あと本当は5話くらいで終わらせる予定だったんだけど、自分の文章力が落ちまくってるのもあって全然話が進まないので話数が伸びそう。
なので普通に連載に切り替えることにしました。
「……はぁ」
「どうしたのさピサラ姉ちゃん? ため息なんかついて」
会議室から退出し、廊下を進みながら私――ピサラは思わずため息をつく。それに気づいたのかとなりを歩いているコリーが不思議そうに問いかけてきた。
「あいつら全然大したことないでしょ? ニッケルとジーサーティンなら簡単に皆殺しにできると思うけど」
「殺すことができればの話だろう、それは?」
先ほどの会議の結果、偵察にはニッケルとジーサーティンが派遣されることとなった。
偵察とは言っているが、実際には殲滅も視野に入れているのだろう。だからこそニッケルとブランディというトップ2ではなく、遠近のバランスが取れた二人が選ばれたのだ。
そしてそれを理解しているのか、コリーは気楽に言ってくる。自分たちの勝利は間違いない、と。
だがそれでも私の中には不安要素があった。確かに負けはしないだろう、だが勝つことは本当に可能なのか?
「コリー、お前も見ただろ? 奴ら韋駄天の異常な耐久性を」
「……そう言えば、心臓にどでかい穴をぶちまけられても平気そうにしてたっけ」
「あぁそうだ。確かにあの程度の戦力ならば二人の敗北はあり得ない、だが我々の決め手が欠けていることもまた事実だ」
「でもさ、ニッケルだよ? あの化け物なら塵一つ残さずみじん切りにでもできそうだけど」
「フフ、化け物か。私はそうではないと思うが」
コリーの言葉に思わず笑ってしまう。
我々魔族とて人間からすれば化け物だろうに、その仲間から化け物呼ばわりされるのだな、あいつは。
その様子を見て意外だったのか、コリーは驚いた顔でこちらを凝視している。私がニッケルをかばうのがそんなに意外だったか?
「え、なにそれ?……もしかして姉ちゃん、数年間戦場で過ごしているうちにニッケルと!?」
「そんなわけあるか馬鹿コリー!!」
「あいたッ!?」
変なことを言い出した愚弟の頭を叩き、歩く速度を上げる。
確かにニッケルは私の部下として数年戦場を共に渡り歩いたし、同じ魔族同士である点からよく二人で話をしたりはしたが、私と奴はけ、決してそんな仲ではない!!
「いでで……ごめんよ姉ちゃん。でもさ、実際の所どうなのさ?」
「お前はなぁ……!」
「違う違う違うって! ニッケルが化け物じゃないって言う所。あいつ、訳分かんないし変なしゃべり方するし。それなのに、めちゃくちゃ強いじゃん?」
慌てて否定しつつ、コリーは言葉を続ける。
その内容は同意するしかない。あいつは最後の言葉を繰り返すような変なしゃべり方をするし、いつでもへらへら笑っている。
確かにそんな様子を見れば、よくて変人、戦場での容赦のなさを加えれば化け物と認定するのも仕方はないだろう。
「確かにな」
「笑顔で人間を瞬殺していく姿から、敵国からは【帝国の怪童】なんて呼ばれてるんでしょ? 実際の映像見たことあるけど、魔族の僕たちから見ても十分化け物だよ、あいつ」
そう話すコリーの表情は少しだけ青ざめている。味方だというのに、完全にニッケルに怯えているようだった。
怯えるのはわかる。私も初めてニッケルが戦う様子を見たときは驚愕したし、
……だが。
「やはり、そう見えるか」
「? 姉ちゃん、なんか言った?」
「……いや、なんでもない。悪いが先を急がせてもらうぞ、私は作戦に間接的に関与はするのでな」
「あ、うん。わかった……」
そう言い残し、コリーと別れて私は一人で歩きだす。
これはあくまで私の推測だ、余計なことをあいつに吹き込む必要はないだろう。
(思えば、この間もそうだった。博士からの帰還命令をニッケルに伝えたとき、
私が考えていること、それは…………ニッケルがなぜ演技をしているのか。そんな事だった。
初めて気づいたのは、戦場に出てから半年後。
その日も戦争に勝利し、掌握した街で他の奴らが夜通し好き勝手にヤっていたころ。夜中に目覚めてしまった私が外の空気を吸おうと歩いていた時、よく星が見える広場に奴は立っていた。
『ん、あれはニッケル……なのか?』
『…………』
せっかく静かな場所に来たというのに、よりによって奴と出会ってしまった。
そう思ったのは1瞬。そのすぐ後、私は奴が纏う雰囲気が違うことに気づいた。その日の奴は狂気を孕んだ嵐のようなそれではなく、確かな理性を備えた静かなそれを纏っていた。
(なんだ……なにをしている?)
『スゥーー……ハァーー……』
どうやらこちらに気づいてはいないらしい。普段なら気づく距離に私はいるのだが、その時のニッケルはそれほど集中していた。
目を閉じ、深呼吸をすること数回。静かに目を開き、目の前にいる誰かを注視している。
そしてその数秒後、奴は動き出した。
『ッ!……はぁ、でやぁ!』
(あれは……なぜ?)
高速で触手と素手の形態変化を切り替えつつ、目の前にいる誰かを攻撃する。どんどん勢いは増し、私の目にも止まらないほどの速さで猛攻するようになっていく。
そしてそんな様子を覗き見ながら、私は思わず呟いてしまう。
それもそのはず、ニッケルがやっていることはだれが見てもわかる――鍛錬だ。
イメージトレーニング。誰かを想定し、実践を意識しながら行う鍛錬。
それをニッケルが行っているというのが、私には当初理解ができなかった。私たち魔族は、なにもしなくても成長するだけで強さが爆発的に増す。だと言うのに奴は、それをしていた。
『はあああぁぁぁぁッ!!』
更に異常なのは、その仮想敵だ。
あれほどの猛攻をしているのに、奴の表情に余裕は微塵もない。更にその途中何度か大げさに体を翻していることから、反撃も食らっているのだろう。
(……なんだあれは? あれほどの攻撃をくらっても耐える持久力に、ニッケルが全力で避けるくらいの攻撃力。更に極めつけはこれほど高速で移動しているということは、速度も同格以上だと?)
あんな化け物が、この世にいるのか? 魔族全員を足しても、あのレベルにたどり着けるとは考えにくい。奴は一体、誰を想定しているんだ?
ニッケルの戦う様子を眺めながら、私は考えていた。今思えば、夢中になっていたのだろう。だからこそ、足元に落ちている枝に私は気づけなかったのだ。
『ッ、しま……』
『誰だッ!!』
枝を踏み、折れた音が周囲に響く。
小さな音ではあったが、ニッケルは即座に気づく。奴の両手から触手がすさまじい速度で伸び、私の全方向から襲い掛かってきた。
『ヒッ!?』
『……あれ、ピーちゃん?』
あ、これ死んだ。頭の中で走馬灯が流れているのを感じながら思わず声が漏れ出ると、どうやらそれも聞こえていたようだ。
触手の切っ先が私の体を貫く直前で止まる。九死に一生を得た私が思わず両手を挙げながら建物の陰から出ると、それをニッケルはぽかんとした表情で見ていた。
『なんでこんな所に……ここには誰も来ないと思っていたのになぁ』
『め、目が覚めてしまってな……夜風にでもあたろうと、ぶらぶら歩いていたんだ』
『あちゃ~偶然なのね。しょうがない、それじゃぁ……』
『ヒィッ!!』
そのセリフの後、私の体は触手に拘束される。抵抗する間もなく締め付けられ、身動き一つできない私にニッケルが近づく。
あ、今度こそ死んだな。二度目の走馬灯が流れそうになっている私の前に立ち、顔を近づけてきて無表情のまま口を開く。
『このことは他言無用だよ、ピーちゃん。約束破っちゃったら……僕悲しいなぁ?』
『言いません言いません、誰にも言いません!』
『本当だよ? ミッちゃんや魔王様にも悟られちゃだめだよ?』
『絶対に言いません!』
『ならよし☆』
『……え?』
全力で返答をすると、ニッケルは私を解放する。そのまま呆けている私を尻目に、奴はスタスタとキャンプ地に向かって歩き始めた。
『さ、もう帰ろうよ。ちゃんと寝ないとお肌に悪いよ、悪いよ~?』
『あ、あぁ……』
振り返ってニッケルが話すが、その様子は見覚えのある普段通りの奴だ。先ほどまでとは明らかに違い、お気楽ながらも危うさを兼ね備えた雰囲気になっている。
先ほどまでの一体何だったんだ。
そう考えてしまうもすぐにそれを振り払い、私も自分の寝床へと戻っていくことにした。
当たり前だが結局その日は寝れず、目にクマができているところをニッケルに見られて爆笑されたのは苦い思い出である。
(……結局あれ以降、ニッケルが鍛錬しているところは見たことがない)
だが確実にわかること、それは間違いなくニッケルはあの鍛錬を続けているであろうことだ。
あの後意識するようになってから気づいたことがいくつかあり、鍛錬の継続もその1つだ。
時期は決まっており戦争後の夜中。兵士どもが外を出歩くことが少ない日に限っているのだろう。その時間帯に何度かニッケルの寝床を覗きに行ったところ、奴の姿はなかった。そして奴は朝日が昇る直前に高速で寝床に戻り、あたかもずっと寝ていたかのようなフリをする。つまりずっと、あの仮想敵との鍛錬をしているのだろう。
そしてもう1つ。数年共に過ごしていてわかったのだが、奴は深く考え事をしているとき、あのふざけた口調が消える。そしてその時にまとっている雰囲気は見違え、その瞳には間違いなく理性が宿っているのだ。
そこから私は、奴は狂っている演技をしていると考えていた。ただなぜそんなことをしているのか、それがずっと疑問として残っていたのだが……まぁそれも、今日で分かった気がする。
『博士博士、ちょ~っと聞きたいことがあるんだけどいいかな、かな?』
『なんじゃいニッケル、そんなの会議中に聞いとかんか』
『ごめんごめん! ちょっとしたことだからさ、博士の部屋に行きながらでも聞かせてよ~☆』
『……まぁええじゃろ。こっちじゃ』
『アイアイサ~!』
「……ニッケル、お前はわかっていたのか?」
今日博士から提供された韋駄天の情報、そしてそれを見た瞬間のニッケルの表情。
ほんのわずかの間だが、一度感じたことのある私ならわかる。あの時と同じ雰囲気だ。
だとしても妙ではある。映像を見る限り、例えあの三白眼の韋駄天だろうと今のニッケルなら圧勝できる。あの仮想敵とは比べるまでもないのだ。
だが現実として、間違いなくニッケルは奴らを強く意識している。そしてあの時思ったことと韋駄天の特徴を照らし合わせると、合致する点もある。
それらが示すこと……それはおそらく一つだ。
「魔王様が言っていた師匠的存在、これは間違いなくいると見ていい。そしてその強さがあれと同格だった場合……私たちは滅ぶかもしれないな」
想像するだけで鳥肌が立ち、冷や汗が流れる。
ある意味、あの時のニッケルを見ていなければ私もコリーたちと同じように油断していたかもしれないな。
そう考えた私はそこで歩みを止め、しばし思考する。そして行き先を変え、とある男の下へ向かうことにした。
(……杞憂に終わるのであればそれでいい)
(だがもし杞憂じゃなかった場合に備えて、可能な限り最悪を想定してもいいだろう)
あいつは狂った演技をしている変わり者だが、それでも私たちの仲間だ。そんなことはほぼあり得ないとは言え、死なれては目覚めが悪そうだしな。
――今思い返してみれば、最悪程度で考えていたこと自体が驕りだったのだろう。
そう私は、崩れ去っていく帝国を眺めながら考えていたのだった。
「え、あの時のリンちゃんの強さ? 手加減して様子見していた時のを想定してるけど??」
すまねえ、もうちょい他者視点のお話は続くんじゃ。