やってしまった。
最初に思ったのはそんなことだった。
正直、あの姿を見せたところで時崎狂三が大人しくなる─────手網を握れるなんて、思ってもいなかった。
彼女のことだし、どうせ忠告を無視して〈時喰みの城〉を展開するものだと思っていた。
あの時崎狂三だぞ?こんな簡単にいくだなんて、そんなこと思うわけないじゃないか。
抵抗してやると言わんばかりに〈時喰みの城〉の展開すると思うじゃないか。
そんでもって五河士道の前で僕を挑発するくらいすると思うじゃないか。
くそっ、僕の時崎狂三という人物に対する理解が浅かった。僕の脅しなんて気にもとめないと思っていたのに。やはり、人質を取ったのがまずかったか?いや、反省するのはもう遅い。このままでは五河琴里の攻略が始まらない。
そもそも五河琴里が暴走状態になったのは、五河士道が〈時喰みの城〉で時崎狂三に襲われたことが関連している。
つまり、その件が無くなってしまった今、五河琴里の力が暴走する可能性はとてつもなく低い。
こうなると、僕が介入しない事にはどうにもならないだろう。正確に言えば、時系列に沿わせるのであれば、だが。
僕が介入しなくても、五河士道がピンチになる状況なんていくらでも存在する。そのどこかのタイミングで五河琴里が助けに来ても、それではタイミングが悪すぎる。
ここから先、いつ五河琴里が暴走しても、悠長に攻略なんてしている暇はない。
だから、タイミングは今しかない。あまりしたくないが、僕が五河琴里を説得するしかない。
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僕は今、五河士道の家の前にいる。
時間は夜。これから夕食だろうという時間だ。こんな時間に訪ねるなんて非常識かもしれないが、五河士道は許してくれるだろう。
僕はインターホンを鳴らす。
「琴里ー、出てくれないかー?」
「はーい!」
家の中からそんな声の後にドタドタという音が聞こえてきた。
扉が開くと、そこから五河琴里が出てきた。
「どちらさま──────ロビンじゃない。どうしたの?こんな時間に」
僕の顔を見た瞬間、頭のリボンを白から黒に付け替えて笑顔から真顔に変わった。
「やぁ、琴里」
「ロビンが来たのか?ロビン、どうだ、飯食ってくかー?」
家の奥からそんな声が聞こえてきた。
「いいや、今日は別の用があってきたんだ。だからご飯はまたの機会に」
「そうか。わかった」
「······で、別の用って何なの?」
五河琴里は目を細めて僕を見ながら言う。
「ああ、君に伝えたいことがあってね。着いてきてくれるかい?」
「············ええ、いいわ」
五河琴里は長考の末そう答えた。一度家の中に戻ると、以下にも普通の中学生というような服を着て出てきた。
「さて、どこで話をするのかしら?」
「着いてきてくれ。こういう話をするのにとっておきの場所がある」
僕はそう言うと、数日前に時崎狂三と話した森に向かった。
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真っ暗な森。ささやかな月明かりだけが辺りを照らす。
そんな中で、僕は五河琴里に語りかける。
「琴里、いい加減話してもいいんじゃないかな」
「······何を、かしら?」
やはりとぼけるか。いや、この場合は本当に何を話せと言っているのかわからないだろう。
「君のことについて、士道に」
「っ、あんた、一体どこでそれを······」
「僕の情報調査能力は知ってるだろう?色んなことを調べていたら、ね?」
「······まさか、〈ラタトスク〉の情報を······!?」
「まぁ、ほんの少しだけね?」
僕の言葉に目を見開いて驚いている。
もちろんそんなことはしていない。
「で、どうしてそれを話す必要があるの?」
「それはもちろん、君の力がいつ暴走するかわからないからさ。不完全な封印なんだろう?なら、早めにどうにかしておいた方がいい」
そう言うと、五河琴里は考えるような動作をする。しばらくして、五河琴里は口を開いた。
「二つだけ知りたいたい。まず一つ目。どうして私が精霊だと疑ったの?私自身はそういった旨の発言はしていないはずよ。二つ目は、どうして今なの?確かに早いうちに解決した方が良い問題であることは確かよ。でも、もっと前に言っても良かったでしょう?」
「まず一つ目の質問に答えよう。僕が君を疑った理由は幾つかあるんだ。一つ目、〈ラタトスク〉が士道の精霊の力を封印する力を知っていたこと。二つ目、君が士道の再生能力を知っていたこと。他にも色々あるけれど、大きなところはこの二つかな」
「······なるほど」
適当に今考えた理由だが、彼女は納得したらしい。
「そして二つ目だ。最近の空間震の発生頻度を見て、おそらく、連続して精霊が現れるんじゃないかと考えている。そうなると、いつまでも君の問題は後回しになる。それは世界にとっても、君にとっても危険なことだろう?だから今なんだ。まぁ正直、あまり自身がない推測だから、これは外れてしまうかもしれないけどね」
原作において精霊が連続して現れた、なんてことはなかった。だから、これは完全に僕の
だが、彼女は納得したらしい。
「······わかった。これから帰って士道に私について話す。それでいいわね?」
「ああ、それでいいとも」
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「ロビン」
翌日、学校で五河士道に後ろから突然声をかけられた。
「ん?どうかしたかい?」
「場所を変えて話がしたい。いいか?」
「······ああ、いいとも」
場所は変わって屋上、そこで僕は五河士道の話を聞いていた。
「琴里が精霊だって、知ってたんだな」
「まあね。色々調べていたら知ったんだ」
「どうして教えてくれなかったんだ?」
「僕が教えるより、琴里自身がしっかり君に伝えた方がいいだろう?少なくとも、僕はそう考えた」
「そう、だよな······」
五河士道はどうすればいいか悩んでいる。血は繋がっていないとはいえ、長い間兄妹として過ごしてきた相手とデートしろと言われているのだ。しかも、それが世界を守ることに繋がるとなれば、悩むのも当然だろう。
だから僕は、少しだけ背中を押してやらないといけない。
「士道」
「?なんだ?」
「悩むのは仕方ないと思う。妹とデートするんだからね。でもそれは、
「······?何を言って······」
「君は優しいから、どうしても精霊のことを優先してしまう。でもさ、たまには自分から相手を振り回すってことをしてもいいんじゃないかい?」
「······ごめん、言ってることの意味がよくわからない」
「いや、今はそれでいいのさ。その時になって気づけばいいさ」
「でも、ありがとな。励まそうとしてくれたんだろ?そうだよな、こんなに迷ってちゃいけないよな」
どうやら上手くいったようだ。まあ、こんなことは言わなくてもやらないといけないのだから結局決意していただろうが。ちょっとした信頼度稼ぎだ。
「うん、それでこそ士道だ。あ、言い忘れてたけど、妹とはいえ、相手は一人のレディだ。それは忘れちゃダメだよ?」
笑みを浮かべながら言うと、士道も笑みを浮かべて言う。
「当たり前だろ?それくらい、言われなくてもわかってるよ」
今回のデートでは僕は介入しない。兄妹水入らずの時間を楽しんでもらうとしよう。
鳶一折紙が乱入してくる、なんてこともないだろう。〈時喰みの城〉が発動しなかったのだから、鳶一折紙は五河琴里の精霊としての力を見ていない。だから、わざわざ五河琴里を襲う理由なんてない。
だが、今回に関しては本当に展開が読めない。この展開に原作の面影なんてほとんどない。何が起きてもおかしくはない。警戒はしておかないと。