あるとき先生に呼び出された。学校の教室に。相田先生が物理とか教えてくれた場所。今は先生の他に、街から呼ばれた先生が授業をしたりしている。
そろそろ、ちゃんとした学校に建て替えたりしなきゃいけないんだろうか。少し寂しい。
昼間、仕事を途中にして、教室に入ると、相田先生の他にも、鈴原先生と、赤木博士と、里親の秋吉さんがいた。赤木博士は久しぶりだ。
ついにきた。
「すまないな。今日は、お前に伝えなきゃいけないことがあって、呼び出したんだ。」
「いえ。」
「お前の親御さんについてだ。」
自分が思った以上に緊張したことに、驚いた。全く問題ないと思っていたから。
相田先生が僕を椅子に座らせて、その対面に先生が座って、話を聞いた。
自分の本当の親のこと。
驚いた。
まさか、あのヴンダーの艦長だったなんて。
村から見た、あの神様が乗っていそうな、島でも運んでいるクジラみたいな、空飛ぶ船。あんなでかい船に乗って、世界を滅ぼしかねない組織と戦っているんだ。体がふるえるほど、尊敬していた。あの戦いに出た人々全員を。シンジ君やアスカさんを。
あの戦艦に乗って、人の前に立って、責任をもって、トップに立って働いていた。
そして死んだ。あの時に。
経歴も聞いた。
どんな人だったかも。多くの人の尊敬を集めていた、らしい。
どう生きて、どう死んだかを話した時、相田先生は泣いていた。鈴原先生も。
僕も。
意外だった。
それから、父親のこと。
どんな人だったか。昔あった組織の、重要なポストの人だった。
ニアサーの後に起きた、サードインパクトをとめるために、自ら犠牲になったってことだった。母親に続いて、すげぇ人だったらしい。なんか自分がいきなり、物語の主人公になった気分だった。不思議な気分だった。みんなが僕をおだてるために嘘をついてみるみたいだった。ふざけた雰囲気がなかったけど。
赤木博士の、大学の友人だったと聞いてまた驚いた。そうなんだ。
同い年。生きていたら、博士と同じ年齢の人。
生きていたら。
赤木博士は、静かに話を聞いていた。幸せそうな顔にも見えた。やっぱり、この話が明らかになるのはみんなのためにも良かったんだろう。
僕にとっては、どうなのかな。
それでも、心に温かい感情がわくのは、抑えられなかった。
名前を聞いて、また驚いた。同じ名前。
どうしてそうしたんだろう。
父親は僕が生まれる前に亡くなった。
きっと、それが、理由だったんだろう。
母親は父親を愛していた。
父親も母親を愛していた。
二人が亡くなってもその事実が、変わらず残っている。
僕の名前として。
相田先生が話を終えた後、次は秋吉さんが僕の前に座った。
僕は生まれてから、親とは全く会うことはなかった。物心がつくころには、多くの大人に囲まれていて、かわいがってもらった。
それでも親がいないことに、疑問をもたなかったわけじゃない。
秋吉さんは、里親として、僕の母親の代わりとして、愛情を持って接してくれた。それは疑いようのない事実だった。
それでも秋吉さんは、自分が本当の母親ではない、ということを、ちゃんと話してくれた。ごまかさず、本当の母親は別にいて、今もどこかで立派に生きている。僕のことを愛しているけど、事情があって会えない。いつか会えるかもしれない。それまで立派に生きなさい、と話してくれた。誠実に話してくれていることが分かったから、言うとおりにした。孤児のみんなとも仲良くできた。さみしいと思うことはあったけど、辛くて生きていけないとは思わなかった。
それでもいつでも明るい秋吉さんが、だんだんと涙を浮かべて
「今まで悪かったね。」
と話しだしてから、少し、僕も、さみしくなった。
「いろいろ隠し事してたみたいに感じるだろうね。」
「そんなことないですよ。」
「立派な母親と父親を持ったことを、誇りに思うといいさ。」
「・・・はい。」
「・・・いけないね。本当はこんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、」
「・・・はい。」
「あんたを本当の息子のように思ってるから、都合がいいことだけど、たまには甘えてもいいよ。おばさんをなぐさめると思って。」
明るい、笑わせるような言い方だったけど、涙を流しながらそう言ってくれて、僕も涙が止まらなくなった。抱き合った。僕のもう一人のお母さんと。
相田先生も、赤木博士も少しさびしそうにしていた。
最後に赤木博士が、僕に向き合った。
話を待ったんだけど、僕の顔をしばらくながめていた。
「もっと近くで見てもいいかしら?」
静かに話す赤木博士が、とてもきれいに見えた。無言で近づいた。博士は、僕の顔に手を添えてじっと見ていた。
クールな印象の赤木博士は、こういうときでもクールなんだな、なんて思っていた。
静かに、手がそえられていた。
「やっぱり、似てくるのね。」
それだけ言った。
段々と顔が赤くなっていくのが見えて、涙が頬を流れた。
赤木博士は、普段はとても聡明で、知的で、クールだった。
でも今は、とにかく、何を言うべきか、言わないべきか、悩んでいるように見えた。
僕の方から近づいた。
感謝の気持ちがあったから、僕から赤木博士を抱きしめた。
赤木博士は、僕の首に手をまわした。
しばらくして、声をあげて泣く赤木博士の背中を、さすった。
僕のために、みんなが考えて行動してくれた。
そのやさしさにこたえたかった。
最後に赤木博士から、缶を渡された。四角い、茶色い、手のひらより大きい缶。
「記録も残さない、というのが、決めたことだったんだけど、どうしても捨てきれなくて、私が残しておいたものよ。あなたに渡すわ。」
母親と父親に関する何かが入っているのがわかった。
変な話だけど、ちょっと怖かった。なんでだろう。
話をすべて聞いて、何か自分の中で変わった気がしたんだけど、それでも変わらない何かがあって、缶の中身が、何か自分の根本を変えてしまいそうだった。だから怖かったのかもしれない。
「ありがとうございました。」
皆さんの中で、自分だけが先に教室を出た。
廊下の離れたところに、アスカさんが立っているのが見えた。腕を組んで、ギリギリ声が聞こえる距離で、壁にもたれて立っているようだった。
気づかないふりをして、村の僕の居住スペースに戻った。
涙をふいて。
自分の部屋で、缶をながめた。
開けられなかった。
まだ、開けるべきじゃない気もした。
やはり怖かった。
自分が自分でなくなる気がしたから。
「また街に出るのか。」
「えぇ、研究所にサンプルを運んだり、顔見せしたり。村のラボに持ち帰ったり。そういう仕事です。」
「街の誘惑に負けて、村から出る、とかになったらさみしいな。」
「そんなことないですよ。じゃあ行ってきます。」
「気をつけてな。」
先生と会話をして、僕は車を出した。
あまり日常に変化はない。
自分の心の中だけの問題だから。当たり前だけど。
ちょっとだけ、車から見る風景が変わった気がした。
赤かった大地から緑の風景が広がった。
その時よりもさらに、何かが変わっている気がする。
あの日あの瞬間に、自分は大人になったのだろうか。
書き始めた話のメインになるはずなんですけど、うまく書けなかった。というか、あくまできっかけとしての話になるので、淡々と進めても良かったし、ただ、伏線を作ったり、心理描写とか設定とかが上手にねじ込めたらよかったのにな、とは思ってます。里親はいる、という設定にしたので、とあるキャラや名前を変えて、ここだけ登場させました。里親も何もいない、っていうのは、不自然じゃないかな、と思ったので。