デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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キリよく80話でひと区切りつきましたねぇ。

これも作者が練りに練った緻密なプロットがあって初めて成せる業(殴

青梗菜って美味しいですよね。
まあだからどうしたって話なんですけど。

あ、ほんとに何もないです。ただ青梗菜が美味いってだけの話です、ハイ


最終話でタイトル回収するタイプのウマ娘

桜舞う道。

 

春風に揺蕩う尻尾。

 

トレセン学園の春には、決まって新しい風が吹く。それは未来の英雄を祝福する風である。

 

学園に勤めるトレーナーたちは、こぞって目を光らせる。ダイアモンドの原石を自分の手で磨くため、新入生たちを観察するのである。

 

まあ、結局一番の原石を手に入れるのはいつも決まったトレーナーなんだけど。

 

 

 

かつて、世界を震撼させたウマ娘がいた。

 

芝、ダート、海外。

全てのレースを制覇し、まごう事なき「最強」として、歴史に名を刻んだウマ娘がいた。

 

そのウマ娘は、誰よりもウマ娘を愛していた。

俗に言う「ヲタク」の度をはるかに越した「変態」として、いろんな意味で世界を震撼させた。

 

多くのファンは、彼女のことを「同志」として呼び親しんだ。彼女自身もまたそう呼ばれることを喜んだ。そうして彼女は愛された。

 

 

 

さて、ウマ娘を愛してやまないものがつく職業といえば?

そう、トレーナー業だ。

 

彼女はかつて生徒としての日々を過ごした中央トレセンの土を再び踏んだ。トレーナーとして。

 

彼女は誰よりも優秀なトレーナーだった。

 

 

 

ウマ娘がトレーナーになる事例は珍しいが、まったくいないわけではない。

 

……現に、今期は彼女の他にもう一人、ウマ娘のトレーナーがいる。

 

 

 

「あ、いた。ランチタイムに練習場にいるなんて。探してたんだよ?一緒にお昼食べようと思って」

 

「……や、ちょっとトレーニングしてる子たちが見たくてね。君んとこの子、なかなか見込みあるね。芝もダートも走れるタイプかぁ」

 

「……うん。昔の自分みたいだったから、教えがいがあるよ」

 

 

もう一人のウマ娘のトレーナーは、彼女を愛していた。

二人で、どんな苦難も乗り越えた。

彼女たちは、きっと幸せだろう。

 

左手の薬指の煌めきは、何よりも雄弁だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「という夢を見たんだ」

 

「きっしょ死ね」

 

「ひどくない?」

 

「近年稀に見るレベルでクソみたいなストーリーだったな。アタシが昨日見た夢のがよっぽど有意義だぜ」

 

「ほーう、そこまで言うなら教えてもらおうか」

 

「えっとなー、確かウチのトレーナーの実家に銀河帝国軍が来てなぁ……」

 

「やっぱ聞かなくていいや」

 

「はぁ?お前、そっちから教えてもらおうとか言ってきたんなら最後まで責任持てよ。スペのヤツが身を挺して地球を救う感動のフィナーレが待ってるってのによぉ」

 

「世界救うのスペちゃん先輩なんだ。……あれ、そういえば本人はどこに行ったの?」

 

こないだのレースの敗因の改善(超絶ハードダイエット)だろ」

 

 

 

懲りずにまたパフェを食べたんだろうな。

 

彼女の食欲は止められない。ジャパンCの直前には、タキオンさんの手を借りてまで体重を落としたくらいだ。

 

「スペのヤツ、脚は早ぇーのに胃袋がデカすぎるのがなぁ。まーなんだかんだでジャパンCじゃ海外のウマ娘相手に勝ってたしよ、飯さえ食い過ぎなきゃ強いのに」

 

「そうだねぇ。ま、そのおかげで、世間じゃ今でもスピカ最強が誰なのか議論で決着ついてないっぽいから面白いけど」

 

「あぁ……。秋天、ヤバかったもんなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『──アグネスデジタルが一着!アグネスデジタルですッ!秋の盾の栄光を手にしたのはッ!アグネスデジタルッ!』

 

 

……。

 

『二着にオロールフリゲート!三着テイエムオペラオー……』

 

 

 

……。

 

 

 

おっと十四着スペシャルウィーク、お腹を抑えて倒れ込んだーッ!?大丈夫か!?

 

……。

 

……?

 

おなか……すきましたっ……!

 

……???

 

 

 

『……えー、雨打ち付ける東京レース場、芝2000m!アグネスデジタルが納得の強さを見せつけましたッ!』

 

 

 

……意外とあっけないもんだね。

僕はこの日をずっと楽しみにしてたんだけど。

 

……勝てなかったかぁ。

ま、僕もかなり頑張ったよな。なにせ、雨とはいえ世紀末覇王の一歩先を行けたんだ。

 

ハナ差だ。僕とデジたんの距離は。

 

ほんの僅かな差。

たった数センチの差が、彼女の強さを証明した。

 

 

 

「……」

 

 

 

一応、本気で勝ちを獲りに行ったんだけどなぁ。

負けちゃった。

 

 

 

「……っ!」

 

……スゴク、イイ。

 

 

 

最っ高だよッ、デジたんッ!

 

「はひっ!?」

 

 

 

ああ、やっぱりデジたんなんだ!僕が一生をかけて、いや何度生まれ変わっても愛すべき人はデジたんなんだ!好き!大好き!泥を踏み抜いてボロボロになった蹄鉄のよく似合う君が好き。すっかり泥塗れになった脚で立つ君が好き。すっかり雨と泥で汚れてしまった勝負服が映える君が好き。状況を飲み込めずに口をポカンと開けている君が好き。髪にも泥が付いてるけどそんな君が好きだ!

 

 

 

「あーデジたん尊い……アッ逝く」

 

 

 

『あっ、オロールフリゲート転倒ッ!?故障発生か!?だっ、大丈夫でしょうか!?』

 

……。

 

『……えっ?あ、はい?あぁ、アレで普段通り……。普段通り?あの、なんかビクビク脈打ってますけど……。アッ問題ない、わかりました、ハイ……。えーっと、大丈夫だそうです!』

 

ハッ。

ふぅ、危なかった。もう少しで昇天するところだったぞ。

 

 

 

「……マジか、よりによって変態二人が先頭かよ」

 

「変態が強いのは世界の常識だよ?」

 

「そうらしいなぁ」

 

 

 

「……デジたん、やってくれたねぇ」

 

「まあなぁ。誰も予測できんだろこんな結果」

 

あ、と言って、ゴルシちゃんは自分の発言を訂正した。

 

「いや、一人予測してたな。つーか確信してたな、あのピンク色した変態が勝つって信じて疑わねーやついたわ。なぁ?」

 

こちらに視線を向けてくる。

 

 

 

「……いや、いなかったよ」

 

 

 

「は?」

 

「僕は本気で勝ちを疑ってなかった。……もちろん、自分の勝ちをね。そのつもりで走ってたんだよ。……いや、今思えば、そういう()()()()()()()()()()()だったかもしれないけど。でも、それって同じことでしょ?要は、自分を信じてた」

 

 

 

「あぁ?てことは、アレか?無意識のうちにデジタルが一着になる想像をしてたってことか?」

 

「そうかもしれない。いや、そうだ。そうなんだけど、そうじゃないんだよ」

 

「間髪入れずに矛盾すんなよ。つか今走った直後で息上がりかけてんだわ。お前もだろ?手短に話せって。ぐだぐだ喋ってたら肺がイカれちまうぞ」

 

僕は矛盾してない。ただ、この情動を言語で表そうとすると、まるで自家撞着に陥っているかのように錯覚される。

 

いや、説明するのは面倒くさいし、そう捉えられても構わない。とにかくこれだけは言える。

 

僕が自分を信じてたことだけは、確かだ。

 

「デジたんを信じる自分を信じたってだけさ。それに、僕が本気を出すためには、デジたんのために走るのが一番だろ?僕はデジたんを信じて自分の本気を出した。彼女はそれに応えてくれた。これってさ、とても綺麗だと思うんだよ。ドラマチックじゃないか?」

 

「いやそんなことはねぇ……ようである、いやねぇわ。登場人物が変態っていう前提がある時点で既に詰んでるわ」

 

「そうかい?ていうかさ、変態っていう言葉自体、どこまでいっても主観的な定義しかないんだから、別にいいじゃん」

 

「いやお前らはアレだぞ、神とか仏でも変態って認めるレベルだぞ。閻魔大王に出禁喰らうレベルだぞ」

 

「……」

 

否定できない僕がいた。

 

 

 

「……ま、いいや。アタシトレーナーにドロップキックしてくるわ。変態同士で馴れ合ってろよー。んじゃまた後でな」

 

これはアレだ。

僕がデジたんといいムードの中話せるように、っていうゴルシちゃんの気遣いだ。多分。

 

いや違うな、アイツただトレーナー蹴りたいだけだ。

 

 

 

「……ねぇ、デジたん」

 

 

 

「うん。どうしたの?」

 

 

 

言いたいことはいろいろあるさ。

 

自分の中にあったもの……。それも、一種の束縛じみたもの、というか?無意識のうちに自分で自分を縛っていたようなものが解けた気持ちなんだ。

 

僕は今生まれ変わったんじゃないか。

そう思う。

 

今までの自分に、何か問題があったわけではない。ちょっと説明しにくいんだけどさ。ソシャゲとかでもよくあるだろ。進化させたら絶対強くなるわけじゃない、ってヤツ。

 

 

 

無意識のうちにデジたんの温もりを求めて飢えていた過去の僕と、ひとまずお腹いっぱいになった今の僕。

 

なかなかいいもんじゃないか、どっちも。

 

 

 

それを踏まえて。

今僕が彼女に言うべき言葉は、コレしかない。

 

 

 

「……脇舐めていい?

 

「ダメに決まってるじゃないですかヤダーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

冬の朝は嫌いじゃない。

古くは平安の世に遡ってみても、冬の早朝は趣あるものとされているわけだし、良いものなんだろう。

 

ま、僕が好きな理由は、暖を取るため合法的にデジたんとくっつけるからなんだけど。

 

「おはようデジたん」

 

「……なんで目が光ってるの?」

 

「レースの夢見ちゃったから、つい覚醒(はい)っちゃったかも。ううぅん……っ!よし、多分戻った。もう光ってないよね?」

 

最近はいい夢ばかり見るな。

 

「ホント、それどういう仕組み……」

 

僕にもわからん。

この際、ケミカルやらロジカルやらで説明しようと考えるのはよしておけ。

 

 

 

「やあ!おはよう二人とも!そして相変わらずキミの身体は不思議だねぇ!目が光るとは!あははっ!なんて非現実的な話なんだ!」

 

こんなことを言っているアグネスタキオンというウマ娘は、全身を光らせる薬をしょっちゅう開発しては人に飲ませてくる狂人なのである。世界は所詮そんなものさ。

 

 

 

「よし、じゃデジたん、行こっか」

 

「……どこへ?」

 

「自主練」

 

「休みの日に?こんな朝早くから?あとヲタクの年末年始は忙しいんだよ?一応父上のとこに依頼するけど、家族とはいえ公私はしっかりつけないといろんな人に迷惑かかっちゃうし……」

 

何の話か理解できた。

だが僕は引き下がらない。

 

 

 

「こないだスペちゃんがジャパンカップで勝ったし、その前は君が秋天で勝った。他の皆もかなり快進撃を続けてるし、スピカは今景気がいいんだよ。……で、トレーナーさん言ってたじゃん。次の休みはお寿司だーって」 

 

確かにトレーナーさんは、ウマ娘のために自分の財布をひっくり返せる人だ。ただそれはそれとしてお金が手に入ると調子に乗るタイプなので、今回みたいな浪費は後々響くぞ。まあ面白いから遠慮なく腹十二分目まで食べるけど。

 

「ああ、確かに今日……。えっと、それがどうトレーニングと繋がるの?」

 

「空腹は最高の?」

 

「スパイス……」

 

「その通り。じゃあ、トレーニングするとお腹が……?」

 

「空く……。いや、そうだけど。でも今日休みだよ。ウマ娘の年末年始は忙しいんだから、休みの日はしっかり休まないと……」

 

「ああ……」

 

そうだったな。

 

 

 

「海外行くんだもんね、君」

 

「うん。しかも割ともうすぐだから。スケジュールに乱れがあるといろいろ問題が……」

 

「フラッシュさんみたいなこと言うじゃん。まーまー、いいじゃーん。一日くらい適当に過ごしたってさ。その程度の疲労ならタキオンさんがなんとかしてくれる……。なんとかできますよね?」

 

「ウン、できるねぇ」

 

「ほら」

 

「できるんですか……」

 

「ふゥン、もちろん。この『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングロイヤルビタージュース』があるからねぇ」

 

おいその名前はアウトだ。

 

「あの、タキオンさん……。その名前はさすがに……。消されますよ?

 

「ん?どういう意味かな──」

 

と、誰かがドアをノックした。

 

「おや、こんな時間に誰か来たようだ。ちょっと出てくるよ」

 

「あ、ちょタキオンさん、それ出ちゃいけないヤツだと思い──」

 

瞬間、タキオンさんはドアの向こうに消えていった。まるで吸い込まれるかのように。

 

……おや?カフェ、君か。こんな時間に何の用……?は?何て?お化けが私に用事ぃ?ハハッ、君が冗談を言うなんて珍し──エッ冗談じゃない?……は?生き霊?別世界の念?カーフェー、いったい君は何を言って……。空知先生の生き霊が金銭を要求しているだって?いや誰だいそれは──

 

……?

 

 

 

「あ、デジたん。とりあえず練習場行こ──」

 

「いや行かないよ」

 

「えーっ?」

 

「行きませんよ?」

 

「……わーったよ。んじゃさ、そのかわり、アレだ。デート」

 

「わかった」

 

「あ、いいんだ。いやデートといっても適当に遊びに行こうって話だよ。なんなら二人っきりでなくてもいいくらい。……今の僕の発言、色恋沙汰に向いてないヤツの発言だったな」

 

「どのみちオロールちゃんは恋愛とか絶対ムリでしょ。あたしが生きてる限りは」

 

「まぁ恋愛以上のクソデカ感情のような何かが僕の情緒の大半を占めてるからね。そりゃ色っぽい話はありえない。週刊誌もお手上げレベル」

 

 

 

いつも通り、くだらない会話だな。

これが好きなんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

「……んだお前、あ、とは何だよ。私に何か用でもあんのか」

 

「いや、咄嗟に言葉が出ただけですよ。リョテイさん、なんかいっつも近寄り難い雰囲気纏ってるから、いきなり対面するとついそういう声出ちゃうんです」

 

寮から出ようとしたところでたまたま遭遇。

 

「ほぉーん……。ま、いいわ。つーかお前らさ、今度バトろうぜ。負けたヤツラーメン奢りで」

 

「ダートでいいですか?」

 

「あ?誰がレースっつったよ。ポンチーカンする楽しいゲームの方に決まってんだろ」

 

 

 

リョテイさんは、あの日のレースで僕を苦しめた。

まあ勝てたけど。

 

……もしタイマンだったら。あるいは敗北の苦汁を舐めていたのは僕だったかもしれない。

 

……いや。

もし雨が降っていなかったら。

もし東京レース場じゃなかったら。

もしスタートがあとコンマ1秒遅れていたら。

もし、蹄鉄が0.1ミリ歪んでいたら。

もしスペちゃんがダイエットしていたら。

もしテイオーがはちみーをキメていたら。

もしモッチリーンがホヤを食べていたら。

 

条件次第で、誰が勝つかなんて簡単に変わる。

残酷だが、運だって必要だ。

 

……それでも。

 

 

 

それでも、僕の最強はデジたんなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

リョテイさんがラーメンがどうとか言っていたんで、つい食べたくなって。

 

昼を抜いて夕食のお寿司でトレーナーさんをマグロ漁船行きにしてもよかったけど、さすがにかわいそうだしね。

 

てなわけで、冬だったら何でも協力してくれることで定評のあるラーメン屋に入ると、そこにはお姫様がいた。ガチの。

 

「ねえシャカール。どうして止めるの」

 

「お前なァ。仮にも一国の……。とにかく、年頃のウマ娘が食っていいニンニクの量じゃねぇンだよ。つーか生物学的にもアウトだ!ウマ娘といえど体内細菌絶滅して死ぬぞ」

 

「……?」

 

「可愛く首傾げてンじゃねえよ。こちとら見てンだよ。お前なァ、店員さんかわいそうだろ。“ニンニクマシマシマシマシマシマシマシマシで!"とかワケのわからねェこと言われたあげく、ニンニクトッピングしてる最中ずっと狂気の笑みでガン見される人の気持ち考えたことあるか?なァ?」

 

「……あ、シャカールも食べる?ニンニクスペシャル・ザ・ストマックブレイカー」

 

「いや名前変わってんじゃねーか!?つか何だよ、そのおぞましいラーメン!怖ェなオイ!?」

 

面白そうなので隣に座る。

 

 

 

「あ、どもシャカールさん。ファインさん。元気してます?」

 

「……チッ。メンドくさいのが増えた」

 

「ちょっとシャカールさーん?私のこと、メンドくさいと思ってるの?」

 

「……あー、少なくとも、さっきのラーメンのくだりはちょいメンドかった。そういうのやめてくンねーか。本気で心配しなきゃならねェからオレの胃が持たねェ。物理的にも精神的にも」

 

ストマックブレイカーは一つで十分というわけだ。

ていうか、今ナチュラルに尊み放出したな。こりゃデジたんがもれなくトンじゃうんじゃ……。

 

「アッ、もう手遅れだった」

 

卓上調味料に囲まれて静かに眠るデジたんであった。

 

「……こんなヤツに負けたのかオレは」

 

「理詰めじゃデジたんみたいなタイプには勝てませんよ。何せデータより速く走るのが得意なんで」

 

「……じゃ、レース中にデータ取ればいいわけか?オレのロジックとはちとそり合い悪ィけど……。ハァ。やるだけやるか」

 

レースを支配する数式……「三女神の方程式」とでも呼ぼうか。

 

とでも呼んでみたけども。

そんなものは存在しない。

 

ウマ娘のレースの結果に作用するものは、周囲の環境だけではない。別世界の魂すら関係してくる。

 

レースは抽象化できるものじゃない。どこまでも個人にフォーカスし、己の想いを具象化して初めて勝てるものなんだと、僕は考えている。

 

ロジックだけじゃ勝てないように、心意気だけあっても勝つことができないのがまた難しいんだけど。

 

 

 

「……あ、そーだ。今度お前らオレとレースしてくれよ。データ取りてェんだ」

 

「デジたんは意識がないですけど、多分オッケーですよ。……最近、よくそういうお誘い受けるんですよね。やっぱり秋天の印象が強いのかなぁ」

 

「ファンは増えてンじゃねェか。……そいつ、個性的すぎて、一回クセになったらやめられねェタイプだろうからなァ」

 

「さすが、デジたん」

 

 

 

 

 

 

 

 

休日に他のトレセン生徒と出会うのは珍しいことではないけど、オペラオーさんとドトウさんとばったり遭遇したのには少し驚いた。

 

「はーっはっはっ!」

 

「あ、ども。お二人は今日何してるんです?」

 

「はーっはっはっ!……はっ、ははは……!?ハ、オ゛ホン゛ッンン゛!

 

「……大丈夫ですか?」

 

「はわわわわわ、ごごごめんなさいごめんなさいオペラオーさんん〜!私が注文を間違えたばかりに超激辛スパイシーバーガーを食べる事になってしまって〜……!」

 

近くのファストフード店の看板を見ると、どうやら期間限定らしい、明らかに舌がひりつきそうな色合いのバーガーの写真が載っていた。

 

「ゲホッ、はぁ、はーっ、ははぁ……。かまわないさドトウ、なかなか刺激的な味わいだったが、それもまた一興というもの」

 

性格が良すぎるナルシスト。

 

 

 

「あっ、ああ、あのっ!良かったら、お茶っ、いります……?あっ、あたし口つけてないので、どうぞ!」

 

「ありがとう。だが気持ちだけもらっておくよデジタル君。ドトウが平気なんだ、ボクだって……。ヴィレムッ、ファっ、ファンン……ン゛!ゴッホ!

 

大丈夫かオペラオーさん。

 

このタイミングで出くわすんだから、てっきり僕はアレかと。なんかエモい感じのストーリーが展開されるのかと思ってたんだが。今のところただただオペラオーさんがかわいそうなだけなんだが。

 

 

 

「……いえ、あのっ!ゆ、友人として!オペラオーさんが困っているのは見過ごせませんので!」

 

……ほぉ?

 

「……そうか。友の心遣いを断る方が野暮だったね。すまない、いただくよ」

 

あ、よかった。ちゃんとそこそこエモかった。

 

 

 

そうだよデジたん。君だってトレセンの生徒なんだから、他のウマ娘との間に壁を作って傍観者になる必要はないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんやで、何をするでもなく適当に時間を潰していると、気がつけば夕方。

 

夕食は目一杯食べよう。

 

トレーナーさんがまた調子に乗ってスピカ寿司祭を開催するのだ。ちょっとお高い回転寿司。大丈夫かトレーナーさんの財布は。

 

 

 

「……それでは!スピカ一同!スペのジャパンカップ優勝、それとデジタルの秋天!あとは……あー、とにかく最近、お前ら全員頑張ってるだろ?飲んで食ってさらに英気を養うぞ!」

 

「キャーッ!トレーナーさん、ステキー!」

 

「いきなりどうしたオロール。何が目的だ」

 

「やだなぁトレーナーさんたら。本心ですよ」

 

ちなみにホントだよ。

彼がスピカにかけたお金はいくらなんだろう。生々しい話だけどさ、僕はその辺素直に尊敬してる。ありとあらゆる行動がウマ娘のためなんだもんあの人。生活費全部経費で落とせるレベル。

 

 

 

「これウメーぞー。マックちゃんも食ってみ?」

 

「なんですのコレ」

 

「ホヤ」

 

「あら、本当ですわ。美味しいですわね。テイオーもいかがです?ホヤあそばせ」

 

「……ボクはいいかな」

 

ホヤあそばせが出た。

最終話にしてようやく。

……ん?僕は何を言ってる?まあいいか。

 

 

 

今後の予定はなにもなし。

……というのは言葉の綾だけれど。

 

まぁ、簡潔にまとめると、アニメ一期のストーリーが終わった。僕の知ってるところや知らないところでちゃんと主人公ムーブをしていたスペちゃんは、しっかり日本総大将の看板を背負った。

 

デジたんが秋天を制する、という事柄が途中で起こっているのは、ウマ娘の世界では割とよくある時空の歪み的なサムシングである。

 

 

 

……これから何をしようか。

ま、いつもみたいにデジたんやゴルシちゃんと遊んだり、ナカヤマさんからにんじん巻き上げたりするか。

 

あ、デジたんには一回でもいいからリベンジしなくちゃ。次はダートでやろうか。それなら絶対勝てるはず。

 

いよいよ春天に本腰を入れたマックイーンとそのライバルであるテイオーの物語も、見守っておくべきだろう。二人の脚はけっこう繊細だし。

 

何にせよ、一つの念願が叶ったくらいじゃ、僕は満足できない。満足な豚より不満足なヲタク!

 

 

 

「マグロのがメジャーじゃないの?」

 

「サーモンの方が人気だぜ。それに子供にも愛されてるだろ。あとバリエーションも多い」

 

「確かに、炙りチーズとかあるわよね。でもそれって、ぶっちゃけ寿司じゃないわよね」

 

「いや寿司だろ!ひねくれた年寄りみたいなこと言うんだなお前」

 

スカーレットの言いたいこともちょっとわからんでもない。まあ炙りはいいとして、玉子やら肉巻きやらは寿司なのかどうか、個人的に気になっている僕である。玉子を〆に食べるのが通とかほざく輩もいるが、好きに食わせろよと僕は思う。

 

「何よ、喧嘩なら買うわよ?ウオッカ。……これ食べたあとで」

 

「上等!……食ったら覚悟しとけよな」

 

相変わらず仲良いなぁあの二人は。

 

 

 

「……あっと、そういや、これが一番大事だ。デジタルの海外遠征の成功を願おう!デジタル、スケジュールやカロリー調整はお前の相棒と一緒に考えたから問題ない。今日はしっかり食って、香港に備えておくんだぞ!」

 

 

 

トレーナーさんが言う。

 

 

 

……そっか。しばらく、会えないか。

 

 

 

「どうしたのオロールちゃん。……今、泣いて?」 

 

「……君としばらく会えないって思うと、胸が張り裂けそうで」

 

「いやそんなになることある?だって、すぐ日本帰ってくるよ?アポロ11号もビックリするくらい早く帰ってくるよ?」

 

「たった数日でも僕は狂うよ。というか既に狂ってるよ。デジたんデジたんデジたんが遠くに行っちゃうなんて耐えられないからさぁ、ねぇ?デジたん?自覚ある?僕を狂わせるその愛らしさ。誰よりも可愛いってこと、自覚してる?」

 

 

 

「……してるよ。ていうか、今したから。とりあえず落ち着いて────」

 

 

 

「悔いはない。君のいない世界に意味はないから早く僕を楽にしてくれ」

 

「いやだから数日だけだって」

 

その数日がどれほど長いか。

 

 

 

「……つかお前も行けばいいんじゃね

 

 

 

「あ」

 

 

 

確かに。

 

……。

 

行くか。

 

 

 

「次回っ!新章、海外編────」

 

 

 

「何のナレーションだよそれ。怖っ」

 

「……すまんオロール。飛行機予約取れてないから、行けないぞ」

 

トレーナーさんがほざく。やっぱ全然尊敬できない。こういう時に役に立たないなこの飴男が。

 

「ちっくしょう!!泳いで行ってやる!!」

 

よし、明日プール行って練習しよう。

 

「……おいトレーナー。コイツ本気で泳ぐ気だぞ」

 

当たり前だ。

 

「おいさすがにやめろよオロール。密入国しようとすんな。スピカから国際犯罪者出たらヤベェだろ」

 

デジたんのためなら、たとえ火の中水の中どこであってもついていくっ!それが僕だ!

 

……うん、密入国はさすがにやめとこう。

だが香港へは必ず行ってやるぞ!

デジたんが世界にも通じる瞬間。その走りを世界に刻みつける瞬間を、僕の記憶に焼き付けるため!

 

「……んふふふふ」

 

ありがとうゴルシちゃん。根本的なことに気づかせてくれて。会えないなら会いに行けばいいのだ。

 

「あ、コイツ行く気だ。……アタシ戦犯やらかしたな」

 

 

 

「いや、さすがにしないとは思いますけど。でも万が一オロールちゃんが会いに来てくれたら、それはそれで、嬉しい、かな……」

 

 

 

ああ、今日も最高にデジたんが可愛い!




プァーブァップァッ ブァッ プァッ パラリラー


次回──

スピカどうでしょう海外編

デッ デッデッ デデデデッデー



始まるんじゃないすかね?(他人事)

一応一本筋の通ってるのか通ってないのかわからんストーリーはここで終わりでございますけども

まぁ、拙作を読んでいただいて、ほんの一欠片でも面白いと思ってくれたら

最高評価とブクマとここすきと当小説の宣伝だけしてもらっていいですか(承認欲求モンスター)


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