アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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四 『いない親がいた話』

 あるとき先生に呼び出された。学校の教室に。相田先生が物理とか教えてくれた場所。今は先生の他に、街から呼ばれた先生が授業をしたりしている。

 そろそろ、ちゃんとした学校に建て替えたりしなきゃいけないんだろうか。少し寂しい。

 昼間、仕事を途中にして、教室に入ると、相田先生の他にも、鈴原先生と、赤木博士と、里親の秋吉さんがいた。赤木博士は久しぶりだ。

 ついにきた。

「すまないな。今日は、お前に伝えなきゃいけないことがあって、呼び出したんだ。」

「いえ。」

「お前の親御さんについてだ。」

 自分が思った以上に緊張したことに、驚いた。全く問題ないと思っていたから。

 

 相田先生が僕を椅子に座らせて、その対面に先生が座って、話を聞いた。

 自分の本当の親のこと。

 驚いた。

 まさか、あのヴンダーの艦長だったなんて。

 村から見た、あの神様が乗っていそうな、島でも運んでいるクジラみたいな、空飛ぶ船。あんなでかい船に乗って、世界を滅ぼしかねない組織と戦っているんだ。体がふるえるほど、尊敬していた。あの戦いに出た人々全員を。シンジ君やアスカさんを。

 あの戦艦に乗って、人の前に立って、責任をもって、トップに立って働いていた。

 そして死んだ。あの時に。

 経歴も聞いた。

 どんな人だったかも。多くの人の尊敬を集めていた、らしい。

 どう生きて、どう死んだかを話した時、相田先生は泣いていた。鈴原先生も。

 僕も。

 意外だった。

 それから、父親のこと。

 どんな人だったか。昔あった組織の、重要なポストの人だった。

 ニアサーの後に起きた、サードインパクトをとめるために、自ら犠牲になったってことだった。母親に続いて、すげぇ人だったらしい。なんか自分がいきなり、物語の主人公になった気分だった。不思議な気分だった。みんなが僕をおだてるために嘘をついてみるみたいだった。ふざけた雰囲気がなかったけど。

 赤木博士の、大学の友人だったと聞いてまた驚いた。そうなんだ。

 同い年。生きていたら、博士と同じ年齢の人。

 生きていたら。

 赤木博士は、静かに話を聞いていた。幸せそうな顔にも見えた。やっぱり、この話が明らかになるのはみんなのためにも良かったんだろう。

 僕にとっては、どうなのかな。

 それでも、心に温かい感情がわくのは、抑えられなかった。

 名前を聞いて、また驚いた。同じ名前。

 どうしてそうしたんだろう。

 父親は僕が生まれる前に亡くなった。

 きっと、それが、理由だったんだろう。

 母親は父親を愛していた。

 父親も母親を愛していた。

 二人が亡くなってもその事実が、変わらず残っている。

 僕の名前として。

 

 相田先生が話を終えた後、次は秋吉さんが僕の前に座った。

 僕は生まれてから、親とは全く会うことはなかった。物心がつくころには、多くの大人に囲まれていて、かわいがってもらった。

 それでも親がいないことに、疑問をもたなかったわけじゃない。

 秋吉さんは、里親として、僕の母親の代わりとして、愛情を持って接してくれた。それは疑いようのない事実だった。

 それでも秋吉さんは、自分が本当の母親ではない、ということを、ちゃんと話してくれた。ごまかさず、本当の母親は別にいて、今もどこかで立派に生きている。僕のことを愛しているけど、事情があって会えない。いつか会えるかもしれない。それまで立派に生きなさい、と話してくれた。誠実に話してくれていることが分かったから、言うとおりにした。孤児のみんなとも仲良くできた。さみしいと思うことはあったけど、辛くて生きていけないとは思わなかった。

 それでもいつでも明るい秋吉さんが、だんだんと涙を浮かべて

「今まで悪かったね。」

と話しだしてから、少し、僕も、さみしくなった。

「いろいろ隠し事してたみたいに感じるだろうね。」

「そんなことないですよ。」

「立派な母親と父親を持ったことを、誇りに思うといいさ。」

「・・・はい。」

「・・・いけないね。本当はこんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、」

「・・・はい。」

「あんたを本当の息子のように思ってるから、都合がいいことだけど、たまには甘えてもいいよ。おばさんをなぐさめると思って。」

 明るい、笑わせるような言い方だったけど、涙を流しながらそう言ってくれて、僕も涙が止まらなくなった。抱き合った。僕のもう一人のお母さんと。

 相田先生も、赤木博士も少しさびしそうにしていた。

 

 最後に赤木博士が、僕に向き合った。

 話を待ったんだけど、僕の顔をしばらくながめていた。

「もっと近くで見てもいいかしら?」

 静かに話す赤木博士が、とてもきれいに見えた。無言で近づいた。博士は、僕の顔に手を添えてじっと見ていた。

クールな印象の赤木博士は、こういうときでもクールなんだな、なんて思っていた。

 静かに、手がそえられていた。

「やっぱり、似てくるのね。」

 それだけ言った。

 段々と顔が赤くなっていくのが見えて、涙が頬を流れた。

 赤木博士は、普段はとても聡明で、知的で、クールだった。

 でも今は、とにかく、何を言うべきか、言わないべきか、悩んでいるように見えた。

 僕の方から近づいた。

 感謝の気持ちがあったから、僕から赤木博士を抱きしめた。

 赤木博士は、僕の首に手をまわした。

 しばらくして、声をあげて泣く赤木博士の背中を、さすった。

 僕のために、みんなが考えて行動してくれた。

 そのやさしさにこたえたかった。

 

 最後に赤木博士から、缶を渡された。四角い、茶色い、手のひらより大きい缶。

「記録も残さない、というのが、決めたことだったんだけど、どうしても捨てきれなくて、私が残しておいたものよ。あなたに渡すわ。」

 母親と父親に関する何かが入っているのがわかった。

 変な話だけど、ちょっと怖かった。なんでだろう。

 話をすべて聞いて、何か自分の中で変わった気がしたんだけど、それでも変わらない何かがあって、缶の中身が、何か自分の根本を変えてしまいそうだった。だから怖かったのかもしれない。

「ありがとうございました。」

 皆さんの中で、自分だけが先に教室を出た。

 廊下の離れたところに、アスカさんが立っているのが見えた。腕を組んで、ギリギリ声が聞こえる距離で、壁にもたれて立っているようだった。

気づかないふりをして、村の僕の居住スペースに戻った。

 涙をふいて。

 

 自分の部屋で、缶をながめた。

 開けられなかった。

 まだ、開けるべきじゃない気もした。

 やはり怖かった。

 自分が自分でなくなる気がしたから。

 

「また街に出るのか。」

「えぇ、研究所にサンプルを運んだり、顔見せしたり。村のラボに持ち帰ったり。そういう仕事です。」

「街の誘惑に負けて、村から出る、とかになったらさみしいな。」

「そんなことないですよ。じゃあ行ってきます。」

「気をつけてな。」

 先生と会話をして、僕は車を出した。

 あまり日常に変化はない。

 自分の心の中だけの問題だから。当たり前だけど。

 ちょっとだけ、車から見る風景が変わった気がした。

 赤かった大地から緑の風景が広がった。

 その時よりもさらに、何かが変わっている気がする。

 あの日あの瞬間に、自分は大人になったのだろうか。

 




 書き始めた話のメインになるはずなんですけど、うまく書けなかった。というか、あくまできっかけとしての話になるので、淡々と進めても良かったし、ただ、伏線を作ったり、心理描写とか設定とかが上手にねじ込めたらよかったのにな、とは思ってます。里親はいる、という設定にしたので、とあるキャラや名前を変えて、ここだけ登場させました。里親も何もいない、っていうのは、不自然じゃないかな、と思ったので。
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