あたしは壁に寄りかかっていた。腕を組んで。目の前の光景を眺めている。
眼鏡をした女が、自分の彼氏に抱きついている。腹付近に。顔をつけて、幸せそうな顔をしている。
その後ろにはそれより若い女が両手を口につけて目を輝かせている。
抱きつかれた男は、顔を赤らめて、困ったような幸せなような恥ずかしいような顔をしている。腹立たしい。両手は軽く上げてあったが、目の前の女を引きはがそうとはしない。珍しくメガネをかけている。
「・・・・・・見せつけてくれるじゃない。」
「いや、その、そういうつもりは、ないんです。」
街をうろつくための普段着を着てみるってことだった。あたしはほぼいつもどおり。動きやすい恰好。コネメガネとシンジが服やら何やらを一旦とりにいって、どんな服装になるのか考えていた。たまたまトイレに行って帰ってくると、これだ。
パーカーはともかく、変装用の眼鏡とかいるのか?
「メ、ガ、ネ、萌、えぇぇぇ。」
「あんたバカァ?」
「あ、久しぶりに聞いた。」
「うるさい。」
頭を胸にぐりぐりしていたコネメガネの顔が静止した。あたしの方を向いて。
「姫も眼鏡してみよう。」
「え、嫌よ。」
「いいじゃん。似合うよ。」
「嫌よ。」
「まぁまぁ」
メイク用の鏡の前に座らされて、眼鏡つけられて、キャアキャア言われた。
「眼鏡萌えの気持ち、少しはわかるでしょ。」
「わからないわよ。」
「ケンケン君してるじゃん。」
「え、うん。」
「外した時のギャップ萌えあるでしょ。」
「う、うん。」
「どんな顔してるの?」
「・・・割とかわいい顔してるわよ。」
「キャッ。」
「キャッ。」
「サクラまで。」
「キャッ。」
「バカシンジ!」
「眼鏡が光った!」
「ごはん。みんなで食べるとおいしいですよね。」
「そうだよねぇ。不思議なもんだよね。」
「いつも一人で住んでて、部屋広くて逆にさみしくないの?」
「さみしいんですぅ。だから誰か必ず来てほしいんです。」
「男連れ込んだりしないの?」
「いい人がいたらそうします。」
「いないの?」
「今日グイグイ傷つけてきますね。式波少佐。」
「兄を恨んで。」
「シンジ君。今日も美味しいね。」
「よかった。ありがとう。」
「ごちそうさまです。」
「ごちそうさま。」
「・・・・・・・」
「・・・ニヤニヤこっち見んな!」
「あんた風呂最後ね。」
「あ、はい。」
「すごい広いから、3人は入れますよ。」
「のぞいちゃやだよシンジ君。」
「はいはい。」
「大人になっちって。」
「うら若き乙女に、もう興味ないんですか?」
「いや、そりゃありますけど。」
「キャッ。」
「バカやってんじゃないよ。」
「アスカそこのお皿もとって。」
「はいはい。」
「女房か、あんたは」
「今なんて?」
「何も言うてまへん。」
「食洗器が最高っ。」
「主婦か、あんたは。」
「前時代的。」
「なにをっ!」
「碇さぁぁぁぁぁぁん!」
「なに、なに、どうしたの?」
「真希波さんがナイスバデェェェェ!」
「それ大声で言う?」
「アスカさんが嫉妬してるぅぅぅ!!」
「してないわっ!」
「ホント面白い兄弟だね」
「ねぇ、枕投げしよう。」
「あんたいくつよ!」
「わからない!」
「デリケートな質問だよね。もう。」
「やりましょやりましょ。そのための家ですから。」
「いやよ。ガキじゃあるまいブッ!」
「ニャハハハハハハ」
「いいぞ~~~」
「シンジ君その言い方流行ってるね。」
「なんですかそれ。」
「なんか動画で面白かったからハマっちゃって。いいぞ~~。」
「オラあぁっ!」
「危ないっ!本気出しちゃダメだよ!」
「シンジ。ジェリコの壁って知ってる?」
「決して崩れる事の無い。」
「よく知ってるわね。」
「なぜでしょうね。」
「意味わかるわね。」
「イエスマム。」
「よろしい。」
「わたしシンジ君と寝ていいの?」
「ダメだっつうの!」
「キャッ。」
「サクラ最近調子乗ってんな。」
「・・・ねぇアスカ、ジェリコの壁って映画だとさ・・・」
「・・・映画?」
「・・・・・・なんでもないよ。」
「布団ちゃんと敷けました?」
「うん。じゃあ電気消すよ。」
「あああああぁシンジ君、今生の別れになるのねぇぇぇぇ。」
「コントすんな。」
「さみしいなぁ。」
「うるさいバカシンジ。」
「・・・どこ触ってんのよ!」
「にゃはははははははは」
「キャッ。」
「・・・・・・・あん。姫。ダメだよ。そんなところ触っちゃ。」
「ねつ造すんな!」
「碇さん聞き耳立ててません?」
「た、たててないよ!」
「にゃはははははは。」
「コイバナしません?」
「しようしよう。」
「のろけ話でしょうが。」
「いいじゃないですか。たまにしかできないんですから。」
「じゃあ、サクラちゃんからどうぞ。」
「え、予想外です。」
「ヴンダーにいたとき告白された時の話して。」
「なんで知ってるんですか!」
「え、あたし知らない。」
「にぶいにゃぁ。姫。」
「あれはだめです。笑えない。」
「じゃあ、姫から。」
「おやすみ。」
「みなさん寝ました?」
「寝たわよ。」
「ぐうぐうぐう」
「なんか楽しくて寝れないんです。」
「寝なさいよ。」
「姫も楽しいくせに。」
「うるさいな。」
「碇さんも起きてますよね。」
「寝てますよ。」
「楽しいですよね。」
「寝ました?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・にゃは」
「・・・・碇さんも寝ました?」
「・・・・・・・・」
「ねぇアスカさん。」
「・・・あんた段々幼くなってきてない?」
「抱っこしてくれないと寝られまへん。」
「そこの胸でかい女に言って。」
「いやです。碇さんのお古です。」
「お古っ。」
「ブフッ」
「起きてたぁっ。」
「ねえチキンレースしません?」
「寝なさいよっ。・・・何よチキンレースって。」
「寝る準備してからするチキンレースって面白いにゃ。」
「服脱いで、碇さんが寝ている真っ暗な部屋歩いて帰ってくるんです。」
「「何それ。」」
「笑いません?」
「あんたバカぁ?」
「姫むっちゃ笑ってるにゃ。」
「やりましょやりましょやりましょ。」
「鈴原が、あんたヤバい奴だ、って言ってたのわかってきたわ。」
「お兄ちゃんそんなこと言ってたんですか?」
「言ってた。」
「本望です。」
「誰から行く?」
「やるの?いやよっ。」
「やりましょっ。むっちゃ面白い。」
「あんたほんとバカね。あんた一人でやりなさいよ。」
「あたしやったらアスカさんやってくれます?」
「バカじゃないの?やらないわよ。」
「えぇぇぇぇ面白いのに。」
「あたしやるって言ったらやるの?」
「やります。」
「私じゃあ二つ目、姫真打。」
「落語かっ。絶対いやよっ。」
「全裸じゃないですよ?」
「当たりまえでしょっ。」
「どこまで脱ぐの?」
「じゃあパンツだけで、タオルケットで体隠して行く感じで。」
「ブフッ。変態じゃん。バカじゃないの?」
「装甲が一枚と、装備が1枚しかないのは不安ですにゃ。」
「部屋まっくらですよ?」
「そういう問題?」
「だって真っ暗闇でふざけるの面白いじゃないですか?」
「いや、まぁ、それはわからないでもないけど。」
「わたしお兄ちゃんとそういう遊びしてましたよ。」
「アハハハハハハ。ホント面白い兄弟だね。」
「小さい男の子全裸で夜だと真っ白に見えるんですよ。」
「「アハハハハハハハハ」」
「きっと碇さんももう寝てますよ。」
「起きてて襲ってきたらどうするの?」
「ぜっっっっったいそういうことしないですよ。碇さんは。」
「ええええぇぇぇぇぇ。あぁ見えて獣だよ?」
「わっわっわっわっ。教えてください。」
「やめてよっ。」
「眠れなくなりますね。」
「興味ないのっ。」
「でた。」
「うそですね。」
「うるさい。」
「じゃあケンスケ君がどんな感じか教えて。」
「・・・・・・・・言うわけないでしょっ。」
「今頭には浮かんだよね痛っ。」
「・・・じゃあ、下着だけは上下着けて、タオルケット。」
「あんたほんと寝なさいよ。」
「上だけ下着でタオルケット。」
「あきらめなさいよ。」
「いやです。超楽しい。」
「わたしも楽しい。」
「やりましょ。」
「じゃあわたしやって、次姫。」
「あんただけ恥じらいがないのは卑怯よ。」
「恥じらいあるよ。」
「うそこけ。」
「じゃあサクラちゃんから。」
「そのあと絶対アスカさんですよ。」
「動画にとって、みんなに配るわよ。」
「そのあと絶対アスカさんですよ。」
「うそよ。やらないわよ。」
「そのあと絶対アスカさんですよ。」
「グイグイくるなっ。」
「じゃあ絶対動画とらないってことで、やりましょう。」
「やらないって、ほんと、しつこいな。一人でやってきな。」
「わたしやったら見ますでしょ?」
「・・・まぁ、見るね。」
「それはお互いの信頼関係あってのエンターテイメントです。」
「じゃあ、見ない。」
「マリさん見張ってください。」
「ラジャー。」
「・・・いやよ、気になって寝れなくなる。」
「わかりました。じゃあまず私が特攻隊長で行って、逃げ場をなくします。」
「うそ、やだ、やめてよ。」
「若いやつにやらせて、逃げる少佐殿ではないはず。」
「バカじゃないの?」
「どうします?」
「だからやらないってのに。ゴソゴソしないでよ。」
「いえ、どこまで脱ぎますか?」
「やる前提?やらないって。」
「よし」
「やめなさいよ」
ガラガラガラっ!
「「「キャアアアアアッ!」」」
「寝なさいっ!」
ガラガラガラガラピシャッ
「プッ」
「ククククククッ・・・」
「クスクスクス・・・」
ガラッ!!!
ピタっ
「・・・・・」
スッ、ピシャッ
「・・・・・・フッ」
「・・・・・・ククッ」
「次開ける前にみんな下着だったら、碇さんビビりません?」
「「アハハハハハハッ!」」
「危ないよっ!っていうかもう寝ようよっ!」
「見られたら全員どうなっちゃうのかしら。」
「そりゃ獣だもん。」
「うわ、えぐいですね。」
「アハハハハ」
「・・・もう。」
「4人だとどうやってするんですかね。」
「よくそういう話できるわね。」
「興味ありますでしょ?」
「・・・ないこたないわね。」
「順番の話?」
「なにをカマトトぶってるんですか真希波さん。」
「むふっ。」
「技法の話です。」
「技法って。」
「作法に乗っ取って一人一人受け入れていくんだよ。ワンコ君良い子だから。」
「それじゃつまんないじゃないですか。」
「もう、いくらなんでも引くわ。夕方の放送じゃ青少年に見せられないくらいの。」
「マッサージの話ですよ?」
「それはもう無理があるでしょ!」
ガラガラガラっ!
「え?なにワンコ君?ごめん、怒った?おこ、え、なになに、キャアッ!」
ガラガラピシャッ
「・・・・・・」
「・・・・・・彼女さらっていったわ。」
「・・・・・・獣の顔してましたね。」
「ブフッ。獣っていうか普通にキレてたね。」
「・・・寝ますか?」
「・・・寝るのかな?」
「・・・まさか」
「・・・いやいや、そんなことしないでしょ。したら引くよ。」
「・・・割とやり返しのために、獣に、ざ・びーすとになるんちゃいます?」
「なんで言い直すのよ。」
「・・・ダメだって。シンジ君。」
「・・・え。」
「・・・いや、え。」
「・・・ダメだ、って。聞こえる。」
「・・・うそでしょ。」
「・・・ホンマですかっ。」
「・・・ん。」
「・・・いやいやいや。」
「・・・ちょっと、どんな上り方をしていくのか、最後まで聞きましょう。」
「バカっ。」
「・・・や、だぁ。」
「・・・ちょっと見ていいですか?」
「・・・バカっ。」
ガラガラガラッ!
あたしが引き戸開けると、手を口の前に持ってこっちに向かってささやくコネメガネと、その向こうであぐらをかいてニヤニヤしてるシンジがいた。
はめられた。
バカップルがハイタッチしてた。
「イエェーーーイッ。」
「くっ!こっちこいっ!」
「バイバイダーリン。」
「バイバイハニー。」
「くそっ!バカシンジ!アホメガネ!」
「昔そんな名前の漫画があったような。」
「うるさいっ!寝るよっ!」
「ワンコ君とコネメガネちゃん、でしたっけ?」
「うるさいっ!」
「おやすみぃっ。」
「おやすみ。」
夜中にトイレに行きたくなった。
暗い部屋を通って、シンジが寝てる部屋を通って、トイレに行った。
用が済んで、横向きに寝てるシンジの背中を見て、なんとなく立ち止まった。何回か見たことある寝てる背中。最後に見たのは、確か、こいつに腹を立てている時だった。その前はいつだったっけ、なんて思ってた。
どうせ起きてるんだろうと思ってみてたら、やっぱりこっちをチラッと見たのが見えた。
それからちょっと笑顔になって、布団のスペースをほんのちょっと開けた。開けたスペースをとんとん叩いてた。
あたしがそこに入って寝られるように、みたいな。
近づいて、横っ腹のあたりを踏んだ。
「グッ。クスクスクスクス。」
笑っているシンジを見て、なんか笑って、自分の寝床に戻った。
起きたら、リョウジを探しに行かなきゃ。
「サクラ良い画とれたか?」
「ばっちりやでお兄ちゃん。」
「もうおもろいやろ。そこの3バカ」
「なんかいいように話が転がるやんな。」
「やっぱ男1女2って図が良いんやな。」
「男2女1ってのもえぇんやろうけどね。」
「永遠のテーマやな。」
「相田さん加えたらどうなんの?」
「あいつあかん真面目やから。おもんない。」
「あ~わかる気がするわ。」
「あいつはドロドロする時だけや。」
「そうなん?」
「その辺はシンジよりもよく働く。」
「そろそろ女同士で喧嘩始まると思うで。」
「えぇね。えぇね。とりのがすなよ。」
「任せとき。」
「村で話をしたら、ごはん何杯でもいけるで。」
「いいかげんにしろ!!」
「おはようございます。式波さん。リョウジ君は見つかりそうですか?」
「アホ兄弟が!ほんとどんどんどんどん悪化していくな!」
「リョウジ君の行く末が心配だ。はやく見つけてあげないと少年の未来が。」
「帰ったら絶対あることだけでも噂流してやるからな。」
「ごめんなさい。ほんまごめんなさい。和まそうと思っただけなんで」
停止
「おはようございます。式波少佐。本日はどちらへ行かれますか?」
「お前もろくな死に方しないぞ!」
「本望であります!」
カシャっ
「お前はなにやってんだ!」
「え。会社で良い話のネタになると思ったんだけど。なに?」
「なんで逆ギレしてんのよ!」
「コーヒー飲むひとぉ」
「「はぁい」」
「あたしなんか変!?」
朝から疲れた。
病院に来ていた。リョウジの友達が入院しているというところ。
リョウジが好きになった女の子がいるはず。名前は、なんだろう。そこまでわからない。
すみません。加持リョウジ君知りませんか?彼が好きな女の子が、事故で入院しているはずなんです。名前はわかりません。たしか・・・リー・・・
ダメだな。
とっかかりがない。
不審に思われそうだ。
リツコか。さらりと調べられるだろうか。直轄の組織ではないけど、それくらいは問題なくできるかもしれない。
そう思っていたんだけど、受付でウロウロして3人で話し込んでいたところに、受付にいた女性が話しかけてきた。
「あのぅ。加持リョウジ君の、親族の人ですか?」
「は。えぇそうです。保護者、というか。」
「やっぱり。なんか、最近彼来なくなって、どうしたんだろうと思っていたので。そうしたら、その、同じ雰囲気の人が来たから、そうじゃないかって。」
同じ雰囲気、とは。
「ブーツだしね。」
あ、ケンスケとそろえた山用のブーツだ。パンプス面倒くさくて、そのまま来ちゃった。
「たくましい感じが。」
「お前今なんつった。」
「ほめてます。すみません。許してください。」
喫煙所で、その女性から話を聞いた。
深海リーナっていうんだ。へぇ。
「友達だって言ってたけど、あんなに好きで、彼女の為に行動してるなんて、すごくまっすぐ育ってますよね。立派だなぁ。」
すごいほめてくれた。本人のことが褒められるのはいいとしても、その本人がいまやさぐれていなくなっている。
「深海さんって、面会全然できないんですか?」
「ダメですね。あれは親が悪いですよ。寄り添ってもあげないくせに、世間体だかなんだか、籠の中にねじ込んだ感じになってますね。会社の人も言われるままにしてて、組織、って感じがしますよ。」
砕けて話す女性だな。タバコを吸いながらしゃべってる。周りに人がいないことを確認するために喫煙所にきたんだろうけど、さまになってて、大人、って感じする。
「まぁ、ニアサー時期にも、あの会社とかは、政府の保護とかフル活用できる立場の人たちでしたからね。凡人にはわからない、決まりとかしきたりが凄いんじゃないんですか?彼女も、そういう立場の人として育てば良いんでしょうけど、それが嫌みたいで、それで街中に出てきて遊んでたみたいですからね。」
突然、シンジの気配が消えた。
横目でチラッと見たけど、コネメガネも表情を変えず話に付き合ってるから、あたしもそうした。
「リョウジ君良い子だったから、うまくいったらいいな、って。」
「どこいったか、とか知りません?」
「それが全然。ただ、深海さんのお嬢さんが、街の不良と仲良くしている、っていうのは、みんな知ってたから、その辺と遊んでたんじゃないかなと思いますよ。」
「その子たちの名前とか・・・」
「ごめんなさいそこまでは。」
街の不良か。村のリョウジとはあまり想像がつかない相手だけど。
そっち方面から探した方がいいのかもしれない。
受付のお姉さんの話が終わった。
「彼に、頑張れって、伝えてください。」
「わかりました。ありがとう。」
病院のまわりをまわって、リツコと話をして、街をまわってみたけど、これといった情報を得られなかった。クレイディトの施設の周りを見てみたけど、姿はなかったし、バイクの姿もなかった。初日だから、街の状況を確認することに徹した。
夜は、また4人で机を囲んで食事をすることになった。
せっかくだからって、サクラがお酒を用意していた。
リョウジのことがあったから、気分が晴れやかってわけにはいかなかったけど、サクラの明るさに任せた方がいいと思ったから、とにかく乾杯した。
「なんだかんだでこうやってお酒飲むの、このメンツだと初じゃない?」
「あんたが来ないからでしょ?」
「・・・すいません。」
「祈念碑の式典来るんでしょうね?」
「・・・はい。前向きに検討させていただきます。」
「辛気臭い!」
「かんぱあい」
「お二人って本当に何もなかったんですか?」
「ブフッ」
「汚いな。あんたしょっちゅう吹いてるけど狙ってんの?」
「狙ってるわけないだろ!」
「ねぇ教えてください。」
「ねぇ教えてください。」
「なんでマリさんまで。おかしくない?嫉妬とかしてみない?」
「楽しさ優先。」
「あるわけないでしょ。こいつとなんか。」
「だって告白ぐらいしたんでっしゃろ?」
「悪徳金融みたいなしゃべり方するなっ。」
「どうなんですか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「キャッ。」
「ぶっ飛ばすぞ。」
「もう僕たちで絡むのやめようよ。」
「無理です。永遠のネタです。」
「アホ兄弟。」
「エロハプニングはないんですか?」
「あるわけないよ。」
「あたし、あんたに全裸見られたじゃん。」
「え!?」
「そ、そうだっけ?あ、ミサトさんの部屋で?」
「・・・そう。」
「あれは不可抗力だよ!一緒に暮らしてるのに、全裸で飛び出してきたんじゃん。」
「ペンペンがいてね。」
「「ペンペン?」」
「なんかミサトがペンギンと一緒に住んでたのよ。」
「ペンギンって一緒に住めるんですか?」
「なんか冷蔵庫に住んでたよ。」
「「冷蔵庫?」」
「僕悪くないのに、蹴られて気絶したんだよ。」
「ひどいですね。」
「・・・フン」
全裸見た後あんた吐いたけど。
そう返すつもりだったのに、話に出たのはそれよりずっと前の話。
そうか。
こいつにとっては、もう触れたくない時期の話題なのか。
また殻にこもってんのかな。
まぁ。
当たり前か。
「リョウジ君どこ行ったんですかね?」
「友達を頼るっていっても、そんないっぱい友達ってできるもん?」
「まぁ友達作るの、うまそうだけどね。」
「艦長に似てますけど。」
「なんかどんどん似てきたよね?」
どうなのかしらね。
確かに、似てきた。
「シンジさんも大人になっちゃいましたもんね。落ち着いちゃいましたね。」
「ちゃったってことないけど。」
「割と大人な顔で格好いいですよ。」
「なに急に。怖い。」
「なんで警戒するんですか。」
「昨日からの行動でサクラちゃんへの印象がだいぶ変わったにゃ。」
「アハハ。トウジも再会したとき、すごい大人になったって気がして新鮮だったよ。」
そうね。
みんな顔つき変わったわ。
・・・
ねえ
あんた、やっぱり・・・
「姫どうかした?」
「ん。」
「眠くなった?」
「ん。」
「語彙がなくなりましたね。」
「・・・酒まわったかな。」
「先に寝る?」
「ん。そうする。風呂先はいるね。」
「シンジ君いってらっしゃい。」
「どういうこと?」
「・・・・・・・・」
シャワーから出ると、飲んでりゃいいのに、3人とも片付け始めてた。
結局寝るタイミングを一緒にするってことになった。
黙って、布団の準備をした。
「シンジ君に言いたいことがあったんじゃないのん?」
歯を磨いているときに、横で化粧水をつけながらコネメガネが言った。広い洗面台だった。サクラもシンジもリビングにいる。相変わらずだ。
「・・・なにもないわよ。」
「ふ~~ん・・・」
しばらく黙った。黙って、歯を磨いていた。
「姫も変わらないねぇ。優しいのに、それが伝わらなくて、きつい印象になっちゃうの、大人になると見ていられないにゃぁ」
「・・・何の話よ。」
歯を磨き終わって、口をゆすいで、下を向いて水を吐いた。
「また二人っきりの時間を作ってあげよっか?」
「なんにも、ないってっ。」
顔を上げた時に、鏡越しにコネメガネをにらみつけた。強い口調で言って、両手を軽く広げてアピールしたら、両掌をこっちに向けて笑うだけだった。
イライラした。
あたしは用事をすませて、黙ってりゃいいのに、嫌な態度をとった。
「おせっかいしないでよ。」
コネメガネにあたることないのに。捨て台詞を吐いて、洗面所をでた自分に、イライラした。
その日は、寝る前の会話も弾まなかった。あたしが背中を向けて、とっとと寝ちゃったからだ。コネメガネも、サクラも、それを察しているのがわかった。でもどうしてもイライラしてダメだった。
電気を消して、寝たふりをした。
どうしても寝られなかった。
なんでイライラしていたんだろう。
誰も何も悪くなかったはず。
しばらくして、背中からいい匂いがした。
「姫」
またこいつ。
あたしと同じ布団に入って、並んで寝た。
肘をついて寝て、あたしの腕をさすっている。
「姫は変わらないね。」
変わったわよ。
鈴原だってそう言ってた。
「昔から大好きなあなたのまま。」
ウソツキ。
嫌な言い方したのに。
髪の匂いかがないで。
コネメガネの方を向き直った。
風呂上がりのいい匂いがした。
でかいものが目の前にあるのがちょっと腹立った。
「あんたこそ変わらないわね。」
「お、女性を喜ばすすべを知っているとは、さすが姫ですな。」
あんたは、昔からそうだ。
母親みたいに。
「姫はそのまま変わらないでいいよ。」
抱きついたあたしの頭をなでながら、そういった。
変わったわ。
赤い海が青になった。
エヴァがなくなった。
リョウジが大人になった。
レイに子供ができた。
あんたはシンジの恋人になった。
あたしはケンスケの恋人になった。
バラバラに住むようになった。
シンジはだんだんと・・・
なんだっけ。
昔から遠ざかって、必ず今があって、うしろへ流れていく。
ミサトがいなくなった。
さよならは言えなかった。
覚悟していたけど。
こんなに気持ちが惑っていなかったと思う。
弱くなった。
孤独がつらくなった。
他人のあたたかさを知った。
眠れるようになったよ。
「おはようアスカ」
「・・・・・・・おはよう」
「・・・なんかミサトさんみたいになってるよ」
「ほめてはいないわね。」
「はい。」
「ごはん作ったの?」
「そう。ホットケーキとコーヒー」
「・・・朝から甘いの食べたくない。」
「えぇっ。」
「うそ。」
今日こそリョウジを捕まえなきゃ。
地元の警察署に来ていた。
リョウジの通っていた病院にも行ったけど、特別な情報は得られなかった。受付の人がいたけど忙しそうだった。他の人に怪しまれてもなんだから、病院を離れて情報収集に動くことにした。リョウジが付き合っていた連中は、あまり、なんていうか、お行儀のよい子ではなさそうだったから、その筋で良い情報を得られないかと思っていたんだけど、リツコに聞いたら、ヴィレのクルーでその後警察に流れた人がいるって言っていた。
多摩ヒデキ。
AAAヴンダーのブリッジクルーだった男性で、最終決戦後には、警察組織に流れてポストを用意してもらっていた。若い部類だが、お偉いさんになっている、ということだったので、地元の情報をもらいにきた。
応接室として使われる、絨毯が敷かれた部屋に通されていた。
「式波・・・さん。真希波さん。お久しぶりです。」
あやうく少佐と言いそうになっている。数年前に別れて、それから何度か顔を合わせているけど、あんまりお偉いさんに見えないのは、相変わらずだった。
「ありがとう。助かるよ。」
「いえ、なにかお手伝いできることがあるなら、なんでも言ってください。地元の、暴走族の情報でしたよね?」
応接用のソファに、対面に座る。
こっちは2人。
あのバカは
「ちょっと病院の周り見てくるから、2人で行って。」
とか言ってた。いちいち反応するのも面倒だから、黙ってきた。コネメガネはちょっと何か話してた。旧クルーのいる場所を避けてる。
まったく。
「今暴走族っていうの?」
「言い方はいろいろですけどね。半ぐれとか、不良集団とか。」
「タチ悪いのかな?」
コネメガネが並んで質問していた。
「いえ、大人に比べたらかわいいものですよ。でも結局大人に引っ張られたり、社会になじめなくてそのまま悪くなっていく可能性があるってんで、少年のうちに、グループを解散させたりして、っていう活動を、こっちのほうではしています。」
「へぇ・・・」
「まぁ今は時代が時代ですから、しょうがないってのもありますからね。孤児がそのまま里親になじめなくて、とか。わりかし放置されていたりもします。」
時代によって子供の処遇も変わるんだろうか。なんかそれも、気の毒とも思ったけど、それは口を出すべきじゃなかった。
街には街の、しきたりやルールや行動規範がある。村だと、どうだろうか。
ヒデキが地図を広げて説明してくれた。ヒデキで良いんだろうか。正直距離感がつかめない。
「だいたい、海岸線、ふ頭や、倉庫地帯でたむろしていたり、大型店舗の駐車場にいたりしますね。目立つところにいると、うちの職員に見つかるっていうんで、わりと人通りのないところを好んでる気がしますよ。自分もたまに外回りますけど。」
「リョウジの姿とか、その周りの人の姿、とか見たことある?」
「自分はないですけどね。でもこの辺をまとめてる奴なら情報がありました。それで、すいません。本当は、こういう情報を流しちゃいけないんです。」
「教えられることだけでも教えて。」
「これは、僕が収集した情報ってことで、聞くだけにしてください。」
「わかった。」
「大井戸シンイチ。17歳。父親のみで母親はなし。父親は、札付きですね。本人は、今強盗の罪で、逮捕されています。」
「強盗?」
「えぇ、先日街の店舗で起きた強盗に関わっているってんで、服装と目撃情報から浮上して、犯行を自供して逮捕されました。ケガ人もいるので、結構長い期間シャバに出られないんじゃないか、って話です。で、ですね。拘置されているところと連絡をとって、ちょっとした情報教えてもらいました。」
リョウジは、がらの悪い連中とつるむようになっていたんだろうか。
そういう雰囲気はしなかった。自分がちゃんと見ていなかったってことだろうか。
「面会の記録を見てみたんですけど、そこにリョウジ君の名前がありました。身分確認をして、成人として扱われているので、個人で会っていました。未成年だと本来会えませんから。それで、以後その相手とは面会不可になっていたんです。」
「・・・なんで?」
「・・・面会の途中で、けんかになったようです。面会を終えてから、大井戸シンイチの方から、以後面会不可になりました。対応した職員に聞いたところ、なんか、親のことで喧嘩になっていたって話です。」
「・・・親。」
「彼、最近、葛城艦長のこと聞いたって、聞きましたけど。」
「・・・・・・」
リョウジを殴りつけた右手が、うずいた。
「ありがとうね。」
「いえ、お力になれたらよかったです。またいつでも。」
背筋を伸ばして対応してくれている。
船にいた時の、緊張感のある間柄から、戦いが終わって、話は出来るようになった。でも、本当のところはどうなんだろう。あの時の緊張感は、なかったことになっているんだろうか。
あたしは、そういうものだと、あきらめていたから、別にどうでもいいんだけど。
今ここにいない、バカの顔がちらついた。
「じゃあ、また何かあったらよろしく。」
自然と右手がでた。握手。なんだっけ。仲良くなるための、だっけ。そんなつもりでもなかったけど。
多摩ヒデキの顔が一瞬固まった。
しまった。
ちょっと距離を間違えたかな。そう思って手を下げようとすると、早い動きで、両手であたしの手を握りしめた。
「あのっ、昔、どうもすみませんでした。命かけて戦ってくださったのに」
「い、いいって。もう終わったことじゃない。」
「ほんとはすごく恰好良いって思ってて、でも、やっぱ怖くて」
「だからいいって。気にしないでいいよ。」
「ほんとは碇さんにも、ちゃんと話をしなきゃいけないのかもしれないですけど」
「・・・いや、それは、いいんじゃない。あっちも忘れたいんだと、思う。わからないけど。」
「真希波さんも、すいませんでした。」
コネメガネは笑顔で手を振っているだけ。なんかそれでいいなら、そうすればよかった。
「・・・・・・手離してくれる?」
前半は、笑ってもらえたらそれでいい、っていうところです。
後半、二次創作的に、多摩ヒデキ君を登場させました。結構後の方に考えた追加設定。わりと本家の映画で、好きなキャラクターなんですけど、意外と人気ないみたいで、不思議。
アフター物として考えた時に、DSSチョーカーを巻かざるを得なかったパイロットと、クルーの関係、みたいなものを一部考えてみたところです。