西暦一九四五年、夏。

時は太平洋戦争末期。

歴史の影に埋もれし幻の聖杯戦争、七騎の救国英霊と八一号聖杯爆弾をめぐる激闘の裏側。

此は、紡がれることのなかった浅葱と琥珀の物語。









※この小説は、「Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚」に「帝都聖杯奇譚 Fate/Type Redline」「月姫」を加えて再構成した琥珀×沖田総司の琥珀ルート………の導入だけを出力した短編になります。そのため、プロローグ部分だけです。その点はあしからずご了承下さい。

1 / 1
月下絶刀

「鉄砲隊、構えい」

 

 黒い軍服姿の少女は、高らかに号令を告げる。

 

 整然と並ぶ、二十の銃口。

 

 見た目こそ時代遅れの火縄なれど、その一門一門が神秘を纏った特級の殺傷兵器。例え現代の戦車であってもまともに受ければ只では済むまい。

 

「放て」

 

 無慈悲な命令。

 

 その声とともに、二十の光線が浅葱を纏った少女に向けて殺到する。

 

ドンッッッ!! 

 

 彼女達が居た客車の窓や屋根は一撃で吹き飛び、後には崩れた車体と座席だった木片の瓦礫のみが雑然と転がる。

 

「コフッ…………マスター、ここは危険です。頭を下げて!」

 

「ですが、貴女も大怪我をしていらっしゃるではありませんか!」

 

 客車が崩壊する寸前に、一両後ろの車両に転がり込んだ浅葱色の羽織を纏った少女が、黒い着物の少女に向けて忠告する。

 赤い髪を青いリボンで纏めた黒い着物の少女は、血塗れになった浅葱の少女の身を案じて駆け寄る。だが、浅葱の彼女は”必要ない”と言外に告げるように、赤髪の少女を片手で制した。

 

「…………私は平気です。霊体なので、魔力さえあれば傷はじきに治りますから」

 

 案ずるなかれと告げる浅葱の彼女。

 人の形をしながら人に非ず。英霊(サーヴァント)という影法師に過ぎない彼女は、容赦なく赤髪の言葉を一蹴した。

 

「それよりも貴女、何か打つ手は無いの!」

 

「一つ手はありますが……結構な博打になります」

 

 着物の少女の傍らで、もう一人の長い黒髪を靡かせた少女が浅葱の少女に向かって吼える。

 今この場で、無数の火縄を構えた存在に対抗できるのが浅葱の少女だけである以上、彼女の反応は当然のものだ。

 ただし、浅葱の少女の獲物は日本刀が一振りのみ。火縄の火線に刀一つで飛び込むのだから無謀もいいところなのだが、彼女は一つだけ策があるのだと啖呵を切った。

 

「いいからやりなさい! このままじゃ列車ごとやられるわよ!!」

 

「失礼ですが、あなたは私のマスターではありません。私は私のマスターに従うのみです」

 

 だが、浅葱の少女は切り捨てるかのように黒髪の少女の命令を一蹴した。

 

 ”貴女の命令は聞かない”

 

 そう断言した彼女は、赤髪の少女の琥珀色の瞳を直視する。

 

「っ、琥珀!」

 

 その一言で察した黒髪の少女は、赤髪の少女に向かって命じるようにその名前を呼ぶ。

 琥珀と呼ばれた赤髪の少女はこくり、と小さく頷くと、真っ直ぐに浅葱色の少女を視界に収めた。

 懇願するかのように細く、かつ凛とした声色で、赤髪の少女は縋るように言葉を発した。

 

「……剣士さん。どうか、お願いします」

 

 果たして願いは届いたか、浅葱色の少女は初めて微笑みを見せて───

 

「はい、マスター」

 

 紡がれた、明瞭な月にも似た誓いの言葉。

 

 その一言だけを言い残し、浅葱色の羽織を翻した彼女は崩れた一両先の客車へと消えていった。

 

 

 * * *

 

 

「ほう、観念したか。まあ火縄に刀では勝ち目は明白よの」

 

 再び眼前に立った浅葱色の少女を前に、軍服の少女は余裕綽々と挑発する。だが、無間にも似た虚無の瞳を向けながら刀を水平に構える彼女を前に、その眼からは油断の一文字は一瞬で消え去る。

 

「…………なんじゃ。まだやる気か。貴様も武田の倅と同じアホウてか」

 

 再び構えられる、何段もの無数の火縄。一秒先には、倍の火線が浅葱色の少女の下まで殺到するだろう。

 

「では死ね、名も知らぬセイバーよ」

 

タンッ。

 

 ─── 一歩音越え。

 

 直後、軍服の少女の視界から浅葱色が消え去った。

 刹那に響く、乾いた小さな足音は、まるで浅葱の残り滓のようで。

 

 ─── 二歩無間…………

 

フッ…………

 

 夜風を切る細い音は、まるで燕のようでいて。

 

 ─── 三歩絶刀! 

 

パッ!!! 

 

 直後、眼前に顕れるは(しろがね)の鋒と、虚無を映した修羅の眼光。

 

 ……(はや)い!? いや……これは……!! 

 

 空間跳躍。

 

 その四文字に思い至った軍服の少女の右肩には、深々と月光の如く白い鋒が刺さっていた。

 

 ダダタン、ダダン…………

 

 淡々と響く列車の車輪。

 

 数秒とも数分とも取れる残心を経て、漸く軍服の少女が再起動する。

 

「…………なるほど。侮ったのはわしの方か。間合いがのうなっては、火縄の利も失せるわのう…………」

 

 淡々と、敗因を分析する軍服の少女。その左手は深々と突き刺さった刃に添えられ───

 

バッ!!! 

 

 舞う鮮血の朱。

 

 客車の床に佇みながら射抜くような眼光で見据える浅葱をよそに、刃を強引に抜き取った軍服の少女は夜空に跳んだ。

 

「フン、今日のところは退くとしよう。まったく……例の英霊兵とやらを見物に来て酷い目におうたわ」

 

「逃げるのですか、アーチャー」

 

 撤退の構えを見せる軍服の少女に向けて、刃のような鋭い剣幕を帯びた声色で問う浅葱。しかし───

 

「ぬかせ。貴様は儂自ら首を刎ねる故。楽しみにしておれ」

 

 軍服の少女は一言。そう宣言するや否や、虚空へとその身を沈めて消失した。

 

「終わったのかしら…………」

 

「そうみたいですね」

 

 喧騒が止んだためか、一両後ろの客車に身を潜めていた二人がのそりのそりと周囲を警戒しながら身を乗り出す。

 それを見た浅葱の少女は、先までの剣幕とは打って変わり、舞うような足取りで赤髪の少女の前に着地した。

 

「申し遅れました。あなたが私の(マスター)ですか」

 

 ───白い髪、白い肌、白い着物。

 

 華奢なその身に浅葱色の羽織を纏い、月光を湛えた細身の刃を振るった彼女。

 

 白を血に染め凛と佇むその姿は───

 

 

 

 

 

 さながら、雪椿のようであった。

 




 月姫Rをプレイして沖コハの幻覚を見すぎた結果、我慢しきれなくなり導入部分だけ短編という形での投稿です。基本的な流れはコハ帝都に準じていますが、赤線を踏まえた描写も交えて再構成しています。

 ちなみに沖コハ魔力供給シーンは別にR-18として既に投稿していますのでこちらも併せてどうぞ。

https://syosetu.org/novel/269457/

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。