デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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最終話と言ったな?
あれは嘘だ ア アララァ ア アァ!

承認欲求モンスターは止まるところを知らないんだぜ?分かってんだろ?ペイス……


ミス・スピカとまたしても何も知らないゴールドシップ
何故ってそりゃお前自身だろうがよ


 

「……なぁ」

 

「おい、オロール」

 

「なあおい、変態」

 

 

 

「……ゴルシちゃん?」

 

う、なんだか頭がぼんやりする。

 

ここはどこだ?今まで僕は何を……。

 

 

「おい、起きろよ。そろそろ着くらしいぞ」

 

「……ねぇゴルシちゃん。ここどこ?」

 

「は?どこって、そりゃお前……」

 

 

 

上海行きフェリーだよ

 

 

 

……?

 

 

 

 

 

 

 

 

それは数日前のことだった。

 

「やっぱりデジたんのレースは生で見たい」

 

「おう。だから勝手に香港でもどこでも行っちまえばいいだろ」

 

香港カップまであと二週間を切った頃。

デジたんが行ってしまった後、僕は寂しくなった。

 

チーム全員で海外に飛ぶのはさすがにコストがかかるし、何よりスケジュール調整が難しい……ということで、デジたんとトレーナーさんだけが飛行機に乗っていってしまった。あのクソ飴野郎、デジたんを独り占めしやがって。

 

悔しい。

ので、行く。

 

「うーん……。できればコストは低くしたい。クリスマスとか新年とかにド派手なことやりたいから、お金はあまり使えないんだよ」

 

「つっても、香港まで行くんなら飛行機しかねぇだろ。学生にはちっと贅沢だけどよ、お前もけっこうレースで勝ってるし、海外行くんなら財布軽くする覚悟はしなきゃあ……」

 

 

 

「……ほんとに飛行機しかないの?」

 

「は?」

 

ちょっと調べてみよう。

 

船とかないかな?「日本 中国 フェリー」……あ、あるじゃん。

 

ふむふむ、雑魚寝部屋ならけっこう安いな。

 

 

 

「……よし、行こうかゴルシちゃん」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、ほんとビックリしたぜ。まさかその場で渡航が決定するとは思わなかったし、アタシが道連れにされるとも思わなかった。……何考えてんだお前マジで」

 

「何考えてんだ僕、あー失敗した……。せめてもうワンランク上の部屋にしときゃもう少し眠れたかな……」

 

「全部お前自身のせいだかんなオイ」

 

二泊三日の船旅。睡眠に妥協するべきではなかったかもしれない。

 

……いや、安いんだ、こっちの方が。

お金、大事。スゴク。

 

 

 

「……暇だねぇ」

 

「船ん中だからスマホも使えねーしな。……いや、つーかアタシはまた納得してねぇぞ。お前にムリヤリ連れてこられたんだからな?近場ならまだしも海外だぞ?頭おかしいだろお前」

 

「……暇つぶしに小説でも書くか。もしかするとノーベル文学賞もののヤツが書けるかもしれない」

 

「文学界だけじゃなくてありとあらゆるものを舐め腐ってる発言だな今の」

 

 

 

「『銀河が誕生したのは何年も前』……」

 

「書き出しからしてクソだな。つか『何年も前』ってなんだよ。ヤな表現。絶妙にかゆいところに手が届かない感じだわ。もっと前だろ銀河。何億何十億と前だろ」

 

「えー、『銀河が誕生したのは何年も前』……。ダメだ、こっから書けない」

 

「当たり前だろ。そもそも何書こうとしてんだよ」

 

「デジオロ香港編の話」

 

「なんで銀河出てくんだよ!?」

 

そりゃあ、デジたんの可愛さを語るにはまず宇宙の起源から説明する必要があるからなぁ……。

 

 

 

「……『昔は四足歩行だった』」

 

「は?」

 

「あ、やっぱ今のなし。ちょっと世界の根幹に関わる重大な禁忌を犯すところだった」

 

ウマ娘の魂の起源を知る術は、この世界にはない。

あまり深入りしてはいけない領域である。

 

 

 

「……飽きた。ねーねーゴルシちゃーん、一発ギャグやってー」

 

「しばくぞ」

 

「芝だけに?」

 

「……寒気してきた」

 

「船酔いじゃない?」

 

「オメーのせいだわ」

 

失礼だな。

 

 

 

「……ねぇゴルシちゃん」

 

「おん?どしたよ」

 

「……あのさ」

 

「何だよ、もったいぶるなよ」

 

 

 

上陸後のプラン一切考えてないんだよね

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまっ、おっ……!んああああっ!!

 

「ビックリするから急に大声出さないでよ。それも公衆の面前で」

 

ここはフェリー乗り場だぞ。

それに、一応変装しているとはいえ、仮にもG1優勝経験のあるウマ娘が街中で目立つわけにはいかない。

 

「……どーすんだよ!?ただでさえノープランだってのに、財布もほとんど空じゃねぇか!?金自体は持ってんだから財布に入れとけよ!?」

 

「金があったら使わずにはいられないのがカルマってヤツだよ。それを防ぐには予め持ってこない……。パーフェクトな対処法でしょ」

 

「しばくぞ」

 

「芝だけに?」

 

「オメーをダートに埋めようか本気で迷ってる」

 

「ダートだけに……」

 

「何ともかかってねぇから。……よし分かった。とりあえずアタシはカード持ってきたから、当面はこれで……。いやキツくね?現在地上海だろ?こっから香港ってどんくらいかかるんだ?」

 

「えーと……。寝台特急で丸一日

 

ああああああーーっ!!

 

何も考えてなかった。

まあ、たかが1600kmくらいだ。走ればなんとかなる、はず。

 

 

 

「……で?上海と香港結ぶ寝台特急とかはあんのかよ?確か香港って特別行政区だったろ?」

 

そう。中国内の他都市に行くにも出入国審査が必要なのだ。

つまりどういうことかって、香港行くのに上海を経由するヤツはよほどのマヌケだってこと。

 

「鉄道自体はあるみたい」

 

「ハァ……。フェリーでロクに寝れてないってのに、また寝床が揺れんのかよ……」

 

乗らないよ?

 

「は?」

 

「いやだから。鉄道なんか使わないよ?」

 

「いやっ、でも、他にどうやって……」

 

「……」

 

「お前、まさか。おい嘘だろ?」

 

 

 

はるか昔、東アジアの草原には巨大帝国があった。

世界最強と謳われた騎馬軍団……ではなくウマ娘軍団が、モンゴル高原のみならず大陸各地を駆け抜け、地続きの最大版図を築き上げた、という歴史は、この世界で一般的に知られている。

 

まあ要するに、昔のウマ娘ちゃんでも大陸横断できたんだから、1600kmちょいの距離くらいなんとかなるだろ、っていう……。

 

「んふふふ、走ろっか……」

 

 

 

しばくぞ

 

「芝だけにってちょちょちょっ、待っ……!」

 

「フンテレーッ!」

 

うわああモンゴル相撲の技かけてきたよこのハジケリスト!?

 

 

にゃあああーーッ!?んぁがっ、オ゛ッ、オオ゛……!

 

ただでさえ力の強いウマ娘、それもムダに格闘技能があるゴルシちゃんの膂力でもって地面に投げつけられたもんで、まったくたまったもんじゃない。

 

「一瞬呼吸止まったよ。はぁー、死ぬかと思った……」

 

「殺す気で投げたのに生きてやがる……。ゴキブリみたいにしぶといな」

 

「当たり前さ。ヲタクは推しの供給以外で死ねない生き物だから。なんだったら不意の推し成分にも耐えられるように残機も用意しておくのが、一流のヲタクなんだよ」

 

「ゴキブリよりタチ悪かった」

 

ひどい言われよう。

 

 

 

「で、結局どうすんだよ?アタシは絶対走らねぇけど。つか走れねぇよこの距離は」

 

 

 

「……うーん。ヒッチハイク?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ……!全然乗せてくれない!」

 

「当たり前だろバカかお前。行き先『香港』にしてどーすんだよ。明らかにヤベェやつだろ。誰も乗せねぇよそんなやつ」

 

「じゃーどうすりゃいいのさ」

 

「香港への道中にある街を目的地にしときゃいいんじゃねーか?」

 

「なるほど、小刻みに行く感じね。やってみよう」

 

こんなこともあろうかと、僕は中国語を履修している。北京語やら広東語やらもバッチリだし、なんならモンゴル語もカバーした。さらにはカルムイク語やブリヤート語のスキルも習得。さすが僕。

 

 

 

「……言語学習を完璧にしてくる暇があったら金持ってこいよアホ」

 

「我否阿呆」

 

「バリバリ日本語じゃねーか」

 

「多分伝達可能。国際交流超容易」

 

「言語の壁ナメくさりすぎだろ」

 

「うるさいなぁ。大体ねぇ、コミュニケーションってのはフィーリングでどうにかなるもんなんだよ?君と僕の仲なら言葉なんていらない。でしょ?」

 

「アタシはお前の言動に何一つ納得してねぇぞ」

 

またまたぁ。

 

 

 

「……とりあえずフリーWi-Fi拾ってくるわ。で、地図調べて、ルート決めるぞ」

 

「さっすがゴルシちゃん。こういうとき頼りになるなぁ」

 

「お前のせいでこうなってんだよ、はっ倒すぞ。はっ倒してから悲鳴を上げられないよう喉潰して、眼球にバッテリー液注ぐぞ」

 

「具体的すぎて怖い」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、目的地を決めた。

 

最終的に「深圳」という街まで行く。陸路で香港を目指すなら、この街から検問所を通っていくのがいいだろうということになった。

 

で、今日のはひとまず「黄山」という所へ向かう。

 

有名な景勝地だ。

幾千万もの時を経て大自然が織りなした、この世のものとは思えぬ霊峰。

 

神秘的な峰々が視界を埋め尽くす光景はさぞや圧巻だろう。写真撮ってデジたんに見せてやろーっと。

 

で、目的地をそこに変えたら、なんとかヒッチハイク成功。

 

優しいトラック運転手さんに拾ってもらった。

仮にこの人が優しくない運ちゃんだったとしても、僕の戦闘能力は武装した成人男性10人に匹敵するので問題ない。すごいだろ。

 

「……何とか目的地には行けそうだな。危うく異国の地でこのまま死ぬんじゃねぇかと思ったぜ」

 

「大丈夫だよ、僕がいる」

 

「だから不安なんだよ」

 

なんでだよ。

 

 

 

「それにしても、運転手さん、ホント助かりました! 谢谢你(ありがとう)!」

 

歳はアラフォーってとこか。ベテランっぽい風格の漂う運ちゃんは、僕がお礼を言うとニカッと笑い、こう返してくれた。

 

不客气(どういたしまして)

 

うん。とても良い人だ。

 

中国語ってのは、発音がなかなかクセモノで。

音の高さで意味が変わるんだってさ。

世界トップクラスで習得が難しい言語と言われているのも頷ける。ま、僕は楽々覚えたけどね。

 

……ウソ。実際、苦戦した。

 

僕の言語学習能力は他人よりもかなり高いと自負しているのだけど。

文法や文字は分かっても、発音がまだ少し拙いんだ。

 

 

 

「……日本、ウマムスメさん、でスカ?」

 

「え?日本語分かるんですか?」

 

「少し。話しマス。私、勉強しまス、日本語。ウマムスメ、ついて、話ス……。日本人のトモダチと」

 

うん。超絶ド級に良い人だ。

 

なるほどね。ウマ娘ファンの友人がいるのか。

それも日本の。

 

彼は同志のようだ。

 

「日本、ウマムスメ、カワイイです、ネ。私好キ。ファンクラブ入っていまス」

 

「へえ……。誰のファンクラブですか?」

 

「アグネスデジタル」

 

「……?」

 

「アグネスデジタルさん、知ってまス?すごくカワイイ!だけど、ハヤイ!とても、小さイのニ!私、ロリコンじゃない、ですが、好キでス。アグネスデジタル」

 

……。

 

「ねぇ、財布出して」

 

「は?」

 

「……彼に全部払うんだ

 

「一文無しでどうやって香港まで行くんだよ」

 

「努力!」

 

未来!

 

「おいオロール、テメェふざけんな。……いやお前なら多分行けるんだろうな。だがなぁ、アタシの心の健康を考慮しろよ。ゴルシちゃん保護法に抵触してんぞ」

 

 

 

「ワーッ!?オロール!?知っていルー、私!知っている、ますヨ!超喜欢(すこすこのすこ)!……ということは、白いウマムスメさん、もしかして、ゴールドシップさん?」

 

「……アタシのこと知ってんのか」

 

そういやぁ、変装してんだった。

 

デジたんのファンなら、僕やゴルシちゃんのことも知ってるはずだもんな。なんたって、ファンクラブ作ったの僕だし。

 

「デジタルさんと、オロールさん、尊い。私は、尊い思いまス。天皇賞秋見ましタ」

 

ほほう!分かってるじゃあないか!

 

「……よりによってコイツらが国境越えて知名度あるのかよ」

 

「よりによってとはなんだゴルシちゃん」

 

「私、オロデジ推しだけド、友人、オロゴル推しネ。蓼食う虫も好キ好キ」

 

「なんでその言葉をピンポイントで知ってんだ」

 

「でも、本当は、どっちも尊いネ。私と友人、本当はどっちも好キ。会えて嬉しいでス」

 

 

 

……ファンの言葉を聞くのって、こんなに嬉しいんだ。

 

もちろん、僕のファンはそれなりの数がいる。僕が培養したデジたんヲタクどもは半ば必然的に僕をも推してしまうので。

 

彼ら彼女らの声を聞くのは、主にネット上。

街に繰り出すときは大概ちょっとばかし変装するし。

 

だからこうして直接話すのが面白い。

なにより、日本在住でなくても僕を知ってくれているのが本当に嬉しい。国際交流超容易。

 

 

 

「……あの、良かったら、写真撮ります?」

 

自意識過剰かな?

いや、そんなことはない。僕はイケメン高スペックウマ娘だ。鋼の意志でもってこの自己認知を貫き通させていただこう。

 

「嬉しい!ありがトウ!」

 

 

 

そんなわけで、僕とゴルシちゃんとリーさんで写真を撮った。あ、リーさんてのは彼の名前。

 

あとでデジたんに見せてやろーっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!これからもデジたんのこと応援してくださいね?」

 

「もちろん!私、ずっとファン!」

 

 

 

早すぎるリーさんとの別れ。

たった数時間の仲だけど、貴方は僕の同志。ソウルメイトだ。

 

国籍は違えど、胸に秘めたるは同じ想い。

僕たちの心は同じ空の下で繋がっている。

 

 

 

「……おい、いい感じの雰囲気出して誤魔化してんじゃねぇぞ。今回はたまたま優しいヤツが乗せてくれたから良かったけどよ。そもそもお前が計画性皆無だったことによって生まれた問題は何一つ解決してねぇんだわ」

 

「でも、ヒッチハイクしなきゃリーさんと巡り会うことはできなかった。そうでしょ?」

 

「お前めっちゃリーさん好きじゃん。いやマジでよぉ、めちゃ会話弾んでたよな。出会って数分で母国語も違うのに、かれこれ数年付き合いのあるアタシよりも話弾んでたよな」

 

「同志ですから」

 

心で繋がっているのだ。

 

 

 

「……ま、いいわ。とりあえず、今日の宿見つけようぜ。日も暮れちまったし。異国の地で夜うろちょろするわけにもいかねぇ」

 

 

 

「……ほら、ご覧よ。夜空が綺麗だね」

 

「曇ってるからそうでもねぇぞ?」

 

「いいじゃないか。それもまた趣があって」

 

 

 

「……おいお前まさか

 

 

 

ここをキャンプ地とする!!!

 




愛麗數碼尊尊尊。
超絶尊尊怒髪天。
滅茶苦茶可愛好。

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