やらなきゃいけないことがあった。赤木博士にもらった缶。自分の寝床から持ってきていた。今日開けよう。何が入っていても、受け止めよう。そう思って持ってきた。
「相田先生。赤木博士。」
話していた二人の前に缶を持って行った。二人がこちらを見た。
「・・・持ってきたのね。」
「はい。あの、まだ開けてないんです。怖いんで、一緒に見てもらっていいですか?」
「・・・いいわよ。」
「ここに座りな。」
二人が間を開けてくれた。おとなしく座った。緊張していた。
深呼吸した。
いつのまにか、クルーの方々ほぼ全員が、僕を囲んでいた。
缶をおいて、もう一度深呼吸。見ているみんなも中に何があるか、気にしていた。
よし。
缶に力をこめた。結構頑丈なやつだった。
・・・開かない。笑われた。
「ちょっと頑丈にしすぎたわね。」
「いや、ちょっと・・・こう。」
音をたてて開いた。
ゆっくり中を確認する。手紙や、メモリーカードも見える。
でもやっぱり、探したのは、写真。見たかった。親の顔、ってやつが。
見つけた。
はじめに見た写真は、20歳くらいの、男女が3人。
「艦長だぁぁぁぁぁ!!」
「加持ぃぃぃぃ!!」
「若ぁぁぁぁぁい!」
赤木博士に説明してもらいたくて、そちらを見た。
「大学の時の写真。残ってたやつ。3人でとったの。」
ちょっと泣いてる。
「あら、やだわ。」
それだけ言って、涙ふいていた。
写真は何枚かあった。さっきの写真をめくった。
見つけた。少しくせ毛で、黒髪の女性が、その髪を乱した状態で、顔色が悪くて、汗をかいている写真。ベッドだ。隣には赤ん坊がいる。同じような、くせ毛の赤ん坊。
僕だ。
笑ってる。
「君が生まれた直後よ。」
言われて、実感がわいた。僕が生まれた時。母さんが、僕を生んだ時。
「写真とるなって言われてて、無視してとったわ。」
赤木博士が涙をふきながら言った。
写真は2枚あった。今見た写真の1瞬後。数秒後だろうか。
母さんが幸せそうに、僕に、キスをしていた。
おでこに。
おでこが熱く感じた。
指に力が入った。写真を傷つけないように気を付けた。
これは
ダメだ。
涙が止められない僕を、先生と博士が、背中に手を当ててくれていた。
周りにいた人も泣き出していた。
「僕、俺、さみしくて。」
「・・・そうでしょうね。」
「みんな優しくて、でも、自分の中の気持ちもあって、迷惑かけて」
「気にするな。」
「本当は、親が、俺の為に思ってくれてるならって思えたのに、なんか、」
「ごめんね。」
赤木博士が、僕の頭をなでてくれた。
一生懸命、横に振って、誰も悪くない、ってアピールした。
「最後に思ったのは、なんで、一緒に死んでって、言ってくれなかったの、って思ったりして。」
会場が静まり返った。
不適切な言葉だとは分かってた。こんなこと言って、誰も、優しい気持ちになるわけない。
最後まで、子供のわがままみたいなこと言ってる。
「船で死ぬしかないなら、お母さんが抱いてくれたり、僕がお母さんを抱いていたら、それでも死んだって、かまわない、って思ったりして。」
「そんなこと言っちゃだめよ。君が生きていけるために、そうしたんだから。」
「・・・はい。わかってるんですけど、なんか、村から見たヴンダー思い出して、あそこから見てたんだって思ったら、なんか・・・」
思い出していた。あの船。
誇らしかった。
船の中に、母さんがいた。
「・・・見てたわよ。甲板にいたわけではないけど。彼女は、いつも君を想っていた。あの時も、絶対にそうよ。」
また涙が止められなくなった。息が苦しい。涙が熱い。
「最後。どんなでした?」
そういうと、周りにいた人たちが詰め寄った。泣きながら。
「立派だったぞ。立派だった。本当に、最後まで、立派で・・・」
「艦の責任者はは私です、っていって。全員に退官命令を出したの。誰も反対しなかったのよ。」
日向さんが、涙をこぼしながら、僕の肩をつかんで言ってくれた。
長良さんが、優しく説明してくれた。
みんな泣きながら僕のことを見てくれていた。
「すみません。変なこと言いました。」
「みんな同じだ。」
高雄さんが、低い声で、落ち着いて言ってくれた。
「誰も彼女を行かせたくなかった。一緒に最後までいたかった。それはみんな同じだったぞ。君の父親も同じように立派だった。誇りに思って、二人の分まで生きろ。」
「・・・はい。」
涙を拭いて、言うべきことを言おうと思った。大人なんだから。
「お母さんのこと、お父さんのこと、ありがとうございました。」
畳におでこをつけて、みんなに伝えた。直後にみんなが抱き起してくれて、一緒に泣いてくれた。
泣き顔が見られたくなかったんだけど、起こされた。みんな泣きながら笑ってた。
みんなが手を叩いてくれた。みんな優しい。
お母さん
お父さん
ありがとう
リョウジ君が救われるシーンとして、ちょっと最後に急に増やした場面ではあります。車を洗うシーンで終わる、っていうつもりだったんですけど、なんか足りない気がしたので。でもやっぱり、もうちょっとアイディアがあればよかったのに、と思ったり。難しいです。