当初は韋駄天の小説が増えてほしくて書き始めたこの小説ですが、ここまで伸びて本当に驚いています。少しでも原作の知名度向上に役に立てれば満足だったのに、日間ランキングに載るなんて……何が起きるかわからないものですね。
一体戦闘を始めてから、どれくらいの時間がたったのだろう。
数時間だろうか? はたまた数十分?
……いや、実際のところは始まってまだ10分経ったかどうかといった所なのかもしれない。
「ッ!!」
だがしかし、僕はもう何時間もリンと戦っているような感覚を覚えていた。
どれくらいの数、彼女の攻撃を防いだのかはもう覚えていない。だが千は優に超えている、下手すれば万に届いているかもしれない。
あれから僕も格闘を加えたことで更に手数を増やし、結果的に少しずつだが攻撃が当たり始めている。真正面からやりあっても掠りもしないが、やはり誘導やフェイント、カウンターなどには弱いらしい。まぁ800年以上鍛えているとはいえ、彼女は一人だった。実戦経験などあまりないだろうし、格上との戦いを想定した技術にもあまり明るくはないのだろう。やっぱりこの戦法は有効だったみたいだね。
……まぁだからと言って、僕の形勢が有利と言えるわけじゃない。理由は言わずもがな、この攻撃が効いていないからだ。
何十回も骨を砕く威力の打撃を与えた。何回かは手をつぶしたし、有効ではないけどかすり傷は大量に与えている。
だが今こうして戦っている彼女の姿は、最初にあった時から何一つ変化がない。肉体はもちろんだが服もまた韋駄天の一部のようで、そのすべてが再生しているのだ。
一瞬でも気を抜けば目の前に死が迫り、その癖わずかな隙をついて反撃してもほとんどが無意味に等しい。
理不尽なまでに圧縮された、濃密な時間。それを今、僕は味わっていた。
あぁもう、本当に嫌になってくる。なんて、なんて――――
「ハハハハハハハハハハハッッ!!」
――なんて最低で、最高の気分なんだ!!
「すごい、本当にすごいよ! ここまで戦い続けることができるなんてッ!!」
そう言いながら、下段蹴りを跳んでかわす。それを見たリンはそのまま体を回転させつつ軸足を変更し、空中の僕へ向かって上段蹴りを放つ。
が、瞬時に僕の体が後方に動いてそれをよける。仕込みは単純、あらかじめ腰の触手を地面に刺しておき、それを引き寄せたのだ。
そして反撃として腰の触手と腕を変形させて放つが、リンは腰の触手はそれぞれ両手で殴って方向をそらし、細い触手はまとめて蹴り上げることで防ぎきった。
「アハッ、いくよおおおおぉぉッ!!」
「!」
だけど、もちろんこれも誘導だ。
引き寄せていた触手を、今度は伸ばす。全力で伸ばしたことで触手は地面から離れ、僕自身を弾丸として彼女に向けて発射する。本来なら十分に避けることのできる速度なのだが、現在リンは触手の対応のために体を動かしている最中だ。絶対に当たる。
それを確信している僕はその勢いのまま攻撃の態勢に入る。そして予想通りに彼女が避ける気配はなく――
「フンッ!!」
「ッ!」
――全力の頭突きを、彼女の顔面にぶち込んだ。
「もっとだ! もっともットモットォ!!」
さすがの勢いだったようで、彼女の体が後方へ飛ばされる。更に僕自身も止まることを考えずに突っ込んだので、彼女の上を覆うような状態で一緒に飛んでいる状態だ。
そしてお互いに吹っ飛んでいる姿勢のまま、拳を何度もぶつけ合う。気分は某龍球だね、まぁ彼女はともかく僕は舞〇術使えないんだけど。あーちくしょう、アニメとかゾブルにあるわけないし、あるならホタエナなんだけど僕の顔知れ渡りすぎて入国許可出るわけないしなー。
……あ、やべ。ちょっと意識がそれちゃった。
「フン!」
「ガッ!?」
僕の防御をかいくぐり、彼女の拳が腹にめり込む。それに思わずむせてしまうが、無理やり堪えて次に備える。
即座に放たれる拳を、どうにか腰の触手で逸らす。だがさっきの衝撃で体勢が傾いていた時に無理やり逸らしたせいで、完全に体勢が崩れてしまった。
「しまっ……!」
「ここじゃな」
そしてそれをリンが許すはずもなく、片手で僕の顔面をわしづかみにする。そして空中で体をひねり、僕を地面にたたきつけた。
「ガハッ……まだ、まだぁッ!!」
衝撃とともに地面が凹む。そのまま土煙が大きく舞い、僕たちの姿をかき消した。これでは相手の姿が見えず、どこにいるかが分からない。
だけどそんなことは関係ないと言わんばかりに僕はすぐ起き上がり、走り出す。周囲の音を聞く限り、リンは移動していない。
ならばそこに、全力の一撃を!
リンがいるであろう方向に向かって突撃しつつ、両手を鉤爪状に変形させる。そして輪郭がみえた瞬間に振りかぶり、身体全体を切り裂こうとして――――
「ちょっと待て」
――彼女の首に触れ、肉を切り裂く直前。僕の目の前に、彼女の掌底が突き付けられた。
「止まっ、た……?」
土煙が晴れ、二人の姿が浮き彫りになる。
リンさんは襲撃してきた魔族――ニッケルの眼前に手を突き出し、彼は手を鉤爪に変形させた状態でリンさんの首元に突き付けていた。
『……何かな? 今、すごくいい気分なんだけど』
『どうにも気になっての……一つ、聞いても良いか?』
『まぁ、いいけど……』
リンさんに仕込んでいた盗聴器から、二人の会話が聞こえる。
彼はそう言いながら鉤爪をどけ、リンさんの正面に立つ。その服装こそ埃まみれだが、所々擦り傷がある程度でこれと言った傷は見当たらない。かと言ってリンさんの攻撃を何度か喰らっているはずなので、それはダメージになりえていないということだ。
(まさか、ここまで強いなんて)
完全に予想外だ。そう思いながら僕――イースリイは、崖上から二人の様子を観察する。
帝国から刺客が送られてくることは予想してたし、それがハヤトに必ず勝てるであろうことも予想していた。
……だけどまさか、リンさんとここまで戦えるとは思っていなかった。
まともに戦えるだけでも信じられないのに、彼は何度も攻撃をリンさんに当てている。しかも先ほどから見せている誘導やフェイント、更に普段の攻撃速度をわずかに遅くすることで本命の攻撃への対応をわずかに遅らせている技術。あれは根本的な強さの差を補う、人間の技術だ。リンさんは搦手に弱いらしく、その悉くに引っかかっていた。
あれほどの強さを持っている魔族が、格上と戦うための技術を十分な熟練度で使用している。
……あぁもう、その事実が本当に嫌になる。
存在しないはずの頭痛に頭を悩ませながら、僕は二人の様子を眺め続ける。
『それで? 何が聞きたいのかな?』
彼は静かに問いかける。その雰囲気は静かながらも大きな威圧感を放っていて、最初来た時やハヤトと戦っている時とは同じ存在とは思えない。
そしてそれに対し、リンさんは珍しく動揺が見られる表情で口を開いた。
『何なのじゃ、お前は?』
「ッ!」
『何なの、って……魔族だよ。人間にでも見えるっての?』
『見えるんじゃがのぉ……』
そう言いながら、リンさんは腕を組む。記憶をたどっているようだが、それでもその表情は疑問が尽きていないようだった。
『わしは800年前から大量の魔族を見てきておる。が……話をする知能がある者どころか、お主のような人に近い魔族すら、見たことないぞ』
『…………』
……なるほど。魔族は普通、全部あの時戦った化け物みたいな知能と姿、と言うことなのか。
つまり、やはりあの老人が魔族を――――。
『――で、それが?』
「ッ!」
「ヒッ、また……!」
突如、彼の纏う雰囲気が変わる。表面上は静かだった威圧感がむき出しになり、それは離れている僕たちにも十分伝わるほどだ。
彼は振り返り、リンさんから少し距離をとる。後ろを向いたためその表情は見えないが、言葉はなぜかはっきりと聞こえてくる。
『簡単に言うと、僕たちは人間の姿と知能を授かったんだ』
『聞いたことはあるんじゃないかな? 僕たち魔族を統べる偉大なる魔王、オーバーM様をね』
『でもさ……それが今、この戦いに何の関係があるんだよ?』
歩き終わり、彼は再びリンさんの方へ顔を向ける。
顔こそ笑っているが、目が全く笑っていない。その目は離れた距離から見ている僕が即座にわかるほど憤怒に染まっており、大きく見開かれていた。
『僕が見たことない魔族だから、排除するべきか確証が持てない?』
『それ以前に僕は敵だ、敵なんだよ。君たちの本拠地であるこの島を襲撃し、君の弟子であるハヤト君を蹂躙した』
『そこまでされといて、そんなこと言わないでよ。……魔族だ韋駄天だなんて、関係ないだろ』
『だけどしょうがない。理由が欲しいなら、分かりやすく言ってあげる』
そこまで言うと彼は大きく息を吸う。そして腰から伸ばした触手をすべてリンさんのほうへ向け、大きく口を開いた。
『僕は魔族、ニッケル。韋駄天である君たちの……君の敵だッ!!』
その声は島中に響き、鳥たちが一斉に逃げ出す。鳥たちの飛び立つ音が過ぎ、やけに静かな時間が続く。
『……そうじゃな』
その静寂を破ったのは、リンさんだった。静かに目を伏せ、そう呟く。数秒後、目を開いて右手を前へ突き出した。するとそこからゆっくりと何かが出てくる。
『実にわかりやすいことじゃ。お主は、人間ではない』
話している間も、それはゆっくりと出てくる。そしてすべて出し切ったそれ――剣を握り、リンさんは真剣な表情で構えて口を開いた。
『遠慮は無しじゃ。……全力で、お主を排除する!』
「――ッ、あれは……!」
『どうしたジーサーティン、なにがあった?』
「悪いが話はあとだ。通信を終了し、撤退する!」
『ハァ!? オイ、何を言って――』
ピサラが何か言い切る前に、通信機の電源を切る。
そしてすぐさま移動を開始しながら、戦闘機内での会話を思い出す。
――最後、その4。もし相手が知らない行動……例えば武器とかを取り出した際、嫌な予感がしたならすぐに撤退してくれ――
(やばいやばいやばいやばいッ!!)
あの剣を見た瞬間、身体中が震えあがった。
ただの剣なら、ニッケルを切ることはできない。だがあれは、あの韋駄天の手から出てきた剣だ、ただの剣なわけがない。
「クソッ、情けねぇなぁオイ……!」
格上とはいえ、年下であるニッケルに戦闘を任せて俺は本国へ帰る?
情けないことこの上ない。だがしかし、これは他ならぬニッケルからの命令だ。それにこの情報は通信越しではだめだ、直接魔王様に伝えなければ!
そう考えながら乗ってきた戦闘機に向かって走り続ける。真逆の海岸に置いてあるそこにたどり着くには、もう少し時間がかかるだろう。
――僕はどうするのかって?……気にしなくていいよ、帰り方はどうにかするから☆――
――あぁ、あとこれ持っておいてよ。今日のために用意したんだけど、戦いで壊れちゃうかもしれないしね!――
――大切なものだから、絶対に手放しちゃだめだよ、だよ?――
(あれは文字通り、次元の違う戦い。俺では加勢しても全く意味がないだろう。……頼んだぜ、ニッケル!)
あの時、戦闘機内で笑顔のまま荷物を押し付けてきたニッケルの顔を浮かべながら、俺はさらに速度を上げて森の中を駆けていった。
「――――」
「…………」
静かに剣を構え、奴が動くのを待つ。
数秒程度じゃろうか、その間奴は動かない。だがやがて大きく深呼吸し、目を閉じた。
「――――イくよ」
そして目を見開き、飛び出す。そして腰の触手がすべて展開され、左・右・上・正面の四方からわしに迫ってくる。
正面を避ければ左右に当たり、左右を避けても上方からのソレは避けきれない。仮に無理やり受けてしのいだ場合、その後ろにいる本体からの一撃をマトモに喰らうだろう。
ならば、触手ごと切り伏せるまで。そう考えたわしは静かに剣を振りかぶり――
「もうその手には乗らんよ」
「ッ!!」
――後方に向かって跳躍し、振り返りながら再び構えた。その視線の先には魔族の小僧が鉤爪を振りかぶっており、驚愕の目でわしを見ている。
やはり正面の触手。あれは自らの姿を隠し、わしの攻撃を誘発するための囮じゃったか。……ま、さすがに何度も喰らえば何となく気がつくの。
心の中で呟きながら、ふと先ほどまでの戦いを振り返る。
この小僧、こいつは妙に戦いづらい奴じゃった。速さ自体は大したことないはずなのじゃが、なぜか奴の攻撃はよけづらい。受け止めるにせよ避けるにせよ、奴はわしの先を読んで攻撃をしてきていた。今日ハヤト達に喰らったこと自体が200年ぶりだというのに、この小僧の攻撃を何度喰らったことか。
……じゃがまぁ、こ奴も魔王とかいうやつも。わしら韋駄天と言うものを、よくわかってはおらぬようだ。
完全に鍛えこんだ韋駄天を相手にして、一匹だけで勝てる魔族など見たことがない。そしてそれはこの小僧であろうと、例外ではない。
――さぁ、これで終わりじゃ。
あぁ、これは終わった。
いくら脳筋とはいえ、これだけフェイント主体で戦ったらバレるか。彼女が武器を出してくれたことに警戒してしまい、必要以上に慎重な手を打ってしまった。それが、彼女がフェイントだと見極められるひとつの要因になってしまったのだろう。
てか、本気だったら最初から見極められてたのかな?……でも、それはもうわからないかなぁ。
……にしても、妙に時間があるな。アニメじゃ一瞬で首切り落とされてたのに。
あ、あれか。走馬灯ってやつかこれ。と言っても今世にまともな思い出ないし、前世もだいぶ掠れてるんだけど。
ま、いっか。特にやることないし、振り返りでもする?
正直言って、結果はかなり良かった。手数を増やすことで速度をカバーする、この予想はドンピシャで彼女の攻撃に対応することができたんだ。また腰の触手を増やすという原作では一度も描写のなかったことにも成功したし、魔族の肉体にはまだまだ可能性がありそうだ。もっと時間があれば試したいことはあるんだけどね、そこはしょうがない。
ダメだった点として、やっぱあれかな。韋駄天、その耐久力を過小評価してた。第3者視点から見ただけであのチートぶりだとわかるんだ、真正面から相手してると、その理不尽さがよく分かった。もし今度があれば、速攻で微塵切りにしなきゃいけないだろうね。ま、次回ないけど。
それにやはり、時間がなかったのが辛かった。相手は800年以上鍛えこんだ韋駄天、せめてもう
うん、しょうがないね。原作と違って、剣を出すまでは互角以上に戦えたんだ。最高じゃないか!
しょうがないんだよ、しょうが……ない…………。
……あー、ちくしょう。結構うまく戦えたと思ってたんだけど、やっぱりリンは強いなぁ。
本当に強い。だからこそ、悔しくてたまらない。
あんな啖呵を切ったっていうのに、ふたを開ければ一瞬で決着がついてしまった。恥ずかしいなぁ、僕。
後悔が止まらないが、後悔とは先に立たないものである。あぁ悔しい、悔しいなぁ――――
――だから、ここからは大博打だ。
既に仕込みは先ほど済ませた。リンが気付くそぶりはなかったし、原作知識からして気づかない可能性のほうが高いはずだ。それでもうまくいく保証なんかないし、うまくいっても問題は山積みなんだけど。
だけどまぁ、この作戦は前から考えていた。おかげで、覚悟もできている。
最強の韋駄天、リン。この戦いは僕の負けだ。君の表情を崩すことすらできなかった、完敗だ。
だがもし、もし次があるのなら……僕は絶対に負けない。
かと言って次があるかはわからないし、せめてさぁ……そのすました表情、崩したいんだよね。
……お、視界が白に染まってきた。ついにリンが剣をふるったみたいだね。
てことは、
と言うわけで……僕の最後、もしくは最期の大仕掛けだ。たっぷり味わって行ってくれよ?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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……えっと。この話が完成した時にちょうど総合評価が1000超えていて、うれしくて前書きでお礼を言ってるんですよ。
今こうして書き加えてる時(完成から24時間以内)には既に2000を超えているのは何故に??