「やあ、僕はロビン・グッドフェロー」   作:Ask〈アスク〉

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「勝手な行動は謹んでくれ」

 夜、俺は少し街から離れた森の中にいた。外にいるのに一人称が俺なのは、これから会う相手に関係する。

 ······そんなことを考えていると、目の前の影から人型のものが生えてくる。そう、俺が会おうとしていたのは時崎狂三だ。

 

「やっと来たか」

 

「こんな夜更けに何の用ですの?」

 

 時崎狂三は不機嫌そうに言う。それもそうだろう。何故なら、数時間前に俺と対立したからだ。

 直接戦ったのはあくまでも分裂体だったが、オリジナルである彼女にも勿論情報は共有されている。

 

「何の用か、だって?君は僕が言ったことを忘れたのかい?まだ彼は食べ頃じゃない。そう言ったはずだろう?」

 

「ええ、ええ、そうですわね。ですが、それがどうかいたしまして?彼は(わたくし)が必要とする分の力は既に得ておりますの。それならば、食べやすい頃に食べてしまうのがよろしいのではなくて?」

 

 確かに、時崎狂三の言い分は尤もだ。五河士道は既に時崎狂三が三〇年前に戻れる程度の霊力は有している。下手にこれ以上霊力を取り込まれて、いざ食べるという時に抵抗されるくらいなら、過去に戻るのに必要最低限の霊力を持っている今、抵抗もされない今食べてしまうのは確かに理にかなっている。

 だが、それは全て時崎狂三が単独で行動している場合でのみだ。

 

「それもそうだ。だけど、忘れないでほしいな。僕と君は今、協力関係にある。僕としては、今彼を失うのはとても痛い損失なんだ」

 

「······結局、貴方は何が言いたいんですの?」

 

 時崎狂三は目を細めて俺を睨む。

 

「そうだな、優しい言葉を使えば少し大人しくしててくれないか、ってところかな」

 

「では、厳しい言葉だとどうなるんですの?」

 

 時崎狂三は変わらず俺を睨みながら言う。俺はポケットから中に例の毒の改良品が入った注射器を取り出しながら、衣装変更を解除する(・・・・・・・・・)魔術を使いながら言う。

 

「黙って()の言うことを聞いていろ」

 

 そう言った瞬間、背後から時崎狂三の分裂体が数体突撃してくる。

 俺はそれを必要最低限の動きで回避する。それと同時に、禍々しく変化した虫の様な腕(・・・・・・・・・・・・・)で分裂体を一体掴んで抱き寄せる。そして、その分裂体の首に毒が入った注射器の針を当てる。

 

「ッ!最初からこれが狙いだったんですのね······!」

 

「俺だってこんな強行手段は取りたくなかったさ。でも仕方ないよね。君が『待て』もできない野良犬だったんだからさ」

 

 俺が言うと、時崎狂三は殺気を込めて俺を睨む。

 

「······それが、貴方の本当の姿、ですのね」

 

「······ああ、そうさ。気持ち悪いだろう?」

 

 そう言う俺の姿は、先程までの童話の中から出てきた王子さまのようなものではなくなっていた。

 銀に輝いていていた髪は黒くくすんで(・・・・)おり、真っ白な美しい肌をしていた手足は真っ黒の虫の様なものに変わっていた。

 その姿は、Fate/Grand Order二部六章にて最後に立ちはだかった存在。

 妖精國ブリテンの自滅願望と偶然混ざりあってしまった妖精王オベロン。

 オベロン・ヴォーティガーンそのものだった。

 

「そういえば、この新しい毒について説明してなかったね。実はこの毒、今までのものは未完成だったんだ。そして、これがようやく完成系に近づいたものだ」

 

「······あの恐ろしい効果の薬が、未完成品······!?」

 

 時崎狂三は俺の発言に目を見開いて驚いている。

 この毒は『モース』を参考にして作り出したものだ。

 モースは生き甲斐を失った妖精の成れの果て。本当の意味での死骸。

 このモースには、触れた妖精をモース化させるという恐ろしい特性を持っていた。今まではそれが再現できなかった。だが、研究に研究を重ね、何度も実験した結果、微妙に劣化しているものの、増殖自体は可能になった。

 劣化したとは言えども、この効果はとある相手にはとてつもなく刺さる。そのとてつもなく刺さる相手というのが、目の前にいる時崎狂三というわけだ。

 

「その薬で化け物になったヤツの身体に触れると、そいつも化け物になる······。だが、どこで間違えたのか、化け物になる対象が変わった。なんとも面倒なことに、化け物になったやつの血縁者、または分裂体(・・・)が化け物に触れると、そのままそいつも化け物になる。しかも、そういった存在を優先的に狙う」

 

「な─────!」

 

 その言葉で時崎狂三は理解したらしい。この毒をこの分裂体に打ち込めば、こいつは化け物になる。さらにすぐに始末しなければいつまでも時崎狂三を化け物に変えようと襲ってくる存在になる。

 いくら分裂体が脆くても、毒を打ち込めばある程度強靭になる。さらに言えば、いくら分裂体とはいえ、こいつは時崎狂三だ。〈刻々帝(ザフキエル)〉の能力を使えないとは限らない。

 

「くっ······!貴方は(わたくし)に何をさせたいんですの?」

 

「さっき言ったじゃないか。黙って俺の言うことを聞いていろ、ってね。ああ、別に君の目的を邪魔するわけじゃないよ?ただ、今じゃないってだけでね」

 

 そう笑みを浮かべて言う俺を時崎狂三は睨む。

 

 「とりあえず、この分裂体は人質ってことで貰っていくね」

 

 俺はそう言い、眠らせる魔術を分裂体にかける。そうすると、先程まで逃げようともがいていた分裂体はパタリと動かなくなった。

 

「じゃあ、前に頼んだこともよろしくね」

 

「ま、待ちなさ─────」

 

 時崎狂三の声を最後まで聞かず、俺はその場からドロリと解けるように消えた。

 

***********************

 

 場所は変わって真っ暗な場所。ここは時崎狂三にも見つけられない場所。

 俺は貰ってきた分裂体を床に放り投げる。だが、目を覚ます気配はない。当たり前だ。俺が解除するまで眠り続けるように設定したのだから。

 その分裂体に近づき、俺は注射器の針を刺して毒を打ち込む。

 これでこの分裂体が目を覚ましたと同時に時崎狂三をつけ狙う化け物になった。

 精霊に薬を使ったのは今回が初めてだが、上手くいくだろう。

 さて、これからどうしたものか。

 あまり原作から離れてはいないはずだが、本当に細かいところが変わっている。今のところ、一番大きな変化は俺の存在くらいか。小さな変化が降り積もって予想もできないことになる可能性もある。原作で五河士道が時崎狂三に殺されることはなかったが、普通に殺される可能性はある。だから、今のうちに止めさせておけばその不安はなくなるだろう。

 これで時崎狂三の問題は解決した。自分だけをつけ狙う化け物なんておっかないだろうし、分裂体を使ってる始末しようにも、そいつが化け物に触れてしまえばそいつも自身をつけ狙う化け物になる。そんな状況は時崎狂三も望まないだろう。

 はー、疲れた。夜も遅いしさっさと寝よう。そう考えた俺は、家に戻ると風呂に入ってすぐに寝た。

 

 数日経っても、〈時喰みの城〉が学校で使用されることはなかった。

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