アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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六 『就職先に変な人』

「じゃあ博士。村に建てられる祈念碑の建設計画。よろしくお願いします。こっちの段取りは、メールで流したとおりで。」

「えぇ。よろしくね。」

 赤木博士とビデオ通話で会話をした。

村にできる祈念碑の建設のための計画を話し合った。ほとんどあちら任せだが、村の状況は、自分が間に入って話している。

 最終決戦が終わって、空が絶望的な色をした後、ヴンダーに乗っていた人たちが戻ってきた。すべてが終わって、海と、大地が戻った。多くの変換が起きて、それで、戻らない人もいた。

 ミサトさんは、最後の戦いで、自らの命を犠牲にして、その責務を全うした。立派な最期だった。旦那さんと同じように、本当に命をかけた。立派な人だった。

 世界の変換が落ち着いてきた今、この村に、祈念碑を作る計画が進んでいた。

 名前は掘らない。日付も掘らない。詳細は表には書かず、ただの平和祈念碑。

 もともと、セカンドインパクトから機密情報については公にはされてはいなかった。ニアサー以後は、特にその特殊な状況から情報統制どころでもなく、復興の雰囲気が高まっている中今その時期の情報をわざわざ明らかにすることもない。

 でも、何か残したい、という気持ちはみんな一緒だった。

 村に、何か。

 赤木博士と相談した結果、平和祈念碑を作ることで話がまとまった。お墓ではなく、祈念碑。

 場所は決まって、周りの道路もできつつあった。いよいよ着工だった。

 段々と、昔のことは昔のことになりつつある。

 そして、大事なものを、残そうという人の気持ちを、最近特に実感している。

 

 それから、ちょっとした変化。

「おめでとう。あなた。」

「おう。ありがとう。」

 ヒカリが酌してくれた。政府から、正式というか、一応の医師免許を授与された祝いに、今日はちょっとしたお祝いみたいな席になっていた。

 これまでの特殊条件下での医師、とはまた違う肩書になった。

「本当に、おめでとう。本当のお医者さんになったわね。」

「肩書だけね。頭良くなるわけやないから。」

「本当に、すごいことよ。」

 そういいながら、涙を浮かべてくれて、がらにもなく、ちょっと泣けた。

「さっ飯にしよっ。飯に。豪勢なもん作ってくれたねぇ。」

 これから大変だ。世界が安定してきたから、ちゃんとその中でも、医者として並べるように勉強しなければならなくなった。

 家族のために頑張らないといけない。

 時間が流れて、いろいろなものが変化する。自分一人の体じゃなくなると、やらなきゃいけないことでいっぱいになるな。

 そういえば・・・

「式波が役所のお姉さん。ウハハハハハハ。」

「なんで笑うの?失礼よ。」

「いや、ちょっとさすがに無理ないか?式波やで。中学の時と大違いの仕事に収まるやんけ。」

 式波の就職先が決まった。村役場の職員。

 ダメだ。笑ってしまう。

「立派な仕事よ。」

「それは知ってるけどもやな。式波がそれって、ちょっとなぁ。」

「あっているかもしれないし、アスカは村に残って仕事がしたいんでしょ?笑っちゃだめよ。」

「まぁ、そうやな。今までケンスケの手伝いはしてたけど、ちゃんとした役職がある、っちゅうほうが、本人にはえぇかもしれんな。村に根を張ってってことで。」

「・・・でも相田君が許してないんですって。」

「え?どういうこと?」

「なんか、村で仕事をするのはいいけど、それでおさまるような人じゃないんだから、一時的だ、って言って、聞かないんだって。」

「ケンスケがそんなこと言うてんの?あいつも相変わらず頑固やなぁ。」

 ケンスケの家で、あの二人が机を間にして、両腕を組んでムスッと相対している姿を想像した。ケンスケは無表情で、式波は露骨に不満な様子の二人だ。

 ケンスケの言っていることが正しいというのは、すぐに分かった。相変わらず大した男だなと思う。

「・・・ねぇ鈴原先生。」

「・・・なんでしょう式波さん。」

「なぜこれほど書類があるの?」

「村民全体の個人情報だからじゃないでしょうか?」

「なぜ、データに変えられてないの?」

「昔ながらの方法だからじゃないでしょうか?」

「・・・非効率よね。」

「・・・そうですね。」

「・・・どうしてデータ管理に変わらないのかしら?」

「・・・お金がないからじゃないでしょうか?」

「なによそれ!」

 ついにキレおった。

 またはじまった。

 言いたいことはわかるよ。わかるけどもやな。

「あんたクレイディトに要請してなんとかしてもらいなさいよ!石器時代じゃないんだから!」

「石器時代に書類はありません。」

「うるさい!」

 木造の村役場で式波と話していた。話がある、っちゅうて。嫌な予感がしたけど、また文句だった。

 もう昔と違って、ここが生きていくための重要拠点というわけではなくなった。今でもまだ支援を受けているとはいえ、贅沢言える立場でもない。街に金が流れていくんだから。

頭いいのはえぇけど、もう受け入れてほしい。

「式波ぃぃっ!!」

「な、な、なに。」

 両肩をガッと力強くつかんだ。さすがの式波もうろたえた。

「日本の行政なめんな!頭は固い、腰は重い、話は長い、お金はない、仕事は丁寧!ディス、イズ、ジャパニーズスタイル!」

 拳グッ。

「いっ!勢いだけで押し通ろうとしないでよ!」

「先生は!帰ります!」

「えっ、ちょ、ちょっと!」

 逃げた。

 あとは頼んだ式波元少佐殿。

 いやっ!

 役場のお姉さん!

 

 

 

 山積みの書類とにらめっこして、早1時間。椅子にもたれて、タオルを目において、休んでいた。物理的な収納、管理を考えただけでも、気が滅入る。

 あのドクターゴリラに訴えても無駄だとわかった。リツコに直談判してみようか。ダメだ、余計な負担を増やしちゃうし、そもそもお金の管理をどうこうする立場でもないのに、迷惑がかかる。自由にできる立場で動くならストレスも少ないだろうが、時代が変わった。

 くそっ。アナログめ。

「お疲れ様です。」

 突然、目の前にお茶を出された。

「あぁ、あぁ、ありがとう、ございます。」

「かしこまらなくていいですよ。アスカさんが役場勤めになってくれてうれしい。」

 同じ部署の人だ。名前は、確か高橋さん。

「あたしは、この書類を把握して、村民の情報を管理すればいいのよね?」

「そう、村民課だから、出生届とか、死亡届とかそういうのを受理したり、管理したり。人が少ないから、それ以外の庶務も引き受ける感じです。」

「・・・わかった。」

「わからないことがあったらなんでも聞いてくださいね。」

「ありがとう。」

 そういって出されたお茶を飲んで、書類の束をめくったりしてみた。

「高橋さん、は、」

「はい。」

「このまま村にとどまるのよね?街に出るって人も増えたけど。」

「そうですね。あたしこの村が好きで、子供たちのこともあるけど、街の生き方しかないわけじゃないと思っているから。」

 そうよね。そうよ。ケンケンよく聞け。

「未来のこと考えて、街で活躍する、っていうのもわかりますけどね。もしかしたら村も小さくなるかもしれないし。」

 グッ。

「子供のためにも街のこと考えたけど、でも、好きな場所や人のところで暮らすのも幸せだなと、思います。」

「そうよね。」

 笑顔で話していて、なんか心が落ち着いていく実感があった。こんな会話、そういえば中学に通っていた時くらいしか、してなかった気がする。相手はヒカリだけだった。

 あれ?あたしの交友関係って、狭い?・・・別にいいけど。

「仕事で不安はありませんか?」

「うん、今のところ。」

「それはよかったです。基本はそんなに難しい仕事はありませんから、安心してくださいね。」

 ケンケンが聞いたら、逆に怒り出しそうだ。

「さっき言った仕事の他は、言い方は悪いですけど、まぁ庶務ですし。あぁそれから、村を回って話を聞くのも仕事です。」

「話を?」

「届け出を受けたり、ほら、子供が生まれたりとか、生まれそう、とか、病気がどうとか、死亡とかって生活と密接だから、直接会って、いろいろと把握するのも大事な仕事、ってことで。外に出て回ってもいいんですよ。情報は共有してもらえたら、助かるし。」

「そうか。じゃああと1時間くらいしたら出てみるわ。」

「自分の知っている周辺からまわると実感が早いですよ。生年月日とか、出生地とか聞くけど知っている人の方が覚えやすいから。」

「うん、だいたい今4分の1くらい覚えたと思うから。」

「・・・え、うそ。」

 

 漢字がネックだと思ったけど、すんなり把握できた。よかった。

 直接回って、直接聞くっていうのが、アナログだけど、確かにかなり実感の伴う大事な仕事だと思えた。妊娠して出産まで十月十日っていうらしいけど、多少の前後はあれ、そういうものだと思えば、早めに把握ができる。いきなりデータが送られてきました、っていっても、仕事は早いかもしれないけど、やっぱり把握するには、気持ちが大事なのかもしれない。

 もっと学業を意識していた時は、そんな風には考えなかった気もする。

 まぁ、今は大人らしく、多少気楽に、自分の居場所を確保するのというのが、優先順位が高いな。

    もっと自分の能力を発揮しないと、ダメ。

 うるさい、ケンケン。

 居座ってやる。

 肩に紙製の帳簿を置きながら、あれこれ考えながら村の中を歩いていた。

「あれ、アスカさん。何やってんの?」

「仕事でぇす。」

「何の?」

「役場でぇす。」

「え、ほんと。うそん。」

 そんなやり取りを何人かとした。そんなに意外だろうか。でも確かに村の中をあっちにいったりこっちにいったり歩くのは、新鮮だった。

 何度か来たことのある第3村も、ケンケンの家にかくまってもらったくらいで、遠くからながめるくらいだったし。実際に自分がその中の一人としてウロウロすることになるなんて、思ってもみなかった。

「アスカさん、何してるの?」

「役場の人間として、把握をしようと思って。」

「誰が?」

「・・・あたしが。」

「役場の人になったの?」

 そんな会話を計5回して、他愛もない話をしつつ、情報を把握して回った。

 第3村がどうできたか、村の人が、どう集まったか。そういうこともわかるから、意外と面白かった。自分が守ろうとした場所。守りきれた場所、ということでいいんだろう。その場所が変わらないように、なくならないようにしたいと思っていた。

 最後にまわる場所は決めていた。鈴原が、この人には会っておけって、ある時言っていた。村が正式に村であるために、村長を決めることになっていた。選挙とかではなく、推薦で。

 坂本さん。

 70歳。

 独居。

 第3村に初期からいる人。

 おもろい人やから、話してみ。

 そういわれていた。

「すいません。役場から来ました。」

「おぉ、おぉおぉ。」

 仮設住宅ではなく、ずいぶん前に大工さんと街からの手を借りて建てられた日本家屋の玄関で声をかけると、近くの6畳間から声が聞こえた。

「お!アスカちゃん!」

 白髪で、眼鏡をかけている中肉の男性。もう少し年を取っていると言われても納得できそうだった。動きがちょっと遅い。苦労が多い人生を送ると、そうなるんだろうか。

「役場で働くことになったんで、ごあいさつに。」

「いらっしゃい!どうぞ中入って。」

 そういわれて、6畳間に入った。意外ときれいに片付いていて、奥には仏壇があった。

 記録を見た。奥さんを数か月前に亡くしている。病気で。頭の中の記録を確認しながら、仏壇を見た。

「お線香をあげさせてもらっても」

「おぉおぉおぉ。お願いします。喜ぶよ。」

 6畳間の畳に座って、あまり、経験はないけど、こうするもんだという作法にならって、手をあわせた。

 お墓は、ケンスケのお父さんと同じ場所だっただろうか。村の設備が整ったら、また場所を移すんだろうか。

「前は、眉間にしわ寄せてたけど、今は幸せそうだね。」

 振り返ってみると、あたしの方を見て、言っているみたいだった。誰かと間違えているのか、とも思ったけど、そうじゃないらしい。

「ずいぶん落ち着いたね。」

「よくご存じですね。」

「美人のことはね。忘れないよ。」

 どう反応するのが正解なんだろうか。

「ピチピチタイトなあの赤い服はもう着ないの?」

 セクハラだろうか?

「相田君がうらやましいなぁ。こんなかわいい奥さんがいて。」

「結婚はしてませんよ。」

「あら、じゃあわしにワンチャンある?」

「ありません。」

 ワハハ、ってわかりやすく笑ってみせている。この世代の男性ってのは、みんなこうなんだろうか。ちょっと鈴原に似てる。

「奥さん亡くしたばかりなのに、悲しみますよ。」

「大丈夫。かみさん優しかったから。」

 どこまで本気で言っているかわからない。まだモチュウってやつなんでしょ?

「かみさんの時には、鈴原君にいろいろしてもらって、ありがたいことでした。」

 急にまじめなトーンになる。

「中学の時の同級生なんだって?奥さんも、相田君も。」

「えぇ。」

「良いご友人を持ったね。」

「・・・そうですね。」

「縁っていうのは、大事にしないとね。」

「そうですね」

 縁か。

「だから、良いご縁と思って、結婚してください。」

 このじじい。

「坂本さん、今度の祈念碑の式典、あいさつよろしくお願いしますね。」

 役場の人に言われていたことを思い出して伝えておいた。

「えぇ!スルー!」

「当たりまえでしょ。」

「なんか冷たい感じもいいね。さすが村の人気者だね。」

「・・・誰がですか?」

「自覚ないね。みんな噂してるよ。綺麗な奥さんだって。」

 陽動作戦に切り替えてきやがった。変なおじいさん。

「あまり気にせず、自然体でいれば、村になじむよ。」

 ドキッとした。村にいることにこだわっていることが、出てしまっていただろうか。

「一番は村長さんの奥さんになることじゃない?」

「しつこいとぶっ飛ばしますよ。」

「アハハハハハハ」

 ほんと変な人。

「でも、あまり気を張りすぎないようにね。体が小さい時から、なんか見てられなかったんだ。」

「・・・何がですか?」

「優しい心を持っているんだろうけど、余裕なさそうで。君みたいな子は、幸せにならなきゃいけないなと思うよ。大人になってもね。」

「・・・適当なこと言って。女の人にそうやって声かけてるんですか?」

「綺麗な心を持っている人が好きなんだ。僕。」

「奥さんもそうでした?」

「うん。」

 なんかすんなり返されて、悔しかった。

「君と相田君みたいな時代もあったよ。楽しかったよ。」

「じゃあ余計奥さんに悪いと思いません?」

「かみさん僕が幸せになることを望んで旅立ったからね。いいの。」

「死んでお迎えが来た時奥さんが来てくれたらどうします?」

「喜んでかみさんの方へ走っていくね。」

「クソジジイ」

「アスカさんっ」

 坂本さんと声のする方を見た。家事を手伝いに来ている近所さんがいた。あたしにびっくりしている。

「アハハハハハハハ」

「フッ。」

「やっぱり優しい人だね、君は。やっぱり結婚して。」

「奥さんのお迎えを待ったらどうです?」

「ア、アスカさんっ」

「変な人。そろそろ帰りますね。」

「うそうそうそうそ。怒った?」

「・・・ふっ。いえ。本当にもう遅くなっちゃうんで、帰ります。」

「そっか。気を付けてね。」

 本当に変なおじいさん。

 帰ろうとすると玄関まできてくれた。

 近所の人はずっとハラハラしてる。もうちょっと気を使うべきだったんだろうけど、ついしゃべってしまった。あれは、あたしというより、坂本さんの能力の気がする。

 

「面白い人やったやろ。」

「セクハラ受けたわ。」

「おじいさんの冗談くらい付き合ってやりいな。」

「あれ冗談なの?」

「まぁ半分本気やろうけど。」

「じゃあ抹殺対象だわ。」

「もう、いけずやな。」

「あの人の奥さんってどんな人だった?」

「綺麗な人やったよ。仲睦まじい、ってこういうこというんやな、って思ったわ。」

「へぇ」

「あぁいう風に年取りたいな。ヒカリと一緒に。」

「・・・・・・」

「でも絶対わしの方が先に死ぬねん。」

「なんでよ。」

「残されたくないもんね。」

「あんたそんなセンチなこと言う奴だったっけ?」

「年くったなぁ。」

 珍しく、鈴原は疲れているようだった。

 残される、か。

 




 オリジナルキャラを出します。登場頻度は少ないけど、良い味にしたかったけど、臆病というか当然というか、結局存在感は持たせられなかった。
 二次創作的設定のなかでオリジナルキャラには動いてもらうんですけど、それは面白かったです。転がしやすかった。
 村では受け入れられている。本人が少し気にしている。同居の彼氏は、自分の能力を認めている分、村にとどまるのを良しとしていない。そういう関係性もうまく書きたいな、と思っていました。クレイディトか、新制ネルフに出張、とか、そういうのも考えたけど、村役場に勤めるっていう、変則的な方が面白いと思って、こんな感じに。
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