帝国最強のかませ犬になった僕ですが   作:zelga

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【10月8日 日間ランキング 25位】
【10月8日 原作『その他』ランキング 11位】


……なにが起きた!!??(ありがとうございます)


第6話 「結実」

岩壁から体を引きはがし、静かに着地する。そしてすでに変形させていた方とは反対の腕も触手に変形させ、口を開く。

 

 

「僕はニッケル! 君の名前は?」

「わしは……「ゼェ、待てよ、ババア……!」ん?」

 

 

リンが名乗ろうとしたとき、彼女の後ろから掠れたような声が響く。そこにはハヤトがおり、息も絶え絶えな状態で僕に向かって歩いてこようとしていた。

 

 

「余計なことするんじゃねえよ、あいつは俺が……!」

「…………」

 

 

そうはいったものの、彼は今とても戦える状態ではない。

 

両腕は根元から切断してるし、胴体にはいくつもの穴が開いている。死ぬことこそなさそうだが、あの様子からしてかなりのダメージは与えていることだろう。だというのに彼にあきらめた様子はない。しかしそれは勝ちたいというより、負けを認めたくないという幼稚な意地から動いているように見えた。

 

 

……まぁ、だからと言って僕からなにか行動する必要はない。

 

 

「おー、ナイスガッツじゃないかハヤト君! でも君の相手は今度――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔じゃ」

「グベッ!?」

 

 

「――してあげ……たかったんだけどなぁ……」

 

 

……うん。なぜなら原作でも、ハヤトにとどめを刺すのは(ニッケル)じゃなくてリンなんだよ。

 

 

ハヤトが反応する前に、リンが裏拳を顔面に叩き込む。するとさっきまで話していた事が嘘みたいに静かになり、ゆっくりと仰向けに倒れた。

 

 

「イースリイ、ハヤトを連れてポーラと離れておれ」

「あ、はい」

 

 

リンの呼びかけに応じ、イースリイが表れてハヤトを回収する。

 

ちなみにここからでもハヤトの様子は確認することができた。彼の目は焦点があっておらず、口も閉じることもできずに舌がだらしなく出ている。そんな状態でピクピクと痙攣していた。

 

 

この様子を見た瞬間、奇しくも僕とイースリイの感想は一致していただろう。

 

 

((うわ、ひでぇ……))

 

 

「リンさん、気を付けてください。相手は人間なんかじゃありません……魔族です!」

「なんじゃと?」

 

 

その言葉を聞き、リンはイースリイのほうに顔を向ける。

 

意外だったのだろう、僕の姿は視界から外れ、そこまで意識を割いていないようにも感じた。

 

 

「ッ、余所見はよくないよ!」

 

 

瞬間、両腕から展開された触手を複数に分裂させながらリンの下へ放つ。着弾した際の勢いが強すぎて彼女の姿は見えないが、まあこれなら1本くらいは当たっているかも――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フム、そんなに両腕伸ばしたら……次の対応がしにくくないかの?」

 

 

そう思った時、既にリンは僕の目の前にいた。彼女が近づいた時の風圧で僕の髪が揺れており、驚いている僕を尻目に彼女は静かに拳を構える。

 

 

……なんてこった、ギリギリ残像が見えるくらいなのか。予想はしていたとはいえ、実際に見ると驚くしかない。

 

 

これが魔族との戦いに備え続けた、平穏ではなく争いの世代を生き抜いた韋駄天!!

 

 

なんて事を考えているうちに準備は終わったようで、リンの握られた右手はまっすぐ僕の顔面に迫り――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お構いなく、僕には腕より器用な子がいるからね」

 

 

――それを僕は、腰から伸ばした触手を軌道上に割り込んで受け流した。

 

 

「ほぅ……ではこれならどうじゃ?」

 

 

リンは両腕を構え、高速の拳打を放つ。その速度は先ほどの殴打とは比較にならないほど速くなっており、今出している触手1本だけじゃ到底対応しきれないだろう。

 

だが問題ない、僕が使えるのは1本だけではないのだから。

 

 

「もちろん、こうするのさ!」

 

 

そう言い返し、更に3本の触手を腰から展開する。そして全ての触手を防御に集中させ、リンの猛打への対処を始めた。

 

 

 

 

 

と言うわけで、これが僕が今回のリン戦に向けて立てた対策その1。尻尾の触手の強化、およびその多数化だ。

 

原作でもニッケルは肉体を変形するだけではなく、腰からも触手を伸ばすことができていた。それは最大の攻撃力を持っており、どうやら奥の手と言えるほどの力があることをニッケルは原作で仄めかしていた。

そして僕が初めて肉体の変形に成功したあの日、その触手は腕や顔ではなく腰から尻尾のように発現していたのだ。その後僕を監視していた魔族相手に実験してみたのだが、ここの触手は確かに特別製のようで鋭さ・頑丈さ共に他から変形して出した触手よりも優れていたことが分かった。

 

 

結果、それらを踏まえて思ったのだ。

 

これってつまり……東京〇種スタイルいけるんじゃね? と。

 

 

間違いなくリンは僕より圧倒的に速い。いくら肉体を鍛えたところで両腕では対処が間に合わないし、触手に変形させて対応しても攻撃する余裕がないのは戦う前から明らかだ。だがしかし、あくまで彼女の攻撃は四肢から放たれるもの。こちらが遅くとも、それを補えるほど手数を増やすことができれば、打撃に対しては対応が可能なのではないか?

 

そう予想し、僕は触手を主に鍛える方針をとった。耐久性を維持しつつ、精密性と速度を可能な限り上げられるように。そして鍛えているうちに、いつの間にか触手の本数が増えていたのだ。最初のころは1本だけだったのだが、ジーサーティン達と訓練しているうちに3本まで出せるようになった。4本目が出たのは確か、初めて戦場で戦った後の訓練で出せるようになってたんだと思う。

 

そもそも奥の手とはいえ、リン相手に最後まで取っておくなど言語道断。短所は補い、長所は全力で伸ばす必要があると思っていた僕にとって、この可能性の拡張は渡りに船だった。

 

 

 

 

 

そしてそれは今、無事に実を結んだようだ。彼女の拳を受け続けても、腰の触手たちには傷一つ付いていない。

 

 

の、だが……。なるほど、今ですら4本すべて出さないと対応が間に合わない、か。

 

 

「だとしても!」

 

 

頭の中にめぐる不安を打ち消すように叫びながら、僕は攻撃の間を狙って腰の触手のうち2本を攻撃に回す。それを見たリンは受け止めようと両手を伸ばし――――

 

 

 

 

 

「甘い!」

 

 

――それを待っていた!

 

即座に両腕を引き上げながら跳躍する。するとリンの足元から細い触手がいくつも飛び出し、彼女の指をすべて切断する。その直後腰の触手が手にぶつかり、その勢いを止めきれずに肘まで突き刺さる。

 

この機を逃さないよう、更に僕は顔面を狙ってドロップキックを繰り出す。しかしそれをリンは首を傾けることで回避するが、これは誘導だ。あらかじめ回避先に、尚且つ彼女の視界に移らない位置から繰り出していた腰の触手の殴打をぶつける。さすがにこれは読めなかったようで頬に当たり、彼女を吹き飛ばすことに成功した。

 

 

「…………」

 

 

吹き飛んだ先を見つつ、静かに両足を地面につけて腕を元に戻す。

 

ちなみにさっきの攻防の中で出番のなかった最後の1本はこうして僕の姿勢制御をやっていたのだ。これはこれで便利なものである。

 

 

「すごいね、君は! ハヤト君とは比べ物にならないくらい強いじゃないか!!」

 

 

そう土煙の中に向かって叫ぶものの、生憎と僕の中に油断は微塵もない、というかできない。

 

 

え? 両腕潰した上に攻撃も命中、相手の防御を上回ることできた上に対策がばっちり決まって有利じゃないかって?

 

……何言ってんのさ、僕が戦っている相手が誰だか忘れてない?

 

 

最強の『韋駄天』なんだよ、リンは。

 

 

 

 

 

「200年ぶりとはいえ、弟子に続いてまともに攻撃をもらうとはのぅ……。今日は面白いことが立て続けに起こるものじゃ」

 

 

土煙の中から声が聞こえる。

 

そしてその姿を現した時、彼女には無傷の両腕がついており、彼女自身もピンピンしていた。

 

 

……つまりはこういう事さ。韋駄天の特性は異常な防御力ではなく、異常な耐久力。重症程度なら数十分で完治し、致命傷であっても数時間で治ってしまうふざけた再生力だ。

 

そしてそれが彼女レベルになるとこうなるってわけ。いくら彼女の防御を貫いたとしても、文字通り瞬く間に再生してしまう。それこそが、彼女の最強たる所以の1つなんだろう。

 

 

「そういう割には全然効いてなさそうだね☆……あぁ~もう、嫌になっちゃうなッ!」

 

 

更にむかつくことだが、彼女はまだ手を抜いている。ならそれを最大限利用して、今の僕がどこまで行けるか確かめる!

 

そう考えながら叫び、今度は腰の触手4本と腕の形態を残しつつ変形させた状態でリンに向かって肉薄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、冗談じゃねえぜ本当によ……」

 

 

ニッケルと韋駄天が戦っている様子を見ながら、思わず呟く。

 

いつでも撃てるよう銃口は常に青髪の韋駄天に狙いを定めているが、場所が悪い。今下手に撃って場所が割れてしまえば、逃げられてしまう恐れがある。

 

だからこそ構えつつも二人の戦いを眺めていたのだが、あまりにも次元の違う戦いにそう呟かざるを得なかったのだ。

 

 

『様子はどうだ、ジーサーティン?』

 

 

イヤホンから、通信の声が聞こえる。視線と意識は絶対に逸らさないように注意しつつ、俺は念のため小声で通信に出た。

 

 

「ニッケルが戦闘に入った。結果は予想通りだったよ……両方の意味でな」

『……まさか』

「お前の予想はドンピシャだ、ピサラ。韋駄天は4人、うち3人は映像の子供(ガキ)共で脅威には成り得ん。だが最後の1人……奴は他の3人とは格が違う」

『へぇ……それはどの程度なのかしら?』

 

 

ピサラからの問いに答えると今度はブランディの声が聞こえる。確かこいつらにタケシタを加えた3人が通信室にいるんだったか。

 

……本当ならウメヨもいてもらった方がいいのだが、この際仕方がない。それよりも、確実にこの脅威を知らせなければ。

 

 

「どの程度、と言われてもな。……まずニッケルだが、尻尾の触手が4本出てる」

『……は? あれが4本?』

「そうだ、1本で俺たちが死ぬほど苦戦していたあれが4本だ。そのすべてを自在に操り、かつ腕も形態を変化させながら攻撃している。しかもかなり速いな、この距離でも残像しか俺には見えん」

『――――』

 

 

声が返ってこない。だが、通信先の面子が絶句しているであろうことは容易に想像できる。何せ、俺が直前までそうだったのだから。

 

 

『スマン、話を続けてくれ』

「……タケシタか。わかった、簡単に言うぞ」

 

 

「奴は、その韋駄天はそのニッケルと正面から真向で戦っている。涼しい顔を変えることなく、な」

『……冗談だと、思いたいんだがな』

「事実だ、さっさと頭切り替えろ」

 

 

向こうのストレスがとんでもないことになってそうだが、俺も事前にニッケルから話を聞いてなかったらきっと同じ状況になっていただろう。

 

 

『音声のほうはどうだ? 何か聞こえるか?』

「ニッケルの体内についている盗聴器のことだな?……駄目だな。戦闘の衝撃か、途切れ途切れでしか聞こえない」

 

 

本当はバッチリ聞こえているのだが(・・・・・・・・・・・・・・・・)、敢えてそう答える。と言うのも、これ自体がニッケル一日防衛兵士長からの命令だからだ。

 

 

 

 

 

――3つ。今回、僕はいろんな手を使おうと思ってるんだ。でもさ、能力はともかく揺さぶりで使おうと思っている内容を、帝国のみんなに知られたくはないんだ――

 

――だからさ、ジーサーティン。今日僕が言ったこと、誰にも話さないでね☆――

 

 

 

 

 

(なぜ帝国……いや、他の魔族に秘匿する必要がある)

 

 

そう考えたものの、あの時はニッケルの真剣な表情と滲み出る雰囲気に思わずうなずいてしまった。

 

 

今までニッケルがあんな雰囲気を出したことは一度もない。まさか、あれがあいつの本当の姿なのか……?

 

 

そこまで考え、頭を振って思考を切り替える。確かに気にはなるが、今は目の前のことに集中するべきだ。

 

 

「とにかく、だ。今すぐ魔王様にこのことを伝え、指示を仰げ」

『……わかった。お前たちはどうする?』

「このまま戦闘を続ける。あの韋駄天の脅威が分かった以上、他の3人は今のうちに始末しておきたい」

 

 

そう言って、割いていた意識を再び韋駄天達に集中させる。

 

ニッケルが言った最後の指示、それが起きないことを頭のどこかで願いながら。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

寂私狩矢さん、アーモンド太郎さん、モンスト(o゚◇゚)ノさん、ぐっちーーーさん。感想ありがとうございました!
うぃうぃさん、冬空狐さん、Balthazarさん、くんちゃんさん、ルーンナイトさん、HOOLさん、カプチーノ山田さん、機関車トオーリマスさん、アーモンド太郎さん、KUMA(21)さん、フィディリィーさん、わけみたまさん、ヴァル樽さん、pekochiさん、非公開の方1名。評価ありがとうございます!



まだまだ続くよ戦闘回。

基本的に1話5000文字くらいがちょうどいいと思っている作者私、そのせいで話が全く進まない模様。(多分この戦闘もあと1~2話くらい)

にしても、まさか日間ランキングに載るとは……やはり、韋駄天の小説は需要があるってことやな!!(自分のしかない原作検索結果から目をそらしつつ)

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