後漢書・呂匡伝   作:(TADA)

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三国志を書く練習代にしていた恋姫の二次が発掘されたので供養のために投稿

以下注意事項

オリ主は老将・養子は呂布・部下は程普と黄忠・基本的にオリジナル展開・原作恋姫キャラの出番少な目・『なんとシリアス』

以上が大丈夫な方はどうぞ


呂匡という男

戦場でしか生きられない人間だ。

そう呂匡を称したのは、呂匡と同じく異民族の討伐で功をあげた皇甫規と張奐であったか。呂匡はそれを聞いて当然だと返した記憶がある。呂匡の出身は幽州だった。呂匡は物心つくころには戦場にいた。軍に拾われて一兵士として使われていたのだ。呂匡は地獄のような戦場で生き残った。ひたすらに敵を殺し、仲間とともに戦う。それしか知らなかった。幽州にやってくる将軍は護国のためだと言っていたが、呂匡にとっては国などなくても構わない存在だった。何せ国は自分達に死ねと言ってくる存在だったからだ。

二十代前半の頃に上級将校となった。その頃には呂匡を鍛えてくれた兵士達は原野の土に帰り、同年代の兵士達もまた少なかった。それでもやまない異民族の侵攻に備えて現地で将校を育てるようになり、それの第一号となったのが呂匡であった。

呂匡は長くその地で戦い続けたおかげで、その地には誰よりも詳しかった。その知識で異民族を倒し続けた。馬を走らせて戦場を疾駆し、双槍を持って異民族を討ち続けた。いつしか呂匡は双槍将と呼ばれるようになった。その名は異民族にとどまらず、国の中央にまで知られるようになった。その功により三十代後半で将軍となった。縁故主義や家柄が重視される国では異例の人事だという。だが、呂匡には興味がなかった。戦場しか知らない呂匡にとっては国など知らない存在だった。ただ、戦陣で仲間と飯を食い、酒を飲み、共に戦場を駆ける。それだけが呂匡の楽しみだった。

だから中央への召喚も拒否し続けた。

中央は戦っている呂匡達に兵糧もろくに送らないロクデナシの集まりだったと思ったからだ。

だが、将軍になって戦場は次々と変わっていった。その時にたまたま戦場に一緒になったのが皇甫規と張奐だった。呂匡は中央から送られてくる将軍は弱いという印象だったが、二人は違った。

皇甫規は女性でありながら、腰の低い女性だった。中央から送られてくる将軍には女性が多いが、妙に偉ぶってばかりでろくに働かない連中ばかりだったので意外だった。皇甫規はさらには軍略が優れていた。呂匡は軍略を知らない。ただ戦いの中で育った勘で戦場を勝ち続けた男だった。だから、呂匡は自分とは違う戦い方をする皇甫規に新鮮な思いを感じた。

張奐は男だった。中央から送られてくる将軍には男が少ない。それは最初に国をたてた人物が女性であったかららしいが、呂匡は詳しく知らない。一兵士だったころに歴史に詳しい老人に教えてもらっただけである。だが、中央から送られてくる将軍が女ばかりだったからそういうものだと思っていたが、張奐は違った。張奐は武芸に優れていたが、それ以上に慌てるということをしない男だった。異民族に奇襲された時も泰然自若として慌てることなく、冷静に迎撃して呂匡の援軍まで耐えたのである。

呂匡は皇甫規、張奐、そして段熲の三人と共に戦場を駆けることが多くなった。気持ちが良かった。一緒に戦っていて気持ちがいいと思えたのはその三人だけだった。だが、三人は中央に招聘されて都に行った。呂匡も共に招聘されたが断った。中央は自分の生きる場所ではない。そう思ったからだ。その時に張奐から嫁を取り子を成せと言われた。呂匡はそれを取り合わなかった。だが、あまりにもしつこかったので、異民族討伐の時に保護した混血の少女を養子にし、名を布と名付けた。字は学問も修めていた皇甫規に頼んで奉先とした。

それから呂匡は原野を駆けながら布に武芸を教えた。自分は武芸しか知らないからだ。

それからも異民族と戦い続けていたら、呂匡の下に一人の少女が配属された。皇甫嵩。字を義真。戦友であった皇甫規の姪にあたるらしい。皇甫規からの書状を持ってやってきた。呂匡は彼女を上級将校にした。戦友からの書状があったから上級将校からだが、呂匡軍は最初は一般兵から開始である。そこで才能が認められれば上級将校となる。その時の上級将校だったのは程普と黄忠だった。二人とも若いが武芸を扱い、部隊の指揮もまた上手かった。

皇甫嵩はすぐに部隊を掌握した。皇甫規もそうだったが、兵士達から支持を受けるのが抜群に上手かった。彼女はその部隊を率いて戦うことになったが、初陣は惨敗になった。兵士を気にして指示が遅れたせいだった。その時は呂匡の救援で助かったが、兵士を多く殺した。呂匡は多くの兵士が見る中で彼女を殴った。彼女はすぐに立ち上がることができなかったが、呂匡は無理矢理立ち上がらせて再度殴った。皇甫嵩は転がったままだったので、今度は蹴り飛ばした。おまえが指揮を誤れば仲間を多く殺す。

最後にそう一言だけ告げてその場を呂匡は去った。

その夜、皇甫嵩は一人で呂匡のところにやってきた。呂匡は布に武芸を教えている最中だった。要件だったらその場で言えと告げると、彼女は自分には部隊の指揮はできないと言った。彼女は部隊一人一人と話、人柄を知り、人生を知った。そのために死ねというような真似はできないと言った。呂匡はそれに剣を投げつけた。

あれはおまえの部隊だ。それが指揮できないならおまえが死ね。

そんなことを言った覚えがある。彼女は戦友の姪であったが、自分の部下だった。だから、自分の仲間を殺した責任は自分でとれと言った。

彼女は剣を手に取ったが、その手は震えていた。

だから呂匡は再度言った。仲間と語れ、と。

皇甫嵩はしばらく黙って立っていたが、しばらくすると一礼して去っていった。

翌日、皇甫嵩は部隊の指揮を続けさせて欲しいと言ってきたから認めた。それから皇甫嵩はよく戦った。仲間を多く生き残らせる戦いを続けた。

そして異民族の大侵攻が起こった。この時に活躍したのが孫堅と馬謄という将だった。彼女達は総大将として派遣されてきた張奐付きの将だった。二人とも気持ちの良い将だった。その戦いの最中に張奐が病死した。元々病だったのを中央が無理矢理出陣させたそうである。国に翻弄されて死んだ戦友。その死を悼む暇もなく、総大将は自分にされた。それもまた国の意向だった。護国のために死ね。それが伝えられた命令だった。腹がたったのでその場でその使者を斬り殺した。そしてついてきていた怯える副使者にそいつの首をもたせ、言伝を伝えて追い返した。

俺は国のために死なん。ただ、友や仲間のために死ぬだけだ。

それが呂匡の返した中央に対する返答だった。

そして呂匡は戦場を疾駆した。両手に槍を持ち、配下についた孫堅、馬謄。上級将校から将軍クラスにあげた程普、黄忠、皇甫嵩を指揮して異民族を討ち破り、総大将の首を落とした。これによって呂匡の武名は中華に鳴り響いた。圧倒的な戦力差を覆して異民族を打ち破った名将。双槍将の名前は生きた伝説となったのである。

だが、呂匡は異民族を打ち破った後に、勅命によって捕らえられた。その戦いで異民族の脅威がなくなったことにより、今度は呂匡が恐れられたのである。勅命により呂匡は捕らえられ、都の地下深くにある牢獄に入れられた。

牢獄内は光が一切ない暗闇の世界だった。食事も三日に一度だけであり、中央の人間達は呂匡を殺そうとしていることを理解していた。

呂匡が生きながらえているのは、それに対する反抗心でしかない。中央の人間の思い通りになってたまるか。それだけを考えて老境の域に入っている肉体を耐えさせた。幸い体を動かすことは可能だったので、ひたすらに体を鍛えながら耐えた。

長い間牢獄の中で暮らし続けていると、突然牢獄から出された。呂匡は理由を知ろうとは思わなかった。どうせ異民族が暴れ出したからだと思った。

そして丁寧な馬車に乗せられて連れて行かれた先に会ったのは懐かしい顔だった。

呂匡の元で戦った皇甫嵩である。彼女は現在の国の状況を語った。頭に黄色い布を巻いた民が国に対して反乱を起こし、それの鎮圧軍が組まれることになったこと。総大将に大将軍である何進という女がついたこと。各方面の討伐軍として皇甫嵩、慮植、朱儁の三将がついたこと。そして皇甫嵩は党錮の禁により捕らえられていた人物を解放するように皇帝に陳情して認められ、それが呂匡の解放に繋がったことを伝えた。

呂匡にはどうでもよかった。長い間牢獄で暮らしていて理解したのだ。戦友である皇甫規や張奐の言う通りだった。自分には戦場しかない。戦場で生きて戦場で死ぬ。それしかないと思い定めた。

皇甫嵩の話を切り上げると、呂匡は両手に槍を構えて振るい始めた。多少の衰えは感じるが戦える。まだ、戦うことができる。呂匡は体が熱くなるのを感じた。戦場を。ただ戦場を。

翌日、呂匡は皇甫嵩に連れられて反乱の討伐軍の総大将である何進在席で行われる軍議に連れていかれた。何進に何者か誰何されたので名前だけ告げると、出席していた諸将が息を飲むのを感じる。呂匡は軍議に出ている諸将の顔を見渡す。知らない顔ばかりだ。当然だろう。自分はずっと辺境で戦い続けた戦人であり、中央に連れてこられたのは牢獄に放り込まれるためだ。

呂匡は何進の隣に座らされた。女の権威付けのためだろう。興味がない。その場で皇甫嵩と朱儁が潁川方面、慮植とかいう女の将が冀州方面を担当することになった。そこで呂匡は荊州の賊を討てと命令された。皇甫嵩は呂匡は牢獄から出されたばかりなので、まずは体を休ませるべきと主張したが、何進はそれを一蹴した。慮植もまた皇甫嵩の意見に賛成したが、それでも何進の意見は変わることはなかった。

曰く、帝の温情に答えて敵を討てと。

呂匡は思わず笑ってしまった。何進はそれに怒る。何が可笑しいと。呂匡はハッキリと言い返した。

戦友である張奐は帝の命令で命を縮めた。俺は帝の命令で牢獄に放り込まれた。帝に対しては恨みしかない。

呂匡のはっきりとした言葉に軍議の会場は戦慄する。それは長い間戦場で生き続けた男の覇気に飲まれたと言っても構わない。何進は甲高い声をあげて衛兵を呼び、呂匡を殺そうとするが、呂匡は衛兵の武器を奪うと逆に殺戮した。その場にいる黄巾の乱討伐のために集められた諸将は動けない。それは老年にさしかかった男とは思えない武芸を見せられたからであり、男の殺気に萎縮したからだ。

呂匡は興味を失って、奪い取った剣を投げ捨てると軍議会場から出て行く。金髪の少女にどこに行くのかと聞かれ、呂匡は答えた。

荊州が俺の戦場と言うのならそこに行く。戦場が俺の居場所だ。

それだけ言って呂匡は去った。軍議に圧倒的な存在感を残したまま。

 

 

 

 

 

数日後、呂匡は荊州に向けて出立する。呂匡が率いるのは昔いた呂匡軍ではない。呂匡軍は解散させられていたのである。呂匡が牢獄に放り込まれていたのは五年もの間だったらしい。そのために呂匡軍の残党がどうなったかもわからない。

呂匡はふと養子のことを思い出した。異民族の血が混ざっていることを証明するような褐色の肌に入れられた刺青。赤い髪に跳ねたように飛び出ていた綸子。あの少女は幼ないながらもかなりの武芸を持っていた。おそらくはどこかの軍に所属しているだろう。あるいは自分の娘という理由で迫害されて賊にでもなったか。

そう考えていると、呂匡が率いる軍に近づいてくる一団があった。総数は五千ほど。呂匡は率いる兵士三千に陣形を組ませて相手の出方を待つ。正体不明の軍はある程度まで近づくと停止し、一本の旗を立てた。

深紅の布に呂の一文字

呂匡が戦場で使い続けた旗であった。そして一人の少女が汗血馬に乗って呂匡の軍に近づいてくる。呂匡もまた単騎で少女の前に立った。

 「……久しぶり、お父さん」

 「布か」

少女は呂匡の養子である布であった。

 「お父さんの率いていた直轄の五千を連れてきた。これで戦いに行ける」

 「そうだな、だが布よ。何故俺が牢獄から出されたのを知った」

お互いに馬から降りて近づくと、布は甘えるように呂匡にじゃれついた。

 「ん、皇甫義真から連絡があった。お父さんがまた戦場に出るって。だから隠れ住んでいたところから出てきた」

布の簡単な説明。どうやら皇甫嵩が手を回していたらしい。数が少ないなら少ないなりの戦いをするだけだが、昔から率いていた直轄の五千がいるなら話は別だ。どうにかなる。

それから軍を再編成し、呂匡は布が連れてきた直轄五千を率いて戦うことにした。

荊州に入ると黄巾軍一万と出会ったが、呂匡はこれを鎧袖一触に粉砕した。たかだが、民を集めただけの兵士とも呼べない代物である。撃滅するのに時間がかからなかった。

一日の休憩を入れていると、再度呂匡軍に加わりたいと言ってくる一団があった。呂匡がそれを率いてきた人物に会うと、その人物もまた見覚えのある人物だった。青い長髪を靡かせた妙齢の女性、黄忠であった。

 「お久しぶりです、呂将軍。此度は呂将軍が遠征に出られると聞き、共に戦場に出ることをお許しいただきたいと思い参上しました」

 「構わない。俺の指揮に慣れている将が入ってくれるなら戦いやすくなる」

呂匡の言葉に黄忠は嬉しそうに笑った。黄忠にとって呂匡は自分を見出してくれた恩人であり、初恋の相手でもある。黄忠は呂匡が荊州に向かってくることを知り、客将をしていた韓玄の元を去り、配下千と共に呂匡軍に来たのだ。

そして黄忠と同時にもう一人部隊を引き連れて呂匡軍に参加してきた。

黄忠と共に呂匡に見出された程普である。

程普は呂匡の投獄後、孫堅の推挙に応じて孫堅軍に加わっていた。だが、程普もまた呂匡に特別な思いを抱いていた。呂匡に見出されて上級将校となって戦ったことはもちろんだが、呂匡が長い間幽州を守り続けていた実績である。程普は幽州の出身である。幼ないころから異民族の侵攻にさらされ続けてきた。だが、それを守り続けてきてくれたのが呂匡だった。程普は呂匡軍が兵士を募集しているのを知ると、周囲の反対に押し切って呂匡軍の兵士となった。それから呂匡軍の一員として戦い続けた。自分は幽州の平穏を守る将軍の部隊の一員として戦っていることに誇りを感じていた。そしてその働きが認められて上級将校となった時など、感激のあまり泣きそうになったものである。それから程普は呂匡の信頼に応えるように戦い続けた。異民族の大侵攻では呂匡と共に膨大な数がいる敵本陣に斬り込んだのである。そして、呂匡が総大将を討ったことを知ると、敗走を始める異民族を追撃して散々に打ち破った。だが、程普を絶望に叩きおとしたのが呂匡の投獄である。程普は怒り狂った。中央で何もせずに安穏と暮らしている連中が、自分の故郷である幽州の守護神を理由もなく投獄したのだ。すぐさま程普は救出するために軍を編成しようとしたが、ここで黄忠と意見が割れた。黄忠は下手に動けば呂匡が殺される危険性を説き、程普は放っておいたらすぐにでも呂匡が殺されると言った。

そこで動いたのが皇甫嵩だった。皇甫嵩は伯母の皇甫規に頼んで呂匡の助命嘆願をしたのだ。それだけでなく、宦官の重職を歴任し、呂匡のことを高く評価していた曹謄に接触して、帝自身に助命嘆願したのだ。涼州三明と言われた皇甫規と、三代に渡って皇帝に仕えた曹謄の言葉は入れられ命だけは助けられた。

程普は一応にその沙汰に納得したものの、中央に抱えられるのは拒否し、戦場を共にした孫堅についていったのである。孫堅にも重用された程普だったが、心にはやはり呂匡がいた。だから、呂匡が荊州黄巾軍の討伐軍に任命されると知ると、孫堅や黄蓋、張昭等の制止を聞かずに当時からの部下を連れて呂匡の元にやってきた。

 「お久しぶりです、呂匡様。程徳謀、呂匡様をお守りできなかった不忠を返すため、再び呂匡様の元で戦わせていただきたい」

程普は覚悟を決めていた。すべては呂匡のために戦おう。呂匡が死ねと言えば死のう。そこにあるのは絶対的な忠誠心だった。

 「程普、おまえもまた物好きだな。こんな老人のところにやってくるとは。だが、来てもらったからには働いてもらう。楽をできると思うな」

 「呂匡様の戦場が楽だった覚えがありません」

程普のまじめくさった言葉に呂匡は笑い飛ばした。相手より数が少ないのは当たり前。届かぬ兵糧を恨んで、敵から奪った戦場では使えない馬を潰して食らったこともある。苦しかったが、同時に楽しくもあった。気心を知れた仲間達。呂匡の人徳のおかげが、呂匡軍が家族のような温かみがあった。家族のために戦って、家族のために死ぬ。それは程普と黄忠には居心地のいい場所だった。

呂匡は黄忠と程普の参戦を受けて、軍をさらに再編成した。二人に中央からつけられた軍勢の指揮を任せたのだ。

程普と黄忠もそれに応えた。元々二人とも呂匡に見出された将である。長い間戦場を駆け抜けている呂匡には、戦人の見抜く力がある。今回も二人は呂匡の期待に応えた。見事に三日ほどで呂匡軍として戦えるほどにまで鍛え上げたのだ。

そこからは速かった。太守を殺して『神上使』と称していた張曼成を斬り、新たに指導者として立った趙弘も布に奇襲させて戦死させ、さらには新たに指導者となった韓忠を呂匡軍本隊が叩き潰して、荊州黄巾軍は呂匡が参戦してから僅か二ヶ月で消滅した。

呂匡はとりあえず新たな指示が出るまで宛近郊に駐屯した。黄忠は呂匡に宛に入るように進言したが、呂匡は城が苦手だと言って拒否した。

しばしの間は平穏な空気が流れたが、一通の文書が呂匡軍に届けられた。差出人は曹操。呂匡は気づかなかったが、軍議の席で呂匡に行き先を訪ねた少女であった。

呂匡は天幕を嫌う。風を感じ、大地を感じ、自然と共に生きる。それが幽州で生まれ戦い続けた呂匡の考えだった。そのために呂匡軍には天幕がほとんど存在しない。物資をためておくための天幕があるだけである。そんな理由で呂匡軍の軍議は大抵焚き火を囲みながら野外でおこなう。呂匡の養子である布や、黄忠、程普は慣れているが、新たに呂匡につけられた軍師である荀攸は未だに慣れない。だが、荀攸は呂匡軍の精強さは認めていた。圧倒的な強さを持って敵を粉砕していく。なるほど、『双槍無敵』とはよく言ったものだ。

呂匡は曹操から届けられた書状を荀攸に投げる。呂匡の娘である布は父に似て武勇は凄まじいが、謀略には無頓着だ。父を守れればそれでいいと考えている。程普と黄忠は呂匡の指示に従うことを第一に考えており、呂匡に意見をすることはないだろう。だから呂匡は荀攸に書状を投げて意見を求めたのだ。

荀攸は書状に目を通す。

『冀州に残存戦力を結集させた黄巾賊と、決戦を行う。諸群の太守は兵を率いて諸州の刺史の下に集まり馳せ参じよ。義勇兵、正規兵問わずに国を憂いる者達の加勢に期待するところ大である』

文章にはそう記されていた。おそらくは皇甫嵩と慮植が上手く冀州に黄巾賊を集めたのだろう。そこで最終決戦を行おうとしている。そこに戦力を理由をつけて出し惜しみをしている連中も引っ張り出そうとしているのだろう。

 「荀公達。おまえはどう思う」

 「おそらくは曹孟徳殿は諸侯がどのような人物か知りたいのでしょう。だから、黄巾賊の討伐に理由をつけて諸侯を呼び寄せようとしている」

 「不愉快ですね」

荀攸の言葉に吐き捨てるように言ったのは程普だった。程普は敬愛する呂匡が小娘に品定めされるのが気に食わないのだ。

 「ですが、断るわけにもいかないのではないしょうか? これは正式な朝廷からの文書でもありますし」

間を取り持つように黄忠が言う。布は会話に入ることはなく、ただ焚き火を見ている。

呂匡は一本の小枝を折って焚き火に放り込むと呟いた。

 「冀州に戦場があるならば、そこに向かう。それが呂匡軍だ」

呂匡の言葉に程普と黄忠は拝手し、布は無言で頷き、荀攸は頭が痛そうに頭を押さえた。




主人公は曹操とかより上の世代の人間



ちなみに続く予定はありません

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