスしてんだよ。もっとこう、あるだろ。アホに相応しい所業が。レースで決着つけよう……なんてカッコつけてないで。例えば、どっちの方が勢いよく鼻から牛乳吹き出せるか勝負とか、そういうのやれよ」
「僕とリョテイさんのことをなんだと思ってるんだい君は」
僕はこう見えて頭が良いんだぞ。一度見たものは基本的に忘れないし、最近は演算能力も高まってきた。
日々更新されるデジたんの身長や体重などの身体データ、それをもとにした最適なトレーニングや食事の考案……といったことを趣味でやっていたら、いつの間にか頭の回転が速くなった気がする。
いわばデジたん算とでも言おうか。パチンカスがパチンコ算で1500÷4を瞬時に求めるようなものだ。数式にデジたんの要素を感じ取ることで、効率的な計算が可能になる。僕はノーベル賞ものの発見をしてしまった。
ちなみに。
パチンコ算で1500÷4を求めた時の答えは、0だ。
なぜならパチを打つと何もかも0円になるから。
そしてデジたん算の答えは全て無限大になる。
なぜならデジたんの可愛さが無限大だから。
うーんこれは量子コンピュータ顔負けの演算能力。
「……鼻で牛乳飲むってことか。そりゃキツイな」
そして、僕が思うに、リョテイさんもなかなかに頭のキレるウマ娘だ。ゴルシちゃんと同じタイプ。
キンイロリョテイ。頭はキレるし走りの才能もあるが、だからこそ今の地位に甘んじているのだろう。
彼女の最優先事項は「自分がやりたいか、やりたくないか」であって、人間関係によって生じる義務などを悉く無視して生きているのだ。
シルコレをやっているのも、全力で走ると疲れるとか、二位でもそれなりに稼げるとか、その辺の理由が絡んでいるはず。
そのスタンス、嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
「さて……。大分時間も経っちゃったし、今日はお開きですかね」
「あ?オイ待てよ。まだ用事が済んでねぇだろ」
リョテイさんに呼び止められる。
「え?」
「……にんじん!」
「にんじん……?ああ、賭けの」
「そうだ。分配するぞ」
リョテイさんは麻雀も二位だったな。
で、最下位がナカヤマさん。
「……フッ。フフフフッ!ま、まあ、マイナス10本までは勝ちの範疇だからな」
ナカヤマさん……。
ゴルシと絡むときだけIQが2になるナカヤマフェスタが好きすぎてすき焼きになったわよ(事後報告)