デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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更新が遅れましたことを心よりお詫び申し上げます。ごめんちゃい!!

いや別にそんな、ねぇ……?

あの〜、なんとかさんぽ?とか……?
まあ?……うん?

なんとか、ゆる……?とか……?

ウマ娘成分を摂取するだけして、アウトプットしてなかったとかそんなことは全然ないんですよ?




重星

「──デジたんが好きなんだよ」

 

「知ってます」

 

「……アッハイ」

 

今日もいい天気だな。

平和だな、今日も。

 

 

 

「……じゃなくて!」

 

「いきなりどしたのオロールちゃん?そんなに改まってまで、何か言うことが……?」

 

「……この話前にもした気がするけど、まあいいや。僕が今聞きたいのは、今!デジたんがどう思ってるかだよ。デジたんは僕のこと好き?」

 

「え?はい、好きですケド」

 

「イイねっ!すごくイイッ!何がイイって、言い淀まないとこがイイ!最高だ!……じゃ、デジたん。君は自分自身のことは好き?」

 

「……まあ、一応、ヲタクとして?恥ずかしくない生き方はしてると思う」

 

「それだよ!ずっと側で君を見てきた僕が未だに気になってるのは!相変わらず自己肯定感が低いんだよデジたんは!まあ、そういうところも可愛いんだけどね!?」

 

このウマ娘、自分が推される側だということ自体は理解している。しかーしっ!「まあ?あたしより何倍も尊いウマ娘ちゃんがわんさかいますしぃ?皆さんもぜひその子たちを推していただければ……」みたいな態度は未だに変わっていない!

 

「てかデジたん、君、あれだろ。服とか髪とか尻尾とか、けっこうオシャレしてるじゃんか。自分の魅力の引き出し方を知ってるくせに、自己肯定感が低いって……。どういう心理状況?」

 

「だ、だってぇ!推しウマ娘ちゃんに見苦しい姿を晒すわけにはいかないし!」

 

「んんんっ!性格良すぎる!好き!」

 

 

 

デジたんは最強のウマ娘か?

 

僕としては一億回イエスと言っても足りないくらいにその命題を肯定したいのだが、客観的に考えてみよう。

 

まぁ、簡単には頷けまい。

 

例えば、スピカの仲間たち。悔しいけど、彼女らは天才だ。

 

テイオーの柔軟な身体、マックちゃんの耐久力、スカーレットの執念深さ、ウオッカのクレバーな差し、スズカさんの異次元逃亡、スペちゃんの王道を征く走り、ゴルシちゃんの不沈の豪脚……。

 

しかし、天才と違って、完璧なウマ娘というのはなかなかいない。

 

実際、スピカにいるウマ娘なんか、体重管理ができないヤツらにバカップル、先頭狂にハジケリスト。一癖も二癖もあるとかそういうレベルじゃないヤツらだ。

 

「……君もウマ娘なんだから、感じてるだろ?デジたん。レースがしたいって欲求がとめどなく溢れてくるのを」

 

「……そう、だね。ウマ娘ちゃんの御尊顔はやっぱり特等席(先頭)で拝みたいもん」

 

デジたんの何が強いって?

 

そりゃあ、変態というのは得てして強キャラであるものだと相場が決まっている。

 

世界一の変態と言っても過言ではないデジたんは、当然最強のウマ娘なのである。

 

 

 

「君が最高のウマ娘だってことを、僕が証明してあげよう。……次のレースでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

G1レースって、思ったよりも疲れるもんなんだよね。

 

レース中はいい。ライブもなんとか踊れる。

ただ後日が辛い。もちろんG1に限った話ではないけど、疲れがどっと襲ってくるんだ。

 

勝負服のブースト効果がかなりデカい。どういう仕組みかは依然として不明だけど、着るだけで物理法則をほんのちょっと無視できる。

 

もちろん、これは全て経験談。

 

……なんかね、うん。勝てちゃった。G1。

デジたんとは一緒に走ってないけど。

 

他のウマ娘たちと鎬を削りあって、やっとこさ。

無論、勝てたのには理由がある。

 

 

 

G1レースを走れるウマ娘ってのは、ウマ娘たちの中でもほんの一部、そのさらに上澄みを掠め取ってから遠心分離したごくごく一部のウマ娘だけ。

 

僕はかなり恵まれたウマ娘だ。

様々な偶然や必然が重なり合って、重賞の世界で走れたんだ。

 

まず、精神状態が良かった。

好きこそもののなんとやらとはよく言ったもの。僕は三度の飯よりトレーニングが好きだ。そしてトレーニングよりデジたんが好き。一番好きなのはデジたんとトレーニングすること。

 

推しは健康にいいぞ。三十まで潔白なら魔法使いになれるという俗説があるが、推し活を極めれば宇宙の真理と一体化できる。

 

あぁ、要因はもう一つ。肝心なのはこっちだ。

 

僕のウマソウルは、端的に言ってキショい。いい意味で。

 

いい意味で、と言えば悪口であっても全て許されるらしいので使ってみた。しかし、実際キショいんだからしょうがないだろう。僕のウマソウルを表現する言葉のうち、もっともシンプルかつ語感の良い言葉がそれなのだ。

 

普通のウマ娘は、一人に一つのウマソウル。

 

……僕は、うん。数十、いや数百は下らない。

小さく、それでいて力強い、夜空で砂粒のように浮かぶ星みたいな、そういうウマソウルの集合体。

タキオンさんの薬でハイになった結果それが判明した、という事実が悔やまれるほどに幻想的な話だ。

 

 

 

人格……いや、ウマ格?は、一つだけ。

皆一様に愛されることを願った魂だ。だから、必ず愛してくれるデジたんという存在への指向性によって、ユニオンが生まれた。

 

ウマ娘の「デジたん」を知っている存在、すなわち、しがないヲタク野郎の記憶を道標として、この世界に辿り着いた。

 

 

 

古代の哲学者の言葉を引用し、デジたんは云った。「愛というものは、愛されることによりも、むしろ愛することに存する」と。

 

僕がデジたんラブな理由はこれだよ。

愛を求めるなら、まず誰かを愛することから始めればいい。他者愛と自己愛は不可分、コレ大事。テストに出るよ。

 

そう、だから、つまり……。

デジたんには、もっと自分を好きになってくれなきゃいけないんだ。だってそうじゃん?誰かを好きになるには、まず自分を好きになってもらわなきゃ。

 

「鏡よ鏡……。世界で一番美しいデジたんは誰?」

 

「アレぇ?あたしの名前って固有名詞じゃなかったんだぁ……。って、からかわないでよ、オロールちゃん!」

 

「まぁ待ちなよ。ほら、ごらん。鏡……というかスマホの内カメには誰が映ってる?世界一性格が良くて美しくて可愛い最高の美少女が映ってるだろ?ほら!」

 

「映ってませんケド」

 

まぁた言ってら。

必ずや理解(わか)らせなければなるまい。

自分の美しさ、可愛らしさを。

 

 

 

「大体、今のあたし、砂まみれだよ?ダートコースで練習してきたばかりなんだから……」

 

秋風を薄ら感じるこの頃。

 

 

「ウマ娘にとって一番の化粧は汗と涙、泥と砂だよ?僕は特に泥が好きだ。雨の日のレースなんか、最高じゃんか。服どころか顔まで泥まみれになりながら、歯を見せて笑う子……はたまた、泥まみれの手で涙を拭えずに空を仰ぎ見る子。全員超尊い」

 

「それはそう。分かりみが深い。でもあたしの場合、練習で普通に汚くなっちゃっただけだし……」

 

 

 

「……今のデジたん、最高に可愛い。いやもちろん、いつも可愛いんだけどさ。そんで、レース中の君はもっと可愛い。走ってる最中に鏡を見せてやりたいくらい。あぁ、勝負服に鏡を取り付ければよかった!」

 

フクキタルさんが背中によく分からん猫を背負って走れるんだから、僕も背中に鏡を取り付けて走れるんじゃないか。

 

……あ、それじゃダメか。デジたんが一位でゴールする瞬間の顔が映らない。

 

 

 

「……ねえデジたん。次の休み暇?」

 

「うん。予定空いてる」

 

「じゃ、どこかに出かけよっか。……あてもなく、ただブラブラしたいなーって思ってるんだけど、それでいい?」

 

「オフコースッ!オロールちゃんと一緒なら、たとえ火の中水の中でもついていきますとも!」

 

ありがたいことを言ってくれる。

 

……ついていくのは僕なんだけどな。

ずっと前、君が生まれる前からそうだった。

 

いや、隣に並び立ったのなら、どちらが先に行くかなんてどうでもいいか。互いに限界を超えて走って走って、なるようになったらそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ごめん。待った?」

 

「ううん、あたしも今きたところ……。うおおっ、まさかこのやり取りを本当にする日が来るとはッ!」

 

「実際やってみると意外と面白いもんだねぇ。……っと、わざわざ駅で合流ってことにしちゃってごめん。ちょっと寄りたいところがあったんだ」

 

「ほほう?あたしと一緒に行かない、というところを見るに……。何か裏がありそうですねぇ?」

 

「その通り。……まあ、何のためにそんなことしたかってのは、後のお楽しみ。期待して待っててよ。とりあえず、どっかへ歩こう」

 

デジたんは相変わらず例の女児服。ウマ娘だからそういう心配は少ないとはいえ、彼女をしばらく一人にしてしまったのは申し訳ない。

まぁ、デジたんの身に何かあれば僕は世界中どこにいても駆け付けるので、問題はないが。

 

「お昼まで二時間くらいあるし、そうだなぁ、荷物が増えない場所?例えば美術館とか水族館とか……」

 

「そうですねぇ、グッズショップ巡りは帰り間際に……。あ、それか、円盤を入手するのは?それなら嵩張らないし、ウマ娘ちゃんの尊みも感じられるッ!」

 

「結局推し活かぁ。ふふっ、君らしいね」

 

 

 

そういうわけで、今夏シーズンのライブ映像を入手。用が済んだあとは、近場のカフェで昼飯を食べつつ、ウイニングライブで使われる新規曲の確認なんかをした。デジたんは早速コールを覚えようと、ココアを片手に小さな声で歌っていたのが可愛かった。

 

 

 

あとは、何をしてたんだろう。

あてもなく人混みを掻き分けて歩いていた。迷子にならないように、という名目で腕をしっかりホールドさせていただけたのは僥倖。

 

いろんな店を冷やかしてしまったけど。しかし言わずもがな、デジたんといる時間が楽しいので、ただ歩くだけでも楽しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、一体いつの間にやら、太陽は赤く染まり始め、秋風吹く公園のベンチに腰掛けていた僕らを照らした。

 

なんべんでも言うけど、デジたんの桃色の髪に、夕日はよく似合う。太陽と彼女の境界線が曖昧に見える気がして、僕は唾を飲み込まずにはいられなかった。

 

「……このまま、一晩付き合ってよ」

 

やらしい意味じゃないぞ。

限りなくやらしさを感じるかもしれないが、そんなことはない。

 

「え、でも外泊届は……」

 

「君の分も出しといた。今日は初めからそのつもりだったし。てか、さすがに無断外出を常習しすぎちゃって、そろそろマジメに怒られそうなんだよね」

 

マジメに、とは、アスリートとしての経歴に傷がつく可能性がある、という意味である。

 

 

 

「……君が一番綺麗なこの時間に、渡しておきたいモノがあるんだ」

 

「っ、えっ……?」

 

プロポーズじゃないぞ。

限りなく近いニュアンスを感じるかもしれないが、そもそもプロポーズならもう何度も済ませている。

 

「絶対に似合うから、買ってみた。……今日は君の誕生日でもなければクリスマスでもないけど、そういう日にプレゼントを贈る関係って、なんだか素敵じゃないかと思って」

 

「……開けていい?」

 

「もちろん。むしろ早く開けちゃってくれ」

 

飾り気の少ない包装がデジたんの儚げな指で剥がされると、中にはシンプルな黄色のリボンが入っていた。髪に使うのには長すぎるそれは、ウマ娘専用のリボンである。つまり、尻尾用。

 

「……可愛い、デスネ?」

 

「君に似合うだろ?」

 

「……」

 

ちょっぴり困ったような顔。

しかし、口角は上がったままだ。

 

「……ありがとう、オロールちゃん」

 

「うん。どーいたしまして」

 

デジたんは推しのイベントに赴く際には必ずオシャレをする。小綺麗な服を着て、髪を丁寧に整え、尻尾を編み込む。

 

 

 

「……一人じゃ結べないね、コレ」

 

「そう。それならよかった」

 

「……そうだね」

 

夕日が沈みきって、ポツポツと街灯やビルの窓から漏れる光が目立ち始める。

 

 

 

「……そのロリ服で夜の街に繰り出すのは絵面が変かな」

 

「ロリッ!?違うよ!?これはあたしの推しへの想いを全て詰め込んだヲタクの正装だよ!」

 

「ウマ娘とはいえロリは危険だ、いろいろと。いっそ新しい服買っちゃう?僕が払うから、そうしよう。それからどっか遊びに行こう」

 

「……服のお金はあたしが出すよ、自分のだし。ロリじゃないけど服は買う。断じてロリじゃないけど」

 

ロリなんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、オロールちゃん」

 

「ん?どしたの?」

 

「知ってた?試着室って、一人用なんだよ?」

 

「……一心同体!」

 

「ちょっ!?狭いんだから抱き付かないでッ!?うおわわわわっ、あっ、あぶっ!?」

 

服を着替え、カジュアルとフォーマルを両立させたような雰囲気を纏った結果、デジたんはロリから脱法ロリに進化した!

 

……ロリやんけ!

 

 

 

 

 

 

 

「やった!新曲だけど、カラオケにしっかり入ってるみたい!……ならば見せてあげましょうッ!あたしのコール力を!」

 

「いや歌唱力見せてよデジたん。君一人で歌うんだからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?あそこにいるのはゴルシさんでは?」

 

「ホントだ。……マジか。ゴルシちゃんのヤツ、クラブっぽいとこに入ってった」

 

「まっ、まさかっ、オトナの夜遊びを……?」

 

「追ってみようッ!」

 

しかしデジたんは目がいいな。

ゴルシちゃんの服装は、秋だというのにヘソだしルック、バギーパンツ、いつものヘッドギアの代わりに帽子。全て黒で統一し、アダルティな魅力を醸している。ファンが見てもなかなか本人だと気付けないレベルで雰囲気が違う。

 

 

 

「よし、とりあえずクラブの中には入った。ゴルシちゃんを探そう」

 

風営法に引っかかりそうな見た目をしているロリがいるおかげで入り口では止められた。拳をポキポキ鳴らしながら「知り合いを探してるんです」とスタッフさんに聞いたら入れてくれたけどね。優しい。

……もちろん、入場料は払ったよ?

 

「……オロールちゃん。なんか、DJブースにそれらしき人影が見えるんだけど」

 

「あ、ホントだ。……なんか持ってる。楽器かな?長い笛みたいなヤツ」

 

暗くてよく見えないが、あの美人オーラは間違いなくゴルシちゃんだ。手に持っている楽器は一体なんだろう、と考えていたら、彼女はおもむろに演奏を始めた。

 

「……ディジュリドゥだアレ!?」

 

「ディジュリドゥ!?オーストラリア先住民の民族楽器のディジュリドゥですか!?」

 

ディジュリドゥだ。木製の管楽器で、腹に響くような低い音を奏でるディジュリドゥだ。

 

……おいアイツ民族楽器でクラブミュージック演奏してるぞ。

肺活量すごすぎないか?さすが不沈艦。

 

「……なんか、盛り上がってない?」

 

「フロア熱狂してるねぇ?ゴルシちゃん、民族楽器でフロア湧かせてるの?ヤバすぎない?」

 

相変わらずゴルシちゃんがイカれてることが分かったところで、長居する理由のない僕らは足早に夜の世界を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつか、どこかの海に行って沈む夕日を眺めたい。グリーンフラッシュってやつを見たいな。緑色に輝く太陽と水平線の混ざり合った様は、きっと君の瞳みたいで綺麗だろうね」

 

「……普通逆じゃない?その、あたしの目を引き合いに出すんだったら、普通は夕日のほうが比喩として用いられると思う。夕日のように綺麗な瞳だね、とかなら分かるけど……ってあたしに何言わせてるんですかぁ!?」

 

僕何もしてないのに。自爆じゃんか。

 

「どんな芸術もどんな景色も、君の美しさには勝てないんだからしょうがないじゃん?……世界一美しい君の瞳に、乾杯」

 

「カッコつけてるけど、飲んでるのノンアルだよ、オロールちゃん」

 

ぐっ。

お酒飲めないんだからしょうがないじゃないか。

気分で酔えばいいんだよ、気分大事。

 

トレーナーさん行きつけの例の店。

彼は、自分しか知らない秘密の場所、というような感覚で通っているのかもしれないが、あいにくスピカメンバーにもここの常連がいる。

 

僕とゴルシちゃんはいわずもがな、ウオッカはこの店で世界一カッコよく麦茶を飲む技を身につけた。

スピカに限った話をしないのなら、リョテイさんやギムレットさんもこの店を気に入ってるとか聞いたことがある。

 

「風営法にケンカ売るわけにもいかないし、長居はできないけど。それまではゆっくり話そうよ。……君のことを」

 

「ほぇっ?あたしのこと?」

 

「そう。我らが推しのデジたんについて語ろう」

 

「自分で自分推すのムズすぎませんか?」

 

「僕はできるよ?だって僕、どうあがいてもウマ娘だから、ガワは絶対に美少女じゃん?その上イケメンなんだよ?推すしかなくない?」

 

「すみません。よく分かりません」

 

アシスタントAIと化すデジたん。

 

……バーらしい、少し高めの椅子に腰掛けている彼女の尻尾が、ゆーらゆらと揺れる様に、目が釘付けになる。

 

 

 

 

「……ね、さっきのリボン、つけてあげるよ」

 

「……じ、じゃあ、お願い、しま、す?」

 

ウマ娘にとって、尻尾というのがどういう存在か、知らない僕ではない。

 

ふわふわで、触ると気持ちいい。

デジたんは尻尾のケアを欠かさないタイプだから、このふわふわに一瞬で虜になってしまう。アヤベさんの気持ちが少し分かる。

 

店は貸し切り状態。

マスターはデキる男なので、僕のちょっとした暴走を黙って見てくれている。

 

 

 

「デジたんはさ、僕のこと好きでしょ?」

 

「……うん」

 

「なら、もっと直接言ってくれよ。好きって」

 

あ、ヤバい。かなりヘヴィーな感情がノンストップで湧いてくる。

 

「……オロールちゃんの“好き”と、あたしの“好き"って、同じなのかな」

 

 

 

「同じだよ、デジたん」

 

推しへの愛であり、友愛であり、恋愛でもあり、そのどれでもない。そういうわけの分からない感情なら、僕も知ってる。

 

「今ある言葉で括る必要はないんじゃないかな。それでいいじゃん?こうやって君の尻尾を触っても、君は何ともしないだろ?むしろ気持ちよさそうにしてる」

 

「……次はあたしがオロールちゃんの尻尾を手入れするね」

 

「お、それは嬉しい」

 

「ふふふ……!不肖デジたん、傍観者の精神を貫いてはおりますが、マッサージは得意なんですよねぇ!タキオンさんからも好評でした!」

 

「クソッ!よりにもよってあのマッドサイエンティストに先を越された!」

 

「あっあっあっ、ゴメンナサイ!何度も頼まれたので、断るわけにもいかず……!」

 

「いや、別に怒ってないよ。マッサージが得意って言うくらいなら今まで何度もこなしてきたわけでしょ?僕がデジたんのヴァージンマッサージを経験できないのは分かってるとも。うん」

 

すごいな、デジたんは。やっぱり多才すぎる。こんなに小さな指なのに。それとも、小さいからこそ他の者が届かぬ隙間にも入り込めるのかな。

 

 

 

「っと、ほら。できたよ」

 

「おぉー、可愛い……。あっ、もちろんリボンの話ですよ?」

 

「そうだね、可愛いねデジたん」

 

デジたんはもともとターコイズのリボンを持ってる。イベントの時にはそれで尻尾を編み込みにしてた。

 

今彼女が身に付けているのは、黄色。

僕の眼の色はメアリー・スーもびっくりの厨二仕様、青と黄色のオッドアイだから、リボンもそれに倣ってみた。

 

黄色はピンクが映える色だしね。

 

 

 

デジたんが一番輝けるのは、無論、走っている時。

 

僕と同じレースに出ている時。

 

彼女の魅力を引き出すのが一番得意なのは僕だ。こうして自惚れて文句は言われないくらいの時間を、デジたんと一緒に過ごしてきた。

 

「デジたん、僕、君のことがホントに好──」

 

 

 

うぇーいマスター!トンコリ弾くから場所貸してくれよー!

 

は?

 

おい、おいおい。

 

何しに来たんだよおい。

 

「お、なんだお前ら。お前らも弾くか?トンコリ」

 

「トンコリ?樺太や日本北部などに居住していたアイヌの民族楽器のトンコリ?」

 

「おうソレだ。聞かせてやるぜアタシのグルーヴ」

 

「なぁんでこのタイミングで乱入するんだよゴルシちゃん!せっかくいいムードだったのに!」

 

「ほーお?さしずめいつものようにプロポーズってとこか。んで、アタシが来たおかげでオシャカになった、と。ヘッ、その傷心、アタシが癒してやるぜ……。トンコリで」

 

「トンコリだろうがボンゴレだろうがなんでもいいよぉ!?」

 

ゴルシちゃんはさっきからなんで民族楽器ばっか持ち歩いてんだ。

 

「えと、大丈夫だよオロールちゃん。さっき何を言おうとしてたか、大体分かるし。気持ちは伝わってる、から」

 

スカパラパルビルリバンドゥリルラバンルベロベロベロレロベロベロレロベロドゥリャロベンダンダンデビュドドッ!アィームァスキャッマーンッ!

 

「うるさいなぁ!?」

 

 

 

まあ、うん。

デジたんが最強であることを証明するには、ゴルシちゃんの存在は必須だ。

 

ゴルシちゃんにしかできない走り。その不沈艦と一戦交えて初めて辿り着ける境地がある。

 

さっきからムダに美声でピーパッパッバダッポしてるヤツのせいでムードなんかあったもんじゃないが。てか、トンコリで弾き語る曲じゃねぇだろ。

 

 

 

……何はともあれ。

 

もうすぐ、秋天。

 

僕はきっと、その日のために生まれてきたんだ。

 

アィームァ(I’m the)スキャッマーンッ!(scatman)

 

黙れッ!……いややっぱ歌ってくれ!なんかクセになってきた!」





尻尾ハグ?
え?
えっちすぎん????

サイゲさん???

ありがとう ありがとうありがとう ありがとう
(辞世の句(字余り))

……ウマ娘にとっての尻尾という存在がどういうものなのか、まさか公式から答えが示されるとは。
ァッ(尊死

……そういえばデジたん、トレーナーに普通に尻尾の毛あげようとしてましたよね。

チョンリマッ(尊死

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