失恋直後のトレーナーに追い込みをかけるウマ娘概念   作:金木桂

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セイウンスカイ

 私が今のトレーナーさんと出会ったのは1年生の冬のことでした。

 

 その時、私は2人目のトレーナーと契約を解消したばかりで。

 方向性の違い。

 それはこれまで契約したトレーナーと私との間で常に横たわっていました。

 

 努力が嫌いだ。

 セイちゃんは今時のウマ娘なので泥臭い根性論も、カビが生えたような精神論も好きじゃないのです。

 

 私には私の考えがあって、その通りにやりたい。

 でも二人とも私がトレーニングの指示に従わないと知ると、最後には自分では貴方を勝利させてあげることができないと言って、契約を解消するように薦められました。私もそのまま川のように流れて書類にサインをして、それで結局また振り出しに戻る。あれれーこんなはずじゃ。冗談無しにそう思ったのが今でも忘れられません。

 

 私はG1勝利ウマ娘の子供じゃないし、天才ではないことも自覚してます。中央のトレセンに来れたとは言え、セイちゃんの才能は至って平凡なのですこれが。

 

 でもG1を勝つには血筋が優等生なウマ娘だったり、ちょっとの練習で他のウマ娘をごぼう抜きしちゃうような天才とも真っ向から張り合わなきゃならない。

 セイちゃんも大変ですねーこれは難しそうだー。

 そう他人事にしたくなっちゃうほどG1は難しいです。

 

 だから私はトレセン学園に入学した時に、普通に勝つことは諦めた。

 

 数いる同級生にはセイちゃんより優れたウマ娘が沢山いて、素質の上を見ればキリがない。ましてやレースでは更に脚の速い上級生とも戦わなきゃならないって流石に厳しい。

 よって優等生たちや天才たちと同じトレーニングをして勝てる───そんな自惚れはすぐに無くなりまして。

 

 じゃあどうしようかと考えていって、自然と今の策を弄する手法にシフトしていったのです。

 

 人より多くトレーニングをすれば速くなれる。そんなのは思い込みで、根拠は無い上に故障のリスクを上げるだけ。それなら幾ら使っても壊れることはない頭を使ったほうが賢いとセイちゃんは閃きました。

 

 でも不運なことにこれまでのトレーナーさんに理解されることはなかったのです。何故でしょうね。とか言いつつ私でも分かるんですけどねー。

 

 レースというのはスポーツだから、その中で策を弄するのに引け目を感じたのだとセイちゃんは推測しました。私と契約した二人のトレーナーさんはどちらも中年でして、どちらかと言うと頭がカチンコチンな感じでしたので。あと普通にトレーニングをサボったのは不味かったんでしょう。あちゃー、失敗でしたね。

 

 そこで次のトレーナーさんはもっと柔軟性がありそうな人にしようと思い至りました。丁度その頃、新人トレーナーさんが赴任するという話も学園内で聞いていましたからターゲットに困ることはありませんでした。セイちゃんの情報網をナメないでもらいたい。

 

 しかし問題はありました。何せ私は既にトレーナーさんを二度もチェンジさせてしまったウマ娘。マトモなトレーナーさんじゃ契約を結ぼうとは思わないはずです。実績があれば違うのかもしれませんが、生憎とメイクデビューすら未定の凡才ウマ娘を引き取ってくれる奇特なトレーナーさんはいないのです。

 そこでまずは作戦を練るためにも新人トレーナーさんを観察することに。

 さりげなく彼のことを観ていれば、すぐに彼が女性慣れしていないことが分かっちゃったのです。いえ、どちらかというと女の子がたくさんいる状況に困惑しているってところかな? ふふふ、セイちゃんアイは何でも見通す透視力!

 

 更に続行すれば、困ったウマ娘にも手を差し伸べる心優しいお兄さんという新事実も判明。プリントを床にばら撒いてしまったウマ娘を手伝ったり、急いでいて転んだウマ娘を心底心配そうに手当てしたり。なるほどー。セイちゃんのトレーナーさんとして不足はありません。花丸をあげちゃいましょう。

 

 私はその後、すぐに作戦に移りまして。さりげなく「新人トレーナーさんはセイちゃんに興味津々らしいですよ〜」と伝聞系の噂を流しただけ。それだけでも効果覿面でした。元来女の子は噂が好きなもので、新人トレーナーさんはセイちゃんからして顔立ちが整っている方だったからみんなの話題の種としては優秀だったのです。すぐに噂話が水面下でお魚さんみたいに泳いで尾鰭まで付いちゃいました。

 

 噂の出所が明らかになる心配はしていませんでした。セイちゃんは少し狡いのです。

 優しいトレーナーさんはきっと、嘘を明らかにすることはないと私は尾行の末で確信していました。あるとしたらセイちゃんをスカウトするか、黙って別の子をスカウトするかの二択。その二択に勝利したのが今の私と言うことになるんですね。きっとその時は面白いウマ娘だから構ってやろう、とかそんなつもりでセイちゃんをスカウトしたんじゃないですか。どうなんですかトレーナーさん?

 

 気を取り直して行きましょー。

 セイちゃんの新たなトレーナーさんは優男みたいな雰囲気に反して意外と理屈っぽい感じでした。まー実際に話したわけじゃないですし多少のイメージの齟齬くらいは覚悟はしてましたけど。でも物腰は丁寧で、好印象を持ちました。

 

 ただ、頑固なところがあるんですよねー。セイちゃんが敬語とか敬称とかいらないですよと言ってもトレーナーさんは敬語をやめないし、名前はフルネームに加えてさん呼び。これどうかと思うんですよセイちゃん的に。これで一人称が「私」だったら硬すぎてコミュニケーションをお手上げするところだったんですよ? ふー危ない危ない。

 

 その時はこのトレーナーさんも硬そうですしこれはダメかなーと思ったりもしたんですが、実際にやってみると意外と相性で言えば抜群でした。

 トレーナーさんは私が自由に動く方がやりやすいと知るや否や、普段のトレーニングや作戦については本人に任せると言ってきたんですよ。ちょっとトレーナー契約を何だと思ってるんですかトレーナーさんってばー……なんて普通は思うのかもしれませんけど、私にとっては冗談で、それは私が最も求めていたものでした。

 

 最初はラッキーくらいにしか考えてませんでしたよ。一応トレーニングをするならこのメニューでやってくれという紙束は渡されましたが、それ以外は自由。いつ、どのくらいトレーニングするかはセイちゃんの気分次第!

 

 途中までそういう適当なトレーナーさんなんだなぁって軽く考えてて、次の年にスカーレットちゃんが来てセイちゃんびっくり! トレーナーさんが普通にスカーレットちゃんの面倒を見ていました!

 

 そこで嫌でも普通の子との違いを自覚させられて、悲しくなって、ふと思いました。

 スカーレットちゃんと私の違い。考えられるのはやっぱりあれが原因でしょう。トレーナーさんと契約を結ぶために謀略を働いたことです。仕方がない手段だったとはいえ、それがこうも裏目に出るなんて。狡い行為をしたセイちゃんをトレーナーさんは内心で許していなかったのです。

 

 結局、トレーナーさんはセイちゃんのことなんて嫌いで、どうでも良かったから放置していたんですねーあっはは。

 そう自分自身を誤魔化そうといつものように茶化した口調で考えてみても、こびりついた悲しみは落ちませんでした。おかしいですね……意外と私はトレーナーさんのことを買っていたのかもしれません。実際には強盗みたいに攫って大逃げして結んだトレーナー契約ですけども。

 

 なので、悲しみのあまりにトレーナールームで仕事をするトレーナーさんの前で銅像みたいに黙って見つめていた時期があります。我ながらめんどくさいことしてますね、私。これでも当時は本気だったんですよ?

 

 そこでまあいろいろありまして。最終的には鬱屈と考えていたことをトレーナーさんにぶち撒けることになりました。なぜか終わったなぁと思いながらやったのを覚えてます。別に新しいトレーナーを探せばまたトゥインクル・シリーズを走れるのに、世界の終わりの中心で一人立っている気分でした。当時からそれだけセイちゃんはトレーナーさんを買っていたのです。

 

 俯いて低くなった私の頭を撫でながら、トレーナーさんは自分の考えを話してくれました。

 トレーナーさんは私を知ったきっかけは確かに謀略であると言いました。一方で、保身のためにスカウトしたわけじゃないというも言いました。

 

「セイウンスカイさん。僕がスカウトしたのはその謀略を通じて、貴方に空を見たからです。トレーナーと契約するために作戦を立てて実行、物事を思うがまま進行させて自分の望んだ結果を掴み取る。それがどれだけ難しいことか僕には分かります。これまで自由にやらせているのも貴方のその賢さと、レースで見た勝利への気迫があったからです。貴方なら自由を使いこなせる、そう僕が信頼したから子細を任せているんです。セイウンスカイさんをお払い箱にしているなんてとんでもない、全く逆です。僕はウマ娘の中で唯一、セイウンスカイさんを信じています。青写真を引ける頭とそれを実行出来る足に惚れていると言っても良いですよ。青空に浮かぶ浮雲のように、貴方らしく自由に勝負してください。僕はずっとその横で支えますから」

 

 弱ったところに、こんなことを言われちゃさしものセイちゃんも白旗を上げざるを得ないわけですよー。泣いてる私にハンカチを差し出して背中を撫でるとか天然ジゴロですか、トレーナーさんめ。セイちゃんの知らないところで女性慣れしやがりましたね。

 

 こうしてすっかり身も心もトレーナーさんに奪われてしまって、セイちゃんはトレーナーさんに惹かれるのは自然の流れだったのでしょう。めでたしめでたし。ってこれじゃ終われないですから!

 

 その後、さり気なくトレーナーさんとの接触機会を増やしながら情報を探ることにしました。トレーナーさんはプライベートと仕事はくっきりと区別をつける人でしたので苦労はしましたが、弛まぬ努力の甲斐あって重大な情報を聞き出すことに成功したのです!

 

 そう、トレーナーさんにはなんともう既に好きな人がいて告白する意思を持っているということ!

 うっそ。私もう負けヒロインですか。そうなんですか。戦う前に負けるのは初めての経験ですけど。おろろん。私は泣きながら白旗を振った。

 

 ───なんて、すぐ諦めるのは少しセイちゃんらしくないかなーって。

 

 トレーナーさんにも貴方は貴方らしく、とかそんなことを言われちゃったからセイちゃんらしくやるしかないじゃん。私は結構執着心が強いんです。今更後悔しても遅いですからね?

 

 今の状況は正直詰みに近いです。何故ならターゲットのトレーナーさんの心が見知らぬ誰かさんに向きっぱなしで、他に分散することはないからですね。恋は盲目とか、正直トレーナーさんに合わないんだけどなぁ。

 そう、私ができることなんて待つことだけ。今はただ、じっと待つ。徳川家康みたいに、今は心に大きくて重い蓋をして機会を待つのだ。

 

 そして、もしトレーナーさんが恋に敗れて傷心気味になったら……その時はサクッと救っちゃいますか。

 

 作戦としては雑も雑。運頼りなのが少しやるせないけど、一年待った甲斐あって天はセイちゃんに微笑んだかもしれません。

 今日は朝、トレーナーさんと偶然出会って登校する予定の日でした。トレーナーさんが家を出る時間はいつも同じだから毎日トレーナーさんと通学してもいいんですけど、そうするとトレーナーさんがセイちゃんのありがたみを忘れそうなので週に2回程度にしてます。

 

 で、話の流れで私が契約を解消したら困るんですか〜と普段どおり冗談半分で聞いたらトレーナーさんがなんと柄にも無くタメ口で言ったのですよ。「困るな」と。

 セイちゃん的にはもう、何かあったんだな〜と思わざるを得ないわけです。絶対に敬語を崩さなかったトレーナーさんがタメ口で、しかも見せたのは弱音。すぐに謝って誤魔化していましたけど、その時の笑顔もどこか硬かったです。2年以上トレーナーさんと一緒にいる私だけがわかる事実。これはトレーナーさんのセイちゃん相手だから見せた弱音……なんて考えるのは流石に都合良すぎですかね?

 

 恐らく悩みの種は人間関係でしょう。大人の悩みは大抵「仕事」「お金」「人間関係」で説明できるとお父さんは言っていました。トレーナーさんと三日前に話した時はそんなことありませんでしたし、むしろスカーレットちゃんが遂にG1レースに出走することになって気合が入っている感じでした。お仕事は大変そうですけど、充実してるように見えましたね。お金に関しては、お給料のことはよく知らないですがトレーナーさんから何度も食事をご馳走になっているのでこれも当てはまりません。そして残ったのは人間関係。セイちゃん、レースを引退したら探偵になれるかも。名探偵になったらトレーナーさんを養ってあげるのもいいかもしれません。

 

 ただ困ったことに、人間関係がトレーナーさんの悩みと判明してもそれ以上は分からないんですよねー。公私の分別を強く意識しているトレーナーさんに直接聞いてもはぐらかされるでしょう。私は一度聞いちゃってるので、もう一度聞いたら警戒されちゃうかもだし。失敗したな〜あれは。

 

 私的にはトレーナーさんが好きな相手に玉砕してくれていると助かるかも〜なんて酷いことを考えちゃうわけですが、その仮定を前提に動くのはリスクが大きすぎますね。

 

 でもセイちゃんにも秘策があります。自分で動けないなら鉄砲に弾を装填すれば良いのですよ。

 

「メール文はこんな感じでいいかな……」

 

 教室でメールを送信すると、私はスマホをポケットに仕舞う。相手はあの優等生で可愛い後輩。

 正直言ってしまうと、あの子のことはあんまり好きじゃないです。セイちゃんと違って努力も根性論も好きで、何より初めて走っているところを見た瞬間から天才肌気質がピカピカと光っていた。

 好きじゃないからと言って何かを言ったりはしないし、あの子は私を慕ってくれているので無碍にもできません。それに悪いのはセイちゃんなのです。あの子に私はちょっぴり、小さじ一杯分くらいの劣等感を覚えているからこそあの子に反発心を覚えてしまうのです。

 

 素直なあの子はトレーナーさんの様子がおかしいと連絡されれば現場へ駆けつけるはずです。ましてや滅多に連絡をしない私からのメールなら、緊急事態と認識してもおかしくはないかもしれない。そこでトレーナーさんから情報を聞き出せるなら良し、聞き出せないにしても損はありません。事によってはスカーレットちゃんにも協力を仰ぐかもしれないから問題は無いでしょう。利用するような形になりますけど、まあそれは今度アイスでも買ってあげて労ってあげます。良い先輩だなー私。

 

 さて、トレーナーさん。

 あなたは知らないでしょうけど、セイちゃんは一年前のあの日からずっと釣竿の糸を垂らし続けてきたんですよ。トレーナーさんは大物なので、針にかかるのを待つのはとてもとても大変でした。

 でもここから先は、リールを巻き上げさせてもらいますね?

 

 出遅れてしまいましたけど、セイウンスカイは謀略のおかげでトレーナーさんと出会えたんですから、捕まえる時ももちろん謀略で。捕まえたらソッコー大逃げします。

 近い将来、チャペルでセイちゃんの横に立つ覚悟をしててくださいよ〜?

 

 

 





賢さSSスカイ(所感)

セイウンスカイの独白ってこれで良いですか

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