アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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参 『こんばんは』

「いらっしゃい。」

「こんばんは。遅くなってすみません。お世話になります。」

「どうぞ。」

「失礼します。」

 ちゃんとおじぎをして、シンジ君が開けてくれているドアから部屋に入った。

「久しぶり。リョウジ君。」

「お久しぶりです。碇さん。」

「・・・いつまで、このコント続けるの?」

「なにがですか、碇さん?」

「いや、気持ち悪いからやめてよ。」

 家に入ってから、シンジ君に言われて、笑った。

 僕がハグを要求すると、恥ずかしがりながら応えてくれた。

 体が大人になっても、昔に会ったまんまのシンジ君だ。

「今度会ったら、40過ぎのおっさんになってんじゃないの?」

「そんなこと、ないよ。たぶん。」

 数年前に相田先生から紹介された碇シンジ君。ヴンダーに乗って、最終決戦に行き、おそらく、立派に戦って、帰ってきた。あのエヴァのパイロットだったわけで、最終決戦を終えて、世界に変換と平和がもたらされた。その世界を変える重大な事象の、おそらく中心にいた人だ。尊敬している。

 あれから、何度か会う機会があった。話が合った。面白い人だなと思った。恥ずかしがり屋で、でも芯がありそうな感じ。僕と違うけど、一緒に話してると、どこか似ているところがある気がして、仲良くなれた。

 どういう仕組みか知らないけれど、一気に大人の男性になってしまった。

 でも鈴原先生や相田先生の同級生って聞いていたから、なんか、大変だな、と思った。

 成長ってやつは、時間だけはみんなに平等だと思うんだけど、その平等の権利はもらえなかったらしい。その境遇だけでも、大変なもんだなと思う。

 周りの人は、シンジ君がどう働いたか、どうして世界が変わったのか、を、あまり詳しく話したがらない。エヴァと言う機体があって、重要な役割のあるロボットだったらしい。あの戦いを境に全てが廃棄された。自分が生まれる前のセカンドインパクトやサードインパクトについて詳しく知りたくても、その中心にいた人たちの口から詳細が語られることは、少ない。世間的にはセカンドインパクトやサードインパクトについては、学校の授業やらで繰り返し聞かされる出来事であって、その説明もどこか白々しく感じることがある。作り物のような、子供だましのような感じだ。だからしばらく、シンジ君やアスカさんや、最終決戦の後に知り合った赤木博士に、そのあたりのことを聞いてみたりしたんだけど、あまり話したくないのか、話せない内容なのか、さみしそうな顔をするばかりだった。だから聞くのをやめた。機密情報とやらであると指示されたし、新しい世界にはそぐわないものとして、自然とタブーになった。

 なぜだろう。

 シンジ君に至っては、もっとみんなにほめたたえられたりしていても、いいんじゃないかと思うんだけど。

「何か飲む?」

「酒お願いします!碇さん!」

「えぇ、また?いいの?」

「お願いします!碇さん!」

「わかったよ。ケンスケには内緒だよ。」

「いただきます!碇さん!」

 村では、先生が厳しく目を光らせているし、アスカさんが子ども扱いするから飲めないけど、街に出るときはシンジ君が甘やかしてくれる。というか、同い年なんだから、シンジ君が飲めるんなら俺だって飲んでいいはずだ。同い年じゃなのか?とにかく、感覚的には同い年。

 とにかく、ちょっとした背伸び。大人の入り口だ。

 こういうときにだけ、ちょっとだけ、飲んでみる。意外といける。そう思えることが安心した。大人になったと実感して安心していた。

 シンジ君はしょっちゅう飲むわけじゃないらしいんだけど、俺が来るのを見込んで金色の缶ビールをそろえてくれていた。

「飲みすぎないようにね」

「前から言おうと思ってたけど、なんか慣れてるね。あんま飲まないんでしょ?」

「・・・昔お世話になった人が酒のみだったんだよ。」

「・・・へぇ。」

 乾杯して、お互いの近況を報告しあった。街と村、分かれているから、お互いの近況報告は新鮮だった。

「シンジ君ってアスカさんと付き合ってたの?」

「ブフッ!」

 タンブラーへ逆噴射してる。

「ごめん。ひどい別れ方をしたんだね。」

「ゲホッ。いや、付き合ってはいないよ。」

「付き合って、は。」

「・・・うん。」

「なにそれ。」

「中学の時に一緒に住んで、パイロットとして一緒に仕事してただけだよ。」

「僕に隠し事?」

「・・・どういう意味?」

「うそじゃん。絶対。見ればわかるよ。」

「いや、ほんとうだって。」

「じゃあ、告白はしたんだね?」

「え、あ、いや、うん。」

「どっちが振ったの?」

「ど、っち。いや、そういう余裕がなかったんだよ。」

「は?」

「だから、付き合って、とか、そういう。」

「そうなんだ。どさくさに紛れてくっついたりしないの?」

「いろいろ複雑なんだよ。」

「でた!大人は汚い!」

 思いっきり体を反って言った。ピアニストみたいに。

「えぇ、なんで。」

「複雑な事情を抱えてるからしょうがないんだ。子供にはわからないんだ、って。」

「いや、そういうつもりはないけど。説明が難しいだけだよ。」

「・・・あ、そう。」

 相変わらず、人の優しいところがにじみ出ている。

 あまり、あの人とさんとどうにかなるようにも見えないんだけど、シンジ君からいったんだろうか?

「アスカさんって、昔からあぁなの?」

「あぁって?」

「なんか年を感じさせない若さ振り回して、すごい遊んだりして、でもすげぇ頭良くて、」

「・・・うん。まぁ、そうかな。今村でそんな感じなんだ。」

 赤い顔で頬杖を突きながら返事をするシンジ君は、どこか幸せそうに話を聞いていた。これはシンジ君からいったパターンだな。それで振られたんだ。

 この前バイクで殺されかけた話をしたら、爆笑してた。

「そういえば、今日彼女さんは?」

「今日は来ないよ。」

「邪魔して悪いね。ねぇ彼女とどんなことするの?」

「ブフッ」

「なんでまた逆噴射?」

「いや、まぁ、それなりのこと。」

「エロい話じゃないよ?」

「あ、そう。じゃあなに?」

「いややっぱエロい話。」

「・・・言わないよ。」

 男二人が酒飲んでいると、まぁ途中からこういう話題で盛り上がるのは、しょうがいないことだよな。ましてやあんな美人でスタイルがいい彼女だから。

「でも、気持ちが合うのが一番だと思うよ。」

「あら、ずいぶん真面目だね。」

「うん。結局、気持ちが離れてると辛いだけだと思うから。」

「急に大人な意見だね。」

「個人的感想ですから。どんなに近くても気持ちがわからないこともあるし。」

「そう?僕そういうことないけど。」

「リョウジ君は、なんかそんな感じだね。うらやましいよ。」

「近くで話をしてたら、たいていのことはわかっちゃうよね。」

「・・・じゃあ離れてたら?」

「離れてたら無理でしょ。」

「う~ん・・・」

「あ、今アスカさんのこと考えた。」

「考えてないよ!」

 やっぱりシンジ君をからかうと面白い。同年代と思って話せるのに、ちょっと大人なのも面白い。年上からかってる気にもなる。なかなかの特殊な存在だ。

「遠距離恋愛とか、そういうこと?」

「まぁ、そうかな。近くても、信用がなくなっちゃったらね。相手が怖いと思うこともあるのかもしれない。」

「はぁ、そういうもんかな。相思相愛みたいなのはないの?」

「あるだろうけど。やっぱりそう思いあうってことだから、本当に理解しあえる、ってことでもないんじゃない?」

「はぁ。」

「彼女というのは遥か彼方の女と書く。女性は向こう岸の存在だ、男と女の間には、海よりも広くて深い川があるって、誰か言ってたよ。」

「誰そのキザったらしいセリフ言うやつ。」

「・・・忘れちゃった。」

 僕からは出ないセリフだな。人生経験を積むと違うんだろうか。

「じゃあ、結局わからない同士、わかったふりして付き合うのが一番、ってことかな?」

「それだとなんか悲しいよね。だましあってるみたいで。」

「でも、そういうことじゃん。大人な世界だ。」

「う~ん。信じる、ってことじゃない?」

「信じる?」

「そう、信じる。」

「シンジだけに。」

「フッ。そう、シンジだけに。」

 意味なく乾杯した。

「おっとなだねぇ。よくわかんね。でも、そうかぁ。アスカさんだって、先生と仲良さそうだけど、あの二人もたまには、秘密を隠してるのかもしれない。本音を隠したり、本音とは別のことを話したり・・・」

 そういうとシンジ君は、少し寂しそうな眼をした気がした。

「あ、ごめん。昔好きだった女の近況を。」

 わざとらしく手を立てながら笑って話すと、笑いながら酒を飲んでいた。

 

「シンジ君はさ」

「うん。」

「・・・僕の両親のこと知ってるんでしょ?」

 僕の質問に、シンジ君は言葉を失っていた。予想される反応だった。

 僕は、ニアサーと呼ばれる事象の少し後に生まれた。世界は荒れていた。大地は真っ赤に染めあがり、多くの人が消え、人が住める場所がなくなり、封印柱と呼ばれるL結界浄化無効阻止装置の効果があるところでのみ、人が何とか生きていけた。

 ヴィレ、クレイディト、そのほかの支援団体の力、離れた場所にできた村の相互関係で、なんとか生きてきた。物心ついた時には、僕は孤児として村の人に育てられていて、村のおばさんが里親として育ててくれた。その人は多くの人の親として、生活していた。ニアサーで、自分の息子を亡くした、というのが理由だったらしい。

 大きくなってから、クレイディトに面倒をみてもらって、村と寮が僕の実家になった。

 自分に、どこかで暮らしている親がいる、というのは、なんとなく察していた。

 僕を捨てた、ということではないらしい。

 たぶん、シンジ君たちがいた組織と、かかわりのある人。

 あまり多くを聞かなかった。

 孤児は珍しくなかったから、同じような境遇の仲間がたくさんいた。

 優しくしてくれる大人がたくさんいた。尊敬できる大人がたくさんいた。

 だから、その人たちを悲しませたり、困らせたりしないように気を付けた。

 

 最後の戦いが終わって、世界が変わって、僕が生まれる前に消えた人の一部が帰ってきたりもした。泣きながら再会する家族を何人も見てきた。

 僕の前に母親は現れなかった。父親も。

 少し寂しかったのは、認めざるを得なかったけど、しょうがないことだった。

 生まれてから14年たっていたから、親がいる、という感覚の方が、不自然な気もしていた。 

「なんか、もう、すっきりさせた方がいいと思うんだよな。僕がじゃなくて、みんな的にも」

「・・・みんな的に?」

「そうだよ。なんかタイミングはかってるような感じするもん。」

 それは本心だった。本音を隠そうとしたわけじゃない。最後の戦いの後は、多くの人が、僕のことに気を使っているようにも見えた。みんな優しいんだけど、いつ言うべきか迷ってる、みたいな雰囲気を感じた。

 どうせならもう全部話してしまったほうが良いんじゃないだろうか?

「リョウジ君は、知りたいの?」

「ん、や、別に。」

「別に?」

「悪く言う気はないけど、あまり、もう、関係ないんじゃないかな?いまさら、一緒に暮らせるってわけでもないんでしょ?」

 シンジ君が言葉を失っていた。

「いや、言い方が悪かったよ。その、僕にとっては、もう、親っていない、っていうのが自然、っていうか、なんかそんな感じだから、どうしても知りたい、教えて、って気はしてないんだ。」

「そうか・・・」

「だから、無理して知りたいとは思っていないんだけど、一応、みんな話したがっているみたいにも感じるし、だったら全部明らかにした方が、みんなのためなんじゃない?」

「・・・リョウジ君の気持ちが一番だと思うけど、言いたいことはわかるよ。」

 シンジ君は、いろいろと知っているんだろうけど、それでも僕のことを考えてくれている気がする。シンジ君も傷つけたくない。

 この話題はこれで終わりにしよう。

「それで、彼女とどんなことするの?」

 




 シンジ君とは、今でも仲良く話す間柄、ってことにしよう、と思いまして、早い段階でこういうシーンを作ろうと思いました。
 それでリョウジ君17歳(設定上)が街に出た時に、そこで生活する彼の家で、酒を飲む。酒が大人の入口。そういう風に考えました。ただ、割と後の方でやり取りの部分とか手を加えました。それをきっかけに、今後のやり取りだけのシーンとかを作ってみようと思いはじめたのを覚えています。
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