面会をするための部屋に入った。複数が対応できるタイプの大部屋で、僕のまわりにも別の人が、壁に設置された受話器を持って話をしていた。これをとらないと会話できないみたいだ。録音もされているんだろうか。
シンが捕まって、拘置されている場所だった。リーナに聞いてから、周りの友人に聞いてまわった。間違いはなかった。
はじめてくる施設だった。堅牢で、権力的で、大人しか縁のなさそうな、でかい施設。この中で、自由を奪われて当然の人たちが入っている。シンもその中の一人だった。
受付で名前を告げて、彼に面会したい旨を伝えた。身分証は職場のやつを使った。受付の人は訝しげに僕の顔を比べていたが、結局ハンコを押して通してくれた。職場に連絡がいくだろうか。だとしてもしょうがないと思った。
僕の他にも面会にきている人がいた。若い男女だった。男が中に入っている。何をした人だろう。悪いことをしたのは間違いないんだろう。愛し合う二人がアクリル板に仕切られるような、悪いこと。
また別の人は、男同士で小さい声で話している。温かい会話なのか、次の悪いことを考えて話しているのかわからない。
しばらくして、離れたドアからシンが入ってくるのが見えた。大きめのつなぎを着ている。顔を見合わせて受話器をとって話をはじめた。
「よう。」
「よう。」
同じ返事をすると、二人で笑った。単純だ。思った以上に、自分が声を聴いて安心したのが意外だった。
「結構似合ってるね。その服。」
「ふん。」
笑っていた。いつもなら、もっと軽口がついて出ると思うんだけど。
しゃべりだしたシンは、いつもより落ち着いていて、声が低くて、年上のようになっていた。
「捕まってるって知らなかったよ。それより前に、連絡がとれなくて。」
「・・・悪かったな。」
「いや、話せてよかったよ。」
「さすが、いいとこ出の人は違うな。他の連中は門前払いだろうから。」
「みんな会いたがってる。」
「嘘つくなよ。」
嘘、ではなかった。想像しただけ。シンはそれを見抜いたようだった。
でも
「リーナは間違いなく会いたがってる。」
「・・・そうか。」
「・・・まだ好きだって言ってた。」
「・・・バカなやつ。」
少しだけ心が痛んで、少しだけ癒された。自分がどうふるまうべきかもよくわからないけど、進むしかなかった。
「・・・素直に家にもどればいい暮らしができる。」
・・・だから連絡を絶っていたのか。僕とも。
「病院で頭冷やして、そのまま家にとどまればいい。」
「事故。知ってるのか。」
「あいつでかいとこのお嬢さんだから、話題になってな。運転してたやつ。無事じゃすまないだろうな。」
どうなるんだろうか。僕のしたことは、大したことでもなかったのかもしれない。
「誰だかしらないけど。」
「タケだよ。」
「だろうな。あいつは、どうしようもない。俺にもどうにもできなかったよ。」
「お前がいたらおとなしかっただろ。」
「ずっと一緒にもいられない。酒が断てなきゃだめだ、あいつは。」
もうあいつの話はいい。
「命があってよかった。」
「・・・そうだな。でも足が。」
「・・・すんだことはしょうがない。命があってよかったんだ。」
なんでそう簡単に割り切れるんだよ。会ってないからそんなに余裕を持って喋られる。
「彼女が好きだ。」
いろいろ聞こうと思っていたのに、言いたいことを優先した。
言わなきゃよかった。また、目が裏にでた。その時は気づかなかった。
「・・・見りゃわかるよ。くっつけば。俺がいない間に。」
「・・・それも違う気がする。」
「お人よしは結局何もつかめない。」
格言みたいに言われて、それが、シンが考えるようないつもの明るい言葉じゃない気がして、気になった。
「・・・それは親父に言われたのか?」
どうしても聞きたかった。親のいうことを聞くっていうことが、どうしても気になって、気に入らなくて、聞いてしまった。彼にとって大事な部分だったのに。
言いたいことを優先させてる。僕の言うことを聞いて、って、子供みたいに。
「・・・あ?」
「父親も、捕まってるんだろ?別の場所にいる。」
「・・・そうだよ。だからなんだ。」
「・・・親父に言われてやったことなのか?強盗なんて、シンらしくない」
「知った口きくな。俺の何知ってんだ。」
言う通りなのに、そんな風に言わないでほしいと思った。友達、だと思ってる。
「クソな親なんていない方がいいって、言ってたじゃないか。」
「いない方がよくてもいるんだよ。しょうがないだろ。」
目を見ずに話してた。
「言うことを聞かなくてもいいじゃないか。」
「うるせえ。関係ない。自分で決めたことだ。しくじっただけだ。」
「リーナも、あんな母親に振り回されて、お前は、父親に」
「うるせえって言ってんだろ。」
「・・・ごめん。」
心臓の圧が高まって苦しい。深呼吸した。
「リョウジは友達だと思ってたよ。」
「・・・俺だって、そう思ってる。」
「お前は友達じゃなかった。やっぱりいいとこ出のいけ好かない奴だった。」
突然そう言って、混乱した。今まで聞いていた、優しい口調と違う。どっちが本当のお前なんだ。
「なんでそう思うんだよ。仲良くしてただろ。」
「俺の親父を見て、俺への見方が変わったろ。」
少し黙った。それは確かにそうだ。
「・・・正直怖いと思った。」
「・・・でも、俺の親父だ。」
自分の中で何かがうずまいていくのがわかった。嫉妬だと思う。
「お前にゃわからねぇよ。どんな親父だって、親父は親父だ。」
「わかるよ。」
「嘘つけ。」
「わかってないのはお前の方だ。俺がどんなにうらやましいか。」
言いながら、自分の言ったことに驚いた。涙が出そうで、必死でこらえた。
「そうかよ。お前はもう関わるなよ。俺たちに。まともに暮らしてるやつに、憐れに思われたくない。」
憐れんでない。うらやましいんだ。でも、それが正しいのかもわからない。なんでお前がそこにいるんだ。彼女が悲しんでるのに。
「彼女が好きだ。」
「知らねぇよ。」
「彼女がお前を好きなのが、気に入らない。」
「ハッ。」
笑った。何がおかしいんだ。アクリル板越しににらんだ。
今まで、自分とお前がどこか似ていると思っていた。でも、お前は何か、僕に違う何かがあって、僕が知らない世界を知ってる。
腹が立った。
「何がおかしいんだよ。」
「バカが二人いるな、と思って。」
「なんだよ。」
「クズに付き合ってるほど暇なのかね。」
誰のことを言ってるのかわからなかった。
「お前は俺とは違う。2度とここにくるな。気分悪い。」
なんで突き放すんだよ。友達だろ。
「わかったな。2度とくるな。来ても会わない。」
「お前はクズじゃ」
ガシャン
受話器が乱暴におかれた。
「ちょっと待てよ!」
受話器は切れているから意味もないのに、怒鳴った。
シンは立ち上がって、アクリル板に仕切られて聞こえないのに、じゃあな、って言った。
帰りに、受け付けで、今後は面会不可だと言われた。
バイクで家に帰るとき、手が痛んだ。
どうしても村に着くまでに、休まないと帰れない気がして、原っぱを見つけて、そこで休んだ。
シンから言われたことが思い起こされて、ただ段々と悲しくなってきた。
男同士のけんかなんて、大したことない。また顔を合わせれば、笑って会える。そのはずだったのに、そうじゃない気がしてきて、ただただ悲しくなった。
友達を失った気がした。本当に友達でいてほしい奴に、心から拒絶された気がして、悲しくなった。
太陽が落ちるところをしばらくながめて、泣いた。
泣いた後の顔は見られたくなかったから、時間をかけて村に帰った。
誰が悪いのか、教えてほしい。
アメリカドラマにあるような、アクリル板にしきられて受話器でしゃべる、囚人服はオレンジ色のつなぎ、っていうことを考えながら書きました。そういうのは楽しいです。当初リョウジ君に対して相手方を、もっと敵意をもって、子供っぽく、喧嘩別れにしようとしたんですけど、うまくいかなかったです。主人公に救いの手を差し伸べる、そういう存在にしたいと思っちゃうのは、未熟だからかもしれないです。考えも技量も。それで、キャラクターがうまく作れない、っていう難しさがどうしても乗り越えられなかった。長くなっちゃうし、良いアイディアもうかばなくて。