アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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二十五 『最後に、もう一度だけ、キスをして』

 

 目が覚めた。月明かりが見えた。

 時間は、まだ朝になっていない。

 ケンスケは、背中を向けて寝ていた。

 起こさないようにそっとベッドから出た。

 服を着替えて、音を立てないようにした。

 

 行かなきゃ。

 

「そんなこったろうと思った。」

「お見通しだね」

「慣れてきたわ。」

 祈念碑の前にシンジを見つけた。

 ただ黙って祈念碑を見ていた。少し懐かしそうにしていた。

ミサトや、自分の親のことを考えていたんだろうか。

 シンジの向こう側に大人の、女性が立っていた。

「レイ、いたの。」

「うん。」

 月明かりの奇麗な夜で、白い服を着たレイは、奇麗な彫刻のようでもあり、白い花びらのようにも見えた。実は幽霊なんだ、と言われても違和感がなさそう。でも顔は笑顔だった。

「なんとなく、碇君がいるような気がして、家から抜け出してきたの。」

 慈愛に満ちた、素敵な笑顔。

 中学生の時と違う、大人の優しい笑顔。

 海洋研究所のことを、ちょっとだけ思い出した。その時の、ほんのすこしの、切なさ。

「碇君が立っていて、アスカも、もうすぐ来るんじゃないか、って話してたのよ。」

「・・・変なの。」

 シンジと同じように横に並んで、3人で祈念碑に手を合わせた。

 しばらく目を閉じて、昔のことを思い出して、昔優しかった人たちの顔を思い出して、気持ちが落ち着いた。

 合図したわけではないけど、3人とも手を降ろしたところで、シンジがあたしの方を向いた。

 ちょっと前に子供みたいに泣いた後だったから、ちょっと恥ずかしかった。

 ・・・そうだ。

「シンジ」

「・・・ん?」

「あんたとしたいことがあるの。今、ここで。」

「・・・なにかな?」

「・・・・・・なんだろう。なんだと思う?」

 わかりにくいクイズになっちゃった。自分で言いにくいからって。

「あ~・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・笑わない?」

「・・・笑わない。」

「・・・キス?」

「・・・そう。」

「しよう。」

 割と、こいつは勘が良い。

キスしよっか。

 前にあたしから言ったことがあるような気がした。気のせいだと思うけど。

「・・・ガキみたい」

「・・・え?」

「なんでもない。コネメガネは?」

 聞いちゃった。聞くくらいならはじめからしなきゃいいのに。

 今度こそ、本気で怒るだろうな。

でも

・・・ごめん。

今日だけは許してほしい。

「下で待っててくれてる。ここ来る前に、アスカが来たら伝えて、って言われてたんだ。」

 何を言ったのか、不安になった。

 友達を失いたくない。

 勝手な女。あれも、これも。

 でもシンジの顔は笑ってた。

「今だけは好きにしていい、にゃ。だって。」

 ・・・あたし以上にみんなお見通しなんじゃないか。腹立つ。

「だから、今だけ、僕は、姫のものです。煮るなり焼くなり生で食べるなり好きなようにしてください。お好きなようにいかようにも。」

「うるさい。ほんとやめて、もう。」

「フッ、ごめん。リョウジ君の時のセリフちゃんと言えた?姫様、ってやつ。」

「やめろ。」

「アハハハ」

 よし。

 正対して、両腕を腰に当てた、足は肩幅よりも大きく開けてた。風が吹いた。

「・・・何笑ってんのよ。」

「いや、懐かしくて。ごめん、はい。」

 はじめて会った時もこのポーズだったっけ。

「これは、浮気じゃ、ない。」

 手を横に開きながら説明した。重要事項説明。

「はい。」

「別れの儀式だと思って。」

 そうだこれは、別れの儀式。少年時代にやり残したこと。

「は、え?もう会えないの?」

「そうじゃなくて、観念的な物として。」

 一度黙って、まっすぐあたしを見た。

 それから、もう一度、優しく笑った。

「オーケー。はい。」

 よし。

「レイは、向こう、向いてて。」

「ンフッ。はい。」

 手を口に当ててわざとらしい顔をする。相変わらず、予想外の行動を覚えている。その仕草が昔見たミサトそっくりだったことを思い出した。いったいどこで覚えてくるんだろう。

 深呼吸した。

「繰り返すけど、これは、絶対に、浮気じゃない、お互いに。」

「もちろん。」

 顔が笑ってる。けど意味を正直にとらえてる。誠実に、正面から。

「じゃあ、いくわよ。」

「・・・うん。」

 同じ会話をどこかでした気がする。

 でも気持ちは初めての、すがすがしい気持ちが心にあった。

 数歩前に歩いて近づいた。シンジの顔はちょっとだけ高い。

「・・・顔下げて。」

 わかってるくせに、あたしの顔を見て、笑ってる。

 シンジは優しく目を細めてから、顔を近づけてきた。

 頭を下げて、目を閉じて、顔を少しだけ右に傾けて近づいてきた。

 あたしも

 顔を上げて、目を閉じて、顔を少しだけ右に傾けて近づいた。

 それでもまだ遠い気がしたから、服を掴んで近づけた。

 シンジは私の肩に手を置いてくれた。

 

 

 夜風は涼しく、瞼に当たる月の光を感じた。

 

 

 しばらくして、顔を離した。顔が熱くなっているのを感じた。

 二人とも何も話さなかった。

 シンジの顔が見られなかった。

 肩から手が離れて、あぁ、これで終わる、って、

 さみしかった。

 でも、肩にあった手が下がって、あたしの腰を通って背中に回った。

 抱き寄せられた。

 大人の、強い力で。

 彼の顔が、愛おしそうにしているように、見えた。

 そんな顔するんだ。

 もう一度キスをされた。

 腕を張って体を離すことはしなかった。

 思わず、彼のえりをつかんで、握った。

 心臓の音が高まった。

 それから手は自然と、彼の首に回った。

 あたしも抱き寄せていた。

 どうしてか泣きたい気持ちがせりあがってきたけど、

 それが、ただ嬉しいという気持ちを、飲み込むことはなかった。

 これで最後だと、お互い考えていた。

 やめるべきタイミングがきて、キスは終わった。

 キスをやめても、腕はとかずに、お互いの距離を縮めようとしていた。

 腰にまわされた腕の力が強くて、少しだけ声が出た。

 つま先立ちになった。

 大人同士なのか、子供同士なのか、大人と子供なのか、わからなかったけど、安ら いでいた。 

 生まれた瞬間は、きっとこんな気持ち。

 母親にキスをされたリョウジの赤ん坊の姿を思い出した。

 生まれて親に抱かれているときはこんな気分なんだろうか。

 死ぬときはこんな気分で死にたい。

 その時あたしのことを抱いてくれている人は、たぶん、こいつじゃないんだろうけ ど。 

 でもきっと

 このキスは死ぬ前に思い出す

 忘れたくても忘れられない

 最後の

 

 トン

 

 シンジの胸を通り越した背中に、誰かが触ったのが分かった。

「碇くん。また会う日まで、さよなら。」

と笑いながら言った。

 今言わなくても良いと思う。というか

「向こうむいててって言ったでしょ!」

 

 そう言いながら、シンジの体を離しつつ、レイの方へ向かっていった。

 半分笑って、半分怒った顔で。

 彼女はいたずら顔で逃げていく。

 笑いながら近づきながら、彼の体から離れようとした。

 彼はあたしの右手をつかんでいた。

 あたしも。

 離れようとするあたしを、ほんのちょっと引き留めようとする右手。

 笑いながら逃げるレイを追いかけるあたし。

 右手だけが握られ、腕が少しずつ伸びた。

 あたしの後ろで、シンジがさみしそうにしている。

 あたしの背中を見送る彼と、あたし。

 1歩だけ彼は進んで、そして、止まった。

 腕は伸びて、二人の右手の指が名残惜しそうにお互いを触れあっていた。

 それで、最後には、離れた。

 赤い浜辺の時と同じ、お別れの儀式だった。

 それができたことは、たぶん、幸せなこと。

 言葉ではなかったけど、今度はあたしからも言えた。

 さよなら、シンジ。あなたを愛しあなたが愛する、マリによろしく。

 

おしまい

 




 ロマンス難しい。何回も書き直しました。でもこんな感じ、という流れは変わらず。シンエヴァ見てから、二次創作的に書きたかったのは、やっぱりこれだったかなぁ、と。僕の方の魂の救済というか。まぁそんな感じです。あとは宇多田ヒカルさんの曲。不快に思われた方ごめんなさい。
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