アフターシンエヴァ「加持リョウジの物語」   作:ヨスキ

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八 『どうしたっている親の話』

 それからは、本当に同じような日々の繰り返しだった。

 仕事に支障を出さないように気を付けた。でも時間が許す限り、街に出た。街に出て、いつもの場所にいくと、いつものみんなが笑って迎えてくれた。

 他愛のない話を重ねた。

 スケボーを教えてもらったり、村ではしないような話題でもりあがったりした。

 シンは、普段仕事をしていると言っていた。力仕事のようだったけど、1人暮らしだから十分稼げているということだった。

 親は、いない、と言っていた。どう、いない、のか、彼から進んで話をすることはなかった。

 聞かなかった。人それぞれ、大事なものがある。

 

 ある時にシンの家に連れてってもらった。リーナも一緒だった。

 工業団地にある、見分けのつかない集合住宅の1つの建物の、1つの部屋だった。

 建物の周りはカビ臭かった。でも彼の開けた玄関ドアの中は、かいだことのないお香のにおいがした。

 タペストリーやらが飾ってあって、思ったよりは清潔にしていそうだった。どこで仕入れてきているのかわからない色合いの布やポスターで、飾られていた。

「適当に座ってよ。」

 珍しくてキョロキョロしていたんだけど、そういわれて、クッションに座った。

「酒飲む?」

「あぁ。もらう。」

「いけるくち?」

「まぁ、ちょっとは。」

 缶を開けて乾杯をして、今までどうやって生きてきたかを話した。

 僕が第3村に住んでいて、今は職場を行き来していることも話した。クレイディトの名前は、どこでも通じる。その分、大げさにとらえられても嫌だから、あまり大っぴらには話してこなかった。

「不良に絡まれるから話したくないんだって。」

「え、不良に絡まれるの。怖いな。僕怖い。どんな不良に絡まれるんだろう。」

「そりゃ海突き落とされたりじゃない」

「ヒドイっ!そんなことする子いるの!?どいひー!」

「なんなんだ、その話し方は。」

 3人で話をした。楽しかった。

 しばらくしてシンが、親の話をはじめてちゃんとした。

母親がすでに家を出て行って、ここにはいないんだと、話をした。どっかで生きているということらしい。

 距離が縮まった気がした。

「会いたい、って思う?」

「別に。でもまぁ会ってやってもいい。向こうが決めることだ。」

 本音だろうか。僕には会えない親に、その気になれば会えるのかもしれない彼が、少しうらやましいような、うらやましくないような気がした。

「父親は?」

「塀の中。」

 なんと答えたらよいかわからなかった。いつのまにか話題が変わっていた。うまく何かを言えばよかったかもしれないけど、それもできなかった。

 

 リーナは

「わたし、両親は小さいころに離婚していて、父親はもう会ってない。新しい父親が最近できたけど、嫌い。」

と明るい顔で話をしていた。新しい父親は、嫌いな他人、ということだった。当たり前だけど、いろんな家庭がある。

「母親は?」

「ママは・・・」

 ママ?と思ったところで、セリフが止まった。本人も自覚していなかったのかもしれない。別に構わないと思うけど。

「母親は、なんか、虚栄心の塊って感じ。」

「虚栄心ってなに?」

「えっと高慢ちき」

「高慢ってなに?」

「プライドがすごく高くてさ」

「プライドってなに?」

「ねぇ」

「ごめんなさい。虚栄心の塊で高慢ちきでプライドの高いおばさまの話をお願いします。」

「フッ。昔からわたしや妹に、習い事やらせて、それはいいんだけど、人より劣ってると許さなくて、綺麗じゃないと許さない人だった。」

「すげぇいいとこのお嬢様なんだよ、こいつ。」

「そんなことないよ。しかも今はドロップアウトしたの。」

「ドロップアウト?」

「妹の方が、かわいくて、習い事の成績もいいから。妹の邪魔だけはするな、って言われてる。トワっていうんだけど。」

 笑顔だった。乾いた笑顔。何かをあきらめて、笑うしかないって笑顔。

「妹のことは好き?」

「好き。かわいいよ。わたしより。」

「うそだ。」

 2人が固まった。あれ。変なこと言ったかな。

 

「僕両親はもう二人とも死んでるんだ。」

 どっかのタイミングで、自分も言わなきゃいけないと思ってそういった。

「なんで?」

「父親は俺が生まれる前に事故で。母親は3年前に、仕事で死んだ。」

 守秘義務のある内容だったので詳しくは話せない。そもそも自分から詳しく話したくはなかったけど、嘘はないし、この2人には、事実だけは聞いてほしかった。

「そうなんだ。良い人だった?お母さんは。」

「いや、会ってもらえなかった。ヴィレにいたんだ。」

「えぇ!すごいじゃん。」

 クレイディトと一緒で、戦いの後に解体されたヴィレも、誰でも知っている組織だった。そこで働いていた。それだけで、人の注目、羨望を集めるくらい。

 そのトップだった、とはさすがに言えないけど。

 少しだけ誇らしくなった。でも少しだけで、やっぱり他人事のようにも思えた。意味のないことだ。僕と関係のないことだった。

「自慢のお母さんだ。」

「でもないよ。」

 正直にそう答えた。でも、わからない、と言った方が正確だったのに、そうは言えなかった。

「クソな親を持つと苦労する。いないほうがいい。」

 そうはっきりという人物に初めて出会った。

「そう?」

 僕が聞き直すと、笑いながら2人がうなずいていた。

「そうだ。実際いなくて困らない。こんな世の中だから、どうにかなる。」

「さみしくない?」

「・・・さみしい?」

2人に、笑われてしまった。急に自分の言ったことが恥ずかしく感じた。子供がバカにされた感じ。

「自慢の親がいて、うらやましいですねぇ。」

「自慢の親じゃないよ。一度も会わなかった。」

 親をほめられることの居心地の悪さが、まとわりついて、うまく反応できなかった。

 自分の親、ということが、受け入れられなかった。

 何か、突然、自分の境遇が、人に話すべきじゃない、悪いことなのではないかと思った。

 自分が責任を持って話すほどの情報が、ない気がした。だから、他人事のようだった。

 ある時、3人でシンの家にいた。

 買出しが必要になって僕が1人で買い物に行った。ぶらぶらと夕方の街をうろうろして、酒を買って帰った。

 シンの家に近づくと、なぜか2人がどういう関係なのか、気になった。なぜか急に。玄関ドアを、意識して静かに開けた。

 2人がいる部屋から、声が聞こえた。

 静かな、落ち着いた会話。それからリーナの声。

 別に何か2人が、なんかエロい話をしていたわけでもないのに、ドアを閉じて、ちょっとの間、外が見える踊り場でぼうっとした。

 きっと2人は恋人同士なんだろうな、と思っていた。だからどうだということなんだろうけど、じゃあ自分はどうしてこんな場所で気を遣うような真似をしているんだろう。

 気をつかっているような、気を使ってほしいような位置で立っている。しょうもない。

 親密になってほしいのに感じる、疎外感、なんだろうか。

 子供っぽい。

 黙って部屋に入ればよかったのに。

   ガチャっ

「やっぱりいた。」

「なんか音したと思ったんだ。なんでそんなとこいるんだよ。」

「早く入ってくればいいのに。」

「ん。夕日がきれいで。」

「なんだそりゃ。」

 ごまかせているのか、いないのか。そもそも自分の中の感情に、正直に行動すべきかそうじゃないのか、そういう問題から、直面しないように気を付けていた。

 3人でいることが楽しかったから、その関係だけは崩さないようにした。

 聞き分けのいい大人を演じているような気にもなって、ちょっとだけ気分がざわついた。

 別の日にまたシンの家に行ったときに、鍵をかけていない玄関ドアを開けると、見知らぬ靴が脱いで置いてあるのがわかった。前にいるシンから、緊張感が伝わってきた。リビングの方を見ると、黒い服を着た、黒髪の男性が目に入った。腕にはタトゥーが見えて、この人が、シンの緊張感の正体だとすぐにわかった。

「親父。」

「おう。帰ったか。」

 シンの話していた父親だった。いつも大人と対等に話をしてきたつもりだったけど、大人の意味がまた違って、緊張した。経験をつんだ悪意みたいなものが、服を着て歩いているんじゃないか、と思わせる何かが、その人から感じ取れた。もちろん僕の勝手な想像だったけど。

「ともだちか?」

「あの、はじめまして。ぼく」

「そう友達。俺を家まで送らせてたんだ。もう帰るって。」

「おう。そうか。気を付けていけ。」

「・・・はい。失礼します。」

 シンが小さい声で僕たちに、

「悪いな。また次にな。」

と言って、帰らせた。名前も名乗らせないように遮っていたことに気が付いて、何も言わず彼の気持ちにそうようにした。

 リーナは心得たものなのか、僕の手を引いていた。

 ドアを閉めるときに見るシンの顔は、今まで見たことがないものだった。緊張していて、でもちょっとホッとして笑っているような、よくわからない顔。

「連絡なかった、って言ってたんだけどね。出てきたんだね。」

「普通そういう連絡ってあるものなの?」

「普通は、ね。あるんじゃない?よくしらないけど。普通っていうのがどういうのかも。」

 リーナと2人きりで街を歩いたけど、少しシンのことが気になっていた。

 会話は、弾まなかった。

 




 オリジナルキャラの設定を広げて、親について悩むリョウジ君を作りたかったです。割と定番とはいえ、話の展開の仕方はいろいろあったはずだな、とあとになって思いますね。技量不足。
 あとは、この年代の、ダラダラでも一緒にいて話がしたい、っていう空気を、どうにか広げたかった。とはいえ、二次創作としては、少し離れていくので、そこは、技量でどうにかしなければならないところでした。
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