デジたんに自覚を促すTSウマ娘の話   作:百々鞦韆

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アニメ三期にデジたんが登場してほしいなぁ、と思う今日この頃でございます。


束の間の戦

「なんか主人公っぽいことがしたい」

 

「どうした急に」

 

「主人公っぽいこと…例えば何かの事件に巻き込まれたり、美少女とラブコメやったり…。いいじゃん?ロマンあるじゃん?ゴルシちゃん?」

 

思えば僕はTS転生者で、一度見聞きしたものを忘れない能力を持っているし、容姿の方も、まるで夜を映したような深い青毛にオッドアイのお目々で「ぼくがかんがえたさいきょうのウマ娘」みたいな厨二じみたヤツだ。…いや、最強には程遠いけど。

 

とにかく、トレセン学園に入学してから特に大きな事件があるわけでもなし、暇な時間に妄想にふけっていたら止まらなくなってしまった。

今、僕はすごく事件に巻き込まれたい。というより、アニメや漫画の主人公みたいにモテたい。

 

「あー…デジたんがヒロインポジで…いや…それとも…うん、ハーレムは特段好きではないけど、夢があるなぁ…ウマ娘ハーレム…んふふふ…」

 

「重症だな…。お前もウマ娘だろ、鏡でも見てりゃ良いんじゃねえか?」

 

「トレセンに来る前はそうしてたさ。鏡と母さんからの供給で欲を満たしてた…。けどっ!デジたんに出会ってからはそれだけじゃ到底満足できない体になってしまったんだよ…!」

 

「…聞いたアタシが悪かった」

 

…罪深い場所だよ、ここは。このゴルシちゃんだって、ただでさえ美しいのが毎朝毎晩彼女が髪を下ろして無防備な寝顔を晒すのを、僕は見てるんだ。

よく耐えてるよ、本当に。

 

今日は休日なのだが、デジたんは用事があると言っていたので、学園にはいない。…デジたん成分が補給できないのだ!したがって常にウマ娘の尊みを享受しなければ僕はただちに死んでしまう。オタクだからね、しょうがないね。

 

「今日はいろいろとほっつき歩いてみることにするよ。何かウマ娘に関する事件とかに巡り会えるかもしれないから。ゴルシちゃんも来る?」

 

「いや、今日はアタシも出かける。いろいろと用意するもんがあって…ホムセン行かなきゃな…」

 

「…ホムセン?何買うの?」

 

「…ふっ」

 

僕が質問するとゴルシちゃんは目を閉じ、少し歪んだ唇の隙間からではなく鼻から息を吐いて鳴らした。

えっ…怖っ。何が怖いって、その含みのある笑いもそうだが、ゴルシちゃんとホムセンの組み合わせが一番怖い。彼女がロクでもない企みをしているのは間違いないだろうし、それを可能にするものは確実にホムセンに売っている。

 

「何企んでるのかは分からないけど、僕に被害は及ばないよね…?」

 

「…ふっ」

 

「…あっ、これ及ぶやつだ」

 

マジかよゴルシちゃん。最近は大人しいと思ってたのに。やっぱりゴルシってるじゃないか。

 

「てことでアタシは早速行ってくるぜ。土産にゲキシブなサングラスを買ってきてやる!…束の間の平和を楽しめよオロール…!」

 

彼女は非常にワルそうな笑みを浮かべながらそう言って、部屋から出ていった。…今回はドアから。

 

「…用心せねば」

 

ゴルシちゃんから、なにがなんでもやってやるという強い意志を感じた。それにまるで、なにかフラストレーションを発散できるときの喜びが含まれたような声色だった。

僕なんか恨まれるようなことしたっけ。

…まあ、今考えても仕方ないことか。

 

それより、ゴルシちゃん成分の供給が途絶えたので、早く別のウマ娘を探さねば。

 

「いざ行かん、行きてまだ見ぬウマ娘っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、気合いを入れたは良いものの、ここはウマ娘の聖地トレセン学園。丁寧に整備され石ころ一つ見当たらない道には、宝石以上の輝きを放つウマ娘たちの姿が探さずとも目に入る。

 

「あぁ…歩いてるだけで幸せ…」

 

爽やかにしぶきを上げる噴水の前を通り、校舎へと入る。

体を動かすのは昼食後にしようと思ったので、僕は図書室へ行くことにした。もちろん目的は本を読むため…でもあるが、主に横目でウマ娘を眺めるためだ。本の内容を紙面ごと記憶しつつ、ウマ娘達のスカートの折れ目を数えるくらい僕にとっては造作もない。うん、能力をちゃんと活用している。主人公っぽいね。

 

「んふふ…読書に励むウマ娘…しんとした空気の中でパラパラとページをめくる音だけが聞こえ…そしてその音と一緒に揺れる可愛いお耳…んんっ…!やばいっ、想像しただけでも尊いっ…!」

 

もう既に尊い光景の輪郭は出来上がっている…!ならば一刻も早く実物を見て、脳内をよりカラフルにするほかあるまい…!

僕は妄想を止めることなく歩き続け、図書室のドアの前で立ち止まった。

 

「やっと着いた…!レッツオープうわあッ!?」

 

ドアに手をかけようとしたその瞬間、ドアが音を立てて開き、中から何かが飛び出してきて勢いよく僕にぶつかった。衝撃で思わずよろめく。

 

 

 

白いものが視界を横切る。

ぶつかった人が着ている服の白だ。一瞬、生徒以外の人かとも思ったが、よく見ると彼女は制服の上から白い服…白衣を羽織っているようだった。

 

「おっと、本を落とすところだった。君、大丈夫かい?もし怪我をしたなら、この私が直々に治療を…なんならそれ以外もしてやるから安心したまえよ」

 

「いえ、大丈夫です…」

 

 

彼女と目が合った。

 

 

…奥底の見えない、未知の詰まったその赤い瞳に思わず吸い込まれるような感覚を覚え…吸い込まれ…いや待て。

 

距離が縮んでいる、物理的に。薬の臭いが鼻につくほどに彼女が顔を近づけてくる!あっこれガチ恋距離…。

 

「お、おおっ…!ヘテロクロミアとは珍しい…!美しい色だ…たしか金目銀目といったかな…あ!そういえば…ふむ…うん…で、あれば…」

 

「あ、あの…?」

 

 

彼女の名はアグネスタキオン。

 

 

タキオン…超光速の粒子の名を冠するウマ娘で、その瞳と同じような底の知れない光速の走りで他を圧倒できるほどの脚力の持ち主。

しかしトレーナーをモルモット呼ばわりし、よく人体実験しては被験者を光らせたり発光させたり輝かせたりする狂気のムァッドサイエンティストでもある。ちなみに寮の部屋はデジたんと同室。

 

そのアグネスタキオンは今、僕と目と鼻の先の距離でひたすらメモ帳になにかを書き込みながらうんうん唸っている。

 

「…よし、オロールくん。ちょっとお薬を飲んでみる気はあるかい?」

 

「……ふぇっ?」

 

今なんて言った?お薬飲めって?

 

話がいきなり飛躍した。

…僕の名前を知っていることに関してはまあ分かる。彼女はデジたんと同室だし、きっといろいろ聞いていたんだろう。僕の色違いの目を見て、話に出てくるウマ娘だと気づいたに違いない。

 

ただ、出会って数秒で実験台にしようとするのは全く理解できない。これがマッドサイエンティストというものか…。いやはや、彼女のことは前世で何度も見たが、本物は想像以上にヤバいぞ、これ。

僕が若干青ざめていると、彼女が口を開いた。

 

「君が不安な気持ちになるのも分かる。が、しかしねぇ。この私、アグネスタキオンは自分の作った薬に誇りを持っている。だから最初の実験台は他でもない、私自身さ。安全性は保証済なのだよ。…少なくともウマ娘に対しては、ね」

 

「…それ、飲んだらどうなるんですか?」

 

「さあ?分からない。私のときは特筆するべきことは何も起きなかったが、個体差があるかもしれないからね。

…だが、君はデジタル君のお気に入りなのだろう?彼女が君について話すときはいつも楽しそうでね。さすがに私もルームメイトの友人を傷つけるような真似はしないとも。何度も言うが、薬に害はないよ」

 

はぁっ…!デジたんが、僕のことを…!

その事実が僕の頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱す。デジたんが。僕について。楽しそうに…。

…いや、いかん。落ち着け…。

 

今考えるべきは、飲むか飲まないか。

別に飲むこと自体は構わないのだが、なんというか漠然とした不安感が…。実際、彼女の作った薬に害はないのだろう。しかし身に纏っている雰囲気が怪しすぎて不安になるのだ。

 

「ちなみに、実験は私とデジタル君の部屋で行うよ」

 

「ハイッ!飲みますッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウリイイィィィーーッ!!」

 

「…部屋に入るなりいきなり奇声を出すほどデジタル君のことが好きなのかい?」

 

「ハイっ!!そりゃもう!!」

 

キタキタキタキタキタァ!

救世主タキオン様のおかげでデジたんの寝床を拝むことができたぞ!なんだここは。まごうことなき聖域じゃないか。空気が神聖すぎて浄化されそう。

 

「…ふむ、今後も同じ手が使えそうだ」

 

「タキオンさん?今なんて言いました?」

 

「…いや、なんでもないさ。それよりも早く実験を始めよう」

 

あ、そうだった。今回ここに来たのはデジたんのベッドの残り香を嗅ぐためではなく、実験に付き合うためだ。

僕が深呼吸をしていた間に、タキオンさんは一本の蛍光色に輝く瓶を手にとっていた。

 

「それじゃ…僕はなにをすれば?」

 

「これを飲んで、しばらくベッドに横になるだけでいい。じきに効果が現れる」

 

彼女はそう言うと僕にベッドへ座るよう促した。

…よかった、タキオンさんのベッドで。デジたんのだった場合僕は間違いなく昇天していただろう。その点、こちらのベッドなら致命傷で済む。

 

「準備はできたかい?なら、早速グイッといってくれたまえ」

 

渡された瓶の中には、蛍光色…それも濃いピンクの液体が揺らめいている。…どうやったらこんな色になるんだ。

 

フタを開けた瞬間、想像していたよりも甘ったるい、ありったけの果物を砂糖漬けにしたような匂いが鼻を刺した。

…そういえばタキオンさんは甘いものが大好物で、湯量と砂糖の比率が1:1の紅茶をキメる人だったな。この薬にも甘味が大量に入っているのだろう。この人苦い薬とか飲めなさそうだし。

 

まあ、マズイよりは断然マシか。

意を決して、僕はそれを口へと運んだ。

 

「んくっ……ゔっ」

 

予想通りの甘い味。しかしそれは舌に優しいものではなく、一口二口飲んだだけで口の中にこびりつく甘さだった。

 

「市販の薬とは全然違うだろう?味にもこだわりがあってねぇ。…薬効を保ちつつこの甘さを出すのには苦労したよ…。おかげでなかなか面白い色になってしまった…ククク」

 

そんな理由で蛍光ピンク色の薬が生まれたのか…。この、普通のシロップ薬に沈殿するほどの砂糖をぶち込んだような味を作り出すためだけにこんな色に…?

 

「んっ…!…ぷはぁっ…!」

 

ようやく全部飲み切った。口腔が焼けるような甘さがしばらく残りそうだ。…これを好きで飲んでいるんだよな、この人…。僕らとは住んでいる世界が違うんじゃないか。

 

「薬とは思えないほど美味だったろう?さあ、横になるといい」

 

「…次は錠剤がいいです」

 

「んなぁっ!?何を言ってるんだね君は!?よりによってあんな苦くて喉越しの悪いものがいいだって!?」

 

うん、だろうな。この人はきっとあれだ。糖衣錠ですら苦いと言って吐き出すに違いない。

 

…味に気を取られていたが、そういえばそもそもこの薬の効果はなんなのだろうか。

 

「タキオンさん。これを飲むとどんな効果があるんですか?」

 

「ああ…このとーっても美味しい薬の効果だが…。不明だ」

 

「…えぇ?」

 

「いや…正確には分かるのだが、その程度が不明なのさ。この薬には一時的に五感や思考を研ぎ澄ます効果があるはずなのだが、私が飲んでみてもいまいち実感できなかった。だが君もそうとは限らない。…やってみなければ分からない。これが実験の醍醐味だ…ワクワクするだろう?」

 

「そうですか…なるほ…ど…」

 

…急に、眠気が。

なんだろう。薬のせい?突然、前触れもなく…。

眠い。意識が遠のく。

あたまが、ふわふわする。

 

「おお…眠気を誘発するのか…!私のときとはまったく異なる反応だ、面白い…!あ、寝たいなら寝るといい。実験に支障はない」

 

「……んぅ」

 

からだがぽかぽかするよう。

…きもちいいなあ、これ。

 

…デジたんのにおいがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか暑苦しくて、うっすらと目を開ける。

 

…あれ、僕は何をやってたんだっけ。

そうだ、たしかタキオンさんの薬を飲んで…。

…そこから先の記憶がない。

 

「…おや、やっとお目覚めかい。やはりベッドのある場所で実験するのは正解だった…」

 

「…僕は、どれくらい…眠ってました?」

 

「六時間ほどだね」

 

…思ったより長かった。もう夕方じゃないか。

 

「気分はどうだい?五感が鋭くなったり、頭がよく回るような気がしたりは?」

 

「いえ…特には…」

 

今のところそのような感覚はない。

 

それよりも…暑い。まだ五月だというのに、まるで砂漠にでもいるような暑さだ。

汗がじわりと滲み、自然と呼吸が荒くなる。

 

「ではそれ以外に何か変わったところは?」

 

「…あつい、です」

 

頭のてっぺんから爪先まで、蒸されたように火照りが止まらない。

思考は速くなったというよりもむしろ、もやがかかったようでうまく回らない。

 

「暑い…?おや、確かにかなり顔が赤くなっている…。どれ、熱は…」

 

 

待って。まさか。

彼女の顔がだんだんと近づくにつれ、思考のもやが晴れてくる。

 

「ひうっ!」

 

「ふむ、体温には異常なし、か…」

 

…おでこピタってやって熱測るやつだ!

今ので一気に目が覚めた。頭がクリアになり、視界が一瞬で広がる。

 

「…ひとまず、水を飲みたまえ、ほら」

 

「ありがとう、ございます…。……んく…っ!?」

 

 

冷たさが喉を通ったのが引き金となり、その瞬間スイッチが切り替わるように世界が変わった。

 

見える。既に薄暗い外の木の枝にとまっている虫がよく見える。

目の前の彼女の心臓が脈打つたび、僕の耳がその音を捉える。

 

「急に固まってどうしたんだい?やはり体調に変化が?」

 

「あ……」

 

においだ。

デジたん。デジたんの匂いがする。

 

「…デジたんデジたんデジたんっ!!ああっ…すごいっ!デジたんがデジたんで、デジたんが入ってくる…!デジたんッ!」

 

「…おやぁ?」

 

デジたんのにおい、デジたんのデジたんな指の痕や、デジたんのデジたんな髪の毛が、僕の脳に入ってくる。

 

「はわぁ…デジたん…!んんん…!」

 

「…涎が垂れてるぞ、大丈夫かい?」

 

デジたんデジたんデジたん…デジたんの部屋。デジたんが寝ている部屋。

 

「ふむ、頬の紅潮に荒い呼吸…支離滅裂な言動。紛れもない興奮状態だ。非常に興味深い…これはもしや…」

 

 

とん、とんと音がする。

遠い…これは寮の玄関の音だ…。が、間違いない。

 

このリズムはデジたんの足音だ。

デジたんが近づいてくる。

匂いも濃くなっていく。

 

階段を登り終え、こちらへと歩いてくる。

ドアまであと4m。

 

「デジたん…!」

 

あと50cm。

…今、ドアノブに手をかけた。

 

 

 

「ふぅ…疲れた…。あ、タキオンさん…珍しく部屋にいるんですね…って、えぇ!?オロールちゃん!?どうしてここに____」

 

「デジたああああああんッッ!!」

 

デジたんだ本物のデジたんだ今僕の腕の中にいるのはデジたんだずっとこうしたかったデジたんデジたんデジたんデジたん!!

 

「ファッ!?う、お、オロールちゃん!?急に抱きついてきてどうしたんですかってぴゃあああああっ!」

 

くいと引っ張るだけで、彼女と僕はベッドへと倒れ込む。

僕の指先がデジたんの細胞一つ一つを感じ取る。

ああ…デジたんだ。デジたんだ…!!

 

「タキっ、タキオンしゃん!た、助けてくださいっ!なぜかオロールちゃんが薄い本に出てくるような顔になってて…!お、押し倒してきてくれて、あの、とにかく…あたしが死んでしまいます!」

 

「デジたん?デジたんには僕だけを見てほしいんだけどねえデジたん?デジたん、好き。デジたんが…んふふ…!」

 

僕がこんなにデジたんを好きなのも全てデジたんが可愛いからであって、デジたんは可愛いんだ…!

 

「…実は先程、彼女に五感や思考を強化する薬を飲ませたのだが。効果はそれだけではなかったようでね。強い情動や欲求を抱くとそれらを増幅し、比例して五感や思考がさらに強化される…。まあ、ここまでなるとは思ってもみなかったがね。彼女の想いはよっぽど強いようだ」

 

「つまりオロールちゃんはそれだけあたしなんかを…?ウソぉ…?っ、いやいやいやっ!いっ、今は理由の説明よりもとにかく助けてくださいぃ!?あっやっぱりこのままでも…いややっぱり助け…ぐぅッ!こんなに葛藤したのは初めてです…ッ!」

 

デジたん…。自分が可愛いってことがまだ分からないみたいだ。ちょうどいい、今からしっかりと分からせてあげよう、それがデジたんのためだ。

 

ああ、デジたんデジたんデジたっ…!?

 

「ほっ!…っと、こんなこともあろうかと鎮静剤を持っていてよかった」

 

首筋になにか打たれた…!?

 

あれ、きゅうにからだが____

 

「こんなに暴れるとは…。まったく、困った子だねぇ」

 

「100%タキオンさんの薬のせいですよ〜ッ!?」

 

…デジたんのこえがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼を開ければ、そこには見知った天井。

…いつの間にか僕は自分のベッドの上にいた。

首を傾けると、そこにはいつもの白いあいつ。

 

「アグネスどもがお前を抱えて部屋まできたもんだから驚いたぜ。なあ、何があったんだ?」

 

「ぼくをころして」

 

「いきなり何を言ってるんだお前は」

 

「…やらかした」

 

…起きがけに希死念慮に襲われる程度にはやらかしてしまった。

 

控えめに言って三回くらい死にたい。

 

僕の罪を数えよう。

ひとつ、タキオンさんのヤバい薬で興奮し、欲望のままにデジたんを押し倒した。

ひとつ、万民に知れ渡るべきデジたんの存在を独り占めしようとした。

ひとつ、暴れて彼女達の部屋をめちゃくちゃにした。

ひとつ、ここまで来るのに彼女達の手を煩わせてしまった。

 

記憶はしっかりと残っている。普段よりも五感が研ぎ澄まされていたので、より印象深く。

あのとき、新しいお薬を打ち込まれたから良かったものの、そうでなければ僕はもっととんでもないことをしでかしたに違いない。

あまつさえ、ベッドまで運んでもらう始末だ。

自分に呆れて涙が出てくる。

 

「ゴルシちゃん…介錯を頼むよ…」

 

「手刀で切腹を試みるなよ。…マジで何やらかした、お前?」

 

「まあ、かくかくしかじかでね…」

 

語るにつれ、どんどんと彼女の顔が引き攣っていく。

 

「…とまあ、こんなことが」

 

「…やるよ」

 

話を終えたとき、ゴルシちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で、絞り出すように一言だけ言った。

 

そして渡されたのは色の濃いサングラス。

…本当に買ってきたのかよ。

 

「…ふへへ…グラサンだぁ…」

 

なんとなく、かけてみた。

涙でぼやけた視界に薄いベールがかかる。

…見えにくさはたいして変わらなかった。

 

「はあー…うぅ…」

 

僕はもうダメだ…しぬんだぁ…。

明日からどんな顔して会えばいいんだよ…。




タキオンはなんでもつくれる(適当)

おくすりのシーンは作者の普段の思考をそのままトレースしています。

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