デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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誤字修正をしてくださる方々には足を向けて寝られません。毎度のように誤字るので、そろそろ立って寝るしかなくなってきました。

いや、読者の皆様の中に南米在住の方がいないとも限らないので、逆立ちして寝ます。嘘です。


雨天のプレリュード

言語とは元来、他人との対話を可能にするためのツールである。でも、僕はこうして自分の記憶を心の中で叙述し、言語化しておいて、それを他人に話したことはない。

 

じゃあ何のために思い出を言語化しているんだと。

まあ言ってみれば、僕の対話相手は自分自身である、というだけの話である。

 

僕の生きてきた道というのは、映画や本のようなものとして、未来の僕が認識できるようになってるわけだよ。

 

「はーっはっはっ!君もボクの輝きに魅了されてしまったようだね?声も出ない様子じゃないか!」

 

その点、「お芝居の合間に人生やってる」で有名なオペラオーさんと僕には、共通する部分があると言えるんじゃないか。知らんけど。

 

 

 

テイエムオペラオー。

 

言わずと知れた世紀末覇王。もう、ヤバい。すごくすごい。何がすごいって、一年間無敗。

 

「はーっはっはっはっはっはっはっ!」

 

声量がすごい。うるさい。

性格もすごい。超ナルシスト。もう、すごい。

 

「やぁ、あー、どうも。良いお日柄で……」

 

「なにもそう畏まらなくてもいいさ!君がどんな態度を取ろうと、ボクの美しさに変わりはないのだからッ!」

 

「……」

 

非常に眩しいな。

実際に会ってみると、彼女の輝きというのは言葉で表せるようなものじゃない。僕はデジたんのことを「輝いている」なんて表現することがあるけど、それと同じか、もっとだ。

 

見ていてこんなに気持ちのいいナルシストが他にいるか?普通、ナルシ野郎ってのは見ていて不快になるものだけれど、オペラオーさんの場合はむしろ心地いいくらいだ。

 

なにしろ、自己肯定感の塊みたいな人だ。彼女は自分を褒めるとき、他人を貶すことをしない。むしろ「ボクが美しくて最強なのは当然で、そのボクと張り合える君も最高だよ!」というスタンスなわけで。

 

「ハーッハッハっ!」

 

こっちまで自己肯定感が上がる。うるさいけど。

 

「はーっはっはっ……。あー、ところで。デジタル君は大丈夫なのかい?ボクの輝きに魅了されたとはいえ、なんだか魂が出ているような……」

 

「あ、そのうち生き返るから大丈夫」

 

「そうなのかい?そういうものか……」

 

そういうものなんだなぁ。しみじみ。

 

実は、こうしてオペラオーさんと話している理由は、僕とデジたんが廊下の角を歩いている時に、オペラオーさんとデジたんがコツンとぶつかってしまったからである。

推しを間近で見たデジたんはそのまま昇天した。

 

「ハーッ、ハッ……。え?コレ、ホントに大丈夫かい?ボクの曇りなき眼には、デジタル君の手足が透けていくように映っているんだけど……」

 

「ふむふむ。きっとあれだ。オペラオーさんの尊さを不意打ちで喰らったデジたんは、『尊い』という概念と一体化して、そのまま形而上の存在になろうとして……。いや待てコレ割とマズイのでは?」

 

さすがに起きてほしかったんで、試しに頬に口づけをしてみたけれど、効果がなかった。

 

「……保健室行くかぁ」

 

トレセンの保健室はすごいぞぉ。

基本的にどんな体調不良も治してくれるし、なんだったら、別に病気じゃなくても(太り気味)治してくれるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ?ここはっ?あたしのウマ娘ちゃん天国は?」

 

「おはよう。ウマ娘ちゃん天国は知らないけど、オロールちゃん天国ならあるよ?」

 

「あ、オロールちゃ……!?オ゛ワ゛ァーーッ!?オップェラウォーさぁ゛ん!?」

 

オップェラウォー?

 

それはともかく、無事にこの世へ帰還できたようでよかった。保健室でどうにもならなかったら、カフェさんのお友達に頼んで連れ戻してもらおうかと思っていた。

 

「オペラオーさん、わざわざ付き添ってくれてありがとう」

 

「構わないよ!元はと言えばボクの不注意から始まってしまった物語なのだからね。少し急いでいたものだから、角から現れた君を躱しきれずにぶつかってしまった。すまなかったね」

 

「はっ!?ああああ!?推しの視界に入ってしまったどころか衝突してしまうなんて……!もはやあたしはヲタク……いや、生物の風上にも置けない存在……!介錯をお願い致す、オロール殿……!」

 

「何言ってんのさ。僕がいるのに楽な道選ぼうなんて思わないでよデジたん。死んだら殺すから」

 

「くっ……!しかし、どうお詫びすればっ?」

 

ヲタクというより武士の思考なんだよなぁ。

ヲタク=21世紀のSAMURAIということか?

 

「なぜそんなに焦るのかな?デジタル君。何も問題はないよ。なぜなら君はボクの『ファン』なのだから!」

 

「ほえぇ?」

 

ほえぇってなんだ、ほえぇって。

 

「ボクあってこそのファン!ファンあってこそのボクッ……!君がファンであるおかげで、ボクは今日も世界一美しいッ!それだけで十分さ!」

 

なんだぁ?テメェ……。イケメンかぁ?

でも残念だったなぁ!デジたんは僕に惚れてるからオペラオーさんには靡かないんだよぉ!

 

「オペラオーさん……!しゅきぃ……!」

 

デジたーん?

 

「ケフッ」

 

おや、僕の口から何か出てきた……。

これは、血?

 

Wow!Is this blood?

 

「オロールちゃぁぁん!?早く保健室に……!あっ!ここ保健室だぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうオペラオーさん。わざわざ介抱してもらっちゃって」

 

「構わないよ!元はと言えばボクが美しすぎるせいで始まった物語だからね!」

 

病人が増えた。なお病気は不治の病である模様。

ヲタクの性と()()()は保健室でも治せなかった。

不服なのは、僕がデジたんの隣のベッドに寝かされたこと。保健室にキングサイズのベッドを置くよう生徒会に言ってやろうっと。

 

「オペラオーさん……。あたしたちのことを看てくれたのはものすごくありがたいんですけど、大丈夫でしょうか?かなりお時間を取らせてしまったと思うんですけど……」

 

「ああ、問題ないさ!実を言うと、ボクもこうして時間を潰せたのはありがたいくらいだよ。いや、決して、こないだのテストで赤点を取ったから補習を受けることになって、アヤベさんにしっかり勉強しているか監視されていたところをうまく抜け出してきたとか、全然そんなことはないんだがね!それで急いで逃げていたから君とぶつかってしまったなんてことは決してないのさ!はーっはっは!」

 

はーっはっは、じゃないが。

 

ちなみに、僕はオペラオーさんのことをかなり高く買っているんだ、なにせ彼女は外見も中身もイケメンだし、レースだって強い。そして勉強に関してはアホの子キャラ。属性てんこ盛りだな。

 

いや、何もオペラオーさんがバカだと言ってる訳じゃない。むしろ彼女の地頭の良さは天才の領域に達していると言っていい。ことオペラに関しては、ヘタな専門家よりも知識があるんじゃないだろうか。とにかく、そういった頭の回転の速さも、彼女の強さの秘訣なのだろうから。

 

「それじゃあ。どうせだったら、ここで暇つぶしでもしようか?今廊下に出ちゃあまずいんでしょ?オペラオーさん?」

 

「うん、こういうときのアヤベさんは異様に勘が鋭いからね……。さすがに保健室に押し入るようなことはしないだろうけど、一歩でも外に出たら、ボクの名は()()()()のひとつとして刻まれることになるだろうね」

 

アヤベさんことアドマイヤベガ。

覇王様とは腐れ縁のウマ娘だな。

学園内で何度か見かけることはあったけど、常にアンニュイな雰囲気を纏っていて、触れ難い感じだったので、話したことはない。

 

ベガの名の通り、彼女はスターゲイザーだ。オペラオーさんは一等星。僕もいつか星のような輝きを手にしたら、アヤベさんを口説いてみようか。なんちゃって。

 

「実は以前から、ボクは君とゆっくり話してみたかったんだよ。デジタル君」

 

「……んんんん!?」

 

おいおい、デジたんがまたトビそうだ。

リスキルするのが覇王のやり方なのか?

 

「君のその類稀なる観察力、他人の魅力を引き出す力。ボクの目に留まるほどのスキルを持つ君とは、とても有意義な話ができそうだからね」

 

「えっ?ええああぁ、うう……!」

 

語彙を失ったデジたんは可愛いなぁ。

デジたんは、やっぱり恥ずかしがる顔が似合う。

 

とはいえ、このままでは会話もままならない。さすがに僕も助け舟を出してやることにした。

 

オペラオーさんに。

 

「ねぇオペラオーさん。見ての通り、デジたんってけっこう恥ずかしがり屋なんだ。というより、自己肯定感が高くないって感じ?で、オペラオーさんの覇王的メンタルを学べば、多少は改善されると思うんだよね」

 

「ふむ……。覇王の道を征くのはボクだけで十分さ。だけどね。デジタル君には、運命的な何かを感じるんだ」

 

「え?えぇっ!?いやいやいや、あたし如きがそんな、運命だなんて、おこがましいにも程がありますよ!?オペデジのラインは断固ナシッ!オペドトないしはオペアヤこそ真理ッ!」

 

「運命さ!ボクがそう感じたのだから!ボクが(G1)を独り占めにする覇王ならば、あるいはデジタル君、君こそがジークフリートなのだろう。覇王の道は歩ませないが、君が胸を張って自分自身の道を進むためにならば、手を貸すよ。そして、ボクもデジタル君に教えを乞おう!お互いに有意義な時間にしようじゃないか!はーっはっはっは!」

 

ジークフリート。ゲルマン神話の英雄だったか。

竜殺しの英雄、言い換えれば勇者ということになる。

 

……比較的メジャーなものから引用してくれて助かった。オペラに関しては博学な彼女は、平気でマイナーな引用を使うことがある。それを理解できないってのは、ルドルフ会長のダジャレに反応できなかったときみたいな悔しさがあるからなぁ。

 

「あうぅ……!なぜこんなことにっ……!?」

 

当惑するデジたん。

 

なぜこんなことになったかって?

運命って言葉は、僕はあまり好きじゃないんだけど。

まあ、ウマソウルの導きってやつだろうか。

 

二人の間には浅からぬ因縁がある。

世紀末覇王テイエムオペラオー号が世間を圧巻した当時。決まりきったレースなどつまらない、と形容されることもあった世紀末の競馬史を塗り替えたのは、他ならぬアグネスデジタル号だったのだから。

 

次の秋天。

本来であれば、オペラオーさんにデジたんが引導を渡すためのレースだったんだ。

 

スズカさんが秋天を無事に走り切ったことで、スペちゃんが秋天に固執する理由はなくなった。であれば、次の秋天に絡むスピカの物語は、他ならぬデジたんの物語なんだと思う。

 

それと僕。

 

最近、退屈してたんだ。

いつか世界最高峰のレースに出て、掲示板に名前を刻む、そんな夢、ウマ娘なら誰だって持ってるだろう。そこまでの道のりが近いか遠いかにかかわらず。もちろん、僕もだ。

 

夢の達成には、トレーニングの積み重ねが必要不可欠。それ以外に道はないのだが、やっぱり同じことの繰り返しは退屈だろう。デジたんが横にいるとはいえ、毎日ほんの少しずつしか前に進めないのだから、退屈というか、マンネリというか。

 

それで僕は、私生活の方を充実させてきたんだ。デジたんを愛でたり、ゴルシちゃんとバカやったり、ウオスカの痴話喧嘩を眺めたり。

 

もちろん楽しいよ?そうやって毎日を過ごすのは本当に楽しいんだ。だから、そういう日常の思い出は、僕の心の中にしっかり刻まれている。

 

しかし、だ。

ブライアンさんみたいなことを言うけど、僕の中にあるウマ娘の魂が、血湧き肉躍るレースを求めてるんだ。

 

やり合いたいウマ娘が山ほどいる。

とにかく、僕は面白いレースがしたいんだ。

秋天の舞台は、まさにうってつけなんだ。

 

「それでは、早速聞かせてくれ、デジタル君。君はボクのライバルになる気はあるかい?」

 

「……えっ?」

 

「リヴァル、と言うべきかな。フッ、覇王の物語は、それを打ち倒さんとする者がいて初めて面白くなるものさ。ボクは張り合いのある相手が欲しい。ドトウのような、ね。見たところ君は大きな力を秘めている。勇者の素質があるよ!ボクといい勝負ができそうだ!」

 

「そんな、あたしは……」

 

「謙遜しないでくれたまえ、ボクのためにも。ボクが見込んだ相手だ。当然君は、最強最高のボクと同じくらい最高のウマ娘のはずさ!デジタル君!」

 

オペラオーさんはよーく分かってらっしゃる。

デジたんの強さ、そして魅力を。

彼女にはぜひデジたん検定準1級を進呈したいところだ。

 

「……自分の気持ちに嘘はつきたくありませんので、言います。ファンの一人として、オペラオーさんには何度もお世話になりました。ですから、一人のウマ娘として、オペラオーさんと向き合えるのなら、ぜひそうさせていただきます」

 

「はーっはっはっ!いいね、素晴らしい!己の思いをしっかり言えるじゃないか!君は恥ずかしがり屋と聞いたけど、ボクからアドバイスする必要はなさそうだ!」

 

「オペラオーさんも、あたしの洞察力がうんたら〜っておっしゃってましたけど、いざお話ししてみると、なんだか心の内を見透かされていたような気分でしたよ」

 

こうして、デジたんは自身の決意を表明した。

 

次、僕の番だ。

 

「……ねぇ、オペラオーさん。デジたんは確かに勇者だ。じゃ、僕は何だと思う?」

 

「うん?そうだね……。君はなかなか掴み所のない人だ。アヤベさんのようにミステリアスな空気を纏っているわけではないけど、いまいち底の見えない……。ハーゲン、とはいくまいね」

 

「……いや、案外それでハマるかも」

 

ハーゲン。

英雄ジークフリートを背後からの不意打ちで殺した犯人、簡単な言葉で言えば「悪役」なんだけど、「悪役」ゆえの宿命か、そのキャラ像は伝承によってまちまちだ。人間、悪行を犯すときには何かと理由をつけたがる生き物だから、そうなるんだ。

 

僕はデジたんを背後から刺したりはしないけど。

お互いに腹を刺し違えて、お互い傷の舐め合いをしないと生きていけない身体になってもいいと思っている。つまり、究極に依存し合ったライバル関係を築きたいのだ。

 

「とにかく、デジたんがオペラオーさんとやり合うんなら僕も混ぜてほしいな。僕とデジたんはライバルなわけだし?」

 

「……!おっと、もしかしてボクが間に挟まるのは野暮だったかな。デジタル君にはボクのライバルになってほしかったのだが」

 

「いや、別にそれは構わない。ただ、その場合、オペラオーさんは僕の恋敵になるんだよね」

 

「こっ……!?へっ、あぁ?」

 

どうした、何をそんなに赤面してるんだ覇王様。

恋をテーマにしたオペラなんて掃いて捨てるほどあるだろうに、どうして驚いているのか。

 

「オペラオーさんって元々デジたんの最推しだし、中も外もイケメンだし?万が一いや億が一の確率でデジたんの気持ちが揺らぐんじゃないかって思うんだ。まあ最終的には僕に惚れ直すだろうから大して問題はないけど……」

 

ただ、やっぱりオペラオーさんって魅力的な人なんだ。出会って少ししか経ってないけど、僕自身が彼女に惚れている。いや、邪な意味じゃなく、純粋に心惹かれる、という意味で。

 

デジたんはヲタクのくせにピュアっピュアな心の持ち主だから、きっと僕以上にオペラオーさんに惚れ込んでるに違いないんだ。今まではヲタクと推しの境界線で踏みとどまってたけど、さっき啖呵を切った時、デジたんはオペラオーさんに一人の競走ウマ娘として関わることになってしまった。

 

「す、すみませんオペラオーさん……。オロールちゃん、あたしのことになると急にIQが下がるんですよ」

 

「そ、そうか……」

 

もしデジたんが僕以外に惚れたりしたら、僕は精神を病むだろうな、うん。執着が強くなりすぎて、今まで一週間に一回だけだったのが、毎日デジたんのスマホをチェックしたりするかもしれない。

 

「デジたんは今後、打倒テイエムオペラオー朝の功労者になるはずだよ。だけどそれだけで終わってもらっちゃ僕が困るからね。そこからまだまだ頑張ってくれよ。知ってる?勇者ってのはなかなか休みが取れない職業なんだよ?」

 

「はーっはっはっは!随分と面白そうな話をするね!でも、ボクも主役を譲る気はさらさらないよ!」

 

「譲らなくて結構!主役の座は奪い取りますからね!……デジたんが!」

 

「あたしぃ!?」

 

「はーっはっはっは!それならボクは役者が揃うまで玉座で待つよ!世紀末覇王はそうやすやすと倒れないから、安心したまえ!」

 

相変わらず自己肯定感が高いなぁオペラオーさんは。永遠に栄華を極める王朝といったところか。テイエムオペラオー朝の終焉はまったく見えないな。

 

「はーっはっは!はーっはっはっは!

 

そんでもってうるさいなぁ。学園中に響き渡りそうな声だ。

 

……ん?ということは……。

 

その時、保健室のドアがガチャリと開いた。

やってきたのは……。

 

「はーっはっ、はっ……?あっ、アヤベさん……?どうしたんだい、もしかして怒っているのかい?それならボクの美しい姿を見て心を落ち着かせて……」

 

噂のウマ娘、アヤベさんだ。

 

「相変わらずうるさい声ね、廊下にいても聞こえたわよ。というか貴女、いい加減にして……。こっちはただでさえ貴女の面倒を見るなんてこと、やりたくないのに……。寮長やら貴女のルームメイトやらにお願いされたから、仕方なくやってるだけなんだからね。次逃げたら尻尾の毛全部抜くわよ」

 

「アヤベさん!?痛い!ボクの美しい尻尾がちぎれてしまうっ!?アヤベさんっ、ちょっ、もう少しこう、手心というか……!アヤベさぁぁん……!?」

 

そして、オペラオーさんを連れて去っていった。

 

「オペラオー朝、終焉……」

 

盛者必衰、この世は無常なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

オペラオーさんは星になったのだ。

お正月らしくてめでたいなぁ。

 

今日も今日とて、ある意味いつも通りのやり取りをしていたから雰囲気はなかったけど、一応今は年明けなんだよね。

 

「ねぇ、デジたん」

 

「はい?」

 

「新年を迎えたってのに、僕らなんの進展もなかったじゃんか」

 

「進展……って。新年を迎えたことと何の関係が?」

 

「君からキスしてくれたのは、去年の今頃だろ。今年はどんなことしてくれるのかなぁって」

 

「元日にあたしの実家に入り浸った上、普通にあたしの布団で寝ただけじゃ満足できないと?」

 

「うん!」

 

同じ布団で寝るだけなら、学園でいつもやってるし。

 

「いやダメだよ。何もしないから。というかここ保健室だよ。体調悪い子だって来るんだから、うるさくしちゃいけないし」

 

「……」

 

「そんな目であたしを見るなァ!」

 

捨てられた小動物みたいな目で見つめてもダメだった。

 

しばらく見つめていると、彼女はおもむろに人差し指を立て、それを自らの唇に持っていってから、こう言った。

 

「保健室では、しーっ……ね?」

 

ひゃっほい!血ぃ吐いてよかったぁ!

 

こんな素敵なデジたんを隣で見られたんだから、もうそれだけで白飯を500杯は食える。

 

しーっ、をやったあと、デジたんはその人差し指をゆっくりと僕の方に近づけた。

 

僕の唇に。

 

「コヒュッ」

 

「あっ、オロールちゃんがまたもや倒れた……!?早く保健室にっ……。あっここ保健室だぁ!」

 

 




言わずもがな、当小説は時系列の概念がありません。
スペちゃんが日本総大将になる頃には、オペラオーさんは覇王の道を極めています。

また作者には競馬知識のけの字もないので、ぜひ頭を空っぽにして読んでいただけると幸いです。

なんならウマ娘知識もボロボロですわぁーッ!
誤字修正と設定の齟齬修正には感謝の念しかありませんのでしてよォーーーッ!

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