裏街の屋台の並びにいた。
奇麗な表通りと違って、裏通りには飲み屋や屋台が並んでいる。
狭い、薄暗い通りだが、大きな金と力が動いた表通りと比べると、裏通りの方が人間臭い気がする。僕の仕事は終わって、先生に言われた通り、今日は食事を終えたら、シンジ君の家にお世話になることになっている。
クレイディトの施設でも良かったんだけど、街に住んでいる彼と会うきっかけとして、連絡を事前にとって泊まらせてもらうことになっていた。
「おにいさん田舎から出てきた、って感じしてるね。」
「・・・そうですか?」
「まぁ、作業着ってのもあるけど、まぁ丸出しだね。」
「ひどいね。」
「いや注意した方がいいよ、ってことだよ。おにいさんみたいなのが、街の不良にからまれるんだ。」
「そう?」
「あぁ、この辺質の悪いガキが多いから、気を付けた方がいいよ。良いカモだ。」
「ありがとうございます。気を付けます。」
「・・・若いのにずいぶん丁寧な人だね。」
食事を終えて、裏通りを出た。割と人が多く、今の時間は表通りも裏通りも人がわらわらといて、ちょっと疲れる。村と違って、目の前から歩いてくる人の流れが、隕石が割れたばかりのところを宇宙船で避けているような緊張感がある。目の前の人間全員が、岩みたいだ。こちらに致命的な損傷を与える隕石だ。慎重に進まなきゃいけない。
村なら、みんながどこへ行こうとしているのか、これからどれくらいの時間で家に帰るのかなんとなく想像がつく。明るい笑顔で、幸せそうにしている。それが村の特徴。街の人は、なんというか、みんな生気を抜かれているか、反対に無理やり生気を注入しようとしているか、したばかりのような浮かれた顔をしている。何かに追われてでもいるんだろうか。ご苦労さんだな、なんて思いながら、隕石をよけるように気を使って街を歩いた。
そういう風に見ているから、街の人におのぼりさんと見られてしまうわけだから、なるべく目立たないように歩かなきゃいけないな。
いろいろ注意していたつもりなんだけど。
裏通りを歩いているうちに、前からくる同じくらいの年の男が、向こうから歩いてくるのが分かった。視線をあわせないようにしてよけようとすると、相手は僕の進路をふさぐように立った。
「なに?」
向こうからそう言った。無視して右によけようとすると、同じ方向にまた立ちふさがった。
「なになになに?」
ため息をついた。ニヤニヤヘラヘラしながら、下から覗き込むようにこちらに話しかけてくる、まぁ、見た目は不良そのものの姿。
作業着なのが悪いんだろうか。ため息がでた。
「・・・・・・どいてくれませんか?」
「なになに?」
他にセリフを考えていないんだろうか。しょっぱなから、金を出せ、とか言われた方が、まだストレスが少ない気がする。
「すいません。どいてください。」
「なになになに?」
「他に何か言えねぇのか。」
低い声で返すと、あ?と言って、露骨に眉毛を釣り上げてきた。街の不良、っていうのは、こういうのを言うんだろうか。さすがに、こんなわかりやすい絡まれ方をするとは思っていなかった。
「なんかケンカ売られたんだけど。」
そういいながら、僕より少し背の低い兄ちゃんが、後ろから歩いてきた連れに声をかけた。後ろから歩いてきた連れは、同じような特徴だった。兄弟だろうか。それにしても似すぎだ。
「いや、ケンカなんか売ってませんよ。」
「は?売ったろうがよ。」
「なんて言いましたっけ?」
「うるせぇよ。」
会話にならない。
どうしたものかな。いちいち騒ぎになっても、仕事場に迷惑がかかるかもしれないし、そもそも相手にすべきことなんだろうか。
「とにかくさ、今ちょっと腹立っちゃったから、タイマンするか、金出すか決めてよ。」
「え、じゃタイマンで。」
「・・・は?お前勝てると思ってんの?二人相手に?」
「それ、タイマンじゃなくない?」
「・・・こいつ殺そうよ。」
ちょっと面白かった。
でも笑ってもいられない。いちいち怒らせても時間がかかっちゃう。
「・・・わかったよ。ちょっとま」
まで喋ったところで、僕はその場で反転して、不良君たちとは真逆の方向へ走り出した。
ヤバいときは逃げろ。逃げるが勝ちだ。鈴原先生が言ってた。
人のいなくなった裏路地を走り出すと、せいぜい大人二人分しかない建物の隙間に、色々なものが落ちているのが見える。生ゴミ、空き缶、水たまり、何かの書類の切れ端、たまに人の足。すげぇ都会って感じ。
後ろの方にいるはずの不良君は、まだ何も動いていないみたい。なんでだろう。
「逃げた!」
遅くない?
右手の方にあった鉄製のパイプを手に持って、右に曲がるのを手助けして走り続けた。その先を行くとすぐに左手に階段が見えたので、2段飛ばしで上に駆け上がっていった。うしろの子の気配は、しない。
「あっちあっち!」
遅くない?
まぁいいや。
何個か角を曲がった先に、ごみ袋が積みあがっている場所があった。横幅一杯に落っこっていて、高さはへそくらい。こんな量のゴミ、どうして出てくるんだろう。
「おっとっとっとっと、っと!」
とっさに両方の足先を前に飛ばす形で飛び越えた。体をすぼめて、四角い空間だって入り込めるようなジャンプをした。着地もスムーズ。どんどんスピードを上げていく。結構格好良かったと思う。
はるか後ろの方で騒いでる不良君の声が聞こえた。遅い遅い。
目に入った階段をどんどん登って行った。
どんどん上に駆け上がっていった。登り切ってから左に曲がると、ごみ集積用のコンテナがあった。跳んで上に登って、勢いを消さないよう両手で全身をはね上げて、上にあったコンクリートの縁を手でつかんでから両手を駆使して登った。
ちょうど高い位置に立っているアパートメントのはじっこ、犬走りと呼ばれるような場所に体をすべりこませた。不良君には見つかっていない。いちいち動いてて見つかってもなんだから、ここでしばらく姿をくらまそうかな。
仰向けになって、空を見た。
ちょうどアパートとアパートの間だから、白い壁に囲まれて、頭上に星が見えはじめていた。狭い縦長の窓の向こうに見えているようだった。新しく建築されたアパートみたいで、左右の奇麗な白い壁も見ていて楽しかった。たぶん開かないであろう、意味のあるのかないのかわからない窓も、村では見ないようなデザインで面白かった。どんな人が住んでいるんだろう。
海が開けて、街には建物がどんどんと建って行った。政府の制限で入ることは出来なくても、海を一望できる場所に建てられるマンションやアパートが、高い金額で取引されるようになって、金持ちが山の方に住んでいる、と誰かから聞いた。だから、狭いアパートでも、中に住んでいる人は村とは考えもつかないほどの金持ちの人かもしれない。
まぁ関係ないけど。
悪漢に追われていますので。
ちょっとここお借りしますよ。
しばらくすると、だいぶ離れたところで、不良君が誰かを探しているのが聞こえた。誰を探しているんだろう。ずいぶん長い時間頑張ったな。
「くそ。ここも、いねぇ。」
「あいつ、ほんと、ぶっころす。」
息が上がっているのが聞こえて、笑いをこらえるために必死に両手で口を押えて寝ていた。双子だったんだろうか。村人を田舎臭いって一緒くたに見るのはありそうな話だったけど、都会の人間も似たようなもんだ。不良君も、街行く人も。
しばらく長い時間寝そべって不良君たちがあきらめるのを待った。
それから手を空に広げて、星をながめた。
村で見る星とは全く違う。小さくて、少ない星たちが、逆に面白く見えた。
枠の中にはまると、見方が変わるんだ。同じ星でも。
田舎者と都会の人と、見方次第でどうとでもなる。
自分は、どう見られているのか。割と田舎者のように見られているみたいだ。
大人にみられているのか、子供に見られているのか。
もしかしたら弱い子供に見られているのかもしれない。
ちょっとぼんやり考え事をしてから、ゆっくり周りを確かめつつ歩き出した。
シンジ君のところに行かなくちゃ。
街で、リョウジ君が働いている。17歳(設定上)で1人で。村側の人間として、街に出ている。これからの出会いのきっかけを、どうしようかと思って、月並みですけど絡まれるっていう風にしました。今そういうことないんでしょうかね?おのぼりさんがヤンキーに絡まれるとか。
リョウジ君の性格、キャラクター性をふくらまそうとして、身体能力が高い、っていうのが浮かんだので、そういう描写を増やしたかったんですけど、あまりうまくはいかなかったというか、そういう場面を上手く書けませんでした。
パルクールとか、フリークライミングとか、そういう場面だけ、というシーンも書きたかったんです。