アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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十四 『じゃあなは』

 

 面会をするための部屋に入った。複数が対応できるタイプの大部屋で、僕のまわりにも別の人が、壁に設置された受話器を持って話をしていた。これをとらないと会話できないみたいだ。録音もされているんだろうか。

 シンが捕まって、拘置されている場所だった。リーナに聞いてから、周りの友人に聞いてまわった。間違いはなかった。

 はじめてくる施設だった。堅牢で、権力的で、大人しか縁のなさそうな、でかい施設。この中で、自由を奪われて当然の人たちが入っている。シンもその中の一人だった。

 受付で名前を告げて、彼に面会したい旨を伝えた。身分証は職場のやつを使った。受付の人は訝しげに僕の顔を比べていたが、結局ハンコを押して通してくれた。職場に連絡がいくだろうか。だとしてもしょうがないと思った。

 僕の他にも面会にきている人がいた。若い男女だった。男が中に入っている。何をした人だろう。悪いことをしたのは間違いないんだろう。愛し合う二人がアクリル板に仕切られるような、悪いこと。

 また別の人は、男同士で小さい声で話している。温かい会話なのか、次の悪いことを考えて話しているのかわからない。

 しばらくして、離れたドアからシンが入ってくるのが見えた。大きめのつなぎを着ている。顔を見合わせて受話器をとって話をはじめた。 

「よう。」

「よう。」

 同じ返事をすると、二人で笑った。単純だ。思った以上に、自分が声を聴いて安心したのが意外だった。

「結構似合ってるね。その服。」

「ふん。」

 笑っていた。いつもなら、もっと軽口がついて出ると思うんだけど。

 しゃべりだしたシンは、いつもより落ち着いていて、声が低くて、年上のようになっていた。

「捕まってるって知らなかったよ。それより前に、連絡がとれなくて。」

「・・・悪かったな。」

「いや、話せてよかったよ。」

「さすが、いいとこ出の人は違うな。他の連中は門前払いだろうから。」

「みんな会いたがってる。」

「嘘つくなよ。」

 嘘、ではなかった。想像しただけ。シンはそれを見抜いたようだった。

 でも

「リーナは間違いなく会いたがってる。」

「・・・そうか。」

「・・・まだ好きだって言ってた。」

「・・・バカなやつ。」

 少しだけ心が痛んで、少しだけ癒された。自分がどうふるまうべきかもよくわからないけど、進むしかなかった。

「・・・素直に家にもどればいい暮らしができる。」

 ・・・だから連絡を絶っていたのか。僕とも。

「病院で頭冷やして、そのまま家にとどまればいい。」

「事故。知ってるのか。」

「あいつでかいとこのお嬢さんだから、話題になってな。運転してたやつ。無事じゃすまないだろうな。」

 どうなるんだろうか。僕のしたことは、大したことでもなかったのかもしれない。

「誰だかしらないけど。」

「タケだよ。」

「だろうな。あいつは、どうしようもない。俺にもどうにもできなかったよ。」

「お前がいたらおとなしかっただろ。」

「ずっと一緒にもいられない。酒が断てなきゃだめだ、あいつは。」

 もうあいつの話はいい。

「命があってよかった。」

「・・・そうだな。でも足が。」

「・・・すんだことはしょうがない。命があってよかったんだ。」

 なんでそう簡単に割り切れるんだよ。会ってないからそんなに余裕を持って喋られる。

「彼女が好きだ。」

 いろいろ聞こうと思っていたのに、言いたいことを優先した。

 言わなきゃよかった。また、目が裏にでた。その時は気づかなかった。

「・・・見りゃわかるよ。くっつけば。俺がいない間に。」

「・・・それも違う気がする。」

「お人よしは結局何もつかめない。」

 格言みたいに言われて、それが、シンが考えるようないつもの明るい言葉じゃない気がして、気になった。

「・・・それは親父に言われたのか?」

 どうしても聞きたかった。親のいうことを聞くっていうことが、どうしても気になって、気に入らなくて、聞いてしまった。彼にとって大事な部分だったのに。

 言いたいことを優先させてる。僕の言うことを聞いて、って、子供みたいに。

「・・・あ?」

「父親も、捕まってるんだろ?別の場所にいる。」

「・・・そうだよ。だからなんだ。」

「・・・親父に言われてやったことなのか?強盗なんて、シンらしくない」

「知った口きくな。俺の何知ってんだ。」

 言う通りなのに、そんな風に言わないでほしいと思った。友達、だと思ってる。

「クソな親なんていない方がいいって、言ってたじゃないか。」

「いない方がよくてもいるんだよ。しょうがないだろ。」

 目を見ずに話してた。

「言うことを聞かなくてもいいじゃないか。」

「うるせえ。関係ない。自分で決めたことだ。しくじっただけだ。」

「リーナも、あんな母親に振り回されて、お前は、父親に」

「うるせえって言ってんだろ。」

「・・・ごめん。」

 心臓の圧が高まって苦しい。深呼吸した。

「リョウジは友達だと思ってたよ。」

「・・・俺だって、そう思ってる。」

「お前は友達じゃなかった。やっぱりいいとこ出のいけ好かない奴だった。」

 突然そう言って、混乱した。今まで聞いていた、優しい口調と違う。どっちが本当のお前なんだ。

「なんでそう思うんだよ。仲良くしてただろ。」

「俺の親父を見て、俺への見方が変わったろ。」

 少し黙った。それは確かにそうだ。

「・・・正直怖いと思った。」

「・・・でも、俺の親父だ。」

 自分の中で何かがうずまいていくのがわかった。嫉妬だと思う。

「お前にゃわからねぇよ。どんな親父だって、親父は親父だ。」

「わかるよ。」

「嘘つけ。」

「わかってないのはお前の方だ。俺がどんなにうらやましいか。」

 言いながら、自分の言ったことに驚いた。涙が出そうで、必死でこらえた。

「そうかよ。お前はもう関わるなよ。俺たちに。まともに暮らしてるやつに、憐れに思われたくない。」

 憐れんでない。うらやましいんだ。でも、それが正しいのかもわからない。なんでお前がそこにいるんだ。彼女が悲しんでるのに。

「彼女が好きだ。」

「知らねぇよ。」

「彼女がお前を好きなのが、気に入らない。」

「ハッ。」

 笑った。何がおかしいんだ。アクリル板越しににらんだ。

 今まで、自分とお前がどこか似ていると思っていた。でも、お前は何か、僕に違う何かがあって、僕が知らない世界を知ってる。

 腹が立った。

「何がおかしいんだよ。」

「バカが二人いるな、と思って。」

「なんだよ。」

「クズに付き合ってるほど暇なのかね。」

 誰のことを言ってるのかわからなかった。

「お前は俺とは違う。2度とここにくるな。気分悪い。」

 なんで突き放すんだよ。友達だろ。

「わかったな。2度とくるな。来ても会わない。」

「お前はクズじゃ」

 ガシャン

 受話器が乱暴におかれた。

「ちょっと待てよ!」

 受話器は切れているから意味もないのに、怒鳴った。

 シンは立ち上がって、アクリル板に仕切られて聞こえないのに、じゃあな、って言った。

 

 帰りに、受け付けで、今後は面会不可だと言われた。

 

 バイクで家に帰るとき、手が痛んだ。

 どうしても村に着くまでに、休まないと帰れない気がして、原っぱを見つけて、そこで休んだ。

 シンから言われたことが思い起こされて、ただ段々と悲しくなってきた。

男同士のけんかなんて、大したことない。また顔を合わせれば、笑って会える。そのはずだったのに、そうじゃない気がしてきて、ただただ悲しくなった。

 友達を失った気がした。本当に友達でいてほしい奴に、心から拒絶された気がして、悲しくなった。

 太陽が落ちるところをしばらくながめて、泣いた。

 泣いた後の顔は見られたくなかったから、時間をかけて村に帰った。

 誰が悪いのか、教えてほしい。

 




 アメリカドラマにあるような、アクリル板にしきられて受話器でしゃべる、囚人服はオレンジ色のつなぎ、っていうことを考えながら書きました。そういうのは楽しいです。当初リョウジ君に対して相手方を、もっと敵意をもって、子供っぽく、喧嘩別れにしようとしたんですけど、うまくいかなかったです。主人公に救いの手を差し伸べる、そういう存在にしたいと思っちゃうのは、未熟だからかもしれないです。考えも技量も。それで、キャラクターがうまく作れない、っていう難しさがどうしても乗り越えられなかった。長くなっちゃうし、良いアイディアもうかばなくて。
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