アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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十三 『拳の傷』

 

 どうしても確かめたくなった。

 車を運転していた奴の顔を。

 シンの住んでいるところから近かったはずだ。同じような団地。なんかの時に話を聞いたことがある。詳しい場所はわからなかったけど、この辺だという建物をうろついてみると、難なく見つかった。昼間なのに、玄関ドアが少し開いていて、騒がしい部屋があった。のぞいてみると、荒れた部屋があった。

「すいません。」

 しばらくすると、つるんでいた連中の一人が出てきた。腕のタトゥーも見えて、顔は赤かった。酒を飲んでる。

「あれ、リョウジ。」

「よう。」

「何しに来た?」

「ちょっと聞きたいことがあって。」

「ふ~ん」

 そういって部屋の奥に入っていった。入っていいってことだろうか。

 部屋の中に入ると、むっとする部屋内にタバコの煙、酒の匂いが充満していて、つるんだことのある女の子がソファで寝ていた。

「で、なに?」

 タケがそう言ってきた。

 いつも以上にイライラしてそうだった。

「君が運転してたんだよな?」

「あぁそう。派手に事故った。」

 なに普通に話してんだよ。

「リーナが車外に吹っ飛ばされた。」

「そうだよ。」

「なんで助けなかったんだ?」

「助けようとしたんだよ。でも動かなくて、人が集まってきたんだ。」

 だからなんだよ。関係ないだろ。

「酒飲んでたし捕まるところだった。走って逃げたんだよ。リーナは動かなかったけど、誰かが通報しだしてたから、すぐ病院に運ばれると思ったんだ。実際そうだったろ?」

 だれかが?お前じゃないのか?

「それで、気に入らねぇってんで、うちきたのか?」

「・・・話を聞こうと思ったんだ。」

「だから気に入らねぇってんだろ?」

 酔っぱらってる。

 緊張感があった。

「死んでたかもしれないだろ。」

「だから生きてたじゃねぇか。うるせぇな。あいつはご令嬢なんだから、すぐそれが分かって、貧乏人よりも立派な治療が受けられるのはわかってたからな。」

「捕まりたくないから逃げただけだろ。見捨てて。」

「うるせぇんだよ。リーナ目当てで偉そうに。」

 だったらなんだよ。

 段々と自分の中の声が大きくなってきた。

「恥ずかしくねぇのか」

「うるせぇって、の!」

 そういって、タケが僕の髪の毛をつかんだ。

「お前ホントむかつくな。最初から。シンちゃんもなんでこいつの肩もつのかな。」

 自分の中で押さえられないものが湧き上がるのを感じた。

 酔っ払い相手なのに。早く帰るべきだった。来るべきじゃなった。

「タヌキみたいに死ねばいいのに」

 途中から、部屋の中が赤くなった気がした。それからのことが、後になってもあまり思い出せない。

 

「すいません、でした。」

 気が付いた時には、目の前の奴が顔から血を出して、手のひらをこちらに向けていた。

 僕が胸倉をつかんでいて、僕の右手に血がついていることに、何か関係があるようだった。

 壁際に他の子がおびえて立っていることも、僕が原因だった。

 心臓がドラムのキックを鳴らし続けているみたいだった。実際に足を床に踏み続けているのかと思った。ただ足が震えていただけだった。

 右手に感覚が戻ってきて、自分の呼吸の音がやっと聞こえてくると、僕は胸倉をつかんでいる手を放して、口元の汗を拭いた。血の、鉄のようなにおいがした。左手にも血がついていた。

 自分が引き起こした部屋の惨状が、突然おそろしくなって、黙って部屋を出た。

 バイクに乗って、村に戻った。 

誰かが僕に車をぶつけてくれないかと思ったけど、その時だけ車にほとんど行きあわなかった。

 

 

 僕一人に大人のみなさんが、鈴原先生の診療所に集まっていた。鈴原先生も、ヒカリさんも、相田先生も、アスカさんも。

 僕のこぶしのケガを見て、心配になったみたいだった。あるいは、アスカさんみたいに、怒ってる。顔の傷も見てもらった。足も。

 ヒカリさんが拳に包帯を巻いてくれた。傷を見終わった鈴原先生は、何も言わなかった。

 みんなが黙っている。僕も何も言わなかった。僕を見ているのに。治療行為の音だけが聞こえた。何があったのかを、誰も聞かない。僕も口を開かなかった。

 でも、しばらくしてから、壁の近くにいたアスカさんがはじめに話し出した。

「あんた、バイクのカギ返しなさいよ。」

 近くにいた3人がアスカさんの方を見た。

「・・・アスカ。」

「なによ。」

 相田先生が間に入ろうとしたけど、アスカさんの怒りはかなりのものだった。

 もうそれは、しょうがないことだ。

「・・・はい。」

 返事をしてから、僕は立ち上がって、ポケットからバイクのカギをアスカさんの前に出した。眉間にしわを寄せて、怒った表情のまま、僕をにらんでいた。

 バイクを貸してもらえないなら、バスで行く。夜でバスがないなら、自転車で行く。

 別にバイクなんて、なくたっていい。

 誰の力も借りない。

 仕事ができなくなるっていうなら、やめてやる。

 僕が出してる鍵を早く受け取ったらいいのに、両腕を組んだまま、僕をにらんで固まっていた。

 相田先生が、アスカさんの肩に手を置いて僕の前に立った。目を見られなかった。

「バイクは貸しておく。必要がなくなったら返せばいい。」

「・・・ダメよ。いつか事故起こす。」

「・・・大丈夫だよな?」

 返事ができなかった。事故が問題なんじゃない。

 自分でも、周りに迷惑をかけてるのはわかってた。こんな喧嘩傷作って戻ってきて、心配をかけているのはわかってた。

 でも、どうしても、そうしなきゃいけなかったんだ。

 それをわかってほしかった。 

「返事しなさいよ!」

「アスカよしなよ。」

 頭をさげて、自分の寝床に帰った。

 だいぶ離れて、アスカさんの怒った声が聞こえた気がした。

 自分の部屋で傷を見ながら、何を考えるともなく考えていた。

 リーナと話がしたかった。

 

 早朝、誰も起きていない時間を選んで、街へ出た。

 




 子供から大人になるってことについて、男の子から男になるってことについて、月並みな展開だとは思ってるんですけど、少し深刻なケンカをして帰ってくる、大人が心配そうにしている、けど、子供を叱るようにはしない、っていう空気を目指したんですけど、もうちょっとうまくかきたかった。アスカのキャラクターというか、立ち位置がよくて、リョウジ君の惑い方が、一応自分としては好きな展開にできたと思っています。
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